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愛だけで生きていけると思うなよ
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きっちり二週間の船旅を終えた俺は、そのまま真っ直ぐアーデルハイド殿下の執務室に向かった。
入城も城内移動もノーチェック・フリー移動可能とか警備が心配になるレベルだが、そこは俺の日頃の行いの賜物だと思っておこう。
「やあ、お帰り。早かったね」
のんびりとした言葉で迎えてくれるが、書類を捌く手は止まらない。そのスピードはなかなかのものだ。
積まれた書類の山が少しずつ減っていき、もう一つの山に積まれていく。やっぱりパソコンって生活革命だよな。
いや、俺はアーデルハイド殿下の仕事ぶりを見に来た訳でもパソコンの偉大さを再確認したい訳でもない。
「今回はとても大変な思いをしました。心の傷を癒すためにウィー君を暫く連れていきますね」
「……!ちょ!ま!」
言いながらサブ机(執務用の机は書類の山で埋まっている)に乗っているウィー君を、手触りが凄くいいクッションと共に回収する。
突然のアクションにアーデルハイド殿下が出遅れる。よし、このまま城を出よう。
「それでは、失礼致します」
扉を閉めたところで、室内からザアッという音と共に「いやぁぁ!ウィーくぅぅぅん!」とアーデルハイド殿下の叫びが聞こえてきたが無視。
中毒症状が抜けるまでお預かりしますね。
早足で廊下を進んでいたら、遠くから誰かが走ってくるのが見えた。すわ、追っ手か?
「ファルムうぅぅ!愛しい我が息子よ!会いたかったー!」
あ、父上でした。
「母様も待ちわびているぞ!さあ、帰ろう!今すぐ帰ろう!」
俺はテンションがおかしい父上に、ウィー君ごと抱えられてそのまま馬車でゴーホームした。
今までもたまにおかしくなってるのは見たことあるけど、今回のは輪をかけて酷い。息子二人が国外に出たショックが大きかったんだろう。
どうせ家に帰る予定でもあったし、ここは抵抗しないで流れに任せよう。
「戻りました、母上」
「きゃあああ!ファルム!帰ってきてくれて嬉しいわ!アルもありがとう!」
「君の喜ぶ顔が見れて僕も嬉しいよ」
メロディアス家の玄関先。(いつ出したのか判らないが)先触れを受けたのだろう母上が屋敷の扉の前で俺たちを待ち構えていた。
我が家も貴族屋敷の類に漏れず、敷地が広い。門から玄関まで、歩くのはちょっとダルい位の距離がある。
門から屋敷までの間にロータリーがあるとか、前世では駅とかでかい学校とかでしか見たことなかった俺は初めて見た時「貴族やべぇな」って軽く引いたもの。
我が家の敷地の話は置いといて、王城(馬車停留所)から屋敷の扉前まで我が家の馬車(専属御者付き)のいわゆるドアtoドアで運ばれた俺(withウィー君)は久々の母上との対面を果たした。
そして早々に久々に両親のイチャイチャを見て俺のこの旅で大分削れていたMPが更に削れた。回復ポイントは何処ですか?
俺は両親にウィー君ごと抱えられ、テラスに連行される。
あ、もう茶会セットできてる。こういうところも貴族だなぁ、って思う。聖協会では「自分のことは自分で」が基本だし、前世もおひとりさまだったから出世した気分。
そして王城で父上に捕獲されてからテラスの椅子に座らされるまで、地に足がつかなかった。拉致じゃないです帰宅です。
それにしても父上、そのひょろ長い体のどこに俺をかつぎ上げる力あったの?
座らされたなぁ。と思っていたら、旅の話を根掘り葉掘り。ついでに前回の聖女騒動の俺視点も根掘り葉掘り。結局全て聞き出された。家族の近況報告というか詰問では?というレベルで詰め寄られた。
お茶しながらだから団欒タイムでもあったのだろう(と思いたい)。
メロメ王国の一件も船上で顛末を聞かされたから、大体話した。
メロメの愉快な仲間たちは正気に戻った後、各々の婚約者の元を訪れてそれはもう丁寧に謝罪したらしい。
一時帰宅したメディナツロヒェン嬢の元にもバンガーブ侯爵令息が謝罪に来たという。あいつと第三王子は俺らに対する非礼にも謝罪すべき。来なかったから許さない。
大元の騒動から一年以上経っているので、他家に嫁いだ令嬢(夫人と呼ぶべき?)もいる。該当の愉快な仲間たちのショックもひとしおだろう。
今回は聖女騒動と違って全員復縁なし。まあ、全員ヤっちゃってるから仕方ないよね。
リナリア嬢は単独幽閉中で、やらかした罪のあれこれを調査して裁判にかける事は確定だそうだ。
どうやら罪状は魅了魔法使用だけじゃなかったらしい。叩けば埃が出るというやつですね。
魅了の力はサヴィーニア様が没収したので、見張りを誑かして出てくるとかないでしょう。
今回の最大の被害者である子どもは、父親が判明次第その家が引き取ることになったらしい。
聞くつもりなかったのに聞かされてしまった。というレベルなので大分フワッとしているが、その後はこんなもんだ。
ちなみに【御子(ミーコちゃん)】の件はかなりぼかした。恥ずかしくて親に話せる事じゃないし!
親に「ドレス着て活躍しました!」とか胸張って言える鋼メンタルは持ち合わせていない。
…ところで、俺のメンタルケアは誰がしてくれるんですかね?
「あらあら、大変だったのね。ちゃんと帰って来れて良かったわ」
全て聞き出し終えた母上の感想が、この一言である。
ちなみにウィー君は母上の膝上で撫でられながらプクプクとうたた寝している。父上の羨ましそうな視線をものともしないとか、大物か…
「僕たちの愛しい子たちが巻き込まれているというのに、陛下から何の説明もないんだよ。情報を集めるにも限界があるし。だったら、直に当事者から聞くしかないじゃないか」
関係者家族に説明無しってダメじゃね?
「兄上から聞かれなかったのですか?」
聖女騒動後、旅立つ前に家に帰ってますよね?
「「ファルムと離れるなんて死んじゃう!」とか大騒動だったわ」
ごねる姿が目に浮かぶ様です。
「ラスにとっては一番心にくるお仕置だもんね」
「後は、見られたくないものにプロテクト掛けるのにも必死だったわ」
そうだ。兄上のコレクション荒らしてやろうと思っていたの忘れてた。短期間に色々ありすぎなんだよ…
「キュレム衣料商会が出した【御子様シリーズ】は特に気合い入れて封してたね。あれは見てて面白かったなぁ」
よし、燃やそう。
「アイローチェ様から素敵なドレスを戴いたの。後で着て見せてね」
「僕も晴れ姿見たいなぁー」
………何だこの包囲網……
入城も城内移動もノーチェック・フリー移動可能とか警備が心配になるレベルだが、そこは俺の日頃の行いの賜物だと思っておこう。
「やあ、お帰り。早かったね」
のんびりとした言葉で迎えてくれるが、書類を捌く手は止まらない。そのスピードはなかなかのものだ。
積まれた書類の山が少しずつ減っていき、もう一つの山に積まれていく。やっぱりパソコンって生活革命だよな。
いや、俺はアーデルハイド殿下の仕事ぶりを見に来た訳でもパソコンの偉大さを再確認したい訳でもない。
「今回はとても大変な思いをしました。心の傷を癒すためにウィー君を暫く連れていきますね」
「……!ちょ!ま!」
言いながらサブ机(執務用の机は書類の山で埋まっている)に乗っているウィー君を、手触りが凄くいいクッションと共に回収する。
突然のアクションにアーデルハイド殿下が出遅れる。よし、このまま城を出よう。
「それでは、失礼致します」
扉を閉めたところで、室内からザアッという音と共に「いやぁぁ!ウィーくぅぅぅん!」とアーデルハイド殿下の叫びが聞こえてきたが無視。
中毒症状が抜けるまでお預かりしますね。
早足で廊下を進んでいたら、遠くから誰かが走ってくるのが見えた。すわ、追っ手か?
「ファルムうぅぅ!愛しい我が息子よ!会いたかったー!」
あ、父上でした。
「母様も待ちわびているぞ!さあ、帰ろう!今すぐ帰ろう!」
俺はテンションがおかしい父上に、ウィー君ごと抱えられてそのまま馬車でゴーホームした。
今までもたまにおかしくなってるのは見たことあるけど、今回のは輪をかけて酷い。息子二人が国外に出たショックが大きかったんだろう。
どうせ家に帰る予定でもあったし、ここは抵抗しないで流れに任せよう。
「戻りました、母上」
「きゃあああ!ファルム!帰ってきてくれて嬉しいわ!アルもありがとう!」
「君の喜ぶ顔が見れて僕も嬉しいよ」
メロディアス家の玄関先。(いつ出したのか判らないが)先触れを受けたのだろう母上が屋敷の扉の前で俺たちを待ち構えていた。
我が家も貴族屋敷の類に漏れず、敷地が広い。門から玄関まで、歩くのはちょっとダルい位の距離がある。
門から屋敷までの間にロータリーがあるとか、前世では駅とかでかい学校とかでしか見たことなかった俺は初めて見た時「貴族やべぇな」って軽く引いたもの。
我が家の敷地の話は置いといて、王城(馬車停留所)から屋敷の扉前まで我が家の馬車(専属御者付き)のいわゆるドアtoドアで運ばれた俺(withウィー君)は久々の母上との対面を果たした。
そして早々に久々に両親のイチャイチャを見て俺のこの旅で大分削れていたMPが更に削れた。回復ポイントは何処ですか?
俺は両親にウィー君ごと抱えられ、テラスに連行される。
あ、もう茶会セットできてる。こういうところも貴族だなぁ、って思う。聖協会では「自分のことは自分で」が基本だし、前世もおひとりさまだったから出世した気分。
そして王城で父上に捕獲されてからテラスの椅子に座らされるまで、地に足がつかなかった。拉致じゃないです帰宅です。
それにしても父上、そのひょろ長い体のどこに俺をかつぎ上げる力あったの?
座らされたなぁ。と思っていたら、旅の話を根掘り葉掘り。ついでに前回の聖女騒動の俺視点も根掘り葉掘り。結局全て聞き出された。家族の近況報告というか詰問では?というレベルで詰め寄られた。
お茶しながらだから団欒タイムでもあったのだろう(と思いたい)。
メロメ王国の一件も船上で顛末を聞かされたから、大体話した。
メロメの愉快な仲間たちは正気に戻った後、各々の婚約者の元を訪れてそれはもう丁寧に謝罪したらしい。
一時帰宅したメディナツロヒェン嬢の元にもバンガーブ侯爵令息が謝罪に来たという。あいつと第三王子は俺らに対する非礼にも謝罪すべき。来なかったから許さない。
大元の騒動から一年以上経っているので、他家に嫁いだ令嬢(夫人と呼ぶべき?)もいる。該当の愉快な仲間たちのショックもひとしおだろう。
今回は聖女騒動と違って全員復縁なし。まあ、全員ヤっちゃってるから仕方ないよね。
リナリア嬢は単独幽閉中で、やらかした罪のあれこれを調査して裁判にかける事は確定だそうだ。
どうやら罪状は魅了魔法使用だけじゃなかったらしい。叩けば埃が出るというやつですね。
魅了の力はサヴィーニア様が没収したので、見張りを誑かして出てくるとかないでしょう。
今回の最大の被害者である子どもは、父親が判明次第その家が引き取ることになったらしい。
聞くつもりなかったのに聞かされてしまった。というレベルなので大分フワッとしているが、その後はこんなもんだ。
ちなみに【御子(ミーコちゃん)】の件はかなりぼかした。恥ずかしくて親に話せる事じゃないし!
親に「ドレス着て活躍しました!」とか胸張って言える鋼メンタルは持ち合わせていない。
…ところで、俺のメンタルケアは誰がしてくれるんですかね?
「あらあら、大変だったのね。ちゃんと帰って来れて良かったわ」
全て聞き出し終えた母上の感想が、この一言である。
ちなみにウィー君は母上の膝上で撫でられながらプクプクとうたた寝している。父上の羨ましそうな視線をものともしないとか、大物か…
「僕たちの愛しい子たちが巻き込まれているというのに、陛下から何の説明もないんだよ。情報を集めるにも限界があるし。だったら、直に当事者から聞くしかないじゃないか」
関係者家族に説明無しってダメじゃね?
「兄上から聞かれなかったのですか?」
聖女騒動後、旅立つ前に家に帰ってますよね?
「「ファルムと離れるなんて死んじゃう!」とか大騒動だったわ」
ごねる姿が目に浮かぶ様です。
「ラスにとっては一番心にくるお仕置だもんね」
「後は、見られたくないものにプロテクト掛けるのにも必死だったわ」
そうだ。兄上のコレクション荒らしてやろうと思っていたの忘れてた。短期間に色々ありすぎなんだよ…
「キュレム衣料商会が出した【御子様シリーズ】は特に気合い入れて封してたね。あれは見てて面白かったなぁ」
よし、燃やそう。
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