行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

108 チビの里帰り

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姿を現した巨体に素早く投げつけられる槍。
だけど滑った体表面は刃物を寄せ付けず、傷1つ付く事はない。

「チィッ! やはり通らんか。ボウズ!」

大きなオオサンショウウオVS海の男は老人と海を彷彿とさせるピスカートさんは湿地に浮かぶ枯れ木や流木を足場に軽々と飛び回ってかっこいい。海の男、すごい!

呼ばれて体表を焼きます!と声を出した所で横やりが入った。

チビがサンショウウオを体当たりで岸に向かって弾き飛ばす。
仰向けにされてしまうと短い脚ではすぐには起き上がれない。もがくサンショウウオの表面を焼くとピスカートさんが止めを刺した。

「ボウズといい、そのワイバーンといい、ちっこいクセになかなかやるな!」
「ピスカートさんこそ凄いですね!魔術も使わずあんなに跳び回れるなんて…」
「小舟で呼吸を合わせて網を引く漁法があってな。出遅れる舟に飛び移って手伝ったりするからな!」
「それは見てみたいですね。」
「オレは網を引く方をやりたいな。」
「祭りの翌日にやるから参加して行け。」

めっちゃ楽しそう!!

今回は祭りがあると言うので1食分だけ取り分けて残りを全て譲った。山椒魚の唐揚げうまー。

「この唐揚げっての、美味いですよね。作り方教えて貰うわけにはいきませんか?」
「良いですよ。簡単ですから。」

船頭さんは何とか再現したくて料理が得意な人に説明したんだけど、再現できなかったんだって。下味つける習慣がないとね。今は急いでるから帰りに寄る約束をして先を急ぐ。

距離を探るとカウテスの町まで1度で飛べるようだ。意外と近かったのか効率が上がったのか。

折角だからチビのお父さん達に顔出して行きたいな。

「なんでここから先は転移しないんだ?」

ピスカートさんの当然の疑問。

「行ったことのある場所か、知り合いのいる場所にしか転移できないんです。」
「そうか、残念だが仕方ないな。だが予定よりかなり速いから、安心してくれ。何ならここで1泊しても良いくらいだぞ。」
「ありがとうございます。それならワイバーンの営巣地に寄りたいです。」
「そうですね。折角ですからチビの親達に顔を見せて行きたいですね。」
「そうだな。」

「ここで産まれたワイバーンだったのか。おう!寄って行こう。」

崖を降りるので馬は後で借りることにして徒歩で行く。崖を降りる道をピスカートさんは知らなかったそうだ。ほとんど獣道だもんね。

営巣地まで行くためにトルトニスさんの研究所のドアを叩いた。

「おーい、いるかー?」

ストゥが声をかけると、少ししてドアが開いた。

「あぁ!あの時のワイバーン!」

ストゥには目もくれず、俺の頭に乗るチビに手を伸ばした。

パンッ!

チビがトルトニスさんの手をはたき落とす。
チビはちゃんと手加減しているようでトルトニスさんに怪我はない。

懲りずに手を伸ばすトルトニスさん。
躱し続けるチビ。

「…チビ、抱っこされてあげない?」

トルトニスさんの手を叩きながら俺の顔を見て少し考え、しょうがないな、と言った風情で抵抗を止めた。

「あぁぁぁぁぁ…ワイバーンが…ワイバーンが…」

「ありがとうな。」

トルトニスさんの後ろからサクリスが出てきて礼を言う。

「お前ーーーーー! こんな所におったんかぁっ!!」

え?
ピスカートさんの声に驚く。知り合い?

「おぉ、親父、元気そうだな。」

え?お父さん?

「こんなに近くに居るなら連絡くらい寄こさんか!」
「こき使われそうだから嫌だ。」
「当たり前だ!」
「俺は植物の研究をしてるんだ。漁はやらない。」
「漁ならやりたがる奴らはいる。まとめ役が必要なんだ!」
「兄貴がいるだろ。」
「あいつは…くっ…」
「は?死んだのか?」
「いや、男の尻を追いかけて出て行った。」
「…あぁ。」
「ナウタは何も考えとらん。ありゃダメだ。」

何だか立て込んでるなぁ。

「すみません、営巣地に行きたいんですけど。」
「あ、すみません。どうぞどうぞ。」

ピスカートさん達を放置して奥へ通される。
奥の扉から出れば、大きなワイバーン達が飛び交い、ここだけ雨が降っている。

すっかり忘れてたけどワイバーンは雨を降らせるんだったね。

「きゅぅいぃ…!」

チビが少し甘えた声を出すと、雨に煙る崖の穴から2頭の大きなワイバーンと、チビと同じくらいのワイバーンが出てきた。

小さなワイバーンが興味深そうにチビに近づき、周りをくるくると回る。大きなワイバーンは側に降り立ってゆっくりと近づいてきた。

トルトニスさんが感動に打ち震えている。

腕からするりと抜け出したチビが兄弟と一緒に舞い踊る。ふわふわ、くるくる、初顔合わせ。チビが嬉しそう。

「西の町ではありがとうございました。」

お父さんワイバーンに近づいてお礼を言うと、頷くように首を縦に振った。お母さんワイバーンもすぐ側まで来てくれる。

両手を伸ばすと、2人とも左手にスリスリする。水辺の王の契約印だね。

チビ達がお父さんお母さんの周りを飛び回り、遊んで欲しそうにすると、お父さんワイバーンは誘うように垂直に飛び立つ。

ドンッ!と地を蹴る音と衝撃。
崖が崩れるんじゃないかと少し心配になったけど、ここの岩は硬くて崩れる事はまずないそうだ。

…雨でチビ達が見えない。

「うぅ…羨ましいです!私も早く森の王の護符が欲しい!」

水と風の眷属だから水辺の王の護符でも良いんじゃないかな?

「水辺の王の護符は手に入らないんですか?」
「上手くすれば水祭りに水辺の王が来る事がありますが、どうでしょうか?」
「水祭り!すぐじゃないですか。きっと来てくれますよ。」
「そうですかねぇ。10年に1度来るかどうかと言われているんですよ?」
「でも神巫が美しいと来るんでしょ?今年はティスだから絶対に来ます!」

それは期待できそうですね、と言ってくれたので一緒に行かないかと誘う。

サクリスと相談するって。
大好きなワイバーンと仲良くなれたら良いね。

雨が強くなり空に雷光が閃き出した。
チビの兄弟がふらふらと降りて来てお母さんに乗っかる。チビはお父さんと2人で上空で何してるんだろう?

「見えなくなってしまいましたし、中で待ちませんか?」

トルトニスさんの提案に乗り、ワイバーン母子に手を振って研究所に入る。
浄化で身体を乾かしてダイニングでお茶を入れる。
まだ言い合いをしていたピスカートさんとサクリスを呼んで休憩をさせ、トルトニスさんが水祭りに行きたいと相談した。

「…私は行きたくない。だが…トルトニスの希望は全て叶えたいと思う。はぁ…仕方ない。行こう。」
「サクリス!ありがとう!!」
「ならとっとと馬を借りに行くぞ!」

外は今、嵐です。
この研究所までの道はかなり急な手摺りのない崖の道だから、もう少し待った方が良いとトルトニスさんが止めた。正論です。

「きゅきゅーっ!(ままー!)」

チビが飛び込んで来た。お父さんとの語らいは終わったのかな?

『あした、おとうしゃんが みんなを のしぇて はこんで あげるって。』
「え?俺たち全員?」
『そう! ちびを ちゅよく してくれたから おれいだって。』
「でも6人もいるよ?」
『おかあしゃんも のしぇて くれる。』

3人ずつか。それなら大丈夫かな?

「ワイバーンと会話が出来るのですか!?」

チビとだけだと前置きして会話ができるようになったきっかけを説明した。

「そうですか…もしかしたら僕も会話が出来るようになるかも知れないんですね!」
「その可能性はありますね。」
「それで、チビは何だって?」
「あ、そうそう。チビのお父さんとお母さんが明日、俺達全員乗せて運んでくれるって。」
「ワイバーンに乗せてもらえる!?」

衝撃に身を震わせて固まるトルトニスさんを当たり前のように抱き寄せてサクリスさんが座り直した。良くある事なのかな?

「本当にワイバーンが乗せてくれるのかい?」
「きゅっきゅ!(あしたね)」
「明日ちゃんと乗せてくれるそうです。」

そりゃぁ凄いな、とサクリスが愛おしそうにトルトニスを見つめる。ストゥの目も輝く。人は皆、空への飽くなき探究心を持っている!!(高所恐怖症の人を除く)

「くーーるるるーー…」

ドガッ!

外からワイバーンの語りかけるような鳴き声と扉に何かがぶつかった大きな音が聞こえた。

『おかあしゃんが しゃかな たべてって。』

ドアを開けてみると、大きな魚がぴちぴちと跳ねていた。
スズキらしい。2m以上あるよ…

刺身と塩焼きと唐揚げでいただきます!!
他の食材がなかったのでカウテスに転移して買って来る。ナスとピーマンとシシトウの揚げ浸し、おかのりのおひたし、変なカブだと思ったらコールラビって言う野菜だったけど、調理法は同じで良いそうなのでさっと炒めてみた。

「この唐揚げってヤツはサンショウウオでも作っていたやつか。魚でも美味いな!」

ピスカートさんも唐揚げの魅力に嵌まった模様。
大人から子供まで、唐揚げは人気です!パーティー料理にも欠かせないんですよ、と言っといた。嘘じゃないよね。高級なパーティーではないかも知れないけど。

みんなで楽しく食事してるけど、トルトニスさんが戻って来ない。サクリスが食べ物を口に運ぶと自動的に口を開けて食べるんだけど、味は覚えてないかも知れない。後でまた作ってあげよう。
ちなみにスズキを捌いてくれたのはピスカートさん。豪快な漁師料理って最高だね!
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