この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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 突然のアーデルハイド殿下の登場に、騒然となる会場。
 ウィー君をモフりながら微笑みを絶やさず歩を進めるアーデルハイド殿下。
 毛並みが艶やかになり、自信に満ち溢れた表情になっている(気がする)ウィー君。薬の森での人生(兎生)を諦めたかのようななすがまま状態が嘘みたいだ。しっかり可愛がってもらっているんだな。
 そして、このタイミングで出てくるとかマジかよ!って正直俺は思っている。

 会場にいる全員が「どういうことなの?」状態だが、ルーベンス殿下とアリナ嬢の動揺が激しい。
 アーデルハイド殿下の姿を見て一気に顔色が変わった。
 まあ、やらかしてる最中に身内が「来ちゃった☆」って現れたら、そりゃあもう、ね。予想していない事が起きていたら、混乱もするでしょうよ。

「なん、で、アーデルハイド様がまだ生きてるの…?」
 アリナ嬢本人は呟いたつもりなのだろうが、そのセリフは驚く程はっきりと聞こえた。
 そして、その言葉は周囲を凍りつかせた。

 アリナ嬢、言いたい気持ちは解らないでもないが、ここでそのセリフは不敬+反逆罪で打首もやむなし、だぞ。

「何故私が生きているのか。それは貴女もご存知のはずでは?聖女アリナ様」
 アーデルハイド殿下が周囲に「弟が迷惑をかけてしまったね」と、プライスレスな微笑みでかけていた笑顔と声のトーンそのままにアリナ嬢へにっこりと視線を向ける。
 あ、これは「不満があります」の笑顔だな。長くお待たせしてしまい申し訳ございません。

「そんな!嘘よ!シナリオは絶対なのよ!」
 アリナ嬢が「強制力が」とか「ヒロイン補正が」とかぶつぶつやり始めた。
 壊れるの早いな。
 もう愉快な仲間たちもアリナ嬢の扱いに困ってるじゃないか。
 どうしてくれるんだ。担ぎ上げたからには最後まで面倒みろよ。

 ここで俺もぶっ込んでおくか。
「お望みの魔王なら、来ていませんが」
 魔王は俺の隣で寝てもいない。魔王なんてお話の中でしか見た事ない。
「う…そ…、なんでそれを…」
 アリナ嬢が「信じられない!」という表情で俺を見る。
 いや、貴女がボロボロ失言しまくったじゃないですか。
 魔王云々のくだりは、俺が生きてる時点で崩壊してる話なんですがね。
 兄上に話した時点でファルムファスの生存を確認しなかったのは悪手でしたね。
 その一手で兄上ブラコンのフラグ全部折れたんですよ、ハハッざまぁwww

「聖女様、魔王の存在を確認できるのは貴女様だけではないのですよ」
 多分俺なら判る…かもしれないが、正解魔王がどんなものか知らないから「俺ができます」とは言わず、言葉を濁すに留めておこう。
 ついでににっこりと微笑んでおこう。

 元々蚊帳の外だったギャラリーと、俺の後ろのご令嬢方は「え?魔王?何の話?」状態だ。
 アリナ嬢の失言を聞いてないなら、そうなるよな。

「魔王が確認されていないのなら討伐隊も組まれる事も無い。だから私は今、この場にいるんだよ」
 アリナ嬢が以前、アーデルハイド殿下の前で失言した「第一王子死亡フラグ」は、魔王討伐に出た場合に発生するものだ。
 原因の魔王が人前に現れていないのだから、討伐以前の話だろう。
 討伐隊が組まれていた場合、聖協会主導の浄化遠征と違って魔王討伐は国王令だから、出立の際には王宮で陛下に宣誓し隊列組んで王都内を門まで歩く。はず(見たことないから想像した)。
 そんな派手なイベント、やったら記憶に残るでしょ?

「貴女の言うとおり、魔王は存在するのかもしれない。だけど、不確定な情報に踊らされるほど、私は愚かではないよ」
 ウィー君をモフりながら言うセリフじゃないが、そこが妙に様になっている。ただ、お付き合いはしたくないから隣に立たないで。

 あー、アーデルハイド殿下が俺の隣に立った辺りから、なんか兄上の視線が鋭くなってきた気がする。
 愉快な仲間たちがあれこれやってる茶番ガン無視して俺だけ見つめてくるって怖いな!
 俺も早く終わらせたいんで、視線逸らしてもらっていいですか?

「さあ、君たちの処遇を伝えようか」
 アーデルハイド殿下が舞台俳優のように両手を広げて宣言した。
「し、処遇?」
「兄上、どういうことですか!」
 愉快な仲間たちがザワつく。
 陛下に話を通しておく、とは聞いていたが、処遇のお知らせとか聞いてない。アーデルハイド殿下は陛下に何て言ったんだ?
「これだけ派手にパーティを掻き回したんだ。何もなしにはならないよ」
 解っててやったんだよね、という笑顔。黙る愉快な仲間たち。うん。この笑顔には逆らっちゃダメだよな。

「さあ、始めようか。国王陛下から託されたお言葉を、第一王子アーデルハイド・ファルクス・ラキアラスが、私の聖獣ウィスフェルメルメスと共に伝える。皆にもお立ち会い願いたい」
 アーデルハイド殿下が巻物みたいな紙を出して広げる。王家の紋章が見えるから、恐らくアーデルハイド殿下が陛下からもぎ取ってきた公式文書なのだろう。
 愉快な仲間たちもこういう正式な文書とか用意してたらグダグダにならずに済んだのにな。知恵者いないの辛いわぁ…
 それにしても聖獣……?ウィー君、出世しすぎでは?

「聖獣…」
「あれが…」
「実在したのか」
「なんて神々しい」
「出世しましたわね」
 アーデルハイド殿下の言葉に一同が反応する。
 陛下からの文書より聖獣のインパクトが強かったのだろう。皆ウィー君に視線が釘付けだ。
 まあ、聖獣なんて肩書きがあるものは初めて見るだろうから仕方ないな。
 言わずもがな、最後の出世云々を呟いたのは義姉上だ。ほんと、野良モンスターから第一王子が溺愛する聖獣とか、シンデレラ以上の超出世だよな。
「うんうん。愛らしいだろう。私のウィー君の姿を瞳に焼き付けるといい」

 アーデルハイド殿下、ご満悦の所申し訳ないのですが、趣旨が変わっております。
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