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始まりは断罪の目撃から
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「ア……アーデルハイド殿下、どうして、こちらに…?」
シェアレフィーエ嬢の声が驚きのあまり掠れている。義姉上も声が出ないらしい。実は俺もだ。
モンスターが出て危ない、って言われてる所で王族がふわふわ徘徊していたらびっくりして当然だろう。
「息抜きにうさちゃんでも見ようと思ってね。可愛いよね、うさちゃんって」
「魔物ですけどね」
ホーンラビットをうさちゃんと…いや、うさぎだけども。
教授陣は俺たちと違って、随分と落ち着いてアーデルハイド殿下の対応をしている。
「ゴルラフ隊長、殿下はここに来られる予定だったのですか?」
「ん?そんな予定はないぞ。いつもの脱走だ」
「「「……いつもの………」」」
そう言われると、学生3人は言葉を失うよな。
そうか。慣れる程来てるのか。
王族って「会えなくて当然」な方々だし、普通の貴族は狩り以外で森にいることなんてほぼない。というのが俺の学んだ一般的な感覚だ。
義姉上とシェアレフィーエ嬢の反応からしても、この考えは大きくズレてはいないだろうと推測される。
つまり、アーデルハイド殿下がイレギュラーなんだな!(思考の終着点)
「皆はまだうさちゃん見てないよね。可愛いから見ておいで」
静かに見るんだよ。と、アーデルハイド殿下は現在地から少し奥の茂みを指した。あの向こうにいるのか。
「アルバ教授、大丈夫ですの?」
「大丈夫ですよ。週1の頻度で来られてますから」
「……そんなによくお越しになられてるのですね…」
アルバ教授、今の義姉上の言葉は「(魔物に近づいて)大丈夫?」という意味だったかと…いえ、そちらも確かに気にはなってましたけど。
王都内とはいえ、王城から学園までの距離を考えると、移動手段が気にな…キリがないからもう考えないようにしよう。
「ホーンラビットなら臆病な種なので、静かに観察する分には問題ないでしょう。大きな音や声で驚かせないようにしましょうね」
アルバ教授の指示の元、アーデルハイド殿下の示した茂みの向こうを覗いてみる。
「……あ、いました。思ったより小さいですね」
魔物だからそこそこの大きさかと思っていたが、ホーンラビットは前世にいた兎とほぼ変わらないように見えた。
茶色い兎の額からうさ耳より少し短い角が生えている生き物だ。うん。かわいい。
「え?どこですの?見えませんわ」
「ははは、マグナの肩に乗ればかなり奥まで見えるからねぇ。お嬢様方もどうかな?」
「「遠慮しますわ」」
「俺の将来を潰そうとするのは止めろ。親御様に知られたら(社会的に)潰される」
俺ならいいのか?と言いそうになった俺は今、ゴルラフ隊長に肩車されている状態だ。どうしてこうなった?
いやまぁ…俺はこの中で歳も体も一番小さいから、背伸びしても茂みの向こうは見えないので助かるのだけれども。うぅ…皆の生暖かい微笑みが恥ずかしい…
「見つけたのは一匹だけですか?」
「一匹ですね」
「あ、わたくしも見つけましたわ」
「思ったより細身ですわね」
「一匹という報告でしたから、あの個体で間違いない様ですね」
「うさちゃんもっと増えてもいいと思うんだよね」
「僕のテリトリー外なら増やしてもいいんじゃない?」
「せめて王都の外にしてくれ」
暫くホーンラビット観察会が開催され、思い思いの感想を言い合った。
うさちゃんの繁殖は安全な場所でやって下さい。
ホーンラビットは群れるモンスターだから、一匹しかいない時点で何者かによって王都に持ち込まれた可能性が高い、というのがアルバ教授の観察会での感想だった。
確かにあのサイズなら何かの荷物に紛れて持ち込めそうだ。警備を掻い潜ることが出来ればの話だが。
チーム別行動のご令嬢方が持ち込みルートのヒントでも得てくれていたら解決が見えるかも、と淡い期待だけは持っておこう。
「外敵もなく、緑豊かなこの森であんなに細ってしまうなんて…群れから離されたのが不安なのでしょう」
「可愛いのに可哀想!保護できないかな?」
「陛下の許可を貰いましょうね」
アーデルハイド殿下の視線はホーンラビットに釘付けだ。うさちゃん好きなんですね。
そしてキラッキラの容姿で「うさちゃん可愛い!」ってやられるのが目に痛い事が判りました。無邪気な美形って、強いな。
「角が無いなら飼いやすいのでは?」
シェアレフィーエ嬢がポツリと呟いた。俺もちょっと思ったけど、折る?
「角の長さが半分以下になると、生きて行けませんよ」
「「「!!」」」
アルバ教授の一言で「うさちゃん可愛いね同盟(アーデルハイド殿下、義姉上、シェアレフィーエ嬢の3名)」が凍りついた。
「ホーンラビットを含む有角種の魔物は、角が薬になるという迷信の為に乱獲され、数が激減した時代がありました。その時の記録に角の長さと生存率の関係が記されています」
「折ったら死ぬ……」
「……野生での生存率、の記録なので飼育に関しては調査が要りますね」
「そうか!なら角取って飼おう!」
アーデルハイド殿下が露骨にしょんぼりするから、アルバ教授のフォローが入った。これが忖度というやつか。
というか、やっぱり折る気だったんだな。
普通に兎飼えばいいのに。
「ファルムファス君、君の浄化案は魔物には通用するのかな?」
チームうさちゃんがワイワイしてる中、ルキスラ教授が俺に声をかけた。
「あの提案書は瘴気の浄化を軸に考えたので、魔物への影響は考えていないですね。ゴルラフ隊長、降ろして頂けますか?」
「分かった」
やっと肩車から解放された。隊長はなんだか寂しげだが、気にしないことにする。
「俺が考えている案が魔物に通じるかは判りませんが、グローデン領の例では一掃されたと聞いています。ただ、元の生息を把握していないので、無力化なのか消滅なのかの判別がつきません」
グローデンの奇跡(ラウレスタ様談)の事後処理には関わってないから、聖域化した、くらいしか判ってないんだよな。もっと聞いておけばよかったかな?
「よしわかった。試してみよう」
何でそれをラブレ教授が言うんですか。
シェアレフィーエ嬢の声が驚きのあまり掠れている。義姉上も声が出ないらしい。実は俺もだ。
モンスターが出て危ない、って言われてる所で王族がふわふわ徘徊していたらびっくりして当然だろう。
「息抜きにうさちゃんでも見ようと思ってね。可愛いよね、うさちゃんって」
「魔物ですけどね」
ホーンラビットをうさちゃんと…いや、うさぎだけども。
教授陣は俺たちと違って、随分と落ち着いてアーデルハイド殿下の対応をしている。
「ゴルラフ隊長、殿下はここに来られる予定だったのですか?」
「ん?そんな予定はないぞ。いつもの脱走だ」
「「「……いつもの………」」」
そう言われると、学生3人は言葉を失うよな。
そうか。慣れる程来てるのか。
王族って「会えなくて当然」な方々だし、普通の貴族は狩り以外で森にいることなんてほぼない。というのが俺の学んだ一般的な感覚だ。
義姉上とシェアレフィーエ嬢の反応からしても、この考えは大きくズレてはいないだろうと推測される。
つまり、アーデルハイド殿下がイレギュラーなんだな!(思考の終着点)
「皆はまだうさちゃん見てないよね。可愛いから見ておいで」
静かに見るんだよ。と、アーデルハイド殿下は現在地から少し奥の茂みを指した。あの向こうにいるのか。
「アルバ教授、大丈夫ですの?」
「大丈夫ですよ。週1の頻度で来られてますから」
「……そんなによくお越しになられてるのですね…」
アルバ教授、今の義姉上の言葉は「(魔物に近づいて)大丈夫?」という意味だったかと…いえ、そちらも確かに気にはなってましたけど。
王都内とはいえ、王城から学園までの距離を考えると、移動手段が気にな…キリがないからもう考えないようにしよう。
「ホーンラビットなら臆病な種なので、静かに観察する分には問題ないでしょう。大きな音や声で驚かせないようにしましょうね」
アルバ教授の指示の元、アーデルハイド殿下の示した茂みの向こうを覗いてみる。
「……あ、いました。思ったより小さいですね」
魔物だからそこそこの大きさかと思っていたが、ホーンラビットは前世にいた兎とほぼ変わらないように見えた。
茶色い兎の額からうさ耳より少し短い角が生えている生き物だ。うん。かわいい。
「え?どこですの?見えませんわ」
「ははは、マグナの肩に乗ればかなり奥まで見えるからねぇ。お嬢様方もどうかな?」
「「遠慮しますわ」」
「俺の将来を潰そうとするのは止めろ。親御様に知られたら(社会的に)潰される」
俺ならいいのか?と言いそうになった俺は今、ゴルラフ隊長に肩車されている状態だ。どうしてこうなった?
いやまぁ…俺はこの中で歳も体も一番小さいから、背伸びしても茂みの向こうは見えないので助かるのだけれども。うぅ…皆の生暖かい微笑みが恥ずかしい…
「見つけたのは一匹だけですか?」
「一匹ですね」
「あ、わたくしも見つけましたわ」
「思ったより細身ですわね」
「一匹という報告でしたから、あの個体で間違いない様ですね」
「うさちゃんもっと増えてもいいと思うんだよね」
「僕のテリトリー外なら増やしてもいいんじゃない?」
「せめて王都の外にしてくれ」
暫くホーンラビット観察会が開催され、思い思いの感想を言い合った。
うさちゃんの繁殖は安全な場所でやって下さい。
ホーンラビットは群れるモンスターだから、一匹しかいない時点で何者かによって王都に持ち込まれた可能性が高い、というのがアルバ教授の観察会での感想だった。
確かにあのサイズなら何かの荷物に紛れて持ち込めそうだ。警備を掻い潜ることが出来ればの話だが。
チーム別行動のご令嬢方が持ち込みルートのヒントでも得てくれていたら解決が見えるかも、と淡い期待だけは持っておこう。
「外敵もなく、緑豊かなこの森であんなに細ってしまうなんて…群れから離されたのが不安なのでしょう」
「可愛いのに可哀想!保護できないかな?」
「陛下の許可を貰いましょうね」
アーデルハイド殿下の視線はホーンラビットに釘付けだ。うさちゃん好きなんですね。
そしてキラッキラの容姿で「うさちゃん可愛い!」ってやられるのが目に痛い事が判りました。無邪気な美形って、強いな。
「角が無いなら飼いやすいのでは?」
シェアレフィーエ嬢がポツリと呟いた。俺もちょっと思ったけど、折る?
「角の長さが半分以下になると、生きて行けませんよ」
「「「!!」」」
アルバ教授の一言で「うさちゃん可愛いね同盟(アーデルハイド殿下、義姉上、シェアレフィーエ嬢の3名)」が凍りついた。
「ホーンラビットを含む有角種の魔物は、角が薬になるという迷信の為に乱獲され、数が激減した時代がありました。その時の記録に角の長さと生存率の関係が記されています」
「折ったら死ぬ……」
「……野生での生存率、の記録なので飼育に関しては調査が要りますね」
「そうか!なら角取って飼おう!」
アーデルハイド殿下が露骨にしょんぼりするから、アルバ教授のフォローが入った。これが忖度というやつか。
というか、やっぱり折る気だったんだな。
普通に兎飼えばいいのに。
「ファルムファス君、君の浄化案は魔物には通用するのかな?」
チームうさちゃんがワイワイしてる中、ルキスラ教授が俺に声をかけた。
「あの提案書は瘴気の浄化を軸に考えたので、魔物への影響は考えていないですね。ゴルラフ隊長、降ろして頂けますか?」
「分かった」
やっと肩車から解放された。隊長はなんだか寂しげだが、気にしないことにする。
「俺が考えている案が魔物に通じるかは判りませんが、グローデン領の例では一掃されたと聞いています。ただ、元の生息を把握していないので、無力化なのか消滅なのかの判別がつきません」
グローデンの奇跡(ラウレスタ様談)の事後処理には関わってないから、聖域化した、くらいしか判ってないんだよな。もっと聞いておけばよかったかな?
「よしわかった。試してみよう」
何でそれをラブレ教授が言うんですか。
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