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愛だけで生きていけると思うなよ
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しおりを挟む「のこのことやってきやがって!今更戻ってきた所で、私の最愛は変わらない!」
リボンがゴリッゴリについたドレスの女性の腰に手を回し、高らかにそう言い放った男を俺たちは冷ややかな眼差しで見ていた。
「あの時にも申し上げましたが、戻るつもりなど更々ないのですわ」
す、と視線を真っ直ぐに男に向けて言い放つのは、失礼極まりないセリフを浴びせられた、俺の傍らに立つ女性。見つめられた男は視線の強さに少したじろぐ。得意気に喧嘩ふっかけてきたのはそっちだろ?しっかりしろよ。
「メディナツロヒェン様はわたくし達と我が王国に戻るのですわ。本質を見ることの出来ない者がいる国には勿体ない人材ですもの」
メディナツロヒェンと呼ばれた先程の女性の隣に立つのは、俺の住まうラキアラス王国の王弟殿下が「遠くにやりたくないよォ」と泣きながら行ってらっしゃいした愛娘の一人、レニフェル様だ。
光の加減でピンクにも見える金色の髪をふわりと靡かせ、堂々と言い放ちやがりましたが聞く人が聞けば外交問題です止めてください。
王弟殿下が「手元に置いておきたい」という理由は言わずもがな、である。
「その程度で優秀とは、そちらの国も大したことないのだな」
はっ、と鼻で笑って男が言い放つ。こいつも人の話を聞かない種族だな?
「まあ、メロメ国の侯爵程度に我が王国の何が判るというのかしら」
これが侯爵令息とか…我が家と同等に見て欲しくないですね。
そしてレニフェル様、売り言葉を買わないで下さい。
「黙れ!田舎貴族の分際で!」
お前は相手をよく見て言え!ラキアラス王国は、メロメ国より大分格上の国家だぞ?
今、俺たちがいるのはメロメ国。メロメ王家が所有している催事専用の館にある華々しく飾られたダンスホール。
メロメ国は大きい湾岸都市を有しており、十数年前に独立した若い国家だ。貿易をメインとしており、他国との繋がりを築いている最中、といったところだろう。そのため近隣諸国から有力者を招いての夜会が年数回(詳しく聞いてない)行われ、重要な外交の場となっている。
簡単に言うと「大事な場所だから揉め事を起こすな」という。もう遅いですね。めっちゃ怒られたらいい。
周囲の注目を集めに集めまくっているこの修羅場っぽい何か。
この構図、既視感があるなぁ…。数ヶ月前にもこんなのに巻き込まれたよなぁ…帰りたいなぁ…
俺の現在位置は、ギャラリーの皆様に囲まれた輪のほぼ中央。先程から失礼な物言いしかしていない男(事前情報でバンガーブ侯爵令息と聞いている)とその彼女の目の前。俺の右後方(ほぼ真横)にはレニフェル様とメディナツロヒェン嬢。
そう。俺はレディ達をお守りする防波堤なのである。「お揃いにしておいたよ」と衣装を用意しやがった祖国の王太子殿下にはその場でも言いましたが、戻ったら再度文句を言おうと思います。
″存分に喧嘩をふっかけた様ですので、そろそろ撤退されては?″
レニフェル様に「早く帰りたいです!」という強い思いを込めた視線を送ってみるが、全然気づいてくれてないですね?笑顔でサムズアップは要りません。
「……まずはご令息に申し上げます。わたくし共は賓客としてこの場に来ております。挨拶を交わしてもいないのに…突然と言っても過言では無い状況下でそのお言葉。この国の挨拶は我が国の礼節と反する物言いと取られても構わない、と?」
これ以上レニフェル様に口を開かせると被害が広がる!それは非常に不味い。
喰らえ俺の言いくるめストレート!ほぼ正論パンチ!
「そ、それは…」
目の前の俺の姿をようやく認識したのだろう。まあ、この手のヤツは「黙っているやつは置物同然」とか思っているんだろうな。
突然話し始めた奴が痛いところを突いてきたから、戸惑っているのだろう。目が泳いでますよ。
「他の賓客の方々の前でもあるのですよ。始まる前に夜会を壊すおつもりですか?」
そう。この状況は夜会の序盤も序盤。「ラキアラス王国からお招きしました方々のご入場です」的な紹介と共に会場入りした俺たちに、いきなり侯爵令息が冒頭のセリフを吐いた…という所から始まっている。最初からクライマックスですね。酷い話だ。
ええ。俺は入場前から帰りたかったですよ?衣装が(またしても)ドレスなんですもの。
「メロメ国王陛下が主催するこの夜会で、国家の品格を下げる行為をどなたが望むのでしょうか。陛下の入場後、場所を用意していただきましょう」
「………」
そうか、もう声も出ないか。別室ではこちらの独壇場になりそうですね。いい事だ。
壁の方へ視線を向けると、賓客付きの従者が側に来る。客の動きをよく見ている、よくできた従者ですね。
有能な従者に別室の用意を小声で依頼し、再びバンガーブ侯爵令息へと視線を戻して言葉を続ける。
「状態異常はその時に解いて差し上げます」
その言葉に反応したのは傍らの女。リボンまみれなことに気を取られてよく見ていなかったが、ふわふわのボブヘアー?肩にギリつかない位の巻き髪をした、気の強そうなキレイめの女性だ。
前回の件があるから、もう見た目には騙されないぞ!状態異常に反応するということは、俺みたいな若返り系なんだろ?そしてまた乙女ゲームなんだろ?
巻き込むってそういう事ですよね、ラキアータ様?俺も愉悦組に入りたいですぅ…
「周りが見えなくなっている困った方々に、この一言を差し上げましょう」
バンガーブ侯爵令息とその彼女を見つめながら告げる。
「この世の中、愛だけで生きていくのは不可能です」
リボンがゴリッゴリについたドレスの女性の腰に手を回し、高らかにそう言い放った男を俺たちは冷ややかな眼差しで見ていた。
「あの時にも申し上げましたが、戻るつもりなど更々ないのですわ」
す、と視線を真っ直ぐに男に向けて言い放つのは、失礼極まりないセリフを浴びせられた、俺の傍らに立つ女性。見つめられた男は視線の強さに少したじろぐ。得意気に喧嘩ふっかけてきたのはそっちだろ?しっかりしろよ。
「メディナツロヒェン様はわたくし達と我が王国に戻るのですわ。本質を見ることの出来ない者がいる国には勿体ない人材ですもの」
メディナツロヒェンと呼ばれた先程の女性の隣に立つのは、俺の住まうラキアラス王国の王弟殿下が「遠くにやりたくないよォ」と泣きながら行ってらっしゃいした愛娘の一人、レニフェル様だ。
光の加減でピンクにも見える金色の髪をふわりと靡かせ、堂々と言い放ちやがりましたが聞く人が聞けば外交問題です止めてください。
王弟殿下が「手元に置いておきたい」という理由は言わずもがな、である。
「その程度で優秀とは、そちらの国も大したことないのだな」
はっ、と鼻で笑って男が言い放つ。こいつも人の話を聞かない種族だな?
「まあ、メロメ国の侯爵程度に我が王国の何が判るというのかしら」
これが侯爵令息とか…我が家と同等に見て欲しくないですね。
そしてレニフェル様、売り言葉を買わないで下さい。
「黙れ!田舎貴族の分際で!」
お前は相手をよく見て言え!ラキアラス王国は、メロメ国より大分格上の国家だぞ?
今、俺たちがいるのはメロメ国。メロメ王家が所有している催事専用の館にある華々しく飾られたダンスホール。
メロメ国は大きい湾岸都市を有しており、十数年前に独立した若い国家だ。貿易をメインとしており、他国との繋がりを築いている最中、といったところだろう。そのため近隣諸国から有力者を招いての夜会が年数回(詳しく聞いてない)行われ、重要な外交の場となっている。
簡単に言うと「大事な場所だから揉め事を起こすな」という。もう遅いですね。めっちゃ怒られたらいい。
周囲の注目を集めに集めまくっているこの修羅場っぽい何か。
この構図、既視感があるなぁ…。数ヶ月前にもこんなのに巻き込まれたよなぁ…帰りたいなぁ…
俺の現在位置は、ギャラリーの皆様に囲まれた輪のほぼ中央。先程から失礼な物言いしかしていない男(事前情報でバンガーブ侯爵令息と聞いている)とその彼女の目の前。俺の右後方(ほぼ真横)にはレニフェル様とメディナツロヒェン嬢。
そう。俺はレディ達をお守りする防波堤なのである。「お揃いにしておいたよ」と衣装を用意しやがった祖国の王太子殿下にはその場でも言いましたが、戻ったら再度文句を言おうと思います。
″存分に喧嘩をふっかけた様ですので、そろそろ撤退されては?″
レニフェル様に「早く帰りたいです!」という強い思いを込めた視線を送ってみるが、全然気づいてくれてないですね?笑顔でサムズアップは要りません。
「……まずはご令息に申し上げます。わたくし共は賓客としてこの場に来ております。挨拶を交わしてもいないのに…突然と言っても過言では無い状況下でそのお言葉。この国の挨拶は我が国の礼節と反する物言いと取られても構わない、と?」
これ以上レニフェル様に口を開かせると被害が広がる!それは非常に不味い。
喰らえ俺の言いくるめストレート!ほぼ正論パンチ!
「そ、それは…」
目の前の俺の姿をようやく認識したのだろう。まあ、この手のヤツは「黙っているやつは置物同然」とか思っているんだろうな。
突然話し始めた奴が痛いところを突いてきたから、戸惑っているのだろう。目が泳いでますよ。
「他の賓客の方々の前でもあるのですよ。始まる前に夜会を壊すおつもりですか?」
そう。この状況は夜会の序盤も序盤。「ラキアラス王国からお招きしました方々のご入場です」的な紹介と共に会場入りした俺たちに、いきなり侯爵令息が冒頭のセリフを吐いた…という所から始まっている。最初からクライマックスですね。酷い話だ。
ええ。俺は入場前から帰りたかったですよ?衣装が(またしても)ドレスなんですもの。
「メロメ国王陛下が主催するこの夜会で、国家の品格を下げる行為をどなたが望むのでしょうか。陛下の入場後、場所を用意していただきましょう」
「………」
そうか、もう声も出ないか。別室ではこちらの独壇場になりそうですね。いい事だ。
壁の方へ視線を向けると、賓客付きの従者が側に来る。客の動きをよく見ている、よくできた従者ですね。
有能な従者に別室の用意を小声で依頼し、再びバンガーブ侯爵令息へと視線を戻して言葉を続ける。
「状態異常はその時に解いて差し上げます」
その言葉に反応したのは傍らの女。リボンまみれなことに気を取られてよく見ていなかったが、ふわふわのボブヘアー?肩にギリつかない位の巻き髪をした、気の強そうなキレイめの女性だ。
前回の件があるから、もう見た目には騙されないぞ!状態異常に反応するということは、俺みたいな若返り系なんだろ?そしてまた乙女ゲームなんだろ?
巻き込むってそういう事ですよね、ラキアータ様?俺も愉悦組に入りたいですぅ…
「周りが見えなくなっている困った方々に、この一言を差し上げましょう」
バンガーブ侯爵令息とその彼女を見つめながら告げる。
「この世の中、愛だけで生きていくのは不可能です」
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