この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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 あれよあれよという間に便りを持ってきた使者と共に馬車に乗り、王城で待つアーデルハイド殿下の元へ馳せ参じた俺は、茶番の後に訪れたアリナ嬢がいる部屋の前にいた。
 金髪のウィッグと空色のドレスを身につけて。

「おかしいと思うんですよ。何故、今更、こんな姿を強いられるなんて」
 ふまんがあります。すごく。すごく!
 王城に着いて、アーデルハイド殿下に「来ましたよ」の挨拶をした所まではよかった。
 挨拶の後「さあ、行こうか」って言われたら、アリナ嬢の所だと思うじゃない?
 ところがどっこい、侍女さん達がわらわらやってきて俺を連行し、あれよあれよという間にお色直しですよ。コルセットまでギッチリ絞めやがって!
 サイズぴったりのドレスが用意されているあたり、メルネ嬢の影を感じる。カタログ見てないことに対する圧力なの?
 アイローチェ様、何故止めてくれないんですか…!

「似合うんだからいいじゃない。今のうちだよ」
「過去現在未来の全てにおいて不本意でしかないのですが?」
 アーデルハイド殿下、他人事の様に言うの止めて下さい。まあ、ご自身に降り掛かってこないって解っておられるからこその他人事なんでしょうけど!
 殿下もドレス似合いそうですね!アリナ嬢お見送りしたら発注、かけておきますね!

「君らは遠慮なく噛み付いてくるからいいんだよねぇ」
「その言い様もおかしいとは思いますが…」
 これでも自重はしていますし、噛み付いているつもりはないです。どこまで許されるのかを試してはいますが。
 なので、嬉しそうな表情で頷かないで下さ…ん?君ら?
「………複数形、と、いうこと、は…?」
 兄上も無礼承知で王族対応してるってことか?
「父上たちのやり取りを見てて、いいなぁ、って思ってたんだよね」
 まさかの父上だった…!郊外吹っ飛ばしたって聞いた時以来の衝撃の事実。陛下とそんなやり取りする関係とか聞いてないですけど?
「有能だからもっと近くに置きたい、って誘ってるけど「家族と過ごす時間が減るのは嫌だ」って断り続けてるそうだよ」
「……判る…父上なら言いそう…」
 父上は母上ラブだもの。
 俺が聖協会預かりになる時も家族総出でごねたから双方に部屋があり、届出したら何時でも帰省できる環境になったんだよな。通学時間の関係で帰る頻度落ちたけど。
 メロディアス家、家族愛深すぎ…。兄上の方向はなんか違う気もするけど。前世持ちの俺の情が薄いのかなぁ…?
「因みにラスフェルムも「弟は渡さない」って宣告しに来たよ」
「兄上に何言ったんですか…」
「私とルーベンスの側近を決めよう、という話になった時にね。メロディアス家から欲しいなぁ、って零したら言われた」
 噛み付くの早すぎだろ兄上ェ…何故自分だと思わないんですかね?
「重ね重ね申し訳ないですね」
「家族の非は詫びるけど、自分は治そうとしないというスタンスは好きだよ」
 見破られておる。
「さ、ここでいつまでも立ち話する訳にはいかないね。レディとお話をしよう」
「はい」
 もう着替える時間もないしな。聞きたいことを聞いてから解放されよう。

 アリナ嬢とまともに話ができるなら聞いておきたい、いや、聞かなければならないことが一つある。
 それは、「他の神の介入について」だ。
 異世界からの召喚なんて、神様の介入がなければほぼ不可能。と、俺は考えているからだ。
 前世で読んだ転移ものは神様が絡むものが多かった、というのが理由の一つだ。
 あと、人の力は集めてもホイホイ招ける程のものにならないんじゃ?って思っているのもある。
 こういうのは神様が!って言ってる方が楽…いや、夢があるものだし。
 ただ、転生に関しては偶然もあるかも、とは思っている。

 ラキアータこの世界の創世神様が「私が招いたのは貴方だけです」と、俺に言ったことから、アリナ嬢召喚に介入したのは乗っ取り犯もしくはその関係者(神)だろう。
 ラキアータ様はな、おじいちゃんが孫にお小遣いあげる感覚で俺に「加護いる?」って盛ろうとするんだよ…
 そんな神様が招いた人間を「知らない」って言うわけないだろ?
 むしろ俺が「そんなに(加護)要らないです」って断ってる分喜んで盛りに盛って、「お仲間ですよ」って俺に引き合せるまでがセットだと思うんだ。
 そんな神様が嘘つく理由ある?

 どこまで俺に加護を盛っているのかは(怖くて)確認してないんだけど、質問の件をお祈りメール(不採用通知じゃなくて、神様お願い!という意味で使っている。今世でラキアータ様にメッセージを送る手段の一つ)した時の返信(ラキアータ様の気分によるけど、夢で逢える)の最後に、「彼女の魅了レベルなら効きませんから気にせず話してください」ってきたから、状態異常無効は付与済だと思うんだよね。
 他にも相手の状態が何となーく分かる気がするから、サーチアイみたいなのも盛られてる気がする。これは鍛えたら精度が上がるかもね(今は上げる気ない)
 そんな感じで「俺TUEEEE!」の種がびっちり撒かれている(と思う)んだが、俺自身が求めているのは「穏やかな青春」なので力を披露する気は無い。
 ランカ様辺りは気づいてそうだな、って薄々感じてはいる。でも、ランカ様は空気読んで俺を他の子と同じ様に接してくれるからすごく有り難い。兄上も連れて行ってくれたし。

 話がまた逸れてしまった。
 とにかく、今俺がやることはアリナ嬢との会話を成立させること。
 その為には、多少の不便も致し方ない事として受け入れなけれ…ば…
「はぁ…。ファルムファスとしてざまぁしたかった」
 この一言に尽きる。なんだよこのフル装備!重いんだよ(特にドレス)!
「終わったら着替えていいよ」
 終わったら即キャストオフだよ!当然じゃないですか!
「漆黒の寵児を披露するための準備期間を設けて欲しかったですね」
「漆黒…ふっ…今、それを、言う、のは…」
 先日やった堕天使の名乗りを思い出したのだろう。
「いい感じに記憶に食らいついてて嬉しい限りです」

 アーデルハイド殿下の腹筋に軽くダメージを与えたところで、アリナ嬢との再開といきますか!
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