この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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「皆と同じ空間で、同じものを食してこそ。ですわ」
 いい事言った!みたいな顔をされてますが「一人だけ別室なんてつまらない」というオーラが滲み出てますよ?妹君は?ご一緒しないんですか?
「ラミたんはお父様と外遊中ですの」
 ご不在ですか。そうですか。揃うと話が止まらなくなるってアーデルハイド殿下が言ってたから、会わなくて済むのは助かります。これ以上(扱いに困るメンバーが)増えてもらっては困るからね。
 そんな話をしていたら護衛の近衛騎士が走ってきた。また撒いたのか。

「レニフェル、様、急に走られては、困り、ます」
 息を切らせてやってきたレニフェル様の本日の護衛は初見さんですね。簡単に振り切られる辺り新人なのだろう。ご苦労さまです。
「まぁ、ラッ君。この程度で息が切れるなんて。走り込みが足りないのではなくて?」
「申し訳ございません」
 いやこれはラッ君悪くないのでは?
「ファルム君がここにいると言ってないのに、迷いなく居場所を当てる能力が凄い」
 そういえばレニフェル様の後にゴルラフ隊長来てましたね。
「淑女の嗜みですわ」
「初耳です」
 そんな嗜み、修得しなくていいですよ。
「突然ダッシュしたレニフェル殿下についていける人員がどれだけいるのだろうか…」
 ゴルラフ隊長が真剣な顔で「俺もまだまだと言う訳か」ともこぼしている。隊長は王弟一家を護衛しないから、訓練メニュー増やさなくていいのでは?
 俺も王族の全てを知っている訳じゃないけど、レニフェル様は別格だと思います。

「メロディアス君はレニフェル殿下と邂逅済であったか」
「ええ。メロメ国に同行させられました」
 保護者がいなかったのは辛かったです。
「それ故か。相分かった」
 メイナース先生が一人頷く。何かを悟ったようだ。
「黒ずくめは貴族社会まで侵しょ…」「それ以上はいけない」
 咄嗟にバルロ君の腕を掴んで俺の体に引き込む。アームロック(仮)だ。
「痛!痛い痛い!何するんだ!」
「不敬を働かれそうな気配を感じたので、つい」
 タップされたら離す。基本だよね。
 まあ、やってしまったものは仕方がない。初めてやったからちゃんとなってないような気もしなくもないが、痛がってこちらに気が逸れたから良しとしよう。
「見事な技であった」
 メイナース先生が褒めてくれた。視線はこちらに向いているが手帳に書きこむ手は止まっていない。この様子をスケッチしているのであれば、ハンサムに描いて下さい。

「バルロ君」
 (レニフェル様とバルロ君を)関わらせたくなかったけど、(呼んでないのに)来ちゃったものは仕方がない。聞いてくれるかは別として「注意喚起はしました」の事実だけは作っておかねばならない。
「この御方はラキアラス王国の王弟ハロルド殿下のご息女、つまり我が王国の王女殿下です。学園に通う学生の身分は平等という理念もありますが、在籍は高等部。度の過ぎる振る舞いは不敬にあたるので気をつけるように」
 簡潔に言うと「この方は先輩な上に王族だから言動に気をつけろ」って事だ。ちゃんと言ったからな!後から聞いてないとか言わせないぞ!

「王女、殿下…?学園に?」
 王城に教師を呼んで帝王学とか学んだりしないの?みたいな顔をしている。
 王族教育は学園の授業とは別で受けてるはずですよ?アイローチェ様が以前王子妃教育に対して「学ぶことが多すぎですわ」と愚痴ってたし。こないだお会いした(茶会という名の女子会に何故か招かれた)時は、「終わりが見えませんわ…王妃様、これを乗り切られたの凄すぎ…」と上乗せされたカリキュラムにボヤきながら上品かつすごい速さでケーキを消費されてた。俺はそれも凄いと思います。
 まあこれは王族に限った話ではなく、家門の職務や課せられた役割を。領地持ちは特性にあった運営のやり方をそれぞれ学ぶ。貴族も商家もその辺は変わらない。
 叩き上げの平民は実力でのし上がらなければいけないので、更に大変だ。
 バルロ君は地方伯爵家の五男だから、扱いは恐らく平民に近いはず。こんなところで夢と現実を混同している場合ではない(断言)。
「ラキアラス王国は王族も学園に通うのが規範にもあり、その為の王国立である。王太子殿下も学徒であったし、昨年まで第二王子も在学しておった」
 第二王子、盛大な失点を遺して卒業しましたけどね。
 メイナース先生、フォローありがとうございます。
 国立だから王族ルームもあるし、警備も王国で雇った騎士を投入できる。騎士科の学生の中には卒業後、学園警備に就きたいと願う者もいるそうだ(叶うとは言ってない)。
 国防の一部を教育機関に振れるというのは平和が保たれている証でもあるのでいい事だ。

「貴方が転入生ね?わたくしはレニフェル・エク・ラキアラス。ラキアラス王国の王弟子ですわ」
「王女殿下、ぼ…私はバルロ伯爵家五男、ヤヅレ・バルロでございます」
 お、上への対応はなんとかできるじゃないか。…いや、思い込みから俺への対応が酷くなっているだけか?
「今は同じ学び舎に通う学生。わたくしのことは気兼ねなく「世界が生んだ奇跡の美少女、究極レディ・レニフェル様」とお呼びなさい」
 俺への自己紹介時よりグレードアップしてる…だと…?
「………?…??」
 レニフェル様の自己紹介にバルロ君がフリーズした。想像の王族から逸脱しまくってて処理が追いつかないのだろう。
「装飾語は全て削っていいよ。長いから」
 呼びにくいし、何度も聞くものじゃないでしょ?
「……うん?」
 まだ処理中か。
「ファルム様も呼んでいいのよ?」
「長いからやめておきます」
 その誘いに一度でも乗っちゃうと、他の王族からも「私もカッコよく呼んでくれ」とか言われそうなんだよ特に王太子アーデルハイド殿下から。
 アーデルハイド殿下の事だから「一緒に考えよう!末永く使えるやつを」も追加されそう。それはとてもめんどくさくていやです。

「………はっ!これも陰謀か!」
 お帰りバルロ君。まだ川の向こう空想世界にいるみたいだね。
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