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閑話(本編とは無関係です)
星に願いを(七夕)
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「ほしふり?」
「そう。星降り」
雪がそろそろ降りそうかな?と思う頃、ファルムファス(4歳)は母、リオレットの膝の上で「星降り」という行事の話を聞いた。
「顔のいい遊び人の男に引っかかって身を持ち崩した女の昔話よ。男も女も、顔だけで選んじゃダメ。中身を磨くのを怠らないようにしましょうね」
穏やかに微笑みながら語るリオレットを見つめながら、ファルムファスは子どもに聞かせていい話なんだろうかと首を傾げた。
「星降りかい?随分中身を抜いたねぇ」
執務が一段落したのだろう。父、アルファスが母子の会話に混ざってきた。
「本筋はこんな感じですわよ。今年こそ家族4人でゆっくり過ごせるのですもの。楽しみですわ」
去年の星降りは事故でファルムファスがベッドの住人で参加どころではなく、その前はアルファスの仕事が忙しかった。など、様々な事情で家族で過ごす時間が取りにくかったため、リオレットは楽しみにしているのだという。
「そうだね。僕も久しぶりに休みが取れたから、皆で夜更かししちゃおうか」
「今年は例年より多いという予報ですから、長く楽しめそうですね」
「夜は冷えるから、いつも以上に寄り添いたいね」
「ずっと一緒ですわよ」
睦まじく過ごす両親に、リオレットに抱かれたファルムファスは多少の居心地の悪さを感じるが「俺は今、幼児だから仕方がない」と、割り切って虚無の時間を過ごすことにした。
「星降りの夜には、たくさん星が降るんだ」
母から星降りの話を聞いた、と言うと、兄、ラスフェルムが瞳を輝かせながら「すごいんだよ!」と語ってくれた。
両親の会話にも出ていたが、星降りの夜は流星群が見られるのだという。
毎年決まった日というのが実にファンタジー世界らしい。
リオレットが聞かせてくれた昔話も流星群が発生する理由にこじつけたもののようだ。
内容は前世の七夕物語に近いもので、こちらの方が割とシビアだった。
随分端折られてはいたが、大体合っていた事にファルムファスは驚いた。
『二人が流した後悔の涙が星となり流れ落ちた』で締められた物語は完全に幼児向けではない。
そもそもこの行事の対象は子どもではなく、婚期が近づいてきた者たち向けらしい。それならあの昔話も納得できる。
流星をバックにプロポーズ!というのが定番かと思いきや「星降りの夜に告白はNG」というジンクスもあるらしく、善し悪しの二説あるのはよくあることだな、とファルムファスはこじつけるように納得した。
恋人たちの行事は縁がなかったのだから、よくわからなくても仕方がないと自分に言い訳をしながら。
星降りの行事には笹も短冊もないが、流星に願いをかけるのは共通の様で「手に職をつけておくべき」の話に沿って、自身のスキルアップを願う事が多いらしい。
子どもたちは昼間に「こんな大人になりたいね」と夢を語り合って楽しむのだそうだ。
こっちの七夕は初夏じゃないんだな、ともぼんやり思ったが、そもそも世界が違うから合わなくて当然と見るべきだろう。
とりあえず様子見だな。と、ファルムファスは当日を待つことにした。
星降り当日。
ラスフェルムとファルムファスはメロディアス家の使用人を帯同し、街に出ていた。
「にいさま、ひとがいっぱいです」
朝の割と早い時間のはずだが、人の波が出来ていた。
「星降りは朝から夜まで楽しいんだよ」
今日は特別だからね!とラスフェルムが晴れやかに笑う。
はぐれないようにと、しっかりと弟の手を握る兄が頼もしい。
兄弟の微笑ましい姿を、使用人たちや街の大人たちが温かな眼差しで見守っている。
鮮やかに彩られた街並み、いつもより多い数の屋台、一芸披露の舞台など、晴れの日の雰囲気を存分に楽しんだ後に帰宅。
昼食後から日暮れまで休息と仮眠をとり、夜の帳が下りる頃、メロディアス一家は自宅のバルコニーに集結していた。
常時設置のベンチに加え、家族4人が座ってもまだ余裕たっぷりのソファ、ふかふかのクッションが気持ちよさそうなロッキングチェア、シンプルだが座り心地のよさそうな安楽椅子が追加で持ち込まれているものの、狭さを感じさせない辺りはさすが貴族の邸宅というべきか。
好きな体勢で流星群を楽しめるようにとアルファスが手配したようだ。
「いすがたくさん」
「僕、揺れる奴がいい!」
「父の膝が寂しいのだが」
「星が降り始めるまでは一緒にいましょう」
目移りする子どもたちの体が冷えないよう両親がブランケットをかけ、ソファに誘導する。
アルファスの膝にラスフェルム。夫に寄り添うリオレットの膝にファルムファスがおさまった。
一つ、また一つ。流れる星が空を彩っていく。
「家族で過ごす、何物にも代えがたいこの時が何時までも続いて欲しいものだな」
「続けていきましょう。これからも、ずっと」
いつの間にか、抱く子どもたちは夢の世界へと旅立っていた。
夜の波音と共に降り続く星を見つめながら、夫婦の時間は穏やかに過ぎていく。
「そう。星降り」
雪がそろそろ降りそうかな?と思う頃、ファルムファス(4歳)は母、リオレットの膝の上で「星降り」という行事の話を聞いた。
「顔のいい遊び人の男に引っかかって身を持ち崩した女の昔話よ。男も女も、顔だけで選んじゃダメ。中身を磨くのを怠らないようにしましょうね」
穏やかに微笑みながら語るリオレットを見つめながら、ファルムファスは子どもに聞かせていい話なんだろうかと首を傾げた。
「星降りかい?随分中身を抜いたねぇ」
執務が一段落したのだろう。父、アルファスが母子の会話に混ざってきた。
「本筋はこんな感じですわよ。今年こそ家族4人でゆっくり過ごせるのですもの。楽しみですわ」
去年の星降りは事故でファルムファスがベッドの住人で参加どころではなく、その前はアルファスの仕事が忙しかった。など、様々な事情で家族で過ごす時間が取りにくかったため、リオレットは楽しみにしているのだという。
「そうだね。僕も久しぶりに休みが取れたから、皆で夜更かししちゃおうか」
「今年は例年より多いという予報ですから、長く楽しめそうですね」
「夜は冷えるから、いつも以上に寄り添いたいね」
「ずっと一緒ですわよ」
睦まじく過ごす両親に、リオレットに抱かれたファルムファスは多少の居心地の悪さを感じるが「俺は今、幼児だから仕方がない」と、割り切って虚無の時間を過ごすことにした。
「星降りの夜には、たくさん星が降るんだ」
母から星降りの話を聞いた、と言うと、兄、ラスフェルムが瞳を輝かせながら「すごいんだよ!」と語ってくれた。
両親の会話にも出ていたが、星降りの夜は流星群が見られるのだという。
毎年決まった日というのが実にファンタジー世界らしい。
リオレットが聞かせてくれた昔話も流星群が発生する理由にこじつけたもののようだ。
内容は前世の七夕物語に近いもので、こちらの方が割とシビアだった。
随分端折られてはいたが、大体合っていた事にファルムファスは驚いた。
『二人が流した後悔の涙が星となり流れ落ちた』で締められた物語は完全に幼児向けではない。
そもそもこの行事の対象は子どもではなく、婚期が近づいてきた者たち向けらしい。それならあの昔話も納得できる。
流星をバックにプロポーズ!というのが定番かと思いきや「星降りの夜に告白はNG」というジンクスもあるらしく、善し悪しの二説あるのはよくあることだな、とファルムファスはこじつけるように納得した。
恋人たちの行事は縁がなかったのだから、よくわからなくても仕方がないと自分に言い訳をしながら。
星降りの行事には笹も短冊もないが、流星に願いをかけるのは共通の様で「手に職をつけておくべき」の話に沿って、自身のスキルアップを願う事が多いらしい。
子どもたちは昼間に「こんな大人になりたいね」と夢を語り合って楽しむのだそうだ。
こっちの七夕は初夏じゃないんだな、ともぼんやり思ったが、そもそも世界が違うから合わなくて当然と見るべきだろう。
とりあえず様子見だな。と、ファルムファスは当日を待つことにした。
星降り当日。
ラスフェルムとファルムファスはメロディアス家の使用人を帯同し、街に出ていた。
「にいさま、ひとがいっぱいです」
朝の割と早い時間のはずだが、人の波が出来ていた。
「星降りは朝から夜まで楽しいんだよ」
今日は特別だからね!とラスフェルムが晴れやかに笑う。
はぐれないようにと、しっかりと弟の手を握る兄が頼もしい。
兄弟の微笑ましい姿を、使用人たちや街の大人たちが温かな眼差しで見守っている。
鮮やかに彩られた街並み、いつもより多い数の屋台、一芸披露の舞台など、晴れの日の雰囲気を存分に楽しんだ後に帰宅。
昼食後から日暮れまで休息と仮眠をとり、夜の帳が下りる頃、メロディアス一家は自宅のバルコニーに集結していた。
常時設置のベンチに加え、家族4人が座ってもまだ余裕たっぷりのソファ、ふかふかのクッションが気持ちよさそうなロッキングチェア、シンプルだが座り心地のよさそうな安楽椅子が追加で持ち込まれているものの、狭さを感じさせない辺りはさすが貴族の邸宅というべきか。
好きな体勢で流星群を楽しめるようにとアルファスが手配したようだ。
「いすがたくさん」
「僕、揺れる奴がいい!」
「父の膝が寂しいのだが」
「星が降り始めるまでは一緒にいましょう」
目移りする子どもたちの体が冷えないよう両親がブランケットをかけ、ソファに誘導する。
アルファスの膝にラスフェルム。夫に寄り添うリオレットの膝にファルムファスがおさまった。
一つ、また一つ。流れる星が空を彩っていく。
「家族で過ごす、何物にも代えがたいこの時が何時までも続いて欲しいものだな」
「続けていきましょう。これからも、ずっと」
いつの間にか、抱く子どもたちは夢の世界へと旅立っていた。
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