この状況には、訳がある

兎田りん

文字の大きさ
上 下
43 / 97
始まりは断罪の目撃から

43

しおりを挟む
「え?何?レースは好きだけど作れないよ?」
 違う。そうじゃない。
「聖女様がこの世界に招かれたのは、神のご意志が働いているのでしょう?」
「?」
 聞いてないのか、聞く気がないのか、解ってないのか、さっぱりだな。
「この世界に生きるもので神に触れる機会に恵まれているものは極わずかです」
「ふーん」
 あ、これ解ってないやつだ。しかも話の内容を解ろうとする努力を放棄した方の。
 丁寧に言おうとしたら、難しい話だと思われたパターンもあるかもしれない…
 正直めんどくさい。この衣装見せられた瞬間から発生している「もう帰りたい症候群」ゲージがMAXに近い所まで来ている。早く帰りたい。
「………皆、神様の話は聞きたいのですよ?」
「そうなんだ」
 後ろでアーデルハイド殿下が吹き出した気配がした。見てないからバレないとかないからな。
 今日ウィー君連れて帰ろうかな…

「えっと、女神様の話を聞きたいの?」
「女神様?」
「この世界の神様よね?顔はよく見えなかったけど、身体が女の人だったし、言葉も女神様だったわよ?」
 だったわよ?って言われても。
 この世界に伝えられている創世神像の性別はどちらにも見えるように造られているし、俺の知るラキアータ創世神様も中性的ではあるが、女性と確信できるシルエットではないし、会話する時の口調もどちらかといえば青年に近い。
 つまり、アリナ嬢をこの世界に招いた推定女神(本当に神様か未だ判らないから推定を付けてみた)は乗っ取り犯の可能性がある。
 これは、手掛かりを掴めそう…か?
 俺の読解力が試される気がする。アリナ嬢ニューエイジとの対話能力…頑張るしかないな。

「確かオープニングムービーで出てきた…【「アンケルデフェーニア」によって創られた世界は「ウェルツハマウフ」の子に救われる】だったかしら?キャラ設定以外はうろ覚えなのよね」
 アン…何?ウィー君の本名(ウィスフェルメルメス)も長くてびっくりしたのに、名前らしきものがふたつも出てきて思考が止まりそうになったよ?
 しかも、うろ覚えでこれ?好きなゲームとはいえ、ストーリーにほぼ噛まないであろうオープニングムービーの固有名詞を覚えているのか。しかも体感一年前だぞ。凄いなこの子。
 まあ、俺も好きなキャラの決め台詞とか、魔法詠唱とか、繰り返し見まくったアニメのオープニングフレーズとか主題歌とかは体に染み付いている訳なんだが。
 活かしたい、前世で身につけて活きなかったこの記憶。
 ただ、趣味記憶を活かせる好きな世界に転移だの転生だのできる可能性はほぼゼロなんだよなぁ…その点ではアリナ嬢の状況は正直羨ましい。活かし方失敗した例だけど。
 俺も物欲センサーに機能停止を何度命じたことか…全く聞いて貰えなかったよね。

「だから、私をこの世界に喚んだのは女神「ウェルツハマウフ」よ!私が世界を救うのだから!」
 うん。自信満々に言ってくれるのに申し訳ないが、世界は全く救われてないですよ?
 魔王がいないから最大の問題も起きてないし。
 アリナ嬢は学園を引っ掻き回した上に王子の1人と側近の未来を厳しい立場に引きずり込んだという…逆に国をピンチにしてますよね。
 そこに居るだけで世界が救われるとか、もうそれは神の領域です。そんなの生み出した本人ラキアータ様も「は?マジでできちゃったんですけど?」ってびっくりするレベルのやつでしょうね。
 俺なら驚いて自分の才能を疑うね。

「女神、ウェルツハマウフ…」
 アリナ嬢が自信たっぷりに言ってくれましたが、聞いたことない名前ですね。
 俺はラキアータ様との会話や聖協会や神学で学んだので、この世界の神様の名前は一通り頭に入っているつもりだ。王族であるアーデルハイド殿下もそうだろう。「それはどなた様ですか?」って目をしてるし。
 俺たちの学んできた知識の中に「ウェルツハマウフ」という神はいない。
 いるとすれば「これから生まれる可能性がある神」だが、その線で行くと世界乗っ取り事件が完全に迷宮入りするので、なしという方向として考えるのが筋だろう。
 だって、創世神の名前…!「アンケルデフェーニア」(言いにくいな!)という神が本当にこの世界の創世神なら、俺をこの世界に連れ込んだラキアータ様が嘘になってしまう。俺の世界が根本から揺らぐ…!
 俺はラキアータ様の方を信じたいから、そんな長い名前の神は信じないぞ!

「私の記憶している限り、貴女の言う「ウェルツハマウフ」という女神はこの国に伝えられてはいません。そして、この世界をお創りになられたのはラキアータ神です」
 ですよね?と、アーデルハイド殿下に同意を求める。
「私は王太子教育の一つとして、この国を中心とした信仰についても学んでいるが、そのような名の神はどの教本にも、そしてどの教師も私に示してはくれなかった。創世神の名も然り」
 やっとアシストしてくれた…!こっちから振らないとダメだったのか…
「そんな…」
 そんな神いねぇ!って言われてショックなのはわかる。だが、居ないものは仕方ない。

「もしかして、違う世界の神なのでは?」
「それよ!」
 ほんそれ!じゃねぇよ、とは思ったが話が脱線しそうだから黙った。
 まあ、知ってるキャラクターがいるのに別世界、とか思わないだろうし。
 名前と容姿が合致するだけでもなかなかのミラクルですものね。思い込んじゃうのも解る気はする。

「神様が違うならストーリーが変わっててもおかしくないわよね?だから私は悪くないのよ」
 その結論はおかしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...