この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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 モテたい同級生に囲まれた後も、授業の合間を縫うように「聖女って結局何?」や「最新の交易船の乗り心地はどうだった?」など、クラスメイトから様々な質問が俺にぶつけられた。
 皆興味はあったけど聞けなかったが、「ハーレムはロマン」な突撃で「この際聞きたいことを聞いてしまえ」となったんだろう。
 先陣を切った彼らに拍手。俺に交流の機会を設けてくれてありがとう。

 「俺はモテている訳ではなくて、権力にこき使われているだけだよ」
 紛れもない事実なんだけど、言った俺自身にダメージ来るなこれ…
「ということは王族や城で働くエリートに目をつけられてる…?それって将来有望なのでは?」
 あ、フリー女子ズの眼差しが狩人みたいになった気がする。
「王国唯一の色にイケメン確定の容姿。家格も最高のフリー男子とか、狙わない理由がないわよね?」
「そうよね。同級生の強みを見せるべきよね?」
 ヤダ。こっちも何かグループの絆が深まってる!いやこれは集団での追い込み漁では?

「「「ちょっと待った!」」」
 何事?と声の方を見ると、高等部の一団が仁王立ちしていた。なにそれこわい。
「私達は「メロディアス兄弟を見守る会」よ!」
 な、なんだってー!
「同級生だからと抜け駆けはよくないわ!フェアに見守るべきよ!」
 それは…よくわからない。
 わかるのは、助けに来てくれた訳じゃないということくらいか。何しに来た?
「ラスフェルム様が卒業されて、私達の癒しはファルムファス様だけになってしまったのよ!」
 何人か泣いてる…どこに泣き要素があったのか。
「慌ただしい学園生活の潤いは皆で守るべきでしょう?」
「……………」
 何か、「メロディアス兄弟がいかに素晴らしい癒しの力を持っているか」の演説が始まったんだけど…その大半が理解できないのは俺が悪いのだろうか…

「わたくしが来ましたわ!」
 メロディアス兄弟を見守る会高等部の学生婿取り狩人同級生が討論している所に、レニフェル様が来た。
 追い討ち…
「楽しそうな事をしているわね!わたくしも混ぜなさい!」
「レニフェル王女殿下!共にメロディアス兄弟について熱く語りましょう!」
「レニフェル王女殿下!私達の婚活を応援して下さい!」
「わたくしが全て聞いてあげるわ!心ゆくまで語らいなさい!」
「「ありがとうございます!」」
 ………なんだこの空間カオス……
 俺も含めて見ている側は完全にドン引きである。

「メロディアス侯爵家マジやばい」
 一緒にしないで。
「この状況、俺のせいじゃないよ」
 話題が俺なだけで、勝手に盛り上がってヒートアップしてるだけでしょ?
「王女殿下巻き込むとか、権力凄い」
「呼んでないよ?俺ずっとここにいたよね?」
 レニフェル様は勝手に飛び込んできたんだよ?
「初等部にこんな一大勢力あるなんて聞いてない」
「作ってないからな?」
 誰だよ一大勢力とか嫌なこと言うのは?と声の方を見ると、ちょっと小さいメガネがいた。クラスメイトじゃない…だと…?
 何時帰ってきた?と二度見した時、目が合ったので自己紹介された。
「兄を人の道に戻してくれてありがとう。僕はマーロル公爵家三男アスベル。ユスファルの弟です」
 メガネの弟らしい。いや、それは一目でわかる。縮尺!っていう位似てるもの。
 うっかり流しそうになったけど、メガネを人の道に元した記憶。俺には無いよ?

「ラジカル先生が授業出来ない、って言ってたので見に来たのですが…メロディアス君が関わっているなら仕方ないですね」
「仕方ないって何?」
 諦めんなよ!
 アレを止めるくらいの気合いを見せてよ!
 俺が入るのも一瞬考えたけど、脳内シュミレーションの結果全てのパターンで状況悪化したから考えるのを止めた。
 入るなら第三者だよ。ラジカル先生止めに来てよ!
「父が「メロディアスは常識の枠外」と言っていました。この騒動に貴方が絡んでいるなら納得できます」
 納得しないで。
「どこを見ての発言かはわかりませんが、俺は一学生です」
 多分父親同士繋がりがあるのだろう。どちらも王城勤務だし。
 その結論に至る理由は聞いておきたいところではある。

 謎のトークバトルはまだ続いている。「もう別室で授業始めた方が早いな」と思っていた時、誰かが
「メロディアス君の父君は文官の神だもんな」
 という一言をこぼした。その発言に「成程」と頷く周囲。
 どういうことだってばよ・・・
 結局、その後の授業は別室で行われた。
 見守る会とチーム初等部&レニフェル様(独立勢力)のやり取り結果は聞いていないが、その後の雰囲気から察するに結論は出なかったのだろうと思われる。
 正直聞いちゃうと関わらされそうだから誰にも聞かなかった。
 知らないことが幸せな事ってあるよね?

 あの後、アスベル君と仲良しになった。
 互いに兄上の愚痴を言いたいだけぶつけ合って芽生えた友情だが、河原で殴り合いよりも平和的だと思う。
「ちょっと方向性はおかしいと思いますが、悪い兄ではないのです」
「重すぎる想いが分散出来ればいい兄になるはずなんだよね」
 クラスメイトとはまだ壁があるが、「困った兄」という共通点が俺とアスベル君を繋いだようだ。これもご縁というやつだ。

「マーロル公爵家は次兄が継ぐ予定なので、僕は割と自由に過ごせています。ファル君の下について無茶振りしてくる王族を観察するのも面白そうですよね」
「アス君、無茶振りしてくるの前提にしないで」
 仲良くなって見えてきた、アスベル君の愉悦組の素養。
 なんだその雑な将来設計。遊びの予定か?
「人が右往左往するのを高いところから見るの楽しいと思うんですよ」
 マーロル公爵?お宅のご子息大丈夫ですか?一度思想をよく話し合ってご家族で共通理解し、解決策を提出してください?
 穏やかな口調で「人が頭を抱えるのを楽しく見たい」とか、なかなかの性癖をお持ちですよ?
 まあ。他に被害が及ばないなら、言うのは自由なんだが…聞いてるの俺だけだし。
 なんかアレだ。俺が一番被害を受けそうな予感がするんだよな…
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