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王都への研修から学園へ帰ってから、何事もなく2ヶ月の時が流れた。
グール襲撃事件に関する損失の責任問題についてだが、もともと何処の親もこういう事態に対しての覚悟を決めていたらしく、マーリンに責任を追及する親は少なかった。
いたにはいたのだ。だが、それらは学園を運営する資金を提供している、ある強力なスポンサーにもみ消されてしまった。
結論から言うと、俺たちの日常には何の支障もきたさなかった。
支障がきたされなければ、あとはいつも通り正常に時間は流れて行く。
だが、今日はいつものルーチンワークとは違う、大きなイベントがある。
知っているだろうが、この前の襲撃でAクラスの生徒の大半が死亡したため、クラスに空きができてしまった。学校側からしても、それぞれの学年のシンボルであるAクラスの生徒が通常の半分以下の人数である現状は好ましくないと判断されたため、今回時期外れのクラス替えをすることになったのだ。
だからといって、大広場に大きく張り出されるわけでもなく、通知は各個人の部屋に封書でくる。
俺たちは現在、ギルドで一緒に生活しているので、全員分がまとめて送られてくる。そのため、俺たちは結果を確認するため共同スペースに集まっていた。
アレクとカゲミヤが神妙な顔で手元にある封書をなら見つけている。重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのは傍観していたレイだった。
「そんなに睨んでも結果は変わらないのだから、早く開けたらどうかしら?」
ごもっともなことを言われたら、ビクッ、と体を跳ねさせた二人だが、ようやく口を開いた。
「………いや、これで俺たちの運命が決まると思ったら、恐ろしくてさ」
「………私も同じ意見です」
これだけで運命が決まるわけないだろ。
「二人とも観念して開けるぞ。3人同時だ」
しびれを切らした俺の提案に二人が頷くと、俺たちは同時に封を開け、中の紙を広げた。
「……………お、お、おおおおおおおお!!!!!」
途端にアレクが雄叫びをあげながら、立ち上がってガッツポーズを取っている。その隣に座っているカゲミヤときたら、なぜか天に祈りながら涙を流している。
俺はガッポーズをして床に落とした紙を拾い上げ読み上げる。
「"此度、課外演習においてAクラスと共に共闘し、グール襲撃に対して多大なる成果を成した、貴公の行いは現時点で見てもEクラスに収まっている実力ではないと判断されたため、Aクラスの昇格を命ずる。学園長 マーリン・クログラム」
カゲミヤの紙にも似たような文面で書いてあるのだろう。
俺は紙を机に置くと、自分の分に目を落とした。すると、感傷に浸っていたアレクが、満面の笑みで俺に近づいてきた。
「よう、フォルン。どうだった? 余裕でAに上がれたよな」
俺はため息を吐くと、紙をアレクに投げつけた。
アレクのみならず、レイたちまでそれを覗き込むと、3人揃って絶句した。
そこにはこう書いてあったのだ。
"貴公は誠に遺憾ながら、Eクラスに残留を命ずる"
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時は少し遡り、共同スペースに集まる前の理事長室でのことだ。
「悪いが、俺のAクラスへの昇格は無かったことにしてくれ」
マーリンは飲んでいた紅茶をカップごとこちらに投げつけ。
「なぜよ! あなたは今回十分に成果を上げた! もういい加減意地を張るのはやめなさい!」
「これは意地じゃない。もっと切実な話さ」
俺がいたって真面目な口調で話すと、案外彼女はすぐに冷静になって椅子に座りなおした。
「…………訳を説明してみなさい」
彼女は秘書に新しく入れてもらった紅茶を口に含むと、そう告げた。
「何も難しい理由はない。Aクラスは今から1ヶ月後に外部完全不干渉の特殊な任務に就くだろ?」
「それがどうしたの? 何か問題でもあるのかしら?」
「それに行くとここを離れないといけなくなるだろ。それが困るんだ」
「何が困るの?」
「お前だって薄々感づいてるだろ? 今回のグールども、量が異常すぎる」
彼女は思い当たる節でもあるのか、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「そもそも、吸血鬼自体がグールをあまり作りたがらない。グールにとっての天敵が吸血鬼であるように、吸血鬼の天敵はグールだからな。それが異常発生、明らかにおかしい」
俺は苛立ち始めて、貧乏ゆすりを始める。床を足で叩く音だけが不思議と理事長室に広がり、俺はまた口を開いた。
「近隣の村を襲うだけなら、あれ程の数は必要ない。かといって、今の吸血鬼の女王は頭が切れる。町に攻め入った後の利益と損害が釣り合わないことぐらい理解してるはずだ。だから、今回の事件には裏がある気がする」
「何が言いたいの?」
「そもそもの狙いが俺たちだったのかもしれないってことだ。
お前、何か心当たりでもあるんじゃないのか?」
俺は腰を右手の中指で二回突いた。これは昔から、いつでもお前が撃てるという俺のサインだ。
そして、腰のホルスターの上に手をかざしながら質問する。
「まさか此の期に及んで、何も知らない、なんて言うんじゃないだろうな?」
顔から冷や汗が一滴机に滴り落ちた時、固く閉ざしていた口を彼女は開いた。
「………7日前よ。これがこの学園に届いたわ」
彼女は机の引き出しから、一通の封書を取り出し、俺に差し出した。
俺は顔に疑問符を浮かべながら封を開け、中の髪を広げた。
それは真っ赤な字の宣誓であった。
グール襲撃事件に関する損失の責任問題についてだが、もともと何処の親もこういう事態に対しての覚悟を決めていたらしく、マーリンに責任を追及する親は少なかった。
いたにはいたのだ。だが、それらは学園を運営する資金を提供している、ある強力なスポンサーにもみ消されてしまった。
結論から言うと、俺たちの日常には何の支障もきたさなかった。
支障がきたされなければ、あとはいつも通り正常に時間は流れて行く。
だが、今日はいつものルーチンワークとは違う、大きなイベントがある。
知っているだろうが、この前の襲撃でAクラスの生徒の大半が死亡したため、クラスに空きができてしまった。学校側からしても、それぞれの学年のシンボルであるAクラスの生徒が通常の半分以下の人数である現状は好ましくないと判断されたため、今回時期外れのクラス替えをすることになったのだ。
だからといって、大広場に大きく張り出されるわけでもなく、通知は各個人の部屋に封書でくる。
俺たちは現在、ギルドで一緒に生活しているので、全員分がまとめて送られてくる。そのため、俺たちは結果を確認するため共同スペースに集まっていた。
アレクとカゲミヤが神妙な顔で手元にある封書をなら見つけている。重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのは傍観していたレイだった。
「そんなに睨んでも結果は変わらないのだから、早く開けたらどうかしら?」
ごもっともなことを言われたら、ビクッ、と体を跳ねさせた二人だが、ようやく口を開いた。
「………いや、これで俺たちの運命が決まると思ったら、恐ろしくてさ」
「………私も同じ意見です」
これだけで運命が決まるわけないだろ。
「二人とも観念して開けるぞ。3人同時だ」
しびれを切らした俺の提案に二人が頷くと、俺たちは同時に封を開け、中の紙を広げた。
「……………お、お、おおおおおおおお!!!!!」
途端にアレクが雄叫びをあげながら、立ち上がってガッツポーズを取っている。その隣に座っているカゲミヤときたら、なぜか天に祈りながら涙を流している。
俺はガッポーズをして床に落とした紙を拾い上げ読み上げる。
「"此度、課外演習においてAクラスと共に共闘し、グール襲撃に対して多大なる成果を成した、貴公の行いは現時点で見てもEクラスに収まっている実力ではないと判断されたため、Aクラスの昇格を命ずる。学園長 マーリン・クログラム」
カゲミヤの紙にも似たような文面で書いてあるのだろう。
俺は紙を机に置くと、自分の分に目を落とした。すると、感傷に浸っていたアレクが、満面の笑みで俺に近づいてきた。
「よう、フォルン。どうだった? 余裕でAに上がれたよな」
俺はため息を吐くと、紙をアレクに投げつけた。
アレクのみならず、レイたちまでそれを覗き込むと、3人揃って絶句した。
そこにはこう書いてあったのだ。
"貴公は誠に遺憾ながら、Eクラスに残留を命ずる"
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時は少し遡り、共同スペースに集まる前の理事長室でのことだ。
「悪いが、俺のAクラスへの昇格は無かったことにしてくれ」
マーリンは飲んでいた紅茶をカップごとこちらに投げつけ。
「なぜよ! あなたは今回十分に成果を上げた! もういい加減意地を張るのはやめなさい!」
「これは意地じゃない。もっと切実な話さ」
俺がいたって真面目な口調で話すと、案外彼女はすぐに冷静になって椅子に座りなおした。
「…………訳を説明してみなさい」
彼女は秘書に新しく入れてもらった紅茶を口に含むと、そう告げた。
「何も難しい理由はない。Aクラスは今から1ヶ月後に外部完全不干渉の特殊な任務に就くだろ?」
「それがどうしたの? 何か問題でもあるのかしら?」
「それに行くとここを離れないといけなくなるだろ。それが困るんだ」
「何が困るの?」
「お前だって薄々感づいてるだろ? 今回のグールども、量が異常すぎる」
彼女は思い当たる節でもあるのか、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「そもそも、吸血鬼自体がグールをあまり作りたがらない。グールにとっての天敵が吸血鬼であるように、吸血鬼の天敵はグールだからな。それが異常発生、明らかにおかしい」
俺は苛立ち始めて、貧乏ゆすりを始める。床を足で叩く音だけが不思議と理事長室に広がり、俺はまた口を開いた。
「近隣の村を襲うだけなら、あれ程の数は必要ない。かといって、今の吸血鬼の女王は頭が切れる。町に攻め入った後の利益と損害が釣り合わないことぐらい理解してるはずだ。だから、今回の事件には裏がある気がする」
「何が言いたいの?」
「そもそもの狙いが俺たちだったのかもしれないってことだ。
お前、何か心当たりでもあるんじゃないのか?」
俺は腰を右手の中指で二回突いた。これは昔から、いつでもお前が撃てるという俺のサインだ。
そして、腰のホルスターの上に手をかざしながら質問する。
「まさか此の期に及んで、何も知らない、なんて言うんじゃないだろうな?」
顔から冷や汗が一滴机に滴り落ちた時、固く閉ざしていた口を彼女は開いた。
「………7日前よ。これがこの学園に届いたわ」
彼女は机の引き出しから、一通の封書を取り出し、俺に差し出した。
俺は顔に疑問符を浮かべながら封を開け、中の髪を広げた。
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