51 / 97
愛だけで生きていけると思うなよ
2
しおりを挟む
あの既視感しかない状況になってしまったのは、俺のせいではないが訳がある。
新学期が始まり、初等部2年の学習が本格的に始めようか、という頃の事だ。
「ファルム宛にお城からお手紙ですよ」
ラキアータ聖協会の一室。ノッスと共に箱に詰められた「御子」宛の手紙の仕分け作業をしていると、ルフ様が一通の手紙を持って来た。
ルフ様は前回の聖女騒動で随分とメンタルをやられたらしく「綺麗な花には棘があるんです」と軽い人間不信になってしまった。言っていることはよくわからないが、お仕事はきちんとしてくれるのは助かります。ゆっくり癒していきましょうね。
「ありがとうございます。王城からちゃんとした手紙が来るなんて珍しいですね」
俺は手紙を受け取り、封を切る前に封筒を観察する。
アーデルハイド殿下からの呼び出しは基本使者からの口頭(明日だの今からだの急なことか多いため)だから、アーデルハイド殿下からではないのだろう。王太子は忙しいらしいし、暫く俺で遊ぶ暇ないんじゃないかな?
だとするとアイローチェ様からだろうか。いや、あの方も「お返事を直ぐに頂戴」という方だから、ルフ様が手紙だけ持ってきたことで線が消える。
じゃあ、誰だ?
「開けないの?」
「何か仕掛けがあるかも…」
「え…城からの手紙に罠とかあるの…?」
ノッスがドンと引いている。でも、何があるかわからないのが貴族の世界。用心に越したことはない。
結局剃刀等の仕掛けも何もない、普通のお手紙だった訳なんだが。
手紙を受け取った6日後、学園の制服(自分の)を着た俺は王城の一室で王弟殿下と対面していた。
散々警戒した手紙の主は王弟殿下だった。
会ったことない天上人から「会いたい」って手紙来るとか、普通は思わないでしょ?
来るとしてもアーデルハイド殿下経由だと思ったんだよ。完全にノーマークだった。
「突然呼び出してすまなかったね。楽にしてくれていいよ」
無理です。初対面の王族相手に楽にはできません。アーデルハイド殿下の時は、状況が特殊だっただけです。
出された紅茶の味もよくわからないです…いいやつのはずなのに、もったいない。
理由も聞かされずに社長室に通された平社員の気分です。前世ではそんな状況にならなかったから、想像でしかないけど。
俺だけがピリッと緊張する中、ハロルド殿下(名前で呼んで欲しい、と言われた)
「君がアーデルハイドと上手くやっていると聞いてね。あの子はなかなかに曲者だから、大変だろう?」
そんな始まって早々にどちらも泥沼みたいな質問やめてもらっていいですか?
「はは…ウィー君が間に入ってくれていますからね」
乾いた言い訳しかできませんよ。
ここで「そうですね」と肯定すれば下手すると王太子への不敬と取られるし、「そんなことないですよ」と否定すれば「大変じゃないならこれもできる?」と無茶振りされる未来が見えるし…もうウィー君の素晴らしいもふもふに頼るしかない。
「うん。ウィー君は可愛いよね」
「もふもふは素晴らしいですから」
「でも、アーデルハイドが厄介なのは変わらないよねぇ」
「ははは。その件はこの口からは申し上げられません」
誤魔化しは効かなかった様だ。流石王族。
アーデルハイド殿下に直に「私は面倒臭いからね」と言われたら「そうですね」と即レスできるんだけど…本人のいない所で、しかも初対面のハロルド殿下にラフに返答するのは違うと思うんだ。
だってこれ、本題じゃないからね。無茶振りの前座でしょ?マジ怖い!
「初対面の王族に、警戒しながらも上手く立ち回ろうと画策できるのは良い事だ」
「ありがとう、ございます?」
なんだ?褒められたのか?部屋に入った時から笑顔が崩れないから読めなくて怖いんだよ。ただでさえ空気読むの苦手なのに。
「将来有望な君に、お願いしたい事があってね」
あ、これは「子どもにしては落ち着いてる」と思われてるパターンか。今気づいたぞ。見た目は子ども、頭脳はおじさんってやつだ。前世持ちの特権だな。
「お願い、ですか。私のできる範囲であることを願うばかりですね」
無茶振りは止めてください、と切に願う俺を見ながら、ハロルド殿下は笑顔を崩すことなく言った。
「簡単な事さ。私の娘レニフェルの話を聞いて、悩みを解決してやって欲しい」
……女子の悩みを解決?めちゃくちゃ無茶振りじゃないですか!やだー!
「わ、私よりもアイローチェ様の方が適任、では?」
「そのアイローチェからの推薦でね。君なら自信を持って推せる、と言うのだよ」
お断りしようとしたら、即潰された!アイローチェ様、何してくれてるんですか!
「叔父上と会ったんだってね。変わった方だったろう?」
「何方と比べたらよろしいのでしょう?」
ハロルド殿下との面接を辞したすぐ後、俺はアーデルハイド殿下(withウィー君)に捕まっていた。足元、ふらついてませんよね?
結局レニフェル様の話を聞く会は開催となった。笑顔で押し切られた。どうやって断れというんだあんなの。
そしてアーデルハイド殿下、会って早々に答えにくい質問をぶつけないで頂きたい。それは血筋ですか?よく似ておられますね。
「レニフェル?うん。あの姉妹はね、話し始めると止まらなくなるから、自分の用件を先に伝えて速やかに離れるのがおすすめの付き合い方だよ。餌を与えたら更に長引くから、日常会話とかしちゃダメだよ」
「思いっきり相反してますが…」
ハロルド殿下との会話を掻い摘んで話した後、レニフェル様の人となりを聞いたらとんでもない答えが返ってきた。
依頼は「話を聞いてやって欲しい」なんですよ、アーデルハイド殿下…
「…ウィー君、連れてく?」
思いっきり「行きたくない」と表情に出てしまったのだろう。アーデルハイド殿下が渋々提案してきた。
ご自身が付き添うと言わない辺り、察するものがあります。
「ありがとうございます!」
手離したくないオーラ全開だったが、そこは気づかなかった振りをして、俺は最強の緩衝材ウィー君をゲットした。
これで勝つるかは判らないが、心のバランスは保たれそうだ。
新学期が始まり、初等部2年の学習が本格的に始めようか、という頃の事だ。
「ファルム宛にお城からお手紙ですよ」
ラキアータ聖協会の一室。ノッスと共に箱に詰められた「御子」宛の手紙の仕分け作業をしていると、ルフ様が一通の手紙を持って来た。
ルフ様は前回の聖女騒動で随分とメンタルをやられたらしく「綺麗な花には棘があるんです」と軽い人間不信になってしまった。言っていることはよくわからないが、お仕事はきちんとしてくれるのは助かります。ゆっくり癒していきましょうね。
「ありがとうございます。王城からちゃんとした手紙が来るなんて珍しいですね」
俺は手紙を受け取り、封を切る前に封筒を観察する。
アーデルハイド殿下からの呼び出しは基本使者からの口頭(明日だの今からだの急なことか多いため)だから、アーデルハイド殿下からではないのだろう。王太子は忙しいらしいし、暫く俺で遊ぶ暇ないんじゃないかな?
だとするとアイローチェ様からだろうか。いや、あの方も「お返事を直ぐに頂戴」という方だから、ルフ様が手紙だけ持ってきたことで線が消える。
じゃあ、誰だ?
「開けないの?」
「何か仕掛けがあるかも…」
「え…城からの手紙に罠とかあるの…?」
ノッスがドンと引いている。でも、何があるかわからないのが貴族の世界。用心に越したことはない。
結局剃刀等の仕掛けも何もない、普通のお手紙だった訳なんだが。
手紙を受け取った6日後、学園の制服(自分の)を着た俺は王城の一室で王弟殿下と対面していた。
散々警戒した手紙の主は王弟殿下だった。
会ったことない天上人から「会いたい」って手紙来るとか、普通は思わないでしょ?
来るとしてもアーデルハイド殿下経由だと思ったんだよ。完全にノーマークだった。
「突然呼び出してすまなかったね。楽にしてくれていいよ」
無理です。初対面の王族相手に楽にはできません。アーデルハイド殿下の時は、状況が特殊だっただけです。
出された紅茶の味もよくわからないです…いいやつのはずなのに、もったいない。
理由も聞かされずに社長室に通された平社員の気分です。前世ではそんな状況にならなかったから、想像でしかないけど。
俺だけがピリッと緊張する中、ハロルド殿下(名前で呼んで欲しい、と言われた)
「君がアーデルハイドと上手くやっていると聞いてね。あの子はなかなかに曲者だから、大変だろう?」
そんな始まって早々にどちらも泥沼みたいな質問やめてもらっていいですか?
「はは…ウィー君が間に入ってくれていますからね」
乾いた言い訳しかできませんよ。
ここで「そうですね」と肯定すれば下手すると王太子への不敬と取られるし、「そんなことないですよ」と否定すれば「大変じゃないならこれもできる?」と無茶振りされる未来が見えるし…もうウィー君の素晴らしいもふもふに頼るしかない。
「うん。ウィー君は可愛いよね」
「もふもふは素晴らしいですから」
「でも、アーデルハイドが厄介なのは変わらないよねぇ」
「ははは。その件はこの口からは申し上げられません」
誤魔化しは効かなかった様だ。流石王族。
アーデルハイド殿下に直に「私は面倒臭いからね」と言われたら「そうですね」と即レスできるんだけど…本人のいない所で、しかも初対面のハロルド殿下にラフに返答するのは違うと思うんだ。
だってこれ、本題じゃないからね。無茶振りの前座でしょ?マジ怖い!
「初対面の王族に、警戒しながらも上手く立ち回ろうと画策できるのは良い事だ」
「ありがとう、ございます?」
なんだ?褒められたのか?部屋に入った時から笑顔が崩れないから読めなくて怖いんだよ。ただでさえ空気読むの苦手なのに。
「将来有望な君に、お願いしたい事があってね」
あ、これは「子どもにしては落ち着いてる」と思われてるパターンか。今気づいたぞ。見た目は子ども、頭脳はおじさんってやつだ。前世持ちの特権だな。
「お願い、ですか。私のできる範囲であることを願うばかりですね」
無茶振りは止めてください、と切に願う俺を見ながら、ハロルド殿下は笑顔を崩すことなく言った。
「簡単な事さ。私の娘レニフェルの話を聞いて、悩みを解決してやって欲しい」
……女子の悩みを解決?めちゃくちゃ無茶振りじゃないですか!やだー!
「わ、私よりもアイローチェ様の方が適任、では?」
「そのアイローチェからの推薦でね。君なら自信を持って推せる、と言うのだよ」
お断りしようとしたら、即潰された!アイローチェ様、何してくれてるんですか!
「叔父上と会ったんだってね。変わった方だったろう?」
「何方と比べたらよろしいのでしょう?」
ハロルド殿下との面接を辞したすぐ後、俺はアーデルハイド殿下(withウィー君)に捕まっていた。足元、ふらついてませんよね?
結局レニフェル様の話を聞く会は開催となった。笑顔で押し切られた。どうやって断れというんだあんなの。
そしてアーデルハイド殿下、会って早々に答えにくい質問をぶつけないで頂きたい。それは血筋ですか?よく似ておられますね。
「レニフェル?うん。あの姉妹はね、話し始めると止まらなくなるから、自分の用件を先に伝えて速やかに離れるのがおすすめの付き合い方だよ。餌を与えたら更に長引くから、日常会話とかしちゃダメだよ」
「思いっきり相反してますが…」
ハロルド殿下との会話を掻い摘んで話した後、レニフェル様の人となりを聞いたらとんでもない答えが返ってきた。
依頼は「話を聞いてやって欲しい」なんですよ、アーデルハイド殿下…
「…ウィー君、連れてく?」
思いっきり「行きたくない」と表情に出てしまったのだろう。アーデルハイド殿下が渋々提案してきた。
ご自身が付き添うと言わない辺り、察するものがあります。
「ありがとうございます!」
手離したくないオーラ全開だったが、そこは気づかなかった振りをして、俺は最強の緩衝材ウィー君をゲットした。
これで勝つるかは判らないが、心のバランスは保たれそうだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる