この状況には、訳がある

兎田りん

文字の大きさ
上 下
95 / 115
真実は一つとは限らない

1

しおりを挟む
「ファルムファス・メロディアス!僕は君を告発する!」

 ある日、場所は初等部のエントランスホール。朝イチで初対面の坊ちゃんに俺は告発された。
 意味がわからないよ?

「……どういう事か、説明してくれる?」
 身に覚えのない罪を認める訳にはいかないのだよ。
「ああいや、その前に。君は誰?」
 初等部で見た事ないよ?進級式にいなかったでしょう?
 制服を着ている事から、学生だろうとは思う。そのリボンタイは初等部ですね。うん。やっぱりこんな奴知らないなぁ。
 学園は比較的オープンだから、門さえ通過出来れば(許可証で認められている範囲内なら)割と自由に動ける。
 門の通過も許可証の発行も無茶言わなければ大体の希望は通るから、制服作ってまで侵入しようって輩はなかなかいないんだよね。
 研究成果をかすめ取るなら高等部以上だし、初等部に人材集めて潜入とか得るものないでしょ?
 じゃあ、誰だお前。
「僕を知らないなんて!貴族じゃないな?」
 それはこちら(侯爵家次男)のセリフだが?

「…バルロ君!何してるの!?」
 朝から話が通じない奴の相手は正直しんどい…と疲労感を感じていると、聞きなれた声が飛んできた。掛けられた対象は、どうやら目前の告発者のようだ。
「アス君」
 声を掛けてきたのはアスベル・マーロル。マーロル公爵家の三男坊で、俺の友達だ。困った兄を持つもの同士という縁で仲良くなった。
 留学中のメロメ国の第五王女イニフィリノリス嬢(立場は学園の「学ぶものは平等」の理念の元、公然の秘密(知ってるけど言わない)となっている)に一目惚れして、絶賛アプローチ中だ。俺は応援している。
 アス君ならトンデモ王子たちを上手く捌けるはずだ。ついでに目前の困った坊やもどうにかしてくれ。
「部長!犯罪者を学園にのさばらせてはいけません!追放すべきです!」
 アスベル君は今年、初等部長という生徒会長みたいな役職に着いている。派閥争いの調整だけでも大変なのに、問題児の面倒まで見なきゃいけないとかハードワークが過ぎる(つまり、俺はやりたくない)。
 そして俺はいつ犯罪者になったのだろうか。罪状は?
「落ち着きなさいバルロ君。どうしてこうなった?」
 それは俺も知りたい。

「初対面の相手に告発されるとか初めてなんだけど」
「普通の学生は初対面の相手どころか、誰にも告発されないよ」
 確かに。いや、俺は普通の学生だぞ?相手がおかしいんだ。
「部長、離してください!僕は正義を執行する!」
「バルロ君はまず、深呼吸をしようか」
 背中をトントンする姿は発作患者を落ち着かせる看護士に見えるのは…うん。気のせいだな。
「とりあえず、別室に移動しない?」
 ここエントランスホールは目立つ。授業も始まる時間だから、長々やらかすと他の学生に迷惑だ。皆見てるし。
 それに…バルロ君とやらが落ち着かないと、これはもうどうにもならないやつでしょう。
 …あー…コレを相手にするのか…面倒臭いなぁ…
 なんかもう、今日は授業どころじゃなくなる予感がする。ただでさえメロメ国の一件で遅れてるのに、補講の追加とかシャレにならないからやめてくれるかな?

 初等部の会議室の一つを借りた俺たちは、保健医のアスト・メイナース先生と騎士科のマグナ・ゴルラフ隊長の監視下でバルロ君の話を聞くことにした。
 立場のある第三者を挟むのは大事だからね。
 演習帰りであろうゴルラフ隊長を捕まえることに成功したのは僥倖。ツッコミ役が増えるのは正直助かります。
「改めて自己紹介を。俺はファルムファス・メロディアス。初等部2年に在籍しているよ。君は?」
「………犯罪者に名乗「バルロ君」……ヤヅレ・バルロ。初等部2年…」
 名を知られてなるものか!と抵抗しようとした所をアスベル君にたしなめられ、しぶしぶ名乗った。こいつ…同級生かよ…!
「メロメ国の王族来訪の最中に転入してきたんだ」
「納得しました」
 それは俺、知らないやつだわ。トンデモ王族の対応で学園通う余裕なかったもの。

「何故初めましての相手に嫌われてるんだ
?」
 ゴルラフ隊長、ごもっともな反応です。
「俺が一番知りたいです」
 この状況何なの?何の理由があってこんな暴挙にでてるの?
「このわらべが噂の転入生か。慣れない環境で落ち着かない事もあろう。心がざわめくときは、我にお任せあれ」
「………はぁ……お願い、します」
 メイナース先生も俺は何気に初遭遇なのだが、大丈夫なの?この人。バルロ君が若干引いてるけど。
「メイナース先生はメンタルセラピストを自称している」
 ゴルラフ隊長が解説してくれるの助かりますが……ん?自称…?
「ダメなやつでは?」
「暴走した学生の鎮圧にはメイナース先生が適任と聞きました」
 ああ、その理由でアス君が呼んだのね。
「手段を選ばない、が前に付くなら確かに適任だな」
 察しました。ゴルラフ隊長のツッコミ対象が増えるやつですね。よろしくお願いします。
「隊長を捕まえる事が出来てよかったです」
「都外演習帰りなんだ。休ませてくれ」
 お疲れのところ大変申し訳ないとは思いますが、こちらの対応もお願いします。

 バルロ君の主張はざっくりまとめるとこうだ。
〇最近学生の私物が紛失する騒動が起きている。犯人は黒ずくめの集団に違いない!
〇エフィ教授が出張から帰ってこなくて授業が進まない。犯人は黒ずくめの集団に違いない!
〇僕が田舎暮しを強いられているのは、黒ずくめの集団の陰謀に違いない!
〇黒ずくめのボスは黒いに違いない!学園に黒髪の奴がいるらしい!そいつが犯人だ!
 ……無茶苦茶が過ぎる。

「………どっから手をつけていいのかもわからないな、コレ」
 全部破綻してやがる。なんだその「黒ずくめの集団」て。
 アス君は最初の一つで早々に頭抱えちゃってるんだぞ。どうしてくれるんだ。
「私物紛失の件は魔道具室のミーナス室長が解決に向けて動いておられるので、私たちが案ずることではありません。その当時、ファル君は学園内に居なかったので無関係です」
 そんな事件が起きていたことも知りませんでしたが、何か?
「ゴン氏の脱走癖はいつもの事だから、事件でもなんでもない。つまらぬ」
「お守りの人選をミスっただけだな」
 大人はうんうんと頷く。アス君も「だからいないのか」という顔をしている。どうやら脱走癖は周知の事実らしい。
 それ、民俗学のハーゴン・エフィ教授の方ですよね。王国学(ラキアラス王国内の地理や歴史を総括的に学ぶ教科)のイスラー・エフィ教授はこないだ見たし。
 民俗学は初等部2年からと聞いているので、俺がまだ知らなくても仕方ないな。メロメ国…というか、我が王国の王族のせいだよ。学園生活満喫させろ下さい。
 そして、先生方に言うのもアレかと思いますが、そんな人を初等部の教科担当にしないでくれます?
 それに、民俗学って前世の大学でもレア科目だよ?一般教養じゃないよね?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと

Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】 山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。 好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。 やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。 転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。 そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。 更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。 これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。 もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。 いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。 理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか? ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 10時19時投稿、全話予約投稿済みです。 5話くらいから話が動き出します? ✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

自由気ままな生活に憧れまったりライフを満喫します

りまり
ファンタジー
がんじがらめの貴族の生活はおさらばして心機一転まったりライフを満喫します。 もちろん生活のためには働きますよ。

『聖女』の覚醒

いぬい たすく
ファンタジー
その国は聖女の結界に守られ、魔物の脅威とも戦火とも無縁だった。 安寧と繁栄の中で人々はそれを当然のことと思うようになる。 王太子ベルナルドは婚約者である聖女クロエを疎んじ、衆人環視の中で婚約破棄を宣言しようともくろんでいた。 ※序盤は主人公がほぼ不在。複数の人物の視点で物語が進行します。

処理中です...