この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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「殿下は何故御子を自ら探しに来られたのです?」
「うんまあ、そこはやっぱり気になるところだよね」
「そうですね。人に調べさせる事ができる立場にいながら、それをなさらないというのは気になる点ではあります」
 ラウレスタ様の報告&姿絵の正体が気になった、とかだと心に優しいんだが…違うんだろうな。
 報告が上がるのを待てない、というせっかちな性分では無い事は薬の森で同行したときにわかったので、自分で動きたい理由があるのだろう。
 王太子の座を巡っての権力争いかな?それも(めんどくさそうで)嫌だな。関係ないことに巻き込まないで欲しい。
 なんとなく嫌な予感はしているんだが、それは考えたくないので違うことをあれこれ考えていると、アーデルハイド殿下が切り込んできた。

「僕はね、聖女に死亡宣告されているんだ」
「………………」
 フラグ回収速すぎませんかね?
 アリナ嬢、何やってんの?王族に直で宣告とか、聖女の肩書きがあっても不敬以外の何物でもない!
 というか、王族とか聖女とか肩書き抜きにしても、初対面やそれに近い人物に「お前死ぬぞ」とかやらかすのダメでしょ!幼児でももうちょい人見るからね?

「……魔王」
「いるらしいね」
 あ、その反応はやっぱりアーデルハイド殿下の殺害犯も想像通りなんですね。頭痛い。
「察しがついたということは、君も宣告されたのかい?」
 死の宣告仲間とか止めてください。
「兄から聞いた話ですが。俺は幼い頃に死んだのだそうです」
 アーデルハイド殿下が眉間を抑えている。思考の範疇を超えたのだろう。美形は何をしても様になるからずるい。俺もこの現実から逃避したい。

「殿下は本当に魔王が存在するとお思いですか?」
「確証がないのでいるともいないとも言えない、というのが現状だね。実在して、居場所が確定しているなら部隊を組んで討伐も可能性としてはある。話が通じる相手なら喜ばしいとは思うよ」
 精神疲労を見せながらも、ふと微笑むの眩しくて辛いから止めてください。
 アーデルハイド殿下が初手は話し合いがいい、と言ってくれたのにはちょっと安心した。
 「魔王?即討伐!」とかヒャッハーな思考だったら困るもん。兄上から聞いたアリナ嬢のゲーム話をした後の反応にも関わってくるし。
 もふもふを愛好する同士として、手心は頂きたいものである。

「聖女が言うには、俺が魔王だそうです」
 どう話そうかと考えた結果、ド直球でいくことにした。俺は悪くない。
 その結果、アーデルハイド殿下が「ん?」って顔をして硬直した。そうなる気持ちはよくわかります。
「召喚当初、聖協会側で聖女に俺を会わせようと話を持ちかけた事があったそうです。その際、俺が闇属性だと聞いた聖女が「魔王だから殺せ」と言ったため、機会は流れましたが」
 この事は司祭であるランカ様やルフ様だけでなく、他の神官やシスター達からも聞いている話だ。
 俺の話は廊下で「あ、そうそう」と世間話のようにする話題でもないので、どこかの部屋でしたはずなのだろうが、俺にまで噂が届くということは、部屋の外にダダ漏れするくらい派手にのたまったのだろう。
 また俺だけ被害者じゃないか。超迷惑。
 思い出したら、アリナ嬢ががヒャッハー!の民だったんだな、って納得してしまった。いやこれは今は関係ない。

「ず、随分と暴論が出たね」
「俺もそう思いますが、避ける良いきっかけとなりました。聖女は力に善悪は宿らない、という考えではないのでしょう」
 闇イコール悪ならば、夜の眠りの安らぎすら悪になる。力は使う者の心一つで善悪が変わるものだと俺は思っているし、夜はぐっすり寝たい。
 善なるものをうたう神の信徒達も、裏を見れば権力争いをはじめなかなかのドス黒さを見せる。全体のほんの一部ではあろうが、組織の上層部は大体黒いと俺は思っている。
 自分の正義と世間の正義の狭間で、うまいこと折り合いをつけていかなきゃならないんだよな。うん。仕方がないとはいえ世知辛い。渡る世間はなんとやら、だ。

 光や闇などの属性に善悪の意識なんてないよ、とラキアータこの世界を創った神様も言ってたから、俺の考えは間違いないはず。今バグってるらしいけど。そこはいじられてないことを願うばかりだ。

「因みに、兄から聞いた「ファルムファス死亡説」ですが、遺体に魔王が乗り移るのだそうです」
「えぇ…」
 まだあるの?って顔をされた。わかるー。
 さっきのは聖協会の話で、今のはアリナ嬢が兄上に語った話です殿下。
「その後、兄も俺の身体に乗り移った魔王に殺害されるのだそうですよ。まぁ、ご覧の通り、そんな事態は起こってないんですけどね」
 ファルムファス君が死んだというのは本当は合っている。ただし、代わりに中に入ったのは魔王じゃなくてもったいない精神を発揮してしまったラキアータ様に放り込まれた俺というだけの話だ。
「俺は魔王になる気も素養もないし、兄も為政者も民たちも害してやろうなんて考えたこともありません。ただの子どもですからね。まあ、この事態を引き起こした連中をギャフンと言わせたいな、と思ってはいますが」
「ギャフンとは言わせたいんだね」
「本当に言ってる人なんて見た事ないですけどね」
 全く関係ない話だが、うっかり者の新入り神官(年上)が「はわわわ」って言いながら慌ててる姿は見た時は、本当に言ってる!ってちょっと感動した。

「学園初年の貴重な時間を聖女騒動のフォローという無駄に費やされたのです。相応の見返りは頂かないと」
 浄化能力開花と人脈作りという貴重な経験は積ませてもらったが、そもそも一番の希望は同年代と平穏な日常を過ごすことなんだ。
 そもそも学園に入学したばかりの子どもに尻拭いさせんなよ。

「そうか。ならこちらも強固な同盟関係を築く必要があるね」
 アーデルハイド殿下がものすごくいい笑顔になる。
「勿論です、殿下」
 こちらも負けないように笑顔で返す。

 卒業パーティが、目前に迫ってきた。
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