この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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「私は真実の愛を見つけた!よって、お前との婚約は破棄とする!」

 5人のイケメンを従え、派手なドレスを纏った女の腰を片手で引き寄せたまま高らかに宣言しやがったのは撫で付けられた金色の髪が眩しい我が国の第二王子ルーベンス・ヴェルクス・ラキアラス殿下。王国の若獅子と呼ばれるイケメンだ。
「あら、世迷言を仰るのですね。陛下はご存知なのでしょうか。」
 広げた扇子を口元に、困り顔で微笑みかえすのはルーベンス殿下の婚約者、アイローチェ・メルフェロン公爵令嬢。こちらは豊かなハニーブロンドをルーベンス殿下の瞳と同じサファイアの髪飾りで纏めあげた美女。ドレスも金と青でとても映える。
「…父上に報告するのは、全てが片付いた後で問題ない!」
「そのお考え自体が問題ですわよ」
「黙れ!」
 この茶番が繰り広げられているこの場所は、俺が生徒として在籍している国立マッチェレル学園の大ホール。学校所有のホールにしては煌びやかがすぎる気もするが、有名どころの劇団やオーケストラを招いての指導科目があり、学んだ成果を盛大に披露する場としてはこんなものなのかな、とは勝手に思っている。
 そして今はというと、ルーベンス殿下を含めた優秀な卒業生達の門出を祝うべく設けられた式典のド真っ最中だ。傍から見る分には迷惑極まりない。

 俺の現在位置は、アイローチェ様の後方。殿下の背後に控えるイケメン達の婚約者方のグループにおり、うち二人の令嬢に左右の腕を掴まれている状態だ。
″帰ってもいい?″
 左右にそれぞれ視線を送ってみるが、見事に合わない。むしろこの状況で逃がしてたまるかという気迫が掴まれた手から伝わってくる。無理ィ…
「…さすがにわたくし達も本気でやらかして下さるとは思っていなかったのですが…致し方ありません。ファルム様、よろしくて?」
 俺の左を固める未来の義姉が、小さな声で訊ねる。そう。殿下の後ろにいるイケメンの一人は俺の兄なのだ。見た目の良い兄が居なかったら俺も巻き込まれる事無かったのに。後で母上に隠している秘密を一つ二つ暴露してやると固く誓った。
 …早く終わらせて帰ろう。その思いを胸に義姉へ向けて軽く頷くと、掴まれていたた手が解放される。

 カツン、カツン、とヒールの音をあえて響かせながら、前へ。

「わたくしの話、聞いてくださる?」
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