この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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 アスベル君の話は続く。
「フィー嬢と週末に『ゴーヴェン史記』について語り合い約束を取り付けたから、予習をしっかりしておきたいんだ」
「…………」
 惚気じゃないかコノヤロウ。
 …いや、そんな些細なことはどうでもいい。大事なのはこの後だ。あの主従みたいな関係から進展していたのか!……どうやって?(素朴な疑問)
いい感じのサロンデートの場所は押さえた?」
「勿論だとも」
 アス君、俺は君ができるやつだと思っていたよ!その件は大事なことだから、力でねじふせてでも優先させるべきだ。
 全力で応援しよう。後で成果を聞かせてくれたまえ!
「早期決着に努めます」
「助かる」
 こうして、俺とアスベル君の連合が成った。というより、元々あったものが強化された。
 俺の平穏な日々の為に、目前のめんどくさいに向き合う気力が少し増した感じだ。

 『ゴーヴェン史記』は、今は無きゴーヴェンという地域の内戦模様を史実をもとに書かれた長編小説だ。
 前世でいう『三国志』に近いものでファンも多い。年一位で出版社主催の聖地巡礼ツアーがあり、ラキアラス王国からも参加者や護衛依頼などでそこそこの人数が参加しているらしい。
 歴史好きなら一度は通る道らしいが、俺は前世も歴史あんまり好きじゃなかったからなぁ…武具や兵器を見るのは好きなんだけど。
 そんな歴史ロマンあふれる『ゴーヴェン史記』、俺は初心者向けにまとめられたもの(それでもなかなかのボリューム)を読んだから話の流れは大体わかったのだが、本編は3巻の途中で力尽きた。中身がさぁ、「これガチの歴史書では?」ってレベルなんだよ(文字の密度)。
 ラノベや電子書籍に慣れきった身としてはこれを娯楽として読むの辛い…挿絵無し文字だらけの全17巻とか無理。コミカライズして欲しい。
 早くマンガ文化生やさなきゃ…。いや、その前に挿絵と印刷技術の安定をだな…
「ファルム君」
 おっといけない。意識を別次元に飛ばしていた。すぐ戻ります。

「『ゴーヴェン史記』のおさらいとか…量えぐくない?週末で間に合う?」
 そこそこの厚み(目測約5cm)のある文字だらけの本を読み込むの…アス君なら大丈夫か。いや、それでも平日は無理でしょ?
 週末まであと5日切ってますが?
「たまに読み返しているから大丈夫。予習と言っても、僕の好きな場面とおすすめしたい場面を読み込むだけだし。初めての事だから、サロンでお互いのおすすめを読み合おうと話しているんだ」
 あれを読み返してるのか…凄いな。
 サロンに持ち込むの大変…いや、上位貴族は自分で大荷物運ばないから問題ないか。
 アスベル君が「僕の愛読書です」と、持参した本を見せられたイニフィリノリス王女は…きっと喜ぶだろうな。
 人付き合いは苦手(多分恋愛至上主義のお国柄とパリピな兄王子のせい)だと聞いているが、会場は室内で相手がアスベル君。何より相手に合わせた趣向と共通の話題があるなら上手く行きそうだ。
「今手配中の舞台のチケットが取れたら、次への足がかりに使おうと思っている」
 丁度『ゴーヴェン史記』の人気エピソードの一つ「あお氷湖ひょうこの誓い」が王都の劇場で上演されるのだという。
 志を同じく集った3人の勇士が兄弟の盃を交わす、桃園の誓いの様なエピソードだ。
 演目は渋めだが、読書会の次は観劇デートか!いいぞ!
 新鮮なコイバナは楽しいなぁ!

「青春よのぅ…」
 眩しいものを見る様にメイナース先生が目を細める。余裕のある立場から人の青春を間近で見るのって、言葉にできない良さがありますよね!
「僕も部長を応援します!」
 前のめりで意気込んでいるところ申し訳ないが、君が元凶だ。
「バルロ君が現実を受け入れたら解決する話なんだけど」
「僕のいる場所が現実だ!」
 足元フラフラの酔っ払いが「飲んでません」って言い張るのと同じレベルですが?
「俺らと同じ世界を見てから言うべき」
「何が違う?」
 俺に対する認識が違う。
まことの夢幻郷へのいざないは必要か?」
 メイナース先生の言い方だと別の世界の扉が開きそうなんですが…
「それは最終手段です」
 薬物投与したそうな顔をしないで下さい。扱いに困ります。

 昼休みもそろそろ終盤。アスベル君が午後の授業に出ようかと席を立ったその時、知った気配が近づいてくるのを感じた。
「わたくしが来ましたわ!」
 あっ…これは…!
 バァン!と開かれた扉の向こう。想像通り、レニフェル様が立っていた。
 隠す気のない存在感よ…
「高等部はあちらです」
 お部屋お間違えではないですか?呼んでませんよ?
「ファルム様に会いに来たのだから、間違いではないわ!面白そうな気配がしたの」
 面白サーチって…権力と機動力を備えたこの人に持たせちゃいけない機能では?
「僕は授業に行くね。レニフェル様、存分にお過ごし下さい」
 ああっ!アスベル君、上手に逃げたな!羨ましいぞ!

「すまない。押し切られてしまった…」
 あっ、ゴルラフ隊長お帰りなさい。隊長が連れてきたんですか。扱いに困るお客様を増やさないで頂けます?
 隊長曰く。食堂で肉を補給し、ついでに少し休んでいこうと席を立った瞬間に目が合ったのだそうだ。それは逃げられないなぁ。
 レニフェル様、学食にも出没するんだ…本当にどこにでも現れるんですね。(褒め言葉)

「何故学食に?」
「最近シチューの味がまた向上しましたのよ」
 学生と同じものを?専属シェフとかいてもおかしくないご身分ですよね?
「王族ルームは使用されないんですか?」
 学生を平等に扱うとは言っても王族は別物。
 食堂の個室(小規模の食事会や派閥会食、特別感を味わいたい人等が申請して使用している)もあるが、王族ルーム(と俺は呼んでいる)は王族と招待を受けた者しか使用できない特別な部屋だ。
 荒れた時代は襲撃や毒殺とか警戒するために多様されたのだろうことが推測される。平和な時代で良かった。
 今、学生の身分を持つ王族はレニフェル様と妹君のお二人。学園内の王族ルームはほぼ専用室と言っていいだろう。使わないのはなんかもったいないな。
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