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閑話(本編とは無関係です)
神様が生まれた日
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新しい体に慣れ、この世界の事も少しずつわかり始めた頃。ファルムファス(4歳)は自室の窓越しに初雪を見た。
兄であるラスフェルム(10歳)は、可愛い弟の手を握ったまま、
「雪の妖精が可愛いファルムに早く逢いたいと、来てくれたのだろうね」
と眩しい笑顔で語りかける。
雪を見ると思い出す。
予告無しに営業部が「あの案件は先方が年内に片付けたいそうだから、20日までに完品用意してね」と納期を短縮してくる事で発生する帰れないイベントを…
それが終わったと思ったら「これは(自分が休みたいから)25日までね」とか言う上司…
盆と年末に開催される趣味の祭典、同士の集いに行きたいと願っていても、割り込みのせいで終わらなかった業務のために職場に同僚と泊まり込む年末年始…今年も実家に帰れない…雪だ…積もったら電車止まるけど(職場泊するから)関係ない…
嫌な記憶だ。と、ファルムファスは涙目で辛い思い出に蓋をした。
ベッドの横、ファルムファスの片手を包むように握っているラスフェルムの肩越しに綺麗にラッピングされた箱が積んであるのが見える。眠る前、そこには机があった筈なのだが、山のように積まれた箱で埋められてしまったようだ。
「まるで、クリスマスみたい…」
幼い頃に見た、おもちゃ屋のディスプレイ。たくさんのプレゼントに囲まれて目覚めたいと憧れたものだ。
大人になって「あれは可愛い夢だったな」と苦々しく笑っていたことが、この体になって叶うとは。
この世界で目覚めてから、両親と結託した兄に重い愛をぶつけられている。積まれたプレゼントも重さの一つだ。愛が物理で重い。
「クリスマスというのは、神様が生まれた事を祝う日なのだと夢で言われた気がします」
愛しい弟の言葉を聞き逃すつもりのない兄の問いに、ファルムファスは説明しながら「うっかり口走らないようにしよう」と心に決めた。
「夢のお告げ!僕のファルムは神の子…!なんて尊い…ここにいてくれてありがとう…」
目覚めてから毎日のようにぶつけられる重い愛の言葉に、もう「ちょっと何言ってるか分からないです」と心の中でツッコめる程度に慣れてきたファルムファスは「神様は自分の生まれた日をご存知なのだろうか」と、気になった。
「私の生まれた日、ですか」
そこは一面の白。創世神ラキアータと邂逅する夢の世界。
ファルムファスはラキアータの膝に座らされた状態で、クリスマスの話をしていた。兄との会話を聞いていたようだ。
「貴方の世界では祭りが多いので、私が見たものの中にあるのかがイマイチ一致しないのですが…そうですか、神の誕生を祝う日…」
ファルムファスの艶やかな黒髪に口づける様に顔を寄せ暫く思案した後、ラキアータ神は言った。
「日の概念は人が作ったものなので、神に誕生日はないんですよね。気づいたらそこにいた、という感じが近いのでしょうか」
と。
「えぇ…」
これには聞いたファルムファスも言葉を失う。だが「年月日の概念」は人のものというのはしっくりくるので「神様は枠が違うのだから仕方ないな」と思い直した。
「貴方の切り替えの早いところ、好きですよ」
「また心を読みましたね…いいですけど」
いつもの事ですし、とくちびるを少し尖らせる姿に庇護欲を掻き立てられたのか、抱きしめる力が強くなる。
この体になってから度々、夢に招かれてはお膝抱っこを求められている。ファルムファスは「勘弁して欲しいなぁ」と思ってはいるが、ラキアータ神的には譲れないところらしい。体の成長と共に拒み具合を上げていこうと、ファルムファスは思い、その思いを読み取ったラキアータ神はいける所までごねてみよう、と決めた。
「神の誕生日が不明なら、神の子はどうなのでしょう?愛し子であればある程度絞られますよね」
ラキアータ神の言葉に、ファルムファスはハッとする。そういえば、クリスマスで祝われるのは世界を作ったとされる神ではなく宗教の祖、神のの子と呼ばれる人物だった様な…
「私は、貴方を世界に降ろした日を記念日にすることにします」
「…!やめ!止めて下さい!祀りあげないで!」
「いいじゃないですか。この世界に降りたことを祝うのです。人の子の誕生祝いと同じですよ」
ラキアータ神は晴れやかな笑顔で「祝いの日には加護を贈りましょう。まずは祝いを定めたこの日に一つ」とただでさえ多く付いているであろう加護を更に増やそうとする。
「ダメです!そんなホイホイ加護を与えないでください!」
マジ無理!と抱かれた腕から逃れるついでに加護も拒否してみるものの、「控え目な所も好ましいです」と聞いてもらえない。
こうして人に知られぬ祝日ができ、当事者の知らぬ間に人の間に「新降祭」という名で神の子を讃え、幼子を慈しむ日として広く知られる様になる。
その事をファルムファス当人が知るのはまだ先の話…
兄であるラスフェルム(10歳)は、可愛い弟の手を握ったまま、
「雪の妖精が可愛いファルムに早く逢いたいと、来てくれたのだろうね」
と眩しい笑顔で語りかける。
雪を見ると思い出す。
予告無しに営業部が「あの案件は先方が年内に片付けたいそうだから、20日までに完品用意してね」と納期を短縮してくる事で発生する帰れないイベントを…
それが終わったと思ったら「これは(自分が休みたいから)25日までね」とか言う上司…
盆と年末に開催される趣味の祭典、同士の集いに行きたいと願っていても、割り込みのせいで終わらなかった業務のために職場に同僚と泊まり込む年末年始…今年も実家に帰れない…雪だ…積もったら電車止まるけど(職場泊するから)関係ない…
嫌な記憶だ。と、ファルムファスは涙目で辛い思い出に蓋をした。
ベッドの横、ファルムファスの片手を包むように握っているラスフェルムの肩越しに綺麗にラッピングされた箱が積んであるのが見える。眠る前、そこには机があった筈なのだが、山のように積まれた箱で埋められてしまったようだ。
「まるで、クリスマスみたい…」
幼い頃に見た、おもちゃ屋のディスプレイ。たくさんのプレゼントに囲まれて目覚めたいと憧れたものだ。
大人になって「あれは可愛い夢だったな」と苦々しく笑っていたことが、この体になって叶うとは。
この世界で目覚めてから、両親と結託した兄に重い愛をぶつけられている。積まれたプレゼントも重さの一つだ。愛が物理で重い。
「クリスマスというのは、神様が生まれた事を祝う日なのだと夢で言われた気がします」
愛しい弟の言葉を聞き逃すつもりのない兄の問いに、ファルムファスは説明しながら「うっかり口走らないようにしよう」と心に決めた。
「夢のお告げ!僕のファルムは神の子…!なんて尊い…ここにいてくれてありがとう…」
目覚めてから毎日のようにぶつけられる重い愛の言葉に、もう「ちょっと何言ってるか分からないです」と心の中でツッコめる程度に慣れてきたファルムファスは「神様は自分の生まれた日をご存知なのだろうか」と、気になった。
「私の生まれた日、ですか」
そこは一面の白。創世神ラキアータと邂逅する夢の世界。
ファルムファスはラキアータの膝に座らされた状態で、クリスマスの話をしていた。兄との会話を聞いていたようだ。
「貴方の世界では祭りが多いので、私が見たものの中にあるのかがイマイチ一致しないのですが…そうですか、神の誕生を祝う日…」
ファルムファスの艶やかな黒髪に口づける様に顔を寄せ暫く思案した後、ラキアータ神は言った。
「日の概念は人が作ったものなので、神に誕生日はないんですよね。気づいたらそこにいた、という感じが近いのでしょうか」
と。
「えぇ…」
これには聞いたファルムファスも言葉を失う。だが「年月日の概念」は人のものというのはしっくりくるので「神様は枠が違うのだから仕方ないな」と思い直した。
「貴方の切り替えの早いところ、好きですよ」
「また心を読みましたね…いいですけど」
いつもの事ですし、とくちびるを少し尖らせる姿に庇護欲を掻き立てられたのか、抱きしめる力が強くなる。
この体になってから度々、夢に招かれてはお膝抱っこを求められている。ファルムファスは「勘弁して欲しいなぁ」と思ってはいるが、ラキアータ神的には譲れないところらしい。体の成長と共に拒み具合を上げていこうと、ファルムファスは思い、その思いを読み取ったラキアータ神はいける所までごねてみよう、と決めた。
「神の誕生日が不明なら、神の子はどうなのでしょう?愛し子であればある程度絞られますよね」
ラキアータ神の言葉に、ファルムファスはハッとする。そういえば、クリスマスで祝われるのは世界を作ったとされる神ではなく宗教の祖、神のの子と呼ばれる人物だった様な…
「私は、貴方を世界に降ろした日を記念日にすることにします」
「…!やめ!止めて下さい!祀りあげないで!」
「いいじゃないですか。この世界に降りたことを祝うのです。人の子の誕生祝いと同じですよ」
ラキアータ神は晴れやかな笑顔で「祝いの日には加護を贈りましょう。まずは祝いを定めたこの日に一つ」とただでさえ多く付いているであろう加護を更に増やそうとする。
「ダメです!そんなホイホイ加護を与えないでください!」
マジ無理!と抱かれた腕から逃れるついでに加護も拒否してみるものの、「控え目な所も好ましいです」と聞いてもらえない。
こうして人に知られぬ祝日ができ、当事者の知らぬ間に人の間に「新降祭」という名で神の子を讃え、幼子を慈しむ日として広く知られる様になる。
その事をファルムファス当人が知るのはまだ先の話…
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