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始まりは断罪の目撃から
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しおりを挟む「聖女様には還す方法が見つかるまでこちらにいてもらいます。自由に外に出れない造りになっているので、希望があればこちらへ申し出てください。許可が出ればお迎えが来ます」
俺たちが何も返せない間に「もう終わりだよ」と言わんばかりに室内の説明を始めるアーデルハイド殿下。え?それ王子の仕事なの?
アリナ嬢は「え?あ、はい」って素直に聞いている。そこは聞くのか。
飽きたんだろうな。そして、問題を出しておいて答え一切言わなかったな。あれ、俺にだけダメージだったな。
一通りアリナ嬢に説明をしたアーデルハイド殿下は「さあ、帰ろうか」と俺の手を取った。
「おやすみ、良い夢を」
アリナ嬢に一言かけ、部屋を辞する。
良い夢は無理だろう。
その後は何事もなく聖協会の俺の部屋まで送ってもらい、武装を解いた後は泥のように眠った。疲れ果ててたから仕方ないね。
アフターまで付き合わされたのに姿絵以外何も進展がなかった。
いや、姿絵もそもそも無駄にごねなければ「別人ですよね、はい、次」で終われたから、実質ゼロ。むしろ俺の心の傷分マイナスだ。
結局のところ、アーデルハイド殿下の暇つぶしに付き合って疲れただけだった。
アーデルハイド殿下の王子の身分と爽やかな笑顔が小憎たらしい!いつか忘れられない記憶を刻んでやる!
とりあえず、義姉上含むご令嬢方が笑顔で今日のパーティに参加することができたのでよしとするか。
…とまぁ、少し前のことに意識を飛ばしている間にパーティ開始の挨拶が終わり、俺はあっという間に教授や卒業生に囲まれてしまった。
ご令嬢方との顔合わせのときにやられた品評会を思い出すなぁ…あの時はまだこんな大事になるとか思ってなかったもんな。
未来が読めていたら、確実に拒否していた。平穏な生活こそ至上。
「君がファルムファス君だね!会いたかったよ!」
「わぁー、本当に髪が…瞳も黒いのね!初めて見る色だわー」
「ラスフェルム君の「至宝」を見ることができるなんて!」
「ラス様の制服…!リクエストした甲斐がありましたわ!」
挨拶を挟む余裕も、返事をする暇もなく言葉を浴びる。弾幕全被弾とかこういう事をいうのだろうか…って、おい後半どういうことだ説明しろ。
「皆様、一気に囲むとファルム様が埋もれてしまいますわ」
義姉上が「手加減してあげて」と俺を囲むギャラリーに声をかけるが、その掛け声は何かが違うと思う。
後から聞いたのだが、本日の俺の衣装は卒業生からのリクエストなのだそうだ。兄上の希望ではないらしい。意味がわからないよ?
卒業生達は各々の場所で歓談している中、壁の花になろうとしていた俺は近しい考えの教授方と話をしましょう、と小さなグループを作った。
高等部へのコネを作っておくのに早いとかない。教授の人となりを知ることは進路選択において重要だ。
気質が合わない教授についたら好きな科目も嫌いになる。グッバイ世界史。
「いやぁー、話に聞いていた「メロディアスの逆鱗」をこの目で見ることが出来るとは。運が良かったなぁ」
「は?何ですか?」
アーデルハイド殿下が苛烈とかのたまったやつ?名称いくつもあんの?全くもって聞いてないんですけど?
「メロディアス家は怒らせちゃダメって先輩教授に言われてた」
「僕は観察対象と聞いているよ。手は出すな、って追加事項付きで」
そんなに語り継がれてるのか、我が家…珍獣扱い…
「ラスフェルム君のは静かだっけど、なんというか、オーラ?凄かったねぇ」
一人が呟くと、周囲もうんうんと頷く。1番近くてアレを浴びた俺はそれはもう怖かったですよ。それはもう、メンタルに響いた。
「でもあれ、多分まだ本領じゃないと思うんだよね」
「え?まだ上があるんですか?」
あれがピークじゃないとか怖いから止めて!
「王都から少し離れた所に不自然な草原があるでしょ?」
「ありますね」
「あれ、君の父君が吹っ飛ばしたやつだからね」
「は?」
家族で出かけたとき、父上が「あれは僕が拓いた」って懐かしいものを見るように言ってたから、はじめて指揮を執った開墾事業の結果なのかな、と思っていたんだけど…諸共やらかした跡地かよ!何やってんの父上ー!
「あんな見るからに文官のテンプレみたいな姿した父上が…?」
書類の束より重いものは持ちませんよ、って体現している父上が?
「大抵の人はこの話を信じないんだけどね、紛れもなく真実だよ」
なんか、決闘とかで外に出て吹っ飛ばしたらしい。
話をしてくれた(会話グループの中で)若い教授は父上の2学年下だった為、これ以上詳しいことは知らないと言った。
その時「メロディアスの逆鱗」という話を当時の教授から聞いたらしい。
教授になった際も「メロディアス家が来たら刺激しすぎないように」と言われたとのこと。
吹っ飛ばし事件の後「アルファス・メロディアスを怒らせると痛い目にあう」という噂も流れたのだそうだ。事件結果だけ聞くと痛い目で済めばいいけど、というレベルですが?何やってんの父上(2回目)
「ラスフェルム君は父君をきっと越えるものを見せてくれると期待しているんだ。勿論、君もね」
そんな期待はしなくていい。
「無理に刺激しないでくださいね…」
「知ってる者はしないさ。わざわざ自分から痛い目にあいに行きたくないからね。やってくれるのは、全く知らないか信じていない者達さ」
私たちは、それを眺めて楽しむ側だよ。と愉悦部みたいなセリフでにこやかに締められた。止める側がザルとか辛い。
俺はやらかさないぞ!と心に誓うが、「逆鱗」が力の暴発を指すのなら、グローデン領の森を聖域にしちゃったアレは…と思い出して笑顔が引きつった。今考えるのはよそう。
その後、俺は何故か「ラスフェルム様を讃える会」を名乗るグループに囲まれ、義姉上に救出されるまで「尊い…」「これこそ世界の真理…」とか祀りあげられた。
愉快な仲間たちにはそれぞれこういった秘密グループがあるらしい。なにそれこわい。
俺たちが何も返せない間に「もう終わりだよ」と言わんばかりに室内の説明を始めるアーデルハイド殿下。え?それ王子の仕事なの?
アリナ嬢は「え?あ、はい」って素直に聞いている。そこは聞くのか。
飽きたんだろうな。そして、問題を出しておいて答え一切言わなかったな。あれ、俺にだけダメージだったな。
一通りアリナ嬢に説明をしたアーデルハイド殿下は「さあ、帰ろうか」と俺の手を取った。
「おやすみ、良い夢を」
アリナ嬢に一言かけ、部屋を辞する。
良い夢は無理だろう。
その後は何事もなく聖協会の俺の部屋まで送ってもらい、武装を解いた後は泥のように眠った。疲れ果ててたから仕方ないね。
アフターまで付き合わされたのに姿絵以外何も進展がなかった。
いや、姿絵もそもそも無駄にごねなければ「別人ですよね、はい、次」で終われたから、実質ゼロ。むしろ俺の心の傷分マイナスだ。
結局のところ、アーデルハイド殿下の暇つぶしに付き合って疲れただけだった。
アーデルハイド殿下の王子の身分と爽やかな笑顔が小憎たらしい!いつか忘れられない記憶を刻んでやる!
とりあえず、義姉上含むご令嬢方が笑顔で今日のパーティに参加することができたのでよしとするか。
…とまぁ、少し前のことに意識を飛ばしている間にパーティ開始の挨拶が終わり、俺はあっという間に教授や卒業生に囲まれてしまった。
ご令嬢方との顔合わせのときにやられた品評会を思い出すなぁ…あの時はまだこんな大事になるとか思ってなかったもんな。
未来が読めていたら、確実に拒否していた。平穏な生活こそ至上。
「君がファルムファス君だね!会いたかったよ!」
「わぁー、本当に髪が…瞳も黒いのね!初めて見る色だわー」
「ラスフェルム君の「至宝」を見ることができるなんて!」
「ラス様の制服…!リクエストした甲斐がありましたわ!」
挨拶を挟む余裕も、返事をする暇もなく言葉を浴びる。弾幕全被弾とかこういう事をいうのだろうか…って、おい後半どういうことだ説明しろ。
「皆様、一気に囲むとファルム様が埋もれてしまいますわ」
義姉上が「手加減してあげて」と俺を囲むギャラリーに声をかけるが、その掛け声は何かが違うと思う。
後から聞いたのだが、本日の俺の衣装は卒業生からのリクエストなのだそうだ。兄上の希望ではないらしい。意味がわからないよ?
卒業生達は各々の場所で歓談している中、壁の花になろうとしていた俺は近しい考えの教授方と話をしましょう、と小さなグループを作った。
高等部へのコネを作っておくのに早いとかない。教授の人となりを知ることは進路選択において重要だ。
気質が合わない教授についたら好きな科目も嫌いになる。グッバイ世界史。
「いやぁー、話に聞いていた「メロディアスの逆鱗」をこの目で見ることが出来るとは。運が良かったなぁ」
「は?何ですか?」
アーデルハイド殿下が苛烈とかのたまったやつ?名称いくつもあんの?全くもって聞いてないんですけど?
「メロディアス家は怒らせちゃダメって先輩教授に言われてた」
「僕は観察対象と聞いているよ。手は出すな、って追加事項付きで」
そんなに語り継がれてるのか、我が家…珍獣扱い…
「ラスフェルム君のは静かだっけど、なんというか、オーラ?凄かったねぇ」
一人が呟くと、周囲もうんうんと頷く。1番近くてアレを浴びた俺はそれはもう怖かったですよ。それはもう、メンタルに響いた。
「でもあれ、多分まだ本領じゃないと思うんだよね」
「え?まだ上があるんですか?」
あれがピークじゃないとか怖いから止めて!
「王都から少し離れた所に不自然な草原があるでしょ?」
「ありますね」
「あれ、君の父君が吹っ飛ばしたやつだからね」
「は?」
家族で出かけたとき、父上が「あれは僕が拓いた」って懐かしいものを見るように言ってたから、はじめて指揮を執った開墾事業の結果なのかな、と思っていたんだけど…諸共やらかした跡地かよ!何やってんの父上ー!
「あんな見るからに文官のテンプレみたいな姿した父上が…?」
書類の束より重いものは持ちませんよ、って体現している父上が?
「大抵の人はこの話を信じないんだけどね、紛れもなく真実だよ」
なんか、決闘とかで外に出て吹っ飛ばしたらしい。
話をしてくれた(会話グループの中で)若い教授は父上の2学年下だった為、これ以上詳しいことは知らないと言った。
その時「メロディアスの逆鱗」という話を当時の教授から聞いたらしい。
教授になった際も「メロディアス家が来たら刺激しすぎないように」と言われたとのこと。
吹っ飛ばし事件の後「アルファス・メロディアスを怒らせると痛い目にあう」という噂も流れたのだそうだ。事件結果だけ聞くと痛い目で済めばいいけど、というレベルですが?何やってんの父上(2回目)
「ラスフェルム君は父君をきっと越えるものを見せてくれると期待しているんだ。勿論、君もね」
そんな期待はしなくていい。
「無理に刺激しないでくださいね…」
「知ってる者はしないさ。わざわざ自分から痛い目にあいに行きたくないからね。やってくれるのは、全く知らないか信じていない者達さ」
私たちは、それを眺めて楽しむ側だよ。と愉悦部みたいなセリフでにこやかに締められた。止める側がザルとか辛い。
俺はやらかさないぞ!と心に誓うが、「逆鱗」が力の暴発を指すのなら、グローデン領の森を聖域にしちゃったアレは…と思い出して笑顔が引きつった。今考えるのはよそう。
その後、俺は何故か「ラスフェルム様を讃える会」を名乗るグループに囲まれ、義姉上に救出されるまで「尊い…」「これこそ世界の真理…」とか祀りあげられた。
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