55 / 115
愛だけで生きていけると思うなよ
6
しおりを挟む
「やあやあ、待たせてしまったね」
「メルネちゃん、先日は素敵なドレスをありがとう」
メルネ嬢のセールストークが始まろうかという時、ハロルド様とレニフェル様が揃って部屋に入ってきた。
普通に入ってきたな。城は我が家か。いや、王族の皆様には我が家だったな。俺達が(呼び出された)お客様だったわ。
アーデルハイド殿下を筆頭に俺たちは立ち上がり、(俺とメルネ嬢は)頭を下げて(定型文な)挨拶をする。国の主一族に敬意を表するのは国民として当然ですよね。
アーデルハイド殿下が入ってきた時にはメルネ嬢だけ頭を下げていた。俺は…しなくていいと前に本人から言われていたんだ。決して忘れていたわけじゃないぞ。
アーデルハイド殿下はどう思っているか知らないし聞くつもりもないが、俺は「二人は友達」かと問われたら、違うと答える。
俺はほら、ウィー君との出会いサポーターだから。いや、その関係もよく判らないな。
「叔父上」
アーデルハイド殿下、アルカイックスマイルの下に「もう来たのか」という気持ちを滲ませないで下さい?
早く済ませて早々に撤収しましょうよ。俺今日学園で宿題出されてるんです。
「随分鮮やかな所でお茶会をしているね。仲間に加えてくれるかな?」
言うのが早いか座るのが早いか、という。
そして即座に御二方の前に紅茶が供される。出来る侍女さん、良い仕事ぶりです。
ああ、アーデルハイド殿下の疲労度が上がってる…
「随分と、お疲れのようですね」
甘いものでもどうぞ、とハロルド様に菓子を勧めると「ありがとう」と笑顔でタルトを頬張った。まるで少年の様だ。
レニフェル様はもう気持ちがドレスの群れに向いているようで、メルネ嬢と話し込み始めている。会話の途中でこちらをチラチラ見るのは(してる話が気になるから)止めて下さいね?
俺に関係ない話をして下さい。と、願いだけはかけておきますね。
「ここの所文書仕事が立て込んでいてね」
「それは自業自得では?」
ハロルド様のボヤきにアーデルハイド殿下が容赦ない。まあ、俺を呼び出したあの話を聞いた後だから順当な反応だと思うけど。
「少年、甥っ子が手厳しい」
「そこで私に話を降らないでください」
「ファルム君が「私」って言うの新鮮でいいね」
ティータイムにウザ絡みするの止めてください。紅茶にアルコール入ってないよね?
「疲れた素振りなんて兄上にも見せた事ないのになぁ」
「確かに叔父上は「のらりくらり」という言葉が良く似合う動きをされますからね」
「少年、甥っ子が辛辣」
「何故その下りを繰り返すんですか」
天丼は忘れた頃にやるのが効果的だと俺は思うんです。
「叔父上のお疲れに、会って間もないファルム君が気付くの凄いね。っていう流れだよ。あと、父はたまに気づいてると思います」
「マジ?時々いい蜂蜜の差し入れ来る理由わかった…さす兄…長年の付き合い…」
蜂蜜お好きなんですね。あ、お疲れに気づいた理由?
「いやだって、アイコンが…」
「「あいこん?」」
見えたものをそのまま口走った瞬間、猛烈な違和感が俺を襲った。
初耳の単語に反応した王族の存在が一気に吹っ飛ぶ。
「……ん?………え?……アイ…コン?」
俺、今、なんて言った…?
いやいやいや!ちょっと待って!なんか嫌な汗ドパッと出たー!
なんだアイコンって!おかしいよね?幻覚か?いや、思い返すと朝からなんか見えてた気がする。見えてたけど「当たり前」のものとして気にしてなかった。
ちょうスルーしてたけど、ちゃんと認識したらよく考えなくてもおかしいのもわかった!なんだこの現象!
アーデルハイド殿下とハロルド様の頭上に名前と顔っぽいマークがあって、表情(に見えるもの)と色が「疲労状態」と「疲労レベル」を表してるとかなんで分かるの?
見回したら視界の範囲にいる全員の頭上に見える。
どうしようこれずっと見えるの正直困る…オンオフ……………できてしまったな。
頑張ればもっと細かい情報とか出せそう………いや、今はやめておこう。できてしまった時の心労が半端なさそうだし。
これ絶対神様が付けた新しいスキルで、説明(面倒くさがって)スキップしたやつでしょう?「新しいのあげる」っていうのは聞いてたけど、ちゃんと「明日から発動するからね」ってせめて前夜までに実装予告してよ!突然のアップデートはユーザー大困惑だよ!
俺新しいソフトの説明書は(覚えるかは別の話として)一読したい派なんだよ!
新型ハードになる度に薄くなり、やがて「詳しくはWebで」になってしまったゲームの説明書に対する俺のノスタルジックな感情を返して。攻略本も昔の方が面白かった記憶がある。あ、これはあくまで個人の感想です。
せめて新機能の「使い方ハウツー」とか用意して欲しいですよ?
今までも多分言わずにあれこれ追加してるんだろうな…とは薄々感じていたけど、視覚に影響するやつは流石に告知くださいお願いします。
ああ、そういえばここは王城で、王族に挟まれてのお茶会中だったな…
「ファ、ファルム君、大丈夫かい?」
「凄い汗だよ」
アーデルハイド殿下とハロルド様が気遣って下さるのは非常に有難いんですが…
「だいじょばない…です…」
王族に囲まれるプレッシャーなんてそよ風レベルでの精神へのダイレクトアタックが凄い。俺のメンタルはヘトヘトだぁ…
「よし。もう今日は解散しよう」
ありがとうございますアーデルハイド殿下。ハロルド様への応対がめんどくさいという思いが透けていますが、今はとても…助かります…
「わかった。来月のメロメ国の外交に同行させる方向で進めておくよ」
「それは嫌です…」
ハロルド様が聞き逃せない一言を吐いたので無意識でお断りしてしまった。
後悔はしていない。厄介事の気配しかしないもの!
「聞き逃さずに断れる君が好き」
アーデルハイド殿下、いい笑顔しないで下さい。
「メルネちゃん、先日は素敵なドレスをありがとう」
メルネ嬢のセールストークが始まろうかという時、ハロルド様とレニフェル様が揃って部屋に入ってきた。
普通に入ってきたな。城は我が家か。いや、王族の皆様には我が家だったな。俺達が(呼び出された)お客様だったわ。
アーデルハイド殿下を筆頭に俺たちは立ち上がり、(俺とメルネ嬢は)頭を下げて(定型文な)挨拶をする。国の主一族に敬意を表するのは国民として当然ですよね。
アーデルハイド殿下が入ってきた時にはメルネ嬢だけ頭を下げていた。俺は…しなくていいと前に本人から言われていたんだ。決して忘れていたわけじゃないぞ。
アーデルハイド殿下はどう思っているか知らないし聞くつもりもないが、俺は「二人は友達」かと問われたら、違うと答える。
俺はほら、ウィー君との出会いサポーターだから。いや、その関係もよく判らないな。
「叔父上」
アーデルハイド殿下、アルカイックスマイルの下に「もう来たのか」という気持ちを滲ませないで下さい?
早く済ませて早々に撤収しましょうよ。俺今日学園で宿題出されてるんです。
「随分鮮やかな所でお茶会をしているね。仲間に加えてくれるかな?」
言うのが早いか座るのが早いか、という。
そして即座に御二方の前に紅茶が供される。出来る侍女さん、良い仕事ぶりです。
ああ、アーデルハイド殿下の疲労度が上がってる…
「随分と、お疲れのようですね」
甘いものでもどうぞ、とハロルド様に菓子を勧めると「ありがとう」と笑顔でタルトを頬張った。まるで少年の様だ。
レニフェル様はもう気持ちがドレスの群れに向いているようで、メルネ嬢と話し込み始めている。会話の途中でこちらをチラチラ見るのは(してる話が気になるから)止めて下さいね?
俺に関係ない話をして下さい。と、願いだけはかけておきますね。
「ここの所文書仕事が立て込んでいてね」
「それは自業自得では?」
ハロルド様のボヤきにアーデルハイド殿下が容赦ない。まあ、俺を呼び出したあの話を聞いた後だから順当な反応だと思うけど。
「少年、甥っ子が手厳しい」
「そこで私に話を降らないでください」
「ファルム君が「私」って言うの新鮮でいいね」
ティータイムにウザ絡みするの止めてください。紅茶にアルコール入ってないよね?
「疲れた素振りなんて兄上にも見せた事ないのになぁ」
「確かに叔父上は「のらりくらり」という言葉が良く似合う動きをされますからね」
「少年、甥っ子が辛辣」
「何故その下りを繰り返すんですか」
天丼は忘れた頃にやるのが効果的だと俺は思うんです。
「叔父上のお疲れに、会って間もないファルム君が気付くの凄いね。っていう流れだよ。あと、父はたまに気づいてると思います」
「マジ?時々いい蜂蜜の差し入れ来る理由わかった…さす兄…長年の付き合い…」
蜂蜜お好きなんですね。あ、お疲れに気づいた理由?
「いやだって、アイコンが…」
「「あいこん?」」
見えたものをそのまま口走った瞬間、猛烈な違和感が俺を襲った。
初耳の単語に反応した王族の存在が一気に吹っ飛ぶ。
「……ん?………え?……アイ…コン?」
俺、今、なんて言った…?
いやいやいや!ちょっと待って!なんか嫌な汗ドパッと出たー!
なんだアイコンって!おかしいよね?幻覚か?いや、思い返すと朝からなんか見えてた気がする。見えてたけど「当たり前」のものとして気にしてなかった。
ちょうスルーしてたけど、ちゃんと認識したらよく考えなくてもおかしいのもわかった!なんだこの現象!
アーデルハイド殿下とハロルド様の頭上に名前と顔っぽいマークがあって、表情(に見えるもの)と色が「疲労状態」と「疲労レベル」を表してるとかなんで分かるの?
見回したら視界の範囲にいる全員の頭上に見える。
どうしようこれずっと見えるの正直困る…オンオフ……………できてしまったな。
頑張ればもっと細かい情報とか出せそう………いや、今はやめておこう。できてしまった時の心労が半端なさそうだし。
これ絶対神様が付けた新しいスキルで、説明(面倒くさがって)スキップしたやつでしょう?「新しいのあげる」っていうのは聞いてたけど、ちゃんと「明日から発動するからね」ってせめて前夜までに実装予告してよ!突然のアップデートはユーザー大困惑だよ!
俺新しいソフトの説明書は(覚えるかは別の話として)一読したい派なんだよ!
新型ハードになる度に薄くなり、やがて「詳しくはWebで」になってしまったゲームの説明書に対する俺のノスタルジックな感情を返して。攻略本も昔の方が面白かった記憶がある。あ、これはあくまで個人の感想です。
せめて新機能の「使い方ハウツー」とか用意して欲しいですよ?
今までも多分言わずにあれこれ追加してるんだろうな…とは薄々感じていたけど、視覚に影響するやつは流石に告知くださいお願いします。
ああ、そういえばここは王城で、王族に挟まれてのお茶会中だったな…
「ファ、ファルム君、大丈夫かい?」
「凄い汗だよ」
アーデルハイド殿下とハロルド様が気遣って下さるのは非常に有難いんですが…
「だいじょばない…です…」
王族に囲まれるプレッシャーなんてそよ風レベルでの精神へのダイレクトアタックが凄い。俺のメンタルはヘトヘトだぁ…
「よし。もう今日は解散しよう」
ありがとうございますアーデルハイド殿下。ハロルド様への応対がめんどくさいという思いが透けていますが、今はとても…助かります…
「わかった。来月のメロメ国の外交に同行させる方向で進めておくよ」
「それは嫌です…」
ハロルド様が聞き逃せない一言を吐いたので無意識でお断りしてしまった。
後悔はしていない。厄介事の気配しかしないもの!
「聞き逃さずに断れる君が好き」
アーデルハイド殿下、いい笑顔しないで下さい。
1
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。
同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。
16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。
そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。
カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。
死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。
エブリスタにも掲載しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。


異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる