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始まりは断罪の目撃から
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「や、やってやりますわ!ドンと来いですわよ!」
義姉上が視線による緊張で雨に濡れた仔犬のように震えている。威勢のいい言葉で奮い立たせようという頑張りが見えるのがかわいい。
教授+第一王子からの視線集中は緊張しない訳には行かないよなぁ。
後から当時の心境を聞いたら「社交と違うのはダメですわ!」と、遠回しに「もうさせないでよ」とピン留めされた。釘じゃないのが優しい。
微笑ましい義姉上が見れた所で本題に戻ろう。
「瘴気浄化の手順ですが、先程行った感知の延長とするのがわかりやすいと考えましたので、その様にやってもらいます」
「またあの感覚を味わうのですね…」
嫌そうな顔をされるが、諦めて頂きたい。
「感じ取った瘴気に、自分の魔力を混ぜながら打ち消していくイメージで捏ねてみてください」
「捏ね…簡単に言わないで下さいませ?」
「大事なのは「消してやる」という気合いです」
「いきなり精神論が出てきましたわ…」
すまない義姉上…。言葉での説明が難しいんだ。
視界の端に俺にしか解らない説明を聞いていた教授達が、輪になって相談しているのが見えた。ルキスラ教授がうんうんと頷いている。
俺の言わんとしている事を、上手く汲み取ってくれるだろうか…
「よし。じゃあ、やってみようか」
話がまとまったのか、ラブレ教授がパチパチと手を叩きながら仕切り始める。
何で仕切りがラブレ教授なんだろう、とゴルラフ隊長に聞いたところ「適材適所」と返ってきた。さっぱり解らない。
仕切り兼進行はラブレ教授だが、内容説明はルキスラ教授だ。
「各々感じ取れた瘴気を自分の魔力で包んでみて下さい。初めての試みなので、出来なくても問題ありません。できる範囲でやりましょう」
私もやりたいのでやります。と、ルキスラ教授は説明しながら実践をはじめた。やりたかったんだな。
俺は皆が黙々とやっている姿をアーデルハイド殿下から預かったうさちゃんを逃がさないように抱きながら見てるだけだ。
俺が入ると検証出来なくなるから仕方がないのだけど、和気あいあいとあれこれ試している姿を見せつけられているようで、仲間はずれ感がすごい。
せめてうさちゃんをモフりまくっておこう。寂しいとか、思ってないんだからな!
「瘴気を魔力で包む、というのは思った以上に繊細な操作が必要ですね」
「攻撃魔法を得意とする者は特に苦戦するだろうが、良い訓練になりそうだ」
「少ない魔力でも、工夫次第で包めるよぉ」
「ラブレ教授、もう少し詳しくお願いします」
なかなか苦戦しているようだが、教授陣は実に楽しげだ。
魔法は苦手なはずのゴルラフ隊長も面白そうに混ざっている。
瘴気を自分たちで消すとかいう他の人がやっていないことをする、というのは未開の地を切り拓く感覚で楽しいのだろう。多分。
「うさちゃん」
「こちらです」
そして何故かアーデルハイド殿下の頬にうさちゃんの腹毛を押し当てる係になっている俺。うさちゃん無抵抗。
猫吸いならぬ兎吸いを挟みながらアーデルハイド殿下もチャレンジを続けている。
「ファルム様、わたくしにも」
「お願い致します」
「順番ですよ」
アーデルハイド殿下がかけた清潔魔法でふっかふかの毛並みになったうさちゃんの人気はとどまることを知らない。
皆がモフる姿を一歩引いたところから見ていたが、触れてしまった今はこのもふもふに俺も埋まりたいと思ってしまう程だ。
アーデルハイド殿下が夢中になる気持ちが解ってしまった。これは魔性の生き物、略して魔物で間違いない。
気づいたら、俺もうさちゃんを吸ってた。
お日様と、森の爽やかな香りがした。
今日の感想を求められたら、迷わず「もふもふは正義」と答えるだろう。
「でっきたよぉー」
俺がうさちゃんに心を鷲掴みされている隙に、ラブレ教授が瘴気の浄化を完了させていた。
「………は?」
「マジで?」
「……………」
アルバ教授、ゴルラフ隊長、ルキスラ教授が「嘘だろ?」「はっや!」みたいな反応をするが、ラブレ教授が捏ねていた瘴気は確かに消えている。浄化と言っていいのかは判らないが、消えているのは確かなので対策できていると考えていいはずだ。
ラブレ教授は瘴気を魔力で包む、という工程も一足先にできていたようなので、魔力操作が上手いのだろう。
「魔法薬の手順に似てたから、いつもやってるようにしてみたよぉ」
「……!包んで……混ぜる……なるほど!」
工程を自分の得意分野に落とし込んだのか。凄い。流石教授。フリーダム薬草狂とかこっそり思っててすみません。
ラブレ教授の成功からコツを得たのか、ルキスラ教授、アルバ教授が続いた。
3人が指導側に回った所、時間はかかりはしたが全員が成功し「属性関係なく瘴気を消すことができる」という結果を得ることができた。
ちゃんとした論文に落とし込んで公開するにはまだまだ実例不足ではあるが、自国の第一王子が成功例の一つとなったのは大きい。
この後はルキスラ教授の指揮下で人員を確保し、ゴルラフ隊長がモンスター討伐実習の追加枠として組み込む事で実証数を上げていこうと話がまとまった。
アーデルハイド殿下は「陛下にうさちゃんを見せびらかしてくる」とご機嫌で王城に戻り、アルバ教授が「その元ホーンラビットは研究対象です!」と後を追いかけて行った。
ブレない姿は尊敬できる。真似をしたいとは思わないけど。
義姉上が視線による緊張で雨に濡れた仔犬のように震えている。威勢のいい言葉で奮い立たせようという頑張りが見えるのがかわいい。
教授+第一王子からの視線集中は緊張しない訳には行かないよなぁ。
後から当時の心境を聞いたら「社交と違うのはダメですわ!」と、遠回しに「もうさせないでよ」とピン留めされた。釘じゃないのが優しい。
微笑ましい義姉上が見れた所で本題に戻ろう。
「瘴気浄化の手順ですが、先程行った感知の延長とするのがわかりやすいと考えましたので、その様にやってもらいます」
「またあの感覚を味わうのですね…」
嫌そうな顔をされるが、諦めて頂きたい。
「感じ取った瘴気に、自分の魔力を混ぜながら打ち消していくイメージで捏ねてみてください」
「捏ね…簡単に言わないで下さいませ?」
「大事なのは「消してやる」という気合いです」
「いきなり精神論が出てきましたわ…」
すまない義姉上…。言葉での説明が難しいんだ。
視界の端に俺にしか解らない説明を聞いていた教授達が、輪になって相談しているのが見えた。ルキスラ教授がうんうんと頷いている。
俺の言わんとしている事を、上手く汲み取ってくれるだろうか…
「よし。じゃあ、やってみようか」
話がまとまったのか、ラブレ教授がパチパチと手を叩きながら仕切り始める。
何で仕切りがラブレ教授なんだろう、とゴルラフ隊長に聞いたところ「適材適所」と返ってきた。さっぱり解らない。
仕切り兼進行はラブレ教授だが、内容説明はルキスラ教授だ。
「各々感じ取れた瘴気を自分の魔力で包んでみて下さい。初めての試みなので、出来なくても問題ありません。できる範囲でやりましょう」
私もやりたいのでやります。と、ルキスラ教授は説明しながら実践をはじめた。やりたかったんだな。
俺は皆が黙々とやっている姿をアーデルハイド殿下から預かったうさちゃんを逃がさないように抱きながら見てるだけだ。
俺が入ると検証出来なくなるから仕方がないのだけど、和気あいあいとあれこれ試している姿を見せつけられているようで、仲間はずれ感がすごい。
せめてうさちゃんをモフりまくっておこう。寂しいとか、思ってないんだからな!
「瘴気を魔力で包む、というのは思った以上に繊細な操作が必要ですね」
「攻撃魔法を得意とする者は特に苦戦するだろうが、良い訓練になりそうだ」
「少ない魔力でも、工夫次第で包めるよぉ」
「ラブレ教授、もう少し詳しくお願いします」
なかなか苦戦しているようだが、教授陣は実に楽しげだ。
魔法は苦手なはずのゴルラフ隊長も面白そうに混ざっている。
瘴気を自分たちで消すとかいう他の人がやっていないことをする、というのは未開の地を切り拓く感覚で楽しいのだろう。多分。
「うさちゃん」
「こちらです」
そして何故かアーデルハイド殿下の頬にうさちゃんの腹毛を押し当てる係になっている俺。うさちゃん無抵抗。
猫吸いならぬ兎吸いを挟みながらアーデルハイド殿下もチャレンジを続けている。
「ファルム様、わたくしにも」
「お願い致します」
「順番ですよ」
アーデルハイド殿下がかけた清潔魔法でふっかふかの毛並みになったうさちゃんの人気はとどまることを知らない。
皆がモフる姿を一歩引いたところから見ていたが、触れてしまった今はこのもふもふに俺も埋まりたいと思ってしまう程だ。
アーデルハイド殿下が夢中になる気持ちが解ってしまった。これは魔性の生き物、略して魔物で間違いない。
気づいたら、俺もうさちゃんを吸ってた。
お日様と、森の爽やかな香りがした。
今日の感想を求められたら、迷わず「もふもふは正義」と答えるだろう。
「でっきたよぉー」
俺がうさちゃんに心を鷲掴みされている隙に、ラブレ教授が瘴気の浄化を完了させていた。
「………は?」
「マジで?」
「……………」
アルバ教授、ゴルラフ隊長、ルキスラ教授が「嘘だろ?」「はっや!」みたいな反応をするが、ラブレ教授が捏ねていた瘴気は確かに消えている。浄化と言っていいのかは判らないが、消えているのは確かなので対策できていると考えていいはずだ。
ラブレ教授は瘴気を魔力で包む、という工程も一足先にできていたようなので、魔力操作が上手いのだろう。
「魔法薬の手順に似てたから、いつもやってるようにしてみたよぉ」
「……!包んで……混ぜる……なるほど!」
工程を自分の得意分野に落とし込んだのか。凄い。流石教授。フリーダム薬草狂とかこっそり思っててすみません。
ラブレ教授の成功からコツを得たのか、ルキスラ教授、アルバ教授が続いた。
3人が指導側に回った所、時間はかかりはしたが全員が成功し「属性関係なく瘴気を消すことができる」という結果を得ることができた。
ちゃんとした論文に落とし込んで公開するにはまだまだ実例不足ではあるが、自国の第一王子が成功例の一つとなったのは大きい。
この後はルキスラ教授の指揮下で人員を確保し、ゴルラフ隊長がモンスター討伐実習の追加枠として組み込む事で実証数を上げていこうと話がまとまった。
アーデルハイド殿下は「陛下にうさちゃんを見せびらかしてくる」とご機嫌で王城に戻り、アルバ教授が「その元ホーンラビットは研究対象です!」と後を追いかけて行った。
ブレない姿は尊敬できる。真似をしたいとは思わないけど。
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