この状況には、訳がある

兎田りん

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星の子と遊ぼう

星の子とまた逢う日まで

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 ある日、レミール様が俺に告げた。
「旅に出ようと思ってるんだ」
 出会った時、諸国漫遊の途中だとか言っていたのを思い出した。

「ここも長くなってきたし、そろそろ寒くなってきたじゃない?暖かい南に向かうのも渡り鳥らしくていいかな、って」
「そんなに経っていましたか」
 思い返せば初対面はメロメ国騒動のすぐ後。色んなところで遊んだり、学園でのひと騒動に巻き込まれた一件にも手を貸してもらったりして…うん。夏休みも挟んだし、結構経ってたな。
「南下を続けまくったら一周まわって帰って来れるね」
 移動面倒くさがってショートカットする様な御方が言うと、明日の昼くらいに「僕はこの星の裏側にいるよ」ってメッセージ来そうな予感がしますが。
「この世界、そんな作りなんですかね?」
 地球は丸かったから、ぐるりとひと回りできたんでしょうが…ここは異世界…
「できるんじゃない?地球のコンパス使えるから、磁場もあるみたいだし」
 あるのか。
「魔力溜りにも反応しちゃうこともあるから、断定は出来ないけどね」
 この世界は北は寒くて南は暑い。多分地球に似ているのだと思う。ラキアラス王国は比較的温暖とはいえ、四季もあるし。
 でも剣と魔法の異世界でしょ?

「地球を参考にはしてると思うよ。色んな世界の創造主がよく見に来てるところだし」
 マジで?…いや、それで俺撥ねられたんだったな。
「他所の神様が見に来るほど栄えている、と思っていいんですよね」
「そうだね。そこで育った子を引き抜いて自分のところに招くくらい一目置かれていると思っていいんじゃないかな?」
 凄いな地球。
「あと、誰も創造主見たことないから「いつか見れるかも」みたいな感覚で見に来るのもいる」
「誰も…?」
「そう。誰も」
 そんな事あるんですか?
「見たことあるモノもいるとは思うけど、覚えてないレベルで昔だと思うよ。少なくとも僕は見た記憶ないね」
 社長の姿を誰も見たことない大会社で、運営安定してるとか「どうやってるの?」って都市伝説生まれるレベルでは?
「その例えは僕にはピンとこないけど、そうなんじゃないかな?あとは…お忍びすぎて気づかれないパターンもあるとは思う」
 それはあるかも。
 神様に効果あるステルスレベルって、どれくらいなんだろうか…
 結局地球の神様は「わからないけど世界が回ってるならいいじゃないか」に落ち着いた。話の発端はレミール様の旅立ちでしたよね?

 依頼を見て次の目的地を決めよう、というレミール様に着いていく形で俺も冒険者ギルドにやってきた。
 聖協会の奉仕で冒険者と接する機会はあるけど、ギルドに入るのは…いつ振りか覚えてないくらい久々だ。
 レミール様が厳つい受付のおニイさん(スキンヘッドにピタピタボディコンスーツのバチ決めスタイル)に「しばらく王都離れようと思って」と話をしている所に、冒険者になったばかりであろう少年が声をかけてきた。
「王様行っちゃうの?」
 王様?
「そう。暖かいところにいってくるよ」
 え?スルー?
「キングも寒さには弱いんだねぇ」
 おニイさんも乗った…だと…?

「王様呼びさせてるんですか?」
 雰囲気はあってますけど。
「呼ばせてないよ?」
 ホントに?
「来たばかりの時に、近所の子たちが僕を見るなり「王様だ!」って指さしてきてね。それがいつの間にかギルドに蔓延したんだ」
 感染症みたいに言われてる…
 そして、貴族でも王子でもなく王なのか…解るけど。
「王様みたいなオーラ出てるでしょ?」
 おニイさんまで俺の心読むの?え?偶然?そんなに顔に出てましたか?
「子どもってさ、時々核心を突いてくるよね」
 それ「勘のいいガキは…」のフラグですか?
「そこで血を流すのは三流…って、その程度で事を起こしてたら住民いなくなっちゃうでしょ?」
 レミール様の「事を起こす」って星が降るやつですよね?
「あれは(さよならの)ご挨拶」
 別れのビンタが強烈すぎです。

「南行きで良さそうなのは、荷運びと商隊護衛かぁー。どうしようかな?」
 あれこれやってる間に、依頼ボードのチェックも終わっていたらしい。ピンの跡も新しい、依頼が書かれた紙を見せてくれる。
「荷運びは期限長めですね。量は…うん。レミール様なら問題ないですね。護衛の方は2週間で目的地まで着けるものなんでしょうか」
 地理は詳しくないから、地名だけ見てもよくわからないというのが正直な感想。護衛は…日程的に厳しいのでは?
「地図あるよ」
「ありがとうございます。…護衛、よくこの期日で出しましたね?」
 地図を見る感じでは以前行ったグローデン領よりちょい遠いくらいか。頑張れば2週間でギリ行けるレベル…行けるか?
 俺の時はちょっと急ぎ足の行軍で1週間をギリ切るくらいだったけど、商隊だと荷物とかあるからもっと遅いはず。レミール様天然の魔物よけがいても、盗賊は来るでしょ?
「ワープ使うとかしない限り無理な気がします」
「使う気ないからパスかな。しばらく貼りっぱなしにしてたら焦って調整入れるでしょ」
 急ぐならそれなりの(報酬の)積み方するはずだし。と、護衛依頼の紙を戻しに行く。
 そういえば内容に気を取られてて報酬見てなかった。特急料金は3割増からですよね?

 その後、レミール様は荷運びの依頼を受けて旅立ちの準備を整え、出発の日を迎えた。
「また来るね」
「お待ちしています」
「次回の滞在拠点は是非我が家に。部屋をご用意しておきます」
 見送りメンバーに兄上が混ざっているのは何故でしょうか。
「街で偶然会ってね。仲良くなったんだよ」
「ファルムの話で凄く盛り上がった!ここまで話のわかる御方はなかなかいないぞ!」
 当事者のいない所で盛り上がって意気投合するのなんなの?あと、その出会いは作為的な香りがしますが。
「ハハッ」
 その声真似はいけない。

 時間が経つにつれて見送りの数が増えてくる。そしてその輪に「何事だろうか」と見物人が混ざり始めた頃、レミール様は爽やかに旅立っていった。
 いつの間に混じっていたのか、おニイさんが「アタシの目の保養が一つ消えてしまう…」と名残惜しそうに小さくなる背を見つめていた。
 恋する乙女の様な表現だが、レミール様曰く「あの子は受付の中で一番力強い」のだそう。ムチムチの筋肉は裏切らないんですね。
「また来て下さいますよ」
「ファルムちゃん…聖協会のご用事以外でも来て頂戴ね」
 冒険者業もやってみたいことの一つなので、卒業前には登録しに来ようとは思っています。力強い保護者ブラコンが悪化した兄を説得しますので、お待ちくださいね。

 こうして、俺と星の子接待は一幕を閉じた。どっちが接待された側か、という問いには曖昧な微笑みで返すしかないが。
 笑顔で「また来るね」と言ってもらえたから、良しと言うことにしよう。
 後に再訪が叶うのだが、それはまた別の機会に語ることにしよう。

 別れ際に「これは後で見てね」と渡された箱の中には、メタルヒーローの合金フィギュアが一体入っていた。重いと思ったら合金て!
 これは次回の予告ですよね?大好物です!ありがとうございます!
 
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