この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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 ゴルラフ隊長の野生の勘が的中してしまったというべきか。
 隔離下の午前中、俺はバルロ君にひたすらつきまとわれた。
 補講用の問題集解いてる間も視線を感じていたのは…まあ…いいとして(本当はよくない)、トイレまでついてくるのなんなの?最中に覗き込んでくるな!マナー違反だぞ!
「容疑者から目を離さないのは探偵の基本」
「近すぎるんだよ!」
 尻尾を掴みたいのなら、もっと離れたところからストーキングしないと。…いや、勧めませんが?妄想と俺の事はすっぱり諦めろ。
 …うん。ゴルラフ隊長とメイナース先生いなかったらキレてた。
 俺の魔力なら、校舎吹っ飛ばせると思うんだよね。
 …ハハッ。ヤダなぁ、最終手段ですよ?

「何が悲しくて話の通じない坊ちゃんに追いかけられなきゃならないんだろうね」
 アスベル君が食堂からテイクアウトしてくれたサンドイッチを食べながらボヤく俺。
 バスケットに詰められたサンドイッチは、彩り鮮やかだ。貴族が多く通う学園らしく、良い食材を使っている。
 余談ではあるが、前世の味覚を頼りにメロディアス家と聖協会であれこれやった(8割口を挟むだけだった)余波が学園に来ている。
 主に兄上が「家のパンの方が美味い」と学食の料理長を煽ったせいだと聞いている。兄上はこの時「学食の革命児」という称号を得たらしい。
 うん。嬉しくはないな。
 ただ、学食のレベルが上がったことについては感謝しかない。
 朝から頑張って学んだ後、ボソボソのパンや素材の味スープがランチです!とか辛い。学食が美味い学校は人気があるんだよ(前世の偏見リサーチ)
 これは兄上がやってくれたからスムーズに進んだと俺は考えている。兄上は理詰めで物事を進行するタイプ(俺が絡むと感情に直列する)だから、メニュー改革の根拠と改善案を運営にキッチリ叩き込み、即動けるようにしてから煽りに行ったのだろう。
 同じ事を俺がやろうとすると、もっとフワッフワの案で計画もなく動き始めるから現場は混乱。賑やかしが加わって更にめんどくさい事になる、という未来まで見えた。
 何にせよ、インフラ事業を自発的にやってもらえるのは心底助かる(めんどくさい現状を見つめながら)

「嫌いなものはなんだ?山盛りにしてやる」
 謎の敵意を剥き出しにするバルロ君。
「どうしてこうなったんだろうね」
 遠くを見つめるアスベル君。瞳からハイライトが消えてる気がする。俺もだよ(賛同)
「我にもっとタマゴを寄越すのだ」
 どこまでも我が道をゆくメイナース先生。たまごサンドお好きなんですね。
 ゴルラフ隊長は「肉が足りない」と調達に行った。暫くは戻らないだろう(確信)
 よくわからないし、解りたくもない雰囲気のランチタイムが過ぎていく。俺も隊長と共に離席したかった。

「ファル君が落ち着いたら任せ丸投げしようと思っていたのに、目を離した隙に喧嘩を売りに行くとか…」
 待ってアス君、今ため息と共にとんでもない発言をしたね?
 コレを丸投げ?無理だよ!
「この状況でよくもそんなことを…」
「こんな事になるとか思ってなかったんだよ」
 まあ、普通はそうだよな。特殊すぎる事例掴まされたね。
「悪事の証拠と共に法廷で待つ!」
「その自信はどこからきてるの?」
 俺がどんな悪事を働いたのか、包み隠さず言いなさい。
 もちろん物証も提出するんだ。
「僕は探偵だぞ!」
「「自称」を他者に取ってもらってから名乗るべきだろ?」
 お前は一年…いや、入学前からやり直せ!

「バルロ君。午前中、ファル君と過ごしてみてどうでしたか?」
 バスケットが空になり、食後のお茶タイムをしているバルロ君にアスベル君が問う。
 バルロ君の視線が俺しか捉えていないのは、今更言うことでもない。止めて。逸らして。
「なかなか自白に持ち込めません」
「自白もなにも…やってないことを認める訳にはいかないんだが?」
 ダメ!冤罪!ゼッタイ!現実を見ろ!
 目前の俺は、君が挙げ連ねる事件に関しては神に誓えるくらい無実だぞ?
「ファル君はどう?」
 バルロ君をあっさり諦めてこっちに振ってきた。これは簡単に「諦めんなよ!」って言えないやつだから仕方がない。
「近すぎてウザい」
 現場からは以上です。

「………一言…!」
 俺今、面白い返しをしただろうか?
 どこのツボに入ったのか、アスベル君の肩が震える。
「簡潔かつ的確な体験談である」
 メイナース先生も何故か頷いている。あ、そこもメモるんですね?
 解ってない顔してるのは、バルロ君だけだな。よし(よくはない)。

「アス君」
 俺は今から、君にとって大事な事を言うぞ。
「この調子だとどこにも行けないので、お世話をお願いします」
「……!勿論だとも!」
 特定されるワードを出しちゃうと食いつかれそうだから色々省いて言ってみたが、解って貰えたようだ。
 今のをフル再生すると『この調子(バルロ君の妄想ストーキングが継続している状態)だとどこ(魔研はもちろん、ルキスラ教授のところに説明)にも行けないので、(イニフィリノリス王女が書庫に篭もりすぎない様に)お世話をお願いします』ということになる。
 イニフィリノリス王女はファンから『書庫の精霊』と呼ばれるほど、書物に埋もれる事を喜びとしている。自国で恋愛もの以外を制限されていた反動が全力解放された結果がこれだ。これは他者(特に俺)に害がないなら俺からは何も言うことはない。
 ただ、夢中になりすぎて食事と帰宅時間をすっ飛ばすのはそろそろ控えていただけると(お世話係の俺が)助かります。
 まあ、暫くはアス君が喜んでしてくれるからいいか。

「ファル君にも大切なことを言っておこう」
 アスベル君が喜色から真面目モードに切り替わる。この、スっと切り替えができる辺りに有能さを感じる。さすがまとめ役。中間管理職。
「今、失礼なことを考えた?」
「いいえ?」
 しまった。顔に出ていたか。
「今回の件、僕は早期決着を望んでいる」
 俺もです。
 そもそも面倒事を起こそうと思ってないからね?全部向こうから助走つけて飛び込んできてるやつだからね?
 俺は悪くねぇ!
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