この状況には、訳がある

兎田りん

文字の大きさ
上 下
36 / 115
始まりは断罪の目撃から

36

しおりを挟む
「聖女様には還す方法が見つかるまでこちらにいてもらいます。自由に外に出れない造りになっているので、希望があればこちらへ申し出てください。許可が出ればお迎えが来ます」
 俺たちが何も返せない間に「もう終わりだよ」と言わんばかりに室内の説明を始めるアーデルハイド殿下。え?それ王子の仕事なの?
 アリナ嬢は「え?あ、はい」って素直に聞いている。そこは聞くのか。

 飽きたんだろうな。そして、問題を出しておいて答え一切言わなかったな。あれ、俺にだけダメージだったな。

 一通りアリナ嬢に説明をしたアーデルハイド殿下は「さあ、帰ろうか」と俺の手を取った。
「おやすみ、良い夢を」
 アリナ嬢に一言かけ、部屋を辞する。
 良い夢は無理だろう。

 その後は何事もなく聖協会の俺の部屋まで送ってもらい、武装を解いた後は泥のように眠った。疲れ果ててたから仕方ないね。
 アフターまで付き合わされたのに姿絵以外何も進展がなかった。
 いや、姿絵もそもそも無駄にごねなければ「別人ですよね、はい、次」で終われたから、実質ゼロ。むしろ俺の心の傷分マイナスだ。
 結局のところ、アーデルハイド殿下の暇つぶしに付き合って疲れただけだった。
 アーデルハイド殿下の王子の身分と爽やかな笑顔が小憎たらしい!いつか忘れられない記憶を刻んでやる!

 とりあえず、義姉上含むご令嬢方が笑顔で今日のパーティに参加することができたのでよしとするか。

 …とまぁ、少し前のことに意識を飛ばしている間にパーティ開始の挨拶が終わり、俺はあっという間に教授や卒業生に囲まれてしまった。
 ご令嬢方との顔合わせのときにやられた品評会を思い出すなぁ…あの時はまだこんな大事になるとか思ってなかったもんな。
 未来が読めていたら、確実に拒否していた。平穏な生活こそ至上。

「君がファルムファス君だね!会いたかったよ!」
「わぁー、本当に髪が…瞳も黒いのね!初めて見る色だわー」
「ラスフェルム君の「至宝」を見ることができるなんて!」
「ラス様の制服…!リクエストした甲斐がありましたわ!」
 挨拶を挟む余裕も、返事をする暇もなく言葉を浴びる。弾幕全被弾とかこういう事をいうのだろうか…って、おい後半どういうことだ説明しろ。

「皆様、一気に囲むとファルム様が埋もれてしまいますわ」
 義姉上が「手加減してあげて」と俺を囲むギャラリーに声をかけるが、その掛け声は何かが違うと思う。
 後から聞いたのだが、本日の俺の衣装は卒業生からのリクエストなのだそうだ。兄上の希望ではないらしい。意味がわからないよ?

 卒業生達は各々の場所で歓談している中、壁の花になろうとしていた俺は近しい考えの教授方と話をしましょう、と小さなグループを作った。
 高等部へのコネを作っておくのに早いとかない。教授の人となりを知ることは進路選択において重要だ。
 気質が合わない教授についたら好きな科目も嫌いになる。グッバイ世界史。

「いやぁー、話に聞いていた「メロディアスの逆鱗」をこの目で見ることが出来るとは。運が良かったなぁ」
「は?何ですか?」
 アーデルハイド殿下が苛烈とかのたまったやつ?名称いくつもあんの?全くもって聞いてないんですけど?
「メロディアス家は怒らせちゃダメって先輩教授に言われてた」
「僕は観察対象と聞いているよ。手は出すな、って追加事項付きで」
 そんなに語り継がれてるのか、我が家…珍獣扱い…
 
「ラスフェルム君のは静かだっけど、なんというか、オーラ?凄かったねぇ」
 一人が呟くと、周囲もうんうんと頷く。1番近くてアレを浴びた俺はそれはもう怖かったですよ。それはもう、メンタルに響いた。
「でもあれ、多分まだ本領じゃないと思うんだよね」
「え?まだ上があるんですか?」
 あれがピークじゃないとか怖いから止めて!

「王都から少し離れた所に不自然な草原があるでしょ?」
「ありますね」
「あれ、君の父君が吹っ飛ばしたやつだからね」
「は?」
 家族で出かけたとき、父上が「あれは僕が拓いた」って懐かしいものを見るように言ってたから、はじめて指揮を執った開墾事業の結果なのかな、と思っていたんだけど…諸共やらかした跡地かよ!何やってんの父上ー!
「あんな見るからに文官のテンプレみたいな姿した父上が…?」
 書類の束より重いものは持ちませんよ、って体現している父上が?
「大抵の人はこの話を信じないんだけどね、紛れもなく真実だよ」
 なんか、決闘とかで外に出て吹っ飛ばしたらしい。
 話をしてくれた(会話グループの中で)若い教授は父上の2学年下だった為、これ以上詳しいことは知らないと言った。
 その時「メロディアスの逆鱗げきりん」という話を当時の教授から聞いたらしい。
 教授になった際も「メロディアス家が来たら刺激しすぎないように」と言われたとのこと。
 吹っ飛ばし事件の後「アルファス・メロディアスを怒らせると痛い目にあう」という噂も流れたのだそうだ。事件結果だけ聞くと痛い目で済めばいいけど、というレベルですが?何やってんの父上(2回目)

「ラスフェルム君は父君をきっと越えるものを見せてくれると期待しているんだ。勿論、君もね」
 そんな期待はしなくていい。
「無理に刺激しないでくださいね…」
「知ってる者はしないさ。わざわざ自分から痛い目にあいに行きたくないからね。やってくれるのは、全く知らないか信じていない者達さ」
 私たちは、それを眺めて楽しむ側だよ。と愉悦部みたいなセリフでにこやかに締められた。止める側がザルとか辛い。

 俺はやらかさないぞ!と心に誓うが、「逆鱗」が力の暴発を指すのなら、グローデン領の森を聖域にしちゃったアレは…と思い出して笑顔が引きつった。今考えるのはよそう。

 その後、俺は何故か「ラスフェルム様を讃える会」を名乗るグループに囲まれ、義姉上に救出されるまで「尊い…」「これこそ世界の真理…」とか祀りあげられた。
 愉快な仲間たちにはそれぞれこういった秘密グループがあるらしい。なにそれこわい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと

Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】 山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。 好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。 やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。 転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。 そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。 更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。 これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。 もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。 いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。 理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか? ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 10時19時投稿、全話予約投稿済みです。 5話くらいから話が動き出します? ✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

総指揮官と私の事情

夏目みや
ファンタジー
突然、異世界トリップしてしまった恵都(ケイト)。そんな彼女を拾ってくれたのは、超美形だけど無表情な総指揮官・アリオスだった。騎士団をまとめる彼は、忙しいにもかかわらず、何かと恵都の世話を焼いてくれる。――だけど、このまま甘えていてはいけない! 危機感を抱いた恵都は、アリオスに黙って家を出ることに。住み込みの食堂の仕事も得て、順調に脱・異世界ニートへの道を進んでいたが、彼が恵都を探し続けているという話を聞き……!? 過保護でクールな彼から自立を目指す、どたばたラブコメファンタジー!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...