この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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「王族が学園に通う理由?学園で民との関係を築くのも上に立つ者としての成すべきこと、だからですわ!」
 バルロ君の意識を軽く飛ばしたレニフェル様は「そんなの知りませんわ」みたいに続ける。
 そのお考えは素晴らしいですが、学園はフリーダムに護衛を振りほどくところではありませんよ?
「学園は人を見て学ぶ場でもあるからな」
 ゴルラフ隊長が思考の渦から復活したようだ。お帰りなさい。学生への訓練メニュー追加はやめてさしあげてくださいね。

 ふむ。「学園は王城では学べない事を学ぶ場」ということか。学校って最低水準の学力(読み書き算数)身につけた後は、周囲に合わせる努力をする場だと俺は思ってるから納得はする。そしてこの「対人スキルの育成」が一番難しい。
 対人スキル育成や人脈構築に関しては王族に限った話ではなく、前世よりシビアなこの世界で生き延びるための必須スキルだから(特に貴族は)できないと詰む。
 この世界は人間だけが幅を利かせている訳ではないし、人間の中にも色々なやつがいるという事を理解できないと食い潰される世界だ。下手すると物理的に食い潰されるのがこの世界の怖いところ。
 後は…そうだな。学園の職員が守ってくれるから、学生の時に失敗経験を積んでおくことも大事だよな。
 悔しい思いを乗り越えて成長するのが全てとは言わないが、大人になればなるほど無茶が出来なくなるからしておいたほうがいいと、前世を経験した俺が「ブラック企業じゃないとこに就職したかった」と思いながら語ります。今世は平和かつホワイトに生きたい!
 この長々とした一人語りを簡潔にまとめるなら「学生の内に学べる所は学ぶべき」に尽きる。
 人生二週目な俺は「あの時もっと勉強しておけばよかった」という後悔を晴らすチャンスを活かしたいから静かに学ばせて欲しい。

「学園って、平等の文句に踊らされて無礼を働く輩を見極める場…でもあるんだよなぁ」
 おっと、大事な事すぎてポロッと声に出してしまった。
 この世界はゴリゴリの階級社会だからね。「お前はどうなの?」って言われると…上の階級には敬意を払ってはいるし、既知の王族に関しては「いいよ」って言質も取っている。
 取り巻きムーブをしたらしたで「(心が)離れていく気がするから普段通りで」とアーデルハイド殿下にお願いされるという。これはどうしたらいいものかと考えた結果「飽きられるまで現状維持でいいか」と判断した。その辺は多分、空気感でわかるだろう。ステータス見たらすぐわかる事だし。

 まあ、そんなこんなで学びの場で最後にやらかして周囲の評価を落とした我が王国の第二王子ルーベンス殿下を思い出す。
 聖女に惑わされたとはいえ、権力(かなりつよい)を振りかざしたのだから評価が落ちるのは当然。
 これが王族じゃなくて伯爵令息位だったら「若いから仕方ないね」とかで見逃してもらえたんだろうけどね。王子と側近候補は国を揺るがしかねないからダメだ(断言)
 俺はそれプラス、メロメ国の第三恋愛暴走王子と意気投合しちゃった事も低評価認定してますよ?当然じゃないですか。ミーコちゃん爆誕の原因は許さない。完全なる私怨ですが何か?

「メロディアス君の評価は厳しそうだ」
 メイナース先生の目が細くなる。これは、ご機嫌…なのか?
「我もお眼鏡にかなう様、研鑽せねばな」
 うん。メイナース先生は俺の中で「迂闊に踏み込んじゃいけない」部類に振り分けていますよ。薮をつついて蛇を出すとか、わざわざ面倒なことしたくないもの。
 何度も言うが、今の俺の望みは「平穏な学園生活」だ。モブでいさせてよ。

「わたくしは身分に関係なく、面白そうな話は誰からでも何でも聞きますわ」
「やめてください(振り回される側の)胃がやられます」
 レニフェル様が混ざったらバルロ君を現実に戻すのに時間が掛かるじゃないですか!やめてください!
「面白いかどうかは、わたくしが聞いてから判断しますわ」
 ご自身で判断できるのは素晴らしいことですが、俺らとしては巻き込んで欲しくないのが正直な気持ちです。
「俺がいない所で完結できるなら言うことはありません」
 バルロ君の一件は絶対食いつく。間違いない。ごめんねアス君、これは長引く(確信)
「ファルム様がいないとつまらないわ」
「課題を進めるので、高等部にお戻りください」
 俺を関わらせようとするな!

 その後、レニフェル様は正気(?)に戻ったバルロ君から黒ずくめの犯罪集団をはじめとした『コナード・エガー』シリーズ中心の妄想劇を根掘り葉掘り聞き出した。ついでにシリーズの話題でひと盛り上がりした、
 なんなの?レニフェル様は誰にでも億さず距離を詰めていくとかメンタル鋼か。
 コナード氏の素晴らしさを語り合う二人。即売会で知り合った同ジャンルの会合(少数だから為せる濃い空間)を見つめる一般ファンの気持ちが君らには解るか?

「これが王族の教育成果か…」
 瞬く間にマブタチみたいになったぞ?これあれだ。王国に来たばかりのメディナツロヒェン嬢にもこんな感じで近づいて心友になったに違いない。
「多分、違うと思うぞ。多分…」
 ゴルラフ隊長はアーデルハイド殿下を思い出してますよね?確かにあの方も(ウィー君絡みで様子がかなりおかしかったけど)人の懐にスルッと入ってきましたものね。
 気付いたら奴がいた!状態になるアーデルハイド殿下がテクニック系なら、レニフェル様は間違いなくパワー系。父君であるハロルド様もパワー系。「押せば通るだろ?」理論でゴリゴリ来るやつ。
 パワー系は大体人の話を聞かない奴が多いから(遭遇経験談)、俺が苦手とするタイプなんだよね。俺の話も聞けよ。

「さあ、お二人は中央に。互いに向かいあうのよ」
 意気投合したと思っていたら、レニフェル様が「外に出ましょう!」と俺らを中庭(初等部に3つあるうちの一つ)に連れ出した。
「何をさせる気なのですか?」
 バルロ君と向かい合う俺。このまま「ラップバトルで決着を!」とか言わないよね?
「正義は勝つのだ…この国を救うのはコナードと僕…」
 え?ちょっと待って?テンションおかしくない?何かキメてる?
「顔はNG。魔法は身体強化のみOK。骨折等の重症は無しですわ」
 レニフェル様が簡単なルールを説明した。
「これ…は…?」
「そう!『コナード式解決法』ですわ!」
 な!なんだってー!!
「拳で語り合いましょう?」
 狂気の沙汰が面白いのは傍から見るからなんですよ?
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