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始まりは断罪の目撃から
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「お帰り、ファルム」
「ただいまノッス。すっ………ごい疲れた」
疲れ果てて聖協会に戻ってきた俺を迎えてくれたのは、鮮やかなオレンジの髪が眩しい神官のノッス。
フルネームは本人曰く「長ったらしくて好きじゃない」ということなので、本人の希望に添い、ノッスと呼んでいる。
彼は俺の傍付きという肩書きを自ら引き受けた変わり者だ。
俺の胸の内だけの話、ノッスの事は兄上より兄貴らしく思っている。兄上はほら、ブラコン拗れ過ぎてるから…
あの後のアーデルハイド殿下の話はひたすら長かった。
ほぼウィー君の話だった。逸れたかと思ったらウィー君に戻ってくるという酷さだった。
一般的にアーデルハイド殿下はパーフェクトイケメンの評価をされているのだが、俺は出会いがウィー君だった為か、ひたすら残念なイケメンという評価しかない。俺にもパーイケな姿を見せて欲しい。
先日の立太子の儀は荘厳で素晴らしいものだったが、ウィー君が視界の端にずっといて落ち着かなかった。
側近が持つふっかふかの豪勢なクッションに大人しく 座った王太子と完全ペアルックの小動物とか見ちゃうだろ?
王太子の冠とマントのミニチュアとかよく作ったな…
茶番劇の裏で聖女を口実に不正していた連中を片っ端から処理していたらしいので、優秀ではあるのだろうが…うん。気を許してくれているのだろうな、というのはわかるけど落差よ。
関わるつもりは無かったのだが、いつの間にか「コンゴトモヨロシク」状態になってしまっていたのでことある事に呼ばれる予感がヒシヒシとしている。
距離をとる為のあの衣装でもあったんだが…ウィー君が気に入るのは完全に予想外だった。
「ちょっと軽くなってない?」
「こっちが心配になるくらい笑われたから、見えるところは外した」
今回の装備を手伝ってくれたのはノッスだ。楽しそうに頭に包帯を巻いてくれた事には感謝している。見えないところまで拘るなら人の手は必要だもんな。
終わってしまってから思うのだが、何故あんなに拘ってしまったのか…自分の事なのだがさっぱり解らない。これが若気の至りってやつ?
「王太子殿下も爆笑するのな」
「上品な爆笑だったよ」
「見たかったなぁー」
「二度目はないね」
アーデルハイド殿下に同じ技はもう通じないはず。新しい衝撃も今は思いつかないし、(俺の心労もあるから)しばらくはいいかな。
「ランカ様が帰ってきたら「ノッスにそそのかされました」ってお披露目してあげる」
「止めて!その衣装の発案はファルムだよね?」
やった時点で二人とも同罪お説教コースだから、しないんだけどね。
ランカ様がいなくてタガが少し外れてきている自覚はある。例えるなら、親のいない休日ってやつだ。
気ままに過ごしすぎないように自制心を持たなきゃ…遊ぶならバレないように、ね。
「そういえば昼頃、キュレム服飾商会からファルム宛にすんごい分厚いカタログ届いてたけど、彼女?プレゼントなの?」
「は?違うし」
きっとアレだ…メルネ嬢まだ俺にドレス着せる気なんだな。もう御子モードは終わったんだよ。着せようとしないで欲しい。
「兄上がいない間に、義姉上との合わせ候補を選んでおこうと思ってね」
全部兄上のせいにしておこう。
「コモフ令嬢が選んだやつを「俺が選んだよ」ってファルムが目の前で言ったら喜んで着そうだけど」
「その通りだから否定はしないよ」
むしろ「ファルムもお揃いにしたらよかったのに」って俺の分を用意しようとするまでがセットだ。
兄上の婚約式でそれをやられて「お揃いのカフスだから!」でギリ納得させた苦い思い出…
俺は社交界デビューとかする予定ないからこの程度なんだろうけど、やったら衣装室にお揃いの服がずらりと並ぶんだろうな。何それちょう怖い!
仕切り直しパーティで兄上の制服を着たとか知れたら「なんで!持ち主の前で!披露してくれないのさ!」って騒ぐ姿しか描けないから、この事実は隠し通さねばならない。
いずれバレるだろうが、俺からは絶対言わない。
「俺より先に彼女作るとか、許されないからな」
「ノッスは兄上より年上でしょう…年齢差思い出して…」
精神年齢でいくと俺が一番上なのだが、お付き合い歴は(自分で言うのも悲しいが)同じスタートライン、今世の年齢差を考えるとノッスが先達だからな。
イケメンな兄上の弟である俺も顔立ちは整っている(断言)。なんせ神様のもったいない精神が発動した容姿だ。イケてない筈がない!
だが、整った容姿がお付き合いに繋がるかは別の話だよな…
この国の貴族は跡取りには早くから婚約者を決めてしまうが、他の子は割とフリーな部分がある。キッチリ決める家門もあるので、全部がそうとは言えないのだが。
我が家は俺の事情もあるが、フリーな方だ。おそらくノッスの家もそうなのだろう。
「俺の学園時代はアプローチとお断りがセットだった」
「悲しみしかないから止めて!」
ノッス、顔立ちや人あたりは悪くない(むしろいい方)のにモテないんだ…厳しいな…
でも、そこを言葉に出しちゃうとノッスがヒートアップして早く休めなくなりそうだからやめておこう。俺は、アーデルハイド殿下とのやり取りで疲れているんだ。
ああ、でも忘れないうちにアリナ嬢への質問事項をまとめておかなきゃな。
…とまあ、そんなことをのんびり考えていた事もありました。
アーデルハイド殿下から「聖女返還の儀式を明日やるよ!質疑応答はこの知らせを受け取ってから、儀式開始までの時間にね」という突然の知らせを貰うまでは。
え?まって?「1ヶ月後くらい」って言ったじゃん!1週間経ってないぞ?
早くやりたい気持ちは解らなくもないけど、急ぎすぎじゃないですかね?
心の準備をする時間を下さい。
「ただいまノッス。すっ………ごい疲れた」
疲れ果てて聖協会に戻ってきた俺を迎えてくれたのは、鮮やかなオレンジの髪が眩しい神官のノッス。
フルネームは本人曰く「長ったらしくて好きじゃない」ということなので、本人の希望に添い、ノッスと呼んでいる。
彼は俺の傍付きという肩書きを自ら引き受けた変わり者だ。
俺の胸の内だけの話、ノッスの事は兄上より兄貴らしく思っている。兄上はほら、ブラコン拗れ過ぎてるから…
あの後のアーデルハイド殿下の話はひたすら長かった。
ほぼウィー君の話だった。逸れたかと思ったらウィー君に戻ってくるという酷さだった。
一般的にアーデルハイド殿下はパーフェクトイケメンの評価をされているのだが、俺は出会いがウィー君だった為か、ひたすら残念なイケメンという評価しかない。俺にもパーイケな姿を見せて欲しい。
先日の立太子の儀は荘厳で素晴らしいものだったが、ウィー君が視界の端にずっといて落ち着かなかった。
側近が持つふっかふかの豪勢なクッションに大人しく 座った王太子と完全ペアルックの小動物とか見ちゃうだろ?
王太子の冠とマントのミニチュアとかよく作ったな…
茶番劇の裏で聖女を口実に不正していた連中を片っ端から処理していたらしいので、優秀ではあるのだろうが…うん。気を許してくれているのだろうな、というのはわかるけど落差よ。
関わるつもりは無かったのだが、いつの間にか「コンゴトモヨロシク」状態になってしまっていたのでことある事に呼ばれる予感がヒシヒシとしている。
距離をとる為のあの衣装でもあったんだが…ウィー君が気に入るのは完全に予想外だった。
「ちょっと軽くなってない?」
「こっちが心配になるくらい笑われたから、見えるところは外した」
今回の装備を手伝ってくれたのはノッスだ。楽しそうに頭に包帯を巻いてくれた事には感謝している。見えないところまで拘るなら人の手は必要だもんな。
終わってしまってから思うのだが、何故あんなに拘ってしまったのか…自分の事なのだがさっぱり解らない。これが若気の至りってやつ?
「王太子殿下も爆笑するのな」
「上品な爆笑だったよ」
「見たかったなぁー」
「二度目はないね」
アーデルハイド殿下に同じ技はもう通じないはず。新しい衝撃も今は思いつかないし、(俺の心労もあるから)しばらくはいいかな。
「ランカ様が帰ってきたら「ノッスにそそのかされました」ってお披露目してあげる」
「止めて!その衣装の発案はファルムだよね?」
やった時点で二人とも同罪お説教コースだから、しないんだけどね。
ランカ様がいなくてタガが少し外れてきている自覚はある。例えるなら、親のいない休日ってやつだ。
気ままに過ごしすぎないように自制心を持たなきゃ…遊ぶならバレないように、ね。
「そういえば昼頃、キュレム服飾商会からファルム宛にすんごい分厚いカタログ届いてたけど、彼女?プレゼントなの?」
「は?違うし」
きっとアレだ…メルネ嬢まだ俺にドレス着せる気なんだな。もう御子モードは終わったんだよ。着せようとしないで欲しい。
「兄上がいない間に、義姉上との合わせ候補を選んでおこうと思ってね」
全部兄上のせいにしておこう。
「コモフ令嬢が選んだやつを「俺が選んだよ」ってファルムが目の前で言ったら喜んで着そうだけど」
「その通りだから否定はしないよ」
むしろ「ファルムもお揃いにしたらよかったのに」って俺の分を用意しようとするまでがセットだ。
兄上の婚約式でそれをやられて「お揃いのカフスだから!」でギリ納得させた苦い思い出…
俺は社交界デビューとかする予定ないからこの程度なんだろうけど、やったら衣装室にお揃いの服がずらりと並ぶんだろうな。何それちょう怖い!
仕切り直しパーティで兄上の制服を着たとか知れたら「なんで!持ち主の前で!披露してくれないのさ!」って騒ぐ姿しか描けないから、この事実は隠し通さねばならない。
いずれバレるだろうが、俺からは絶対言わない。
「俺より先に彼女作るとか、許されないからな」
「ノッスは兄上より年上でしょう…年齢差思い出して…」
精神年齢でいくと俺が一番上なのだが、お付き合い歴は(自分で言うのも悲しいが)同じスタートライン、今世の年齢差を考えるとノッスが先達だからな。
イケメンな兄上の弟である俺も顔立ちは整っている(断言)。なんせ神様のもったいない精神が発動した容姿だ。イケてない筈がない!
だが、整った容姿がお付き合いに繋がるかは別の話だよな…
この国の貴族は跡取りには早くから婚約者を決めてしまうが、他の子は割とフリーな部分がある。キッチリ決める家門もあるので、全部がそうとは言えないのだが。
我が家は俺の事情もあるが、フリーな方だ。おそらくノッスの家もそうなのだろう。
「俺の学園時代はアプローチとお断りがセットだった」
「悲しみしかないから止めて!」
ノッス、顔立ちや人あたりは悪くない(むしろいい方)のにモテないんだ…厳しいな…
でも、そこを言葉に出しちゃうとノッスがヒートアップして早く休めなくなりそうだからやめておこう。俺は、アーデルハイド殿下とのやり取りで疲れているんだ。
ああ、でも忘れないうちにアリナ嬢への質問事項をまとめておかなきゃな。
…とまあ、そんなことをのんびり考えていた事もありました。
アーデルハイド殿下から「聖女返還の儀式を明日やるよ!質疑応答はこの知らせを受け取ってから、儀式開始までの時間にね」という突然の知らせを貰うまでは。
え?まって?「1ヶ月後くらい」って言ったじゃん!1週間経ってないぞ?
早くやりたい気持ちは解らなくもないけど、急ぎすぎじゃないですかね?
心の準備をする時間を下さい。
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