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始まりは断罪の目撃から
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しおりを挟む 仕切り直し卒業パーティとアーデルハイド殿下の立太子の儀式(呼び名があったけど忘れた)を含む諸々の祝い事及び、やらかした愉快な仲間たちのお見送りが済んで一息ついた頃、俺はアーデルハイド殿下との謁見のため登城した。
愉快な仲間たちの修行が後になったのは、アーデルハイド殿下の晴れ舞台に「弟が懲罰中です」とかクソダサいからダメでしょ(超訳)という理由らしい。
隔離の為の準備期間も必要だしね。受け入れ側の。
余談だが、兄上は俺と離れるがの嫌だと盛大にぐずり、義姉上から腹に一撃をもらった後意識のないままランカ様に引きずられて行くという旅立ちとなった。やっぱり最後は力業か。
城の中を「呼ばれたんだから仕方ないよね」という顔をしながら案内される俺を、衛兵の皆さんが冷ややかな眼差しで見張っている。一部の視線に憐れみを感じるが、気にしないことにした。先導している近衛騎士様が多分一番辛いはず。
すまないとは思うが、俺は謝らない。
この状況には、訳がある。
始まりはアーデルハイド殿下から「お話したいから着飾っておいで」とお招きを受けたことだ。
折角だからと全身黒ずくめに所々包帯と細いチェーンを巻いた、俺が思う全力の厨二病スタイル(再現)で来てやった。明らかに不審者。
自分でやっておいて何だが、よくこんな奴城に入れたな。聖協会でも「それはない」って散々言われた。俺もそう思うし、俺が門番なら躊躇いなく追い返す。
謁見と言っても今回はアーデルハイド殿下の個人的な用件としてなので、王座ドーンしてる特大広間ではなく小規模な会議をするための部屋で行うと聞いている。
そうじゃなかったらこんな痛い格好しない。そもそもコレは俺の趣味じゃないんだが、衣装を選ぶのはちょっと楽しかった。
この「着飾り」は先日の暇潰しに巻き込まれた俺からのささやかな意趣返し、というやつだ。多少自身を削った感もするが、御子姿に比べれば大したことじゃない。
前世臆病者だった俺はこの一年で、皆が避けて二度見するとか楽勝!なメンタルに育ちました。学園外での修行の成果です(心境は微妙)
案内された部屋は王城レベルでの「小規模」なので、キングサイズのベッドより大きい机がゆったりと鎮座し、壁側には俺が入りそうな壺とか武器を持った等身大鎧とか飾ってあったりする。
配置も嫌味に感じない絶妙なバランスで、流石王城は違うなと見回していたら、既に来ていて俺の姿を見たアーデルハイド殿下が盛大に吹いた。やったぜ。
「………っ、はぁー(息継ぎ)……っえ…?………くっ………」
信じられないものを見たかのように二度見した後は脇腹を抑えて体をくの字に折り、空いた片手は何かを求めるように空をかいたり、机をバンバンと叩いたりして声にならない笑いと吸えない空気に大変悶えておられる。
簡単に言うと、笑い過ぎて息ができない状態だ。
解るぞ。突然こんなのが来たらそうなるよな。俺の目的(意趣返し)はこの瞬間に達成かつ大成功を確信した。今すぐにでも帰って祝杯をあげられる。
「………嘘、でしょ?何、それ…凄いびっくり、した」
暫くもがいていたアーデルハイド殿下も少し落ち着いてきたようだ。
まだ苦しげではあるが、流石は王族。立ち直りが早い。
「王国の小さな太陽に、漆黒の堕天使がご挨拶申し上げます」
追い討ちとばかりに恭しく頭を下げると、また吹かれた。
「ちょ…やめ…おもしろ、すぎでしょ………っはァ……っ、お腹痛い…」
文章が紡げないくらい笑われている。やったぜ(2回目)
「どう、したの…っ…その、格好……ふふっ」
話を進めるために俺を直視することを諦めたらしい。呼吸は大事だから仕方ない。
「殿下のために着飾ってきました!」
誇らしげに言ってみせると、本日3度目の吹き出しを頂きました。やったぜ(3回目)
笑い過ぎて話にならないからと、案内してくれた近衛騎士様が持ってきてくれたケープ(魔法使いが着てるようなフード付きの外套)を羽織り、小休止の紅茶タイムを挟む事になった。
この有能な近衛騎士様は名をロシェルといい、アーデルハイド殿下にそこそこの長さ(5年くらいという談)仕えている。「殿下が笑い転げるのを初めて見ました」とお褒めの言葉を貰えた。
よし。帰宅後の自分へのご褒美に、上等なケーキを追加しよう。
「休憩、ね。休憩。うん。いい、ね。そう、思うよね、ウィーく…ウィー君?」
アーデルハイド殿下の傍の机上、上位貴族でさえ普段使いしないであろう超上質なクッションを見る。
入室時、そこに居たはずのウィー君がいない。
「ウィー君!どこ?」
今日イチ取り乱したアーデルハイド殿下がウィー君をご所望です。ウィー君は精神安定剤なの?ああ、うん。そうなんだろうなとは思ってるけど。
「アーデルハイド殿下、ウィー君ならこちらに」
ウィー君は俺の足に体を激しくスリスリしている。
「ぎゅ、ぎゅう」って音が聞こえるけど、それは鳴き声なの?俺はうさぎの鳴き声を知らないし、ウィー君はうさぎなのかという疑問は残る。
しかし、森で会った時も、茶番会場で会った時も反応が薄かったのに何故今なのか。
俺の考える厨二病再現スタイルが刺さったというのか。そもそも動物に服の違いとか分かるのか?なんとも言えない気分になる。
「う…ウィー君?」
ほら、アーデルハイド殿下も反応に困ってる。
アーデルハイド殿下が抱きかかえようとするが、全身で拒否したため俺が抱っこすることに。
「ウィー君…浮気された…私はこんなに愛しているというのに…」
膝をついて全身で落胆を表すアーデルハイド殿下。止めて!この状態は俺が跪かせてるみたいじゃないか!俺のせいじゃないよ!
「貴方と出会われてから、殿下が感情豊かになられました」
ウィー君!と懇願するアーデルハイド殿下を見つめながら、ロシェル様が感慨深く呟く。
「ロシェル卿、俺のせいではありません」
大事なとこなので、もう一度言います。
「アーデルハイド殿下の奇行は、俺のせいではありません」
愉快な仲間たちの修行が後になったのは、アーデルハイド殿下の晴れ舞台に「弟が懲罰中です」とかクソダサいからダメでしょ(超訳)という理由らしい。
隔離の為の準備期間も必要だしね。受け入れ側の。
余談だが、兄上は俺と離れるがの嫌だと盛大にぐずり、義姉上から腹に一撃をもらった後意識のないままランカ様に引きずられて行くという旅立ちとなった。やっぱり最後は力業か。
城の中を「呼ばれたんだから仕方ないよね」という顔をしながら案内される俺を、衛兵の皆さんが冷ややかな眼差しで見張っている。一部の視線に憐れみを感じるが、気にしないことにした。先導している近衛騎士様が多分一番辛いはず。
すまないとは思うが、俺は謝らない。
この状況には、訳がある。
始まりはアーデルハイド殿下から「お話したいから着飾っておいで」とお招きを受けたことだ。
折角だからと全身黒ずくめに所々包帯と細いチェーンを巻いた、俺が思う全力の厨二病スタイル(再現)で来てやった。明らかに不審者。
自分でやっておいて何だが、よくこんな奴城に入れたな。聖協会でも「それはない」って散々言われた。俺もそう思うし、俺が門番なら躊躇いなく追い返す。
謁見と言っても今回はアーデルハイド殿下の個人的な用件としてなので、王座ドーンしてる特大広間ではなく小規模な会議をするための部屋で行うと聞いている。
そうじゃなかったらこんな痛い格好しない。そもそもコレは俺の趣味じゃないんだが、衣装を選ぶのはちょっと楽しかった。
この「着飾り」は先日の暇潰しに巻き込まれた俺からのささやかな意趣返し、というやつだ。多少自身を削った感もするが、御子姿に比べれば大したことじゃない。
前世臆病者だった俺はこの一年で、皆が避けて二度見するとか楽勝!なメンタルに育ちました。学園外での修行の成果です(心境は微妙)
案内された部屋は王城レベルでの「小規模」なので、キングサイズのベッドより大きい机がゆったりと鎮座し、壁側には俺が入りそうな壺とか武器を持った等身大鎧とか飾ってあったりする。
配置も嫌味に感じない絶妙なバランスで、流石王城は違うなと見回していたら、既に来ていて俺の姿を見たアーデルハイド殿下が盛大に吹いた。やったぜ。
「………っ、はぁー(息継ぎ)……っえ…?………くっ………」
信じられないものを見たかのように二度見した後は脇腹を抑えて体をくの字に折り、空いた片手は何かを求めるように空をかいたり、机をバンバンと叩いたりして声にならない笑いと吸えない空気に大変悶えておられる。
簡単に言うと、笑い過ぎて息ができない状態だ。
解るぞ。突然こんなのが来たらそうなるよな。俺の目的(意趣返し)はこの瞬間に達成かつ大成功を確信した。今すぐにでも帰って祝杯をあげられる。
「………嘘、でしょ?何、それ…凄いびっくり、した」
暫くもがいていたアーデルハイド殿下も少し落ち着いてきたようだ。
まだ苦しげではあるが、流石は王族。立ち直りが早い。
「王国の小さな太陽に、漆黒の堕天使がご挨拶申し上げます」
追い討ちとばかりに恭しく頭を下げると、また吹かれた。
「ちょ…やめ…おもしろ、すぎでしょ………っはァ……っ、お腹痛い…」
文章が紡げないくらい笑われている。やったぜ(2回目)
「どう、したの…っ…その、格好……ふふっ」
話を進めるために俺を直視することを諦めたらしい。呼吸は大事だから仕方ない。
「殿下のために着飾ってきました!」
誇らしげに言ってみせると、本日3度目の吹き出しを頂きました。やったぜ(3回目)
笑い過ぎて話にならないからと、案内してくれた近衛騎士様が持ってきてくれたケープ(魔法使いが着てるようなフード付きの外套)を羽織り、小休止の紅茶タイムを挟む事になった。
この有能な近衛騎士様は名をロシェルといい、アーデルハイド殿下にそこそこの長さ(5年くらいという談)仕えている。「殿下が笑い転げるのを初めて見ました」とお褒めの言葉を貰えた。
よし。帰宅後の自分へのご褒美に、上等なケーキを追加しよう。
「休憩、ね。休憩。うん。いい、ね。そう、思うよね、ウィーく…ウィー君?」
アーデルハイド殿下の傍の机上、上位貴族でさえ普段使いしないであろう超上質なクッションを見る。
入室時、そこに居たはずのウィー君がいない。
「ウィー君!どこ?」
今日イチ取り乱したアーデルハイド殿下がウィー君をご所望です。ウィー君は精神安定剤なの?ああ、うん。そうなんだろうなとは思ってるけど。
「アーデルハイド殿下、ウィー君ならこちらに」
ウィー君は俺の足に体を激しくスリスリしている。
「ぎゅ、ぎゅう」って音が聞こえるけど、それは鳴き声なの?俺はうさぎの鳴き声を知らないし、ウィー君はうさぎなのかという疑問は残る。
しかし、森で会った時も、茶番会場で会った時も反応が薄かったのに何故今なのか。
俺の考える厨二病再現スタイルが刺さったというのか。そもそも動物に服の違いとか分かるのか?なんとも言えない気分になる。
「う…ウィー君?」
ほら、アーデルハイド殿下も反応に困ってる。
アーデルハイド殿下が抱きかかえようとするが、全身で拒否したため俺が抱っこすることに。
「ウィー君…浮気された…私はこんなに愛しているというのに…」
膝をついて全身で落胆を表すアーデルハイド殿下。止めて!この状態は俺が跪かせてるみたいじゃないか!俺のせいじゃないよ!
「貴方と出会われてから、殿下が感情豊かになられました」
ウィー君!と懇願するアーデルハイド殿下を見つめながら、ロシェル様が感慨深く呟く。
「ロシェル卿、俺のせいではありません」
大事なとこなので、もう一度言います。
「アーデルハイド殿下の奇行は、俺のせいではありません」
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