114 / 115
閑話(本編とは無関係です)
神様が生まれた日
しおりを挟む
新しい体に慣れ、この世界の事も少しずつわかり始めた頃。ファルムファス(4歳)は自室の窓越しに初雪を見た。
兄であるラスフェルム(10歳)は、可愛い弟の手を握ったまま、
「雪の妖精が可愛いファルムに早く逢いたいと、来てくれたのだろうね」
と眩しい笑顔で語りかける。
雪を見ると思い出す。
予告無しに営業部が「あの案件は先方が年内に片付けたいそうだから、20日までに完品用意してね」と納期を短縮してくる事で発生する帰れないイベントを…
それが終わったと思ったら「これは(自分が休みたいから)25日までね」とか言う上司…
盆と年末に開催される趣味の祭典、同士の集いに行きたいと願っていても、割り込みのせいで終わらなかった業務のために職場に同僚と泊まり込む年末年始…今年も実家に帰れない…雪だ…積もったら電車止まるけど(職場泊するから)関係ない…
嫌な記憶だ。と、ファルムファスは涙目で辛い思い出に蓋をした。
ベッドの横、ファルムファスの片手を包むように握っているラスフェルムの肩越しに綺麗にラッピングされた箱が積んであるのが見える。眠る前、そこには机があった筈なのだが、山のように積まれた箱で埋められてしまったようだ。
「まるで、クリスマスみたい…」
幼い頃に見た、おもちゃ屋のディスプレイ。たくさんのプレゼントに囲まれて目覚めたいと憧れたものだ。
大人になって「あれは可愛い夢だったな」と苦々しく笑っていたことが、この体になって叶うとは。
この世界で目覚めてから、両親と結託した兄に重い愛をぶつけられている。積まれたプレゼントも重さの一つだ。愛が物理で重い。
「クリスマスというのは、神様が生まれた事を祝う日なのだと夢で言われた気がします」
愛しい弟の言葉を聞き逃すつもりのない兄の問いに、ファルムファスは説明しながら「うっかり口走らないようにしよう」と心に決めた。
「夢のお告げ!僕のファルムは神の子…!なんて尊い…ここにいてくれてありがとう…」
目覚めてから毎日のようにぶつけられる重い愛の言葉に、もう「ちょっと何言ってるか分からないです」と心の中でツッコめる程度に慣れてきたファルムファスは「神様は自分の生まれた日をご存知なのだろうか」と、気になった。
「私の生まれた日、ですか」
そこは一面の白。創世神ラキアータと邂逅する夢の世界。
ファルムファスはラキアータの膝に座らされた状態で、クリスマスの話をしていた。兄との会話を聞いていたようだ。
「貴方の世界では祭りが多いので、私が見たものの中にあるのかがイマイチ一致しないのですが…そうですか、神の誕生を祝う日…」
ファルムファスの艶やかな黒髪に口づける様に顔を寄せ暫く思案した後、ラキアータ神は言った。
「日の概念は人が作ったものなので、神に誕生日はないんですよね。気づいたらそこにいた、という感じが近いのでしょうか」
と。
「えぇ…」
これには聞いたファルムファスも言葉を失う。だが「年月日の概念」は人のものというのはしっくりくるので「神様は枠が違うのだから仕方ないな」と思い直した。
「貴方の切り替えの早いところ、好きですよ」
「また心を読みましたね…いいですけど」
いつもの事ですし、とくちびるを少し尖らせる姿に庇護欲を掻き立てられたのか、抱きしめる力が強くなる。
この体になってから度々、夢に招かれてはお膝抱っこを求められている。ファルムファスは「勘弁して欲しいなぁ」と思ってはいるが、ラキアータ神的には譲れないところらしい。体の成長と共に拒み具合を上げていこうと、ファルムファスは思い、その思いを読み取ったラキアータ神はいける所までごねてみよう、と決めた。
「神の誕生日が不明なら、神の子はどうなのでしょう?愛し子であればある程度絞られますよね」
ラキアータ神の言葉に、ファルムファスはハッとする。そういえば、クリスマスで祝われるのは世界を作ったとされる神ではなく宗教の祖、神のの子と呼ばれる人物だった様な…
「私は、貴方を世界に降ろした日を記念日にすることにします」
「…!やめ!止めて下さい!祀りあげないで!」
「いいじゃないですか。この世界に降りたことを祝うのです。人の子の誕生祝いと同じですよ」
ラキアータ神は晴れやかな笑顔で「祝いの日には加護を贈りましょう。まずは祝いを定めたこの日に一つ」とただでさえ多く付いているであろう加護を更に増やそうとする。
「ダメです!そんなホイホイ加護を与えないでください!」
マジ無理!と抱かれた腕から逃れるついでに加護も拒否してみるものの、「控え目な所も好ましいです」と聞いてもらえない。
こうして人に知られぬ祝日ができ、当事者の知らぬ間に人の間に「新降祭」という名で神の子を讃え、幼子を慈しむ日として広く知られる様になる。
その事をファルムファス当人が知るのはまだ先の話…
兄であるラスフェルム(10歳)は、可愛い弟の手を握ったまま、
「雪の妖精が可愛いファルムに早く逢いたいと、来てくれたのだろうね」
と眩しい笑顔で語りかける。
雪を見ると思い出す。
予告無しに営業部が「あの案件は先方が年内に片付けたいそうだから、20日までに完品用意してね」と納期を短縮してくる事で発生する帰れないイベントを…
それが終わったと思ったら「これは(自分が休みたいから)25日までね」とか言う上司…
盆と年末に開催される趣味の祭典、同士の集いに行きたいと願っていても、割り込みのせいで終わらなかった業務のために職場に同僚と泊まり込む年末年始…今年も実家に帰れない…雪だ…積もったら電車止まるけど(職場泊するから)関係ない…
嫌な記憶だ。と、ファルムファスは涙目で辛い思い出に蓋をした。
ベッドの横、ファルムファスの片手を包むように握っているラスフェルムの肩越しに綺麗にラッピングされた箱が積んであるのが見える。眠る前、そこには机があった筈なのだが、山のように積まれた箱で埋められてしまったようだ。
「まるで、クリスマスみたい…」
幼い頃に見た、おもちゃ屋のディスプレイ。たくさんのプレゼントに囲まれて目覚めたいと憧れたものだ。
大人になって「あれは可愛い夢だったな」と苦々しく笑っていたことが、この体になって叶うとは。
この世界で目覚めてから、両親と結託した兄に重い愛をぶつけられている。積まれたプレゼントも重さの一つだ。愛が物理で重い。
「クリスマスというのは、神様が生まれた事を祝う日なのだと夢で言われた気がします」
愛しい弟の言葉を聞き逃すつもりのない兄の問いに、ファルムファスは説明しながら「うっかり口走らないようにしよう」と心に決めた。
「夢のお告げ!僕のファルムは神の子…!なんて尊い…ここにいてくれてありがとう…」
目覚めてから毎日のようにぶつけられる重い愛の言葉に、もう「ちょっと何言ってるか分からないです」と心の中でツッコめる程度に慣れてきたファルムファスは「神様は自分の生まれた日をご存知なのだろうか」と、気になった。
「私の生まれた日、ですか」
そこは一面の白。創世神ラキアータと邂逅する夢の世界。
ファルムファスはラキアータの膝に座らされた状態で、クリスマスの話をしていた。兄との会話を聞いていたようだ。
「貴方の世界では祭りが多いので、私が見たものの中にあるのかがイマイチ一致しないのですが…そうですか、神の誕生を祝う日…」
ファルムファスの艶やかな黒髪に口づける様に顔を寄せ暫く思案した後、ラキアータ神は言った。
「日の概念は人が作ったものなので、神に誕生日はないんですよね。気づいたらそこにいた、という感じが近いのでしょうか」
と。
「えぇ…」
これには聞いたファルムファスも言葉を失う。だが「年月日の概念」は人のものというのはしっくりくるので「神様は枠が違うのだから仕方ないな」と思い直した。
「貴方の切り替えの早いところ、好きですよ」
「また心を読みましたね…いいですけど」
いつもの事ですし、とくちびるを少し尖らせる姿に庇護欲を掻き立てられたのか、抱きしめる力が強くなる。
この体になってから度々、夢に招かれてはお膝抱っこを求められている。ファルムファスは「勘弁して欲しいなぁ」と思ってはいるが、ラキアータ神的には譲れないところらしい。体の成長と共に拒み具合を上げていこうと、ファルムファスは思い、その思いを読み取ったラキアータ神はいける所までごねてみよう、と決めた。
「神の誕生日が不明なら、神の子はどうなのでしょう?愛し子であればある程度絞られますよね」
ラキアータ神の言葉に、ファルムファスはハッとする。そういえば、クリスマスで祝われるのは世界を作ったとされる神ではなく宗教の祖、神のの子と呼ばれる人物だった様な…
「私は、貴方を世界に降ろした日を記念日にすることにします」
「…!やめ!止めて下さい!祀りあげないで!」
「いいじゃないですか。この世界に降りたことを祝うのです。人の子の誕生祝いと同じですよ」
ラキアータ神は晴れやかな笑顔で「祝いの日には加護を贈りましょう。まずは祝いを定めたこの日に一つ」とただでさえ多く付いているであろう加護を更に増やそうとする。
「ダメです!そんなホイホイ加護を与えないでください!」
マジ無理!と抱かれた腕から逃れるついでに加護も拒否してみるものの、「控え目な所も好ましいです」と聞いてもらえない。
こうして人に知られぬ祝日ができ、当事者の知らぬ間に人の間に「新降祭」という名で神の子を讃え、幼子を慈しむ日として広く知られる様になる。
その事をファルムファス当人が知るのはまだ先の話…
1
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

ギフト【ズッコケ】の軽剣士は「もうウンザリだ」と追放されるが、実はズッコケる度に幸運が舞い込むギフトだった。一方、敵意を向けた者達は秒で
竹井ゴールド
ファンタジー
軽剣士のギフトは【ズッコケ】だった。
その為、本当にズッコケる。
何もないところや魔物を発見して奇襲する時も。
遂には仲間達からも見放され・・・
【2023/1/19、出版申請、2/3、慰めメール】
【2023/1/28、24hポイント2万5900pt突破】
【2023/2/3、お気に入り数620突破】
【2023/2/10、出版申請(2回目)、3/9、慰めメール】
【2023/3/4、出版申請(3回目)】
【未完】

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します?
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。


異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる