この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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「ファルムファス様、お疲れですか?」
「………お疲れですね……」
 メロメ国到着から5日。俺は今までにないくらい心身の疲労を感じていた。
 前回の駆け回った日々より今回の方が辛いとか何なの?俺をこの若さで過労死させる気なの?
 我が道をゆくレドラムさんに気遣われる位だから、目に見えまくってるんだろう。
 パーティが終わったらお役御免で、街めぐりとかのんびりできるかな?とか考えてた俺が甘かったんだな…
「ファルム様、今日もお付き合い下さいませ!」
 本日も健やかなレニフェル様が勢い良く談話室に入ってきた。
 そう。この5日間、到着した1日目を除いた全ての日中をレニフェル様の外遊同行に付き合っている。「あれはなに?」「コレをもっとたくさん見たいわ」と気を逸らしまくるレニフェル様に「目に付いたものにフラフラ近寄らないでください」「説明して下さっているのですから、きちんと話を聞きましょう」と諌めまくる俺。お子様を引率する先生の気持ちが少しだけ解った気がする。

「彼女に振り回される彼氏みたいで微笑ましいですね」
「「は?」」
 レドラムさんののほほんとした一言に俺たちが戦慄する。そんな風に見えてたのか…
「わたくしの好みは背の高いがっしりとした殿方ですわよ?顔が多少綺麗な位では補えないコンパクトなファルム様は論外ですのよ!」
 待ってなんで俺今ディスられてる?
「お父様に勝てない殿方はお帰りくださいませですわ!」
 ヤバい、ヒートアップしてきた!
 そんな嫌なんだ…。まあ俺もレニフェル様は彼女候補に最初から入れてないんだが、ここまでハッキリ言われるとちょっと傷つく。
「……レドラムさん、せめて「姫と従者」にしましょうよ」
 元はと言えばレドラムさんの迂闊な発言が原因なんですから。謝罪はいいので訂正して下さい?
 俺の好みはもっと落ち着いたレディです。…いや、好みは別にいい。今はその話じゃない。
 俺が小柄なのはまだ成長期入ってない(年齢的にそろそろだと思っている)だけだから!父上も背は高い方なの!もうすぐ兄上みたいな長身イケメンになる予定なんですからね!ドレス似合わない位成長してやる!
 ……いけない、俺の心中もヒートアップしてきた…落ち着かねば。平常心平常心。

「本日の従者は私です。神の子であるファルムファス様が従者など有り得ません」
 レニフェル様から見ると、身分的には俺も立派な従者ですよ?
 何がそんなにレドラムさんを頑なにするのか、わけがわからないよ。
「メロディアス家には熱烈な信者が一定数いると聞いてはいたのだけど…」
 粘度の高いレドラムさんの姿に、レニフェル様は落ち着きを取り戻してくれたようだ。
「待って俺それ初耳です」
 メロディアス家何なの?卒業パーティの時といい、親から聞かされてないことボロボロ出てくるんですけど?
 周囲から聞くとびっくり度が上がって心臓に悪いんですが?
 戻ったら一度家の歴史を掘り起こそう。
「私はメロディアス侯爵も信奉しておりますが、ファルムファス様個人も代え難き存在であると自負しております。それに………」
 レドラムさんが止まらなくなった。
 うん。何を言ってるのか解りません。少し黙ろうか。
 結局この日も俺はレニフェル様に連れ回された。
 しかもレドラムさんが同行したことで心労が三割どころか5倍増しになった。次からは単体で連れていくか、お守りの数を増やそう。

「ファルム様、お時間よろしいですか?」
 到着から6日目(レドラムさんの語りがヒートアップした翌日)の夕方。レニフェル様に振り回されてクタクタな俺の元へメディナツロヒェン嬢が来た。
 パーティの翌日からラフテュ伯爵家実家に戻っていたという。
 宿に一緒に戻った記憶はあるのに居ないなぁ、とは思っていたんだ。
 戻ることはレニフェル様には伝えていたらしい。俺にだけ伝わってなかった。まあ、それはいいんだけど。
「あの後をお知りになりたいのではと思いまして」
「あ、いや。それは言わなくて結構です。ラキアラス王国の利になりそうな事はレニフェル様にお伝えください」
 特に知りたいと思っていません。ここのところ(主にレニフェル様のせいで)心労がマシマシで他に気を配る余裕もなかったし。
 リナリア嬢の魅了魔法はサヴィーニア様が没収した。という話は聞いたのでそれで充分です。
 どうせ揉めて仲間たち解散したんでしょ?
 ただでさえ巻き込まれて迷惑してるのに、顛末とか聞いちゃったら更に深入りさせられそうじゃないですか!そんなのヤダー!

「メディナツロヒェン嬢はラフテュ伯爵家に戻られるのですか?」
 後日談で気になるのはこれだけだ。なんせレニフェル様の心友だからな。負担レニフェル様のお守役は分散しなければ。
「わたくしはレニフェル様と共にラキアラス王国へ戻り、創世神ラキアータ様の子であらせられる御子様に生涯を捧げます」
 ……そうだ。メディナツロヒェン嬢は御子に一目惚れフォーリンラブした強火担だった。
「ファルムファス様は御子様の衛者えいしゃなのでしょう?あんなにそっくりになれるなんて!アーデルハイト王太子殿下が一行に推されただけありますわ!御子様とお話されたことありまして?」
「……ちょ…!」
 ちょ、待てよ!グイグイ来ないで!
「ああ!わたくしも御子様のお傍に付きたいですわ!ラキアラス王国のラキアータ聖協会の皆様が羨ましいわ!」
 ……あ、これ今「俺が御子でした」って言ったらダメなやつだ。いやそもそもバラすつもりも御子を続ける気もさらさらないんだけど。
「一国の王子に対して一歩も怯まぬお姿に……<一部略>……その御身は輝く光そのもの……<一部略>……姿絵は家宝に……」
「…………」
 どうしよう。止まらない…。レドラムさん(父上の元部下)相手なら「止めて」って言えるけど、メディナツロヒェン嬢にはまだ言えない…。下手に止めてレニフェル様心友が出てきたら話が拗れそうだし。

「明日は朝市が立つそうよ!見に行きましょう!」
 無限の体力なレニフェル様が「早起きするのだから、早く寝るのよ!」と宣告に来た姿が、輝いて見えました。救世主か!
 そして、翌日も振り回されるのが確定した件に関しては「辛いです」の言葉しかありません。
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