行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

143 大人の階段

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そう言えば3日と開けずに通ってたのにいきなり行かなくなったらあいらが心配してるかも。

伝わるか分からないけど魔力糸アンテナに「チビは繭から出て来たらまた遊びに行きます。」て返事は期待せずに話しかけた。

自己満足だなぁ。

1週間程度で繭から出てくるだろうとの見込みで、それまでトルトニスさんとサクリスも泊る事になった。こんな貴重な機会を逃せないって。

トルトニスさんが居てくれると心強い。

みんなが交代で買い出しに行ってくれて、俺が料理する。
チビが出て来たら食べるかな?って多めに作るけどやっぱり変化があったのは1週間経ってからだった。

繭の光が徐々に強くなりふわりと風を纏い始める。

「繭が!チビが出てくるよ!!」

大きな声でみんなを呼んで祈りを込めて見つめる。

繭はいつの間にか眩しいくらいに明るくなり、渦巻く風は強風と呼ぶに相応しい。白虎の加護で部屋は無事。

そして突然光が消え、また眩しく光り、また消えて3回目に輝いた時、繭がパン!と弾けた。

中から出て来たチビは…

チビは…

大っきくなっちゃった!
俺と同じくらいあるよ!あれ?繭は一抱えしかなかったよ?
しかも何だか青い。

「くー!くるるる…」
「え?チビ?どうしたの?何て言ってるの?」
「くるる!くくーるー!」

「ど…どうしよう!? チビの言葉が分からなくなっちゃった!!」
「…私にも繭に入る前よりは伝わってきません。でも、機嫌がいいから大丈夫でしょう。」
「……そっか。元々は言葉なんて分からなかったもんね。」
「そうですよ!分かる方が奇跡なんです!通訳してもらえないのは残念ですが…」

そう言えば声も少し低くなったし、大人になったって事なんだよね。

「チビ、俺の言ってる事は分かる?」
「くー!!」

チビは大きく頷きながら一声鳴いた。
そうだ、言葉はなくてもきっと伝わるね。

「お腹空いてない?ご飯食べる?」
「くきゅーーー!!」

あ、ちょっと声が前に戻った。(笑)

さすがに一週間も絶食しているのでたくさん食べる。もりもり食べる。
5人前くらい食べてようやく満足したようだ。

…大きさもだけど、見た目がすっかり大人になって…窓から出られないんじゃないかな?

「チビの出入り用に窓を大きくするか。」

ストゥが同じ事を考えていたようで、窓の大きさを測っている。ついでにバルコニー付けたいな。大工さんにお願いしよう。

「チビ、体の具合はどうですか?」
「くるるー!」

トルトニスさんがチビを触診(?)しながら質問する。
色がかなり青くなっているのって、もしかしてあいらの影響?

「トルトニスさん、チビの身体の色が青いと思うんですが。」
「こんな色は初めてだよ!ワイバーンは伴侶の色に近づく事があるから、他の群れの個体と番うと色が変わる事があるんだ。でもこの色は初めてだ。きれいだなぁ…」

まだ番うには早すぎるよ!!
きっと長く一緒にいると影響を受ける、って事なんだろうけど。元の緑も残って青に近くなっているのでペリドットからエメラルドグリーンへ。目は元々青かったせいか変わっていない。

そう言えばいきなりこのサイズでは青龍の鱗のチョーカーは使えなくなるから、サイズ調整しなきゃ。

「疲れてない?少し寝ても良いんだよ?」

チビは少し考えて部屋の隅に鳥のようにしゃがんだ。

「あの姿は!寝てたんですね。たまに見かけるけど何か考え込んでるのかと思ってました!」

ふと見れば外には雪が降って来た。
チビのせい?
繭になったときも少し降ったから、きっとワイバーンの力のせいだよね。

寝姿かわいいから写真撮っておこう。
あ、サイズ感…
ジャマしないように並んで撮ってもらいました。



翌日、チビがあいらに会いに行くと言うので外に転移させた。
窓が大きくなるまでは転移で良いか。
起きているチビとも並んで写真を撮ってから、心配かけたかも知れないのでショコラをたくさんお土産に持たせた。

「トルトニスさん、来てくれてありがとうございました。とても心強かったです。」
「こちらこそ押し掛けてしまって…脱皮と思われていたのが繭で羽化で、光と風で繭を破って出てくるなんて…大発見です!ありがとうございました!!」
「私も毎日おいしい食事が食べられて感謝している。またうちにも遊びに来てくれ。」

あはは…サクリスはまぁいいや。

俺達は2人を見送り、王宮へ行く。
まだ朱雀に会いに行けるのかどうか聞くためだ。

あっさり許可が下りた。
しかもウェーヌ様が案内してくれて、2時間程度で迷わずに朱雀の来ると言う山頂まで辿り着いた。
何故か岩の上に立たされる。

「そこにいれば朱夏の王はすぐにやって来る。」
「すぐに、ですか?」
「そうだ。そこは挑戦者の座だ。」

「……えぇっ!?」

挑戦する事になってるの!?
いや、まずは話を聞いてみたいなー、って思ってたんだけど…

ゴォォォォォォォォォッ!!

本当だ。すぐに来た…。

「あっ!あの!はじ…」

ゴォッ!!!

問答無用で炎の渦が襲いかかる。
羽ばたき1つで大きな木が3本燃えた。

様子を見るようにひと呼吸おいて、次は高速で突っ込んで来た。ギリギリで躱すなんて芸当は出来そうにない。すぐに挑戦者の座から飛び降りた。

「タケル!」

降りた地点に火の玉が投げつけられ、ストゥが引っぱって助けてくれた。

「タケル、ダメだよ。手伝ってもらったら加護は貰えないんだ。」
「ウェーヌ様!いきなりこれって…」
「だって加護が欲しいんだろう?」
「そうですけど!!ぅわぁっ!」

炎を纏った朱雀が縦横無尽に飛び回り、ストゥと引き離されティスも俺に近づけない。手伝い禁止と言われればティスも手が出せない。青龍の鱗装備のおかげで辛うじて躱せているけど、体力的に時間の問題だろう。どうしたら…

ボッ! ボッ! ボッ!

飛び回りながら火球も撒き散らし始め、服が焦げ始めた。

「加護が効かない!?」
「試しの炎は死なないので他の聖獣の加護が効きません。」
「死ななきゃ良いの!?」
「治癒できるからね。」

「あっ!」

ティスの声に注意を向けるとティスの長い髪が燃えている。長い三つ編みの中程から炎が上がり、慌てて消そうとするも届かず、ストゥが髪を切り落とした。

ティスの髪が…

まっすぐでサラサラで艶々のきれいな髪が…肩につくかつかないかになってしまった。

どんな髪型だってティスはきれいだけど…ティスに傷をつけた…朱雀が…傷を…

頭に血が上り、白熱するほどの熱を発して朱雀を真正面から受け止める。自分も朱雀以上の熱を発しているためぶつかり合えば激しい上昇気流が巻き起こり、先ほど火がついた木も燃料にして火災旋風が巻き起こる。

右腕を嘴が貫通したけどまったく気にならない。

「許さないっ!!」

火事場の馬鹿力で朱雀を押さえつけ、振りほどこうと暴れ、空高く舞い上がっても離さない。食らい付き、しがみつき、頭の飾り羽を掴んだ。

「ピィィィィィッ!!」

さすがに片手では振り落とされるか。

下手な受け身は役には立たず、転がりはしたが片足にヒビが入ったようだ。手首も痛い。

上空で待機する朱雀に向かって地面を勢い良く盛り上げてカタパルトにして飛びかかる。難なく躱され背後を取られ、背に強烈な蹴りを入れられて息が詰まった。

「がはっ!!」

衝撃で肺が潰れ、呼吸が出来ない。
一瞬思考も止まりかけたが風の加護で強制的に肺を膨らませる。

ハァハァと荒い息をしながら体制を立て直す。

睨みつけ口角をあげると朱雀は易々と挑発に乗って突っ込んで来た。

俺は魔力糸の網を展開し、朱雀を絡め取る。
通常ならこんな糸ごとき焼き切ってしまえるのだろうが、ぶち切れた俺の熱量は朱雀と同等で三聖獣の加護で魔力はじゅうぶんだ。加護が無くなる訳でなくて助かった。

ジタバタ暴れる朱雀の風切羽根を1本毟った。

「ぴぎゃぁっ!」

威厳どこ行った!?

ちょっと可愛いくらいの声で鳴き、朱雀は大人しくなった。
いや、闘争心は無くなってはいない。
先ほどまでより更に高熱になり、地面が溶け始める。対抗する俺も温度を上げざるを得ず、辺りの気温が急上昇、空に雷雲が発生し始めた。

ガガガッ!!

雷が閃き、辺りに落ちる。暴走したかのように連続で落ちる雷。さすがにビビって押さえつける力が緩んだ。

カッ!!

一際眩しく輝いて俺の魔力糸を吹き飛ばし、朱雀は天高く舞い上がり飛去ってしまった。

「き…きつい…」
「大丈夫ですか!?」
「魔力切れか?」

へたり込んで辛うじて頷くと、ティスが抱き上げてくれた。ティスと魔石からじわじわと魔力が流れ込んできて気持良い。

「こんな戦い方もあるんだな。」

ウェーヌ様…感心してる?

「王族の方々はどう戦うのですか?」
「基本、力と技の競り合いだ。みずから高熱を発して対等に渡り合うとは考えもしなかった。だが私は風属性だから真似は出来ないな。」

ふふっと笑うウェーヌ様は2度戦ってまだ加護は貰えていないそうだ。

「それにしても入山と挑戦が同じだなんて聞いてません…」
「会話が出来る訳でもないのにただ会っても仕方ないだろう?」
「そうだ…チビとも話が出来なくなっちゃったから通訳もしてもらえないんだ…」
「チビとも?」

チビが大きくなって会話が出来なくなってしまった事を話したら辛いな、って…

那海に会えないの、辛いんだろうな…
俺がちゃんと面倒見られれば良かったのかな…?

「2人で落ち込んでどうする。死んだ訳じゃないんだからまた逢えるだろう?」
「そうだな。那海が戻って来てくれたら養って行けるようにがんばらないと。」
「スキエンティア師の助手で給料は出てました?」
「あぁ、ペルが管理してくれていたんだ。だが、生活に必要な額が分からなくて…」

那海もお坊ちゃんだしなぁ。
王女様とお坊ちゃんでは金銭感覚が心配だなぁ。ペルさんを雇うのもムリかなぁ?

人の生活に思いを馳せて勝手にあれこれ想像していたら、いつの間にか眠ってしまった。家のベッドで目が覚めるまで、ずっとティスが寄り添っていてくれた。

ストゥが食べ物を買って来てくれていて、ありがたく食べた。

まさかこのままチビに会えなくなるなんて、まるで考えもせずにのんきにだらだらと過ごしていたんだ。
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