行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

文字の大きさ
上 下
166 / 203
行ってみたいな!あちこちへ

118 武術と魔術とお料理と

しおりを挟む
「うっ…なんで結婚の話、知って…? そう言う事で…11月に結婚するからそれまでに上級試験に合格したいんだ。」
「あなたに女性の恋人ができた、とアルクス達から聞きました。上級冒険者になる事が結婚の条件と言う事ですか?」

ティスが厳しいことを言う。

「違います。私は中級のままでも構いません。ファケレ様の希望です。」
「イーリスがお嬢様だからかっこつけたいんだってー!」
「こら!バラすな!!」
「きゃー!」

内情をバラした男の子が頭をぐりぐりされて喜んでいる。

「それで、イーリスもファケレに良いとこ見せたくて料理の練習してるの。」
「ティオ!!」

きゃー!と嬉しそうな声を上げて逃げて行く。

「ではファケレの教育とお嬢さんの料理指導、さっきの子の魔術指導でよろしいですか?」

「依頼主は父ですが私達に異存がなければ決めて構わないと言われています。どうぞよろしくお願いします。」
「ストゥ達なら文句ないよ!よろしくお願いします!」




依頼主の父親が帰って来たのは夕飯の直前だった。

「わたくしの依頼をお受けいただき、ありがとうございます。すでにお目にかかっておりますが、こちらが指導していただきたい娘のイーリスと息子のサナティオ、そしてイーリスの婚約者ののファケレです。そして私が当主のケリル、こちらが妻のティリアです。よろしくお願いいたします。」

ストゥ、ティス、俺の順に挨拶して夕食を共に食べる。この家の食事、美味しいのに何でわざわざ料理指導を頼むのかな?

「実はタケル様に教えていただいたと言う唐揚げがとても美味しかったので、客人まろうどの料理を教えていただきたかったのです。」
「じゃぁ依頼書に【客人料理の指導】とか書いておけば良かったのに。」
「それも考えたのですが、後で真似されるとうちのレストランの名物料理が霞んでしまわないとも限りませんので…」

ついでに美味しかったメニューを看板メニューに採用しようって事か。唐揚げもトンカツもサンドイッチもあちこちで教えちゃってるけど、看板メニューになるもの…そうだ!

でもあれは難しいからイーリスさんの腕が上がってからだな。

「こら!チビ、みんな食べ終わるまで席についてなさい!」
「ぼく、この子と遊びたい!」
「全員が食べ終わるまでお待ちなさい。」

チビがティオにちょっかいを出して遊ぼうと誘う。でもまだ食事中なので席に連れ戻す。ティオもお母さんに窘められている。

「みんなが食べ終わったら一緒に遊んで良いからね。」
「ききゅー!」
「やったぁ!お風呂は?一緒に入れる?」
「入れるよ。ぬるめのお湯が好きだから桶にお湯入れて調節してあげてね。」

全員食べ終わったらティオとチビは早々にお風呂へ向かった。

「客室にご案内いたします。」

3部屋用意できるって事だったけど、1部屋にしてもらった。ベッドが大きい。ファケレさんから聞いてすぐにキングサイズを用意したんだって。すごい!

部屋で荷物を解いて寛いでいると扉がノックされ、ファケレさんがお酒を持って来て飲もう、って。大歓迎!

「ところでオレは人に教えた実績が無いが、良いのか?」
「合同討伐の時に少し教えてくれたじゃない。あれ、分かりやすくて良かったよ。あの調子で教えてもらえればありがたいよ。」
「アルクスは弓使いですから剣技は教えられなかったでしょう?」
「アイツはそもそも人に教えるのムリ。ドーン!とかバーン!とかで何で分からないんだ?って言うんだ。」
「感覚派かぁ…」

タルパ大丈夫かなぁ?中級には自動的になれるだろうから平気かな?

「初級に教える分には大丈夫だよね?」
「さすがにそれは大丈夫だろ。何で?」
「初級の子2人をファケレの代わりにするつもりで育てる、って…」
「タートリクスもいるし、その2人がアルクスの教え方に合ってれば大丈夫だろ。」

うん、無理なら別れる…のかな?

そう言えばファケレさんの結婚祝いに持ってきたアイベックス翔の肉はこの家に渡せば良いかな?

早い方が良いかと厨房に預けたら、話を聞いたケリルさんがわざわざお礼を言いに来てくれた。大事に保存して式の料理に使わせていただきます、って。喜んでもらえて良かった。

ティオが寝たのでチビが帰って来た。

「チビ、ティオは水属性?」
『かぜー』
「じゃあ教えやすいかな?」

ティスにティオが風属性らしい事を伝えると、どう教えるか考え始めたようだ。

ストゥはどんな風に教えるのか聞いたら普通に筋トレと剣技と体術らしい。ひたすら筋トレと組み手。明日の朝からやるそうなのでそろそろお開き。

ファケレさんを見送って眠った。




翌朝、ファケレさんは山へしばかれに…が冗談じゃないかもしれない。朝食までには戻ると言って2人で走りに行った。

俺がイーリスさんに教えるのは食後だ。ティスはティオが午前中の勉強を終えてからだからのんびり。良いのかな?

「チビー!!」

ティオがチビと遊びたがって早起きをした。いつもなかなか起きないらしく、これも喜ばれた。朝から庭でピンポイントに雨を降らせて、そこに濡れに行くティオ。時々雨を強くしてイタズラすると大はしゃぎだ。

ストゥ達が戻って来て朝食。
ファケレさんがぼろぼろなのはなんで?

「いやぁ、走ってると足元に枝やら石やら放り込んで来て避けろって言うんだけど、他の場所で音立てられるとそっちに気を取られちゃうんだよね。」
「物には殺気が無いから音に頼るしな。殺気が無いからと音を無視すると跳ね返って来た何かに足元を掬われる。慣れるしか無い。」

「それを全部躱せれば良いの?」
「いや、躱して反撃してオレに攻撃が届かないとな。」

「ストゥに攻撃かぁ。正攻法じゃ無理そう。」
「いきなり諦めるな。」

食事中だけど冒険者モードになってるみたい。食べ方も豪快になっている。ティオはチビにあーんで食べさせて可愛がってる。末っ子だから弟ができたみたいなんだろうなぁ。

食べ終わったらストゥはまたファケレさんを鍛えるため庭に出て行った。

ティオに魔術を教えるのは日替わりの国語と算数と歴史の授業が終わってからだけど、授業態度を見たいから、とティスがチビを連れてついて行った。

俺とイーリスは厨房へ。
エプロンと三角巾を付けて手を洗う。

「食事の前にも洗いましたのにまた洗うんですか?」
「念のためだけどね。って!!何してるの!?」
「手を洗ったら手荒れを防ぐクリームを塗らないと…」
「ダメ!そのクリームは食べ物じゃないし、花の香りがするよ。」
「えぇ、花の香りのクリームです。人気なんですよ。」
「食べ物から違う匂いがしたら不味くなるからね!ハンドクリームは全部終わった後!分かった?」

「はい!以前の先生は何もおっしゃいませんでしたが、遠慮してたのでしょうか?」

そうかも知れないね。
爪も短く切って、髪はまとめる。手を洗う時は手首まで洗うんだよ、って教えただけで感心された。

どこまで知ってるのか分からないので聞いてみると、知ってても間違えてるかも知れないから思いつくままに教えて欲しいと言う。

だとすると、まずはお茶の淹れ方かな。

この家のお茶の知識は無いので料理長さんに教えてもらう。お湯の温度、茶葉の量、カップを温める事。イーリスは茶葉によって適温がある事に感心していた。

それから野菜の皮の剥き方、切り方を教える。

まずはサラダ。
イーリスは地属性なので玉ねぎの薄皮を焼いて剥く方法は使えない。地道に剥いてスライス。レタスは洗ってちぎり、トマトは湯剥きを教え、粗みじん切り。パプリカも皮を焼いて剥き、薄切りにして散らしてサラダ!
ドレッシングは基本のフレンチドレッシング。

次にジュリアンスープ。とにかく千切り。スープストックは今回は家のを分けてもらう。不揃いだけど頑張って細く切った。左手は猫の手~、猫の手~。

父母、兄姉姉弟、自分とファケレ、俺達3人。11人分作るとなると2品だけでもイーリスには大変だった。

だからメインディッシュとパンは料理長が作った。デザートは巨大キウイです。

「頑張ったね!すごく上手にできてるよ~。」
「…野菜は不揃いだし、ドレッシングは先生の言う通りに混ぜただけです!」
「湯むきだって頑張ったじゃない。」
「熱かったです。あんなに大変なら剥かなくても良いのに、って思いました。」
「食べる時はどう?」
「皮を剥いた方が断然美味しいです!」
「あはは!本当は皮と実の間にたくさん栄養があるから剥かないで食べた方が良いんだけど、練習だからね。」

「じゃあ、手を洗って料理を運ぼうか。」

ハンドクリームはまだだよー。



「今回は初めてなのでサラダとスープを作りました。スープストックは料理長のを使わせてもらいました。トマトとパプリカの皮は剥くのが大変だったよね。」
「はい。大変でしたがより美味しくなるように頑張りました。お召し上がり下さい。」

サラダは給仕の人が配ってくれたのでスープを各自のお皿に注ぐ。パセリのみじん切りを散らせばみんながほう!と感心する。俺もイーリスも席に着いた所で、いただきます!


「イーリス、美味しいよ!」

ティオが褒める。生野菜サラダは10歳のティオが食べられるか少し心配だったけど、杞憂だった。お父さん、お母さん、お兄さんもお姉さんも褒めてくれた。もちろんファケレさんもストゥもティスも。

「頑張った甲斐があったね!」
「はい!先生のおかげです!!」

先生なんて呼ばれるの擽ったいよー。

「あれ?チビは?」
「チビ、どっか行っちゃった…」

途端に悲しそうな顔になるティオ。

「あいらの所に行ったようです。」
「そっか。ティオごめんね。チビはお空の上のお友達が一人ぼっちだから毎日遊びに行ってあげてるんだ。」
しおりを挟む
こちらの拍手ボタンをクリックすると
「連れて行きたい日本へ」で
ストゥとタケルがラブホに行った時のいちゃいちゃが読めます。
拍手する

感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...