この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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「………えっと、何だっけ?森の調査?あ、そうそう。昨年珍しい品種の栽培に成功してね………」
 どうしよう。ラブレ教授の薬草語りが止まらない…
 「「「「…………………」」」」
 ご令嬢方が「どうしましょう止まりませんわ」とこちらに目で訴えてくる。知りません、そんなの。こっちが教えて欲しいくらいですよ?
 外せない用があるからと同行しなかったメルネ嬢は大正解かと。話がほぼ進んでないもん。

 チラリと窓の外を見る。うわぁ、真っ暗ですね!日が落ちるのが早い季節とはいえ、長居している事に変わりはない。
 遅くまでご令嬢方を学園に残すのはしのびないので、こっそり1人ずつご帰宅頂くことにした。
 何だこの特殊ミッション。
 教授は聞いてくれるなら誰でもいいらしく、人数が減っても気にする様子はない。

 最終的に俺1人が残り、教授が満足した顔で話を終えた頃には完全に日付が変わっていた。そのまま夜明けを迎えなくてよかった。
 寝不足と心労でふらふらと部屋に戻り、気絶する様に眠る。遠征から帰って間もなくこれとか、スケジュールがハードすぎる。
 自主休講(サボり)にしようと考えていたら、ラブレ教授が「特別講義したから」と初等部に知らせてくれていた。有難い話である。

 ラブレ教授の薬草語りから数日経った放課後、俺たちは薬の森の前にいた。
 さすがにご令嬢方は森の調査には…、と思ったのだが、義姉上とシェアレフィーエ嬢が「薬の森の探索とかワクワクしますわ!」と、メンバーに入り込んできた。
 後はラブレ教授、アルバ教授、魔法学ルキスラ教授、討伐騎士部ゴルラフ隊長の学園教授陣だ。
 今回、アイローチェ様とリネット嬢は侵入ルートの確認の為に父君方に話を聞きに軍の施設へ。レイチェル嬢とメルネ嬢は街の警邏隊に話を聞きに行っている。
 良家のお嬢様が揃っているので、勿論護衛付きだ。成果は兎も角、安全面では心配ないだろう。
 むしろこちら側に護衛が少ないのを懸念すべき。

 チーム別行動のご令嬢方は、
「ご一緒出来なくて残念ですわ」
 と、言いながらもどこかホッとした表情をしていた。
 ラブレ教授に限らず、好きを突き抜けた人は大体あんなもんだと思うのですが。と言いかけて止めた。この傷は、抉ってはいけない。

「教授の皆様、本日はよろしくお願いししますわ」
「ついでにミドリハーブの育成具合も見ようね」
 威勢のいい義姉上の言葉に、ラブレ教授がマイペースに続く。
「オルカが一人で行っちまいそうなんだよなぁ」
 ゴルラフ隊長がぼやく。その通りだと思います。
 オルカ、といのはラブレ教授のファーストネームだ。親族皆教授という一族もいるようだから、ラブレ教授もその部類なのだろう。
「ねえ、君がファルムファス君だよね!闇属性って綺麗な黒が出るんだねぇ、いいなぁ、高等部に進学したら魔法研究室うちに来て欲しいな!」
 自己紹介と準備物確認の時間中、ルキスラ教授が俺に張り付いて魔法研究学、略して魔研にスカウトをかけてくる。この人もかなりのマイペースだな…
 護衛が足りていないと思っていたが、まさかフリーダムに奔走するメンバーを制止する役も足りていな…………いや、もうそこは考えないようにしよう。

「今から森に入るが、俺より前に出ない事。いいな」
「はい!」
「わかったー」
「解ってない事は判った。前に出たら括るから」
 何でゴルラフ隊長の荷物にハーネスが入っていたのかが判りました。よろしくお願いします。

 森の探索は思っていたより順調だった。
 薬草の採取を目的にした森の為、通り道がきれいに手入れされていたことが大きい。
「あの茂みの奥にはイバランという棘のある蔓植物が生えていてね、うっかり棘に刺さると麻痺るから入らないでね」
「毒じゃねえか」
「蔓から出る液を精製したら麻痺解除薬ができるんだよね。毒も使い方によっては薬になるんだよー」
 道中、ラブレ教授の薬草紹介があったこともあり、整地された道以外は危ないという事が判った。
 そして、ラブレ教授とゴルラフ隊長は生家が近い幼なじみだという事も判った。

「ファルムファス君、起案書見ましたよ。その歳でこれを作れるとは、実に素晴らしいです」
「ありがとうございます」
 アルバ教授がスっ、と近づいて褒めてくれた。前世から積み重ねるとアルバ教授の年齢は越えてそうだな、と思ったが、素直に喜ぶことにしよう。

 夜通し語りから回復した少し後、俺はラブレ教授の研究室を一人で再訪した。
 目的は、遠征で達成できなかった他属性での瘴気浄化を検証するために森で発見されたモンスターが使えないか、という相談。
 高等部の教授に伝手がないので、知り合ったばかりではあるが協力を願ったのだ。どうせモンスターは対処しなくてはならないのだから、実証実験に使えたらラッキー、位の感覚だった。
 遠征の際にランカ様に渡していた提案書をラブレ教授に見せると、
「なにこれ、僕の専門じゃないけど面白いねぇ。ちょっと待っててね」
 と、あっという間にルキスラ教授に渡りをつけ、森の調査日程を固めてきた。
 侵入ルートを確定してから、とか言っていた気もするが、好奇心には勝てなかったようだ。解るぞその気持ち!
 恐らくその時の提案書が、アルバ教授まで回ったのだろう。

「なんですの?ファルム様、また何かやらかしましたの?」
「またとは…」
 義姉上が覚えのない言いがかりをつけてきた。
「相変わらず無意識ですのね。「文官の神」騒動を忘れましたの?」
「あー……」
 あったな、そんなこと。

 書記官をしている父上の仕事量が致死量レベルでヤバかった次期があった。
 その時「書き方を統一したらいいのでは」と一例と共に作業効率化の提案をしたら、あっという間に王宮に広まり、父上が「文官の神」と崇められた騒動が、数年前に起こった。
 聖協会に住み始めた頃、敷地内にある文書部屋を同じ形式で片付けた時は軽くザワついたくらいで収まったから、そんな大事になるとは思わなかったんだ。
 ははは。あの時は父上と二人で「どうしてこうなった」と頭を抱えたなぁ。
 讃えてくる人達に「神じゃないです。同じ人族です」と父上は騒動か落ち着くまで言い続けたらしい。その節は大変申しわけなく…

「直近では、御子様の一件も大概ですわよ」
「あれは俺、悪くないでしょう」
「凄かったらしいね。グローデンの浄化。僕も見たかったなぁ」
「神の御業と言われていましたわね」
「わたくしもついて行けばよかったと……」

「「「…………………え?」」」
 会話の途中、聞きなれない声がした。
 声の方を向くと、そこには白に近いプラチナブロンドの髪が眩しい美青年が笑顔で立っていた。
 ……見覚えがある姿だな。確かこの方は、

「「「アーデルハイド殿下!」」」
「やあ」
 近々立太子するという噂の第一王子、アーデルハイド・ファルクス・ラキアラス殿下がいつの間にか仲間に加わっていた。
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