この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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 この状況になってしまったのには、訳がある。なるべく時系列に沿って話していこう。

 まずは俺、ファルムファス・メロディアスは憑依者であり、この世界とは異なる生の記憶がある。その辺りの事は今は関係ないので必要になったら話そう。
 俺の在籍しているマッチェレル学園には、12歳以上から入学できる初等部と、15歳以上で初等部を卒業またらそれに準ずる能力を学園に認められた者が入学できる高等部の二つの学部がある。日本の教育でいうと、初等部が小中学校で高等部が高校、みたいな感じだ。
 この春、無事初等部への入学を果たした俺は穏やかに卒業までの学園生活を楽しむ予定、だった。

 事が動いたのは朝夕の肌寒さで夏の終わりを感じるようになった頃。
「ファルム様、お昼を御一緒しましょう。私に付き合って下さいませ」
 今日の昼食をどうしようかと考えていた所に、兄の婚約者であるライナーツ・コモフ伯爵令嬢から強めのお誘いを受けた。
「義姉上のお誘いとあれば、喜んで」
 トラブルの予感がする、とは思ったが人目もあるので貴族スマイルで受ける。メロディアス家は侯爵家なので、当主末子の俺も貴族の一員なのだ。営業で鍛えた笑顔がこんなにも役に立つなんて、嬉しくはないけどな。
 因みに、ライナーツ嬢をひと足早く義姉と呼んでいるのは、両家の顔合わせの時に「おねえさま(になる人)なの?」とうっかり口を滑らせた所引く程喜ばれ、他の呼び方では返事をして貰えなくなったからである。当時の俺は反省すべき。
 正直面倒臭いとは思ったが、近い将来呼ぶ事になるし、誰も止めなかったから受け入れる事にした。流れに乗るのはうまいこと生きていく上で大事な事だ。

 義姉に案内されたのはカフェテリアから少し離れた東家ガゼボ。サンドイッチなどのつまみやすく持ち運びしやすい軽食が用意され、コモフ家のメイドが紅茶を入れてくれる。
 お掛けになって、と促されテーブルを挟んだ向かいに腰を下ろすと、
「浮気、らしいの」
 と、いきなりヘビーすぎる話題がきた。
「この国でアンドリブを越える店が出たという話はまだ聞いておりません。情報ありがとうございます」
 ランチを楽しむ話題ではないですね?
 アンドリブとは城下町にある雑貨店。貴族子女御用達で「可愛いの流行はここから生まれる!」と言われているほど有名な店だ。 
 迂闊に踏み込んで聞いてはいけないという直感が働き、咄嗟にアンドリブに話題を切り替えた訳は、兄がこの店のオーナーが趣味で作っているぬいぐるみを新作が出るたびに俺の名を使って購入しているからだ。許可を出した覚えは無いので貸しにしてある。
「アンドリブの話題ではございません」
 ですよね。
「ファルム様は聖女アリナをご存知ですわよね」
「はい。こちらから関わる気はない程度に存じ上げております」
「…やはりそう言わざるを得ない人物なのですね」
 義姉上が呻くように頭を抱えた。
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