行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

文字の大きさ
上 下
156 / 203
行ってみたいな!あちこちへ

109 お祭り準備

しおりを挟む
翌朝、一晩かけてようやく正気に戻ったトルトニスさんと、みんなで朝食を食べている途中で外からワイバーンの声が聞こえた。

「きゅるるるるーーー」

『おとうしゃんがいちゅでもいけるよ、って。』

「わぁ!もう、いつでも行けるみたいですよ!」

「いいい急いで行きましょう!!」
「慌てなくても大丈夫じゃないかな?」

うん、そんなに慌てなくても大丈夫だよ。
慌てて立ち上がって色々こぼしそうになるトルトニスさんをなだめてフォローするサクリス。意外と甲斐甲斐しくて良い夫婦だな。
でも憧れのワイバーン騎乗だもんね。早く乗りたいよね。

少し急ぎめで食べてさっと片付け、戸締りをして岩棚へ出る。

「くるるー」
「くーきゅるー」

「おおおおはようございます!!」

どもるトルトニスさんを筆頭にみんなで挨拶をして、昨日の魚のお礼を言って、俺とティスとストゥがお母さんに、トルトニスさんとサリクスとピスカートさんがお父さんの背に乗せてもらう。

みんな身体能力が高いので、ひょいひょいとジャンプで乗る。俺も魔道具のおかげで同じように乗れる!

…んだけど、ストゥが抱っこして、先に乗ったティスに渡すという…

甘やかさないで欲しいんだけど。

「きゅるーーーー!」

チビの弟(?)が一声鳴くと風が巻き起こり、ワイバーンの背にぎゅっと押し付けられるような感覚が。と、すぐにドンッ!と言う音とジェットコースターの加速ような衝撃があり、気づけばすでに空高く舞い上がっていた。

夏至祭の時とは違うけど、高揚感はそれ以上だった。すごい!気持ち良い!!

後ろからティスが俺を、ストゥは俺たち2人をまとめてきゅっと抱きしめるので2人の腕をぎゅっと掴んだ。

馬で半日の距離を30分で飛んで町の上空を1度旋回して着陸すると、たくさんの人たちが集まって来た。

神巫かんなぎを連れて来たぞ!」

ピスカートさんが大声で言うと、人混みの中からおじいさんが出て来た。

「ピスカート!何がどうしたと言うんじゃ!!説明しろ!」
「ドゥクス、説明するからお前の家に行くぞ。」

チビのお父さん達は俺たちを下ろして一声鳴いて帰って行った。ありがとう!!




「で?」

「うむ。こっちが今年の神巫だ。美しかろう。」
「セレネの次に美しいな。」
「ディアナの次だろう。」

やっぱりティスは美しいって褒められるんだなー。でもセレネとディアナって誰だろう?

「それで、さっきのワイバーンは?」
「あれはこのちっこいのの親だ。ちっこいのを育ててくれてる礼だと、乗せてくれたんだ。」

「ちっこいの」呼びが定着してる。でもチビって呼び名も同じだね。

町長さんにおとなしく撫でられるチビ。海沿いの町の町長さんだし水属性かな?

「改めて挨拶しよう。わしはここの町長のドゥクスだ。水祭りの神巫役を引き受けてくれて感謝する。よろしく頼む。」

「よろしくお願いします。」

「「あら~、今年の神巫は特別キレイねぇ。」」

息ピッタリに声を揃えて奥の扉から入って来たのはそっくりな顔の2人の初老の女性。美人。

「「初めまして~。私達はこの町長とピスカートの妻のセレネとディアナよ~。双子なの~。」」

「初めまして。神巫の役を引き受けましたミーティスです。よろしくお願いします。」

「「あらまあご丁寧に~。そちらの方達は?」あら、うちの息子もいるわ~。随分久しぶりねぇ。」

最後だけハモらなかったなー。
ティスが俺とストゥを紹介し、サクリスがトルトニスさんを紹介した。いつも通り見習いに間違えられるのは予定調和なので否定しない事にした。

一卵性の双子なのでそっくりなセレネさんとディアナさんのどちらがより美しいかを町長さんとピスカートさんが揉めている。それをクスクス笑いながら眺める双子美人。

「「見分けもつかない癖にねぇ~。うふふふ…」」

ん?間違えられたりしてるのかな?

「「今年の神巫が来たんだって?」」

またハモる声。今度は若い男の人の声だ。
こちらも双子?

「「サクリスの弟のナウタと、いとこのカーティオです。」」

双子じゃないの!?

「「うわぁ、すごい美人だー!明日から禁欲でしょ?今夜おれとどう?」」
「お断りします。」

ティスをナンパしてセットでさくっとフられてる。当たり前だけど。
え?明日から禁欲?

「おお!言い忘れとったが明日から祭りが終わる明後日の夜まで禁欲してもらわにゃならん。頼むぞ。」
「そ…うですか。」

2日くらいなら大した事ないけど、急だな。わざとかな?

「「わ!君も可愛いね。成人したらおれとつき合わない?」」
「お断りします。」
「「じゃあこっちのかっこいいお兄さんは?」」
「断る。」

ティス、俺、ストゥに次々と声をかける。節操ないなー。さすがサクリスの血縁者だ。
あ、お父さん達から殴られてる。

「バカ共がすまん。それより唐揚げの料理法を教えてくれる約束だったな。これから昼食の準備だからディアナ達に教えてくれ!」

「「唐揚げって~?」」
「美味いんだ!我が家の定番にしたいくらい美味いんだ!!」
「「まぁ~楽しみだわ~。」」

ティスは神巫の詳しい説明を受けに行き、俺は料理を教える事になった。ストゥはチビと触れ合いたいトルトニスさんと待ってるって。昼食後に観光しようね。

2人は町長と網元なので食事の準備ともなると30人分になるらしい。もちろん複数の料理当番がいる。たいてい6人で作るそうだ。

中心が共同の食堂で二世帯住宅みたいな感じ。

ちなみに町長と網元の娘さんは2人ずついるけど、下の子はまだ10歳なので料理はまだ手伝ってない。今日は特にお祭りの飾り付けの準備を手伝っているって。

メニューは刺身と煮物と炒め物と汁物と米。
唐揚げは揚げたてを食べて欲しいから最後にする、と説明した。

人懐こい娘さん2人は15歳ですでに魚の捌き方が堂に入っている。一口サイズに切ってもらって下味をつける。それから他の料理にとりかかった。

女性4人のおしゃべりは留まるところを知らず、当番の男性2人と一緒に聞き役に徹した。それはそれで楽しかった。

看板のようにぶら下がった木の板を木槌で叩く。カーンカーンとよく響く乾いた音が食事の用意が出来た事を知らせた。

共同の食堂は広く、普通のお昼が宴会のようだ。町長一家、網元一家が奥の席に着き、その次に俺たち。サクリスはトルトニスさんと一緒に網元の側に座った。

10歳の娘さん達が前に立ち、給食の当番ように、声を揃えて言う。

「「海神わたつみ様の恵みに感謝して、いただきます!」」
「「「「「いただきます!」」」」」

「美味い!これ何すか?」
「いつもと少し違うな!」

ここでは素揚げはしても衣をつけて揚げる料理はあまりないようで珍しがられている。ついでに甘酢餡も作ってある。

「甘酢餡も食べて見て下さい。唐揚げにかけるとまた違った味で美味しいですよ。」

側にいた人にそう言いながらティスとストゥに盛り付けて渡す。
うん、2人とも美味しそうに食べている。

「…あ、あの…今年の神巫の方ですか?」

1番近くに座っていた人がティスに聞いてきた。

「はい。よろしくお願いします。」

ティスが無難に答える。
それを聞いた人が感動したように崇拝するようにティスを拝む。

なにもそこまで…と思うけど、加護が如実に効果を顕すこの世界では、それくらい重要なのかも知れない。

和やかに賑やかに昼食が終わり、午後は一緒に出かけられる、と思ってたのに、ティスの髪の結い方を決めるから、と娘さん達に連れて行かれてしまった。残念…



ストゥと町へ出かけると、町全体がお祭りの準備でソワソワしている。すごく楽しい。

お店や家の前が貝殻や作り物の花や、波に見立てたリボンで飾られている。作り物の花はよく見れば魚の鱗を乾かしたもので作られていて、光を浴びてキラキラと輝いていた。磨かれたアワビや真珠貝や夜光貝の貝殻はメインとして正面で存在感を主張している。

海の祭り!って感じだ。

あちこち見て歩いていたら小学生くらいの子供達が集まってお神輿風の物に飾りを付けていた。乾かした鱗を縦につないで暖簾のように飾ると、風に揺れてカシャカシャと優しい音色を奏でる。

「良い音がするね。」

つい声を掛けると、中の数人が大声を出した。

「空飛んで来た人だ!」
「ほんとだー!」
「僕も飛びたい!」

「えっと、ワイバーンにはいつも乗せてもらえるわけじゃないから、ごめんね。」
「でもワイバーンいるよー!」

確かに今のチビなら子供くらいなら余裕で乗せられると思うけど、サイズが小さいからお父さん達のようには行かないと思う。

「お前ら、ワガママ言うんじゃない。!」

すこし年上の子が言うと、みんな素直に「はーい」と返事をする。可愛い。

「これは何を作ってるの?」

輿こしだよ。ここにかんなぎを乗せるの!」
「もうかんなぎはできてるよ!」
「本物に負けないの作ったんだ!」

なるほど、子供神輿みたいな感じで、神巫は人形を代わりにするのか。

「来年はリールが神巫になるはずだから、この神巫もリールの顔にしたのー。」
「あっ!リールだ!」

噂のリールくんが通りかかったようで、子供達が盛り上がる。振り返るとリボンを抱えた美少年がいた。ティスに似てる!!

…特にナトゥラの描いた絵のティスに似てる。年齢が同じだからだろうか。

「ほんとだ!すっごくキレイな子だね。この神巫もよく似てるね。」
「あぁ、よく出来てるな。」

「リールは優しくて、いつも僕たちと遊んでくれるんだよ!でも恥ずかしいからって絶対お祭りの格好しないんだよ。」

良いお兄ちゃんなんだね。
でも恥ずかしくて着られない祭り衣装って…?
しおりを挟む
こちらの拍手ボタンをクリックすると
「連れて行きたい日本へ」で
ストゥとタケルがラブホに行った時のいちゃいちゃが読めます。
拍手する

感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...