行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

144 巣立ち

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丸2日休んでまた申請を出し、その次の日に朱雀と戦ってまた負けた。

魔力の補充をしながら帰って来るので今回もティスに抱っこされて帰って来た。恥ずかしい。魔石があるから心に余裕ができて時々強めに魔力送り込むイタズラされて気持良くなっちゃうのも困る。

次はストゥに抱っこしてもらうから!





そしてその次の日になってもまだチビが帰って来ない。
5日間。

魔力糸に話しかけると鳴き声は聞こえるから無事の確認は出来るんだけど…
話が出来ない事がこんなにももどかしいなんて…

俺は不安になってチビを迎えに行く事にした。
魔石をフルに補充してつながった魔力糸を辿って登る。
魔力の温存のために1人で行く。

「ついて行きたいが…オレじゃぁタケルの負担になるしな。」
「何があるか分かりませんから、時々言葉を送って下さいね。」
「うん、分かった!」
『聞こえる?』



聞こえたようだ。
魔力糸を見えないヘッドセットにして、しっかり食べてお弁当と携帯食料と飲み物を持って念のための浮遊魔道具も装備!

魔力糸をガイドに自走式のエレベーターを1人がけソファで作る。
空気抵抗を減らす屋根を結界で作って動力は魔力消費の少ない風の加護で下方から押し上げる。

上手く行くかなぁ?

少し浮かんでみると安定が悪いけど問題はなさそうだ。

「行ってきます。」
「気をつけて。」
「無理するなよ。」

「森の王、チビの元へお導き下さい。」

少し仰向けに固定されたソファに身を沈め、結界を展開して祈りを捧げる。

ソファは少しぐらつきながら舞い上がった。




スピードが乗ると安定し始め、快適な上昇。
結界のおかげで寒くないし…、あ、酸素濃度も祈っておこう。


………


………


着かない。

ストゥとティスに実況中継をしているけど、景色が変わらなくなって飽きて来た。
ちょっとスマホを見てみよう。

あれ?
知らないアイコンからメッセージが来てる。
青から緑へのグラデーション…これって…?

トークを開くとそこにはチビからのメッセージが入っていた。

『ママ チビ 帰れなくなった』
『結界 抜けられない』
『入る時に 怪我して あいらが 治して くれた』
『ごめんなさい』
『ママ 大好き』

急いで返信する。

《チビなの?今そっちに向かってるよ》
《行けるか分からないけど》

『分かる! ママが 近づいてる』

《もうすぐ着くかな?》

『まだ 半分 過ぎてない』

遠い…
でもチビと会話が出来る!音声入力なのかな?
スマホが翻訳機になるのか…凄い。

そうだ!
上側の空気抵抗減らすならいっそ真空にしちゃったらどうかな?
って今、思ったけどこれだけ上空だと空気薄くて変わりないかな?
もう飛行機くらいの高さに来てる…

ちょっと怖くて身体が強ばってます。

『ママ お手伝いするね』

お手伝い?

ぐぐっと重力を感じて上昇スピードが上がる。
高層ビルのエレベーターくらいの感じだし、座ってるから辛さはない。

宇宙がどんどん近づいてくる。


…軌道エレベーター!!


だいぶ前に2018年までに完成させるってニュースを聞いてワクワクしたけど、出来てないねぇ。向こうには魔力がないもんね。でも、もしかして地球の上位次元から誰か来れば完成させられる?

宇宙人高次元生命体説(笑)

徐々に暗くなって来ていたのに、逆に空が淡く光り始める。

優しい青い光。

それが格子状の壁を作っていた。

「くるるーーーーー!!」
「チビ!!」

光の格子は1マスが5mくらいあってスカスカで通り抜けられないとは思えないんだけど、力が強いと弾かれるらしい。俺でもすんなりとは通り抜けられない。

ビニールの幕があるような感じで、がんばれば通れる、って感じだ。

向こう側へ行くと足下は淡く光る磨りガラスのような見た目で少し柔らかい。体育の体操マットくらいの感触。

「くるるーーー!!」
「チビ!!」

抱き合って再会を喜ぶ。

やっぱり直接会話は出来ないようだ。

「ねぇ、チビはスマホ持ってないのにどうやってメッセージ送って来るの?」
「くー!」

返事をしたチビが連れて行ってくれたのは青い羽でできた…巣?

チビがこれこれ、と指し示す場所には2枚の青龍の鱗。アンテナか!チビが片方の鱗を持ってくるくるなくと、スマホにメッセージが現れる。

『あいらが これ 触ると ママが 送った写真が見えるよ、って教えてくれたの』
『そしたら 言葉も 伝わったの』
『これで ママ 寂しくないね』

「寂しいよ!チビに会っておはようって言って、一緒にご飯食べて子供たちと遊んで…チビがいるととってもとっても楽しかったのに!幸せだったのに!!」

『でも あいらは 1人なんだよー』
『がんばれば もう1度 くらいは 結界抜けられるけど 戻れなくなるから』
『ごめんね』

「いちっ… 一年っも!一緒に…いられな…かった… なんて…」
『ママ ごめんね』
『悲しませて ごめんなさい』
『ママ 大好き』

「ぅわぁぁぁぁぁん!!チビィィィィ!あやっ謝らなくて…いい、から!チビが選んだ幸せだから!!」

でも早いよ!まだしばらくは一緒にいられると思ったのに…いきなり大きくなっちゃって…いきなり大人になっちゃって…!!

俺はしばらくチビに抱きついて泣いた。

「ひっく…そうだ、あいらは? 俺、あいさつしないと…」

チビがゆっくりと後ろを振り返ると象より一回り大きいくらいの藍色の美しい鳥がいた。

でかっ!!
って、みっともなく泣いていたの、ずっと見てた…???

「…ぐすっ…あい…ら?」

俺は深呼吸をして息を整え、姿勢を正した。

「初めまして。チビがお世話になってます。あいらに鍛えてもらったおかげで、俺も命を救われました。チビを…チビを…これからも、よろし…く、お願い…しまっ…」

もう!
なんで挨拶くらいちゃんと出来ないんだ!
チビの事、ちゃんとお願いしたいのに…側にいてあげて下さいって言いたいのに!!

俯いて涙を押さえられずに立ち尽くす俺の側に、暖かくて力強い存在感。

おずおずと顔を上げると、目の前に藍色の壁。

いつの間にか後にいたチビに押され、きれいなもふもふに埋まる。

「じょっ浄化!」

涙と鼻水で汚してはいけないと慌てて浄化して、羽毛を堪能する。
あれ?慰めてくれている?
あいらは心地良い春の香りでずっとこうしていたいくらいだった。



「…ありがとう、あいら。チビをよろしくね。」

ようやく落ち着いた俺がそう言うと、ゆっくり顔を下げて俺にすりすりしてくれた。

「じゃぁ、チビ、元気でね。いつでもメッセージちょうだいね。」
「くるるるる…」

チビともハグしてお別れを告げる。
涙を堪えて笑顔を作って…

帰りはフリーフォールで行きより速かった。






「ストゥ!ティス!!チビが…チビに…もう…!!」

家に着いた途端に2人に飛びついて思いっきり泣いた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになって、呼吸困難になって、寝落ちした。




翌朝、泣き過ぎて痛む頭を治癒してスマホを見ると、さっそくチビからメッセージが入っていた。

『ママ、ソファに たまご 入れたから 大事にしてね』

たまご…?

慌てて外に放置していたソファを見に行くと、青いまんまるいうずらのたまごサイズのたまごが座面と背もたれの間に埋まっていた。危ないよ!割れたらどうするの!?

「…たまご?」

《チビ、このたまごどうしたの?》
『チビが 産んだ』

はいっ!?

『チビと あいらの たまご』
『こっちだと あいらが 強すぎるから ママの 加護の 力で育てて欲しいの』

…えぇっ!?

《チビって女の子だったの???》
『女の子?』
《たまご産む方》
『ワイバーンは 魔力の 弱い個体が 強い個体の たまごを 産むの』
《じゃぁ、チビのお母さんが強くなるとお父さんがたまご産むの?》
『そうだよー。ずっと一緒にいると 魔力が流れ込んで 混ざり合って たまごになるの』

そうだったのか。
だから異種族の(?)あいらのたまごが産める、って事?

《ワイバーンは どんな生き物の たまごも 産めるの?》
『知らない』

そっか。うちで育ったんだもんね。

《たまごはちゃんと育てるから。安心してね。》
『産まれたら 写真見せてね』
《メッセージで送れば良い?》
『うん』



「怒濤の展開ですね。」
「うん…。」

突然大人になって、喋れなくなって、帰って来られなくなって、たまご産んで…

「もう、目が回りそうだよー!!」

「ところで、それ藍鸞の羽か?」

ストゥがそう言って触った所は左耳の上。

「ん?取れないな。」

髪に絡まっているのかと思ったけど、1本だけ生えてるらしい。
引っぱると痛い。毛と言うより耳くらい痛いし、抜けない。

「何故でしょうね?」

あいらにもふもふすりすりした時についたのかなぁ?
鏡を見たらヘアピンみたいでちょっと恥ずかしい感じになってた。

「かわいらしいから良いんじゃないですか?」
「似合ってる。」

なんだか装飾品が増えている…
イヤーカフもしててヘアピンみたいな羽根つけて虫除けのネックレスもして指輪もして…じゃらじゃらだ!

アクセサリーつけるキャラじゃないんだけどなぁ。でも…

「本当に似合う?」
「「似合う!」」

取れないし、2人が似合うって言ってくれるのなら良いか。

また2日休んで申請を出して、朱雀に会いに行く事にした。
たまごはチビが小さかったときみたいに胸の契約印の所にポケットが来るようにした抱っこ紐に入れて行く。朱雀と戦う時はティスに預ける。

今度こそ!と気合いを入れて挑戦者の座について朱雀と向かい合うと、朱雀を取り巻く空気がいつもと違う事に気づいた。

戸惑っている…?

いつもならすぐ仕掛けて来るのに、じっとこちらを見つめている。いや、もしかして…

「朱夏の王…これ、気になってます?」

あいらの羽根を見せると、あからさまに動揺する朱雀。
同じ鳥型の聖獣としてヒエラルキーが存在するのだろうか?

と、考えて少し気が緩んだ瞬間に朱雀が高速で突進して来た。
慌てて躱すもよろめいて挑戦者の座から転げ落ちる。

朱雀はそのまま戦わずに飛去って行った。
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