行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

閑話 ファケレ③

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後ろ向きになりかけた思考を立て直し、ドレスが更に可愛くなったね、って褒めたら嬉しそうに頬染めてはにかんだ。

美少女のはにかみ笑顔で立ち直るチョロい俺。

ハッとして顔を振り、何かを振り払うような仕草をするイーリス。

「ちゃんとしたお礼がしたいと言うのに、いったいどうしたら良いのですか!?」
「え?お礼ならもうもらったよ?手料理作ってくれたでしょ?」
「あんな失敗料理!お礼になる筈ないでしょう!」

「えー?だって初めての手料理でしょ?俺のために初めてを一生懸命頑張ったってのが嬉しいよねー。」

「でも…」

本人は納得行かないんだろうけど、俺は満足です。

「一生のうち、女の子に関わる事なんて数える程しか無いだろうから知り合えただけで幸運なんだよ。だから満足。欲を言えばイーリスの幸せを見守りたいけどね。」

母が専属護衛にならないかと言ってたでしょう?って…中級の俺じゃ力不足だよ。でもそれもかっこいいな。上級試験受けてみようかな?

「…ではできるだけ早く、『初めて大成功』した料理をお届けします!」
「それ良いね!めちゃくちゃ楽しみだよ!」

帰りも揉みくちゃにされそうなイーリスとお供を家まで送って行った。



翌日、いつものように山菜を採って店に並べ、店を開いていた。親父さんも山菜屋に拘らなくても良いと思うんだけど常に開いている事が信用に繋がるんだと力説されては、反論するほどの気合いはない。

「よう!タケルじゃないか。久しぶりだなー。ん?それ何?祭りに参加してたのか?鱗は手に入ったか?」

噂をすれば影が差すとはこの事か。
タケルはワイバーンの子供を連れていた。そして鱗も入手したと言うし、王族と貴族のお姫様の舞いを間近で見たと言う。いいなぁ。



午後になって緊急放送が聞こえた。

『巨大ツタに花が咲きました。紅染蜂べにぞめばちの来襲が予想されます。警戒を怠らぬようお願いします。巨大ツタの実には毒がある可能性があります。口に入れないようご注意下さい。』

巨大ツタってあれか。ここからでも見えるそれはツタなのに絡まり合って巨大化し、3ブロック先に大樹のようにそびえている。まぁ、ここには関係なさそうだ。



家に向かって歩いているとどこかで

ぱーーーーーーーーん!!

と言う音が聞こえた。

何だろうか?と見上げるも、特に変化はなかったのでそのまま帰る。

そして青い風が吹いた、ような気がした。

風に色なんか付いている訳無いのに何故かそんな気がした。
周りにいた人たちが次々と踞り、赤い顔で苦しそうに呻き始める。毒の風?こんな広範囲に?

『森の王、水辺の王、天空の王、人間達を強すぎる薬から解放して下さい!』

どこからともなく聞こえたその声には聞き覚えがあり、逆鱗に触れたのはタケルなのか、と妙に納得した。
ごぅっと強い風が吹き、甘ったるい香りが吹き払われて柔らかな光があちこちに浮かぶ。強すぎる薬とやらから解毒されたんだろう。苦しんでいた人たちに落ち着きが戻ってきて…カップルがそこかしこででき始める。盛りがついたように互いを求め合う人達。

何が起きているのか?そしてなぜ自分は何とも無いのか?

疑問に思いながらイーリスが心配になり、家の様子を見に行くことにした。イーリスの家までは走って20分くらいか?

心配が募り、15分で着いた。

大声で呼んでもノックをしても返事がないので、失礼して家に入る。

「おはようございます!ファケレです!」

少しして末っ子が慌てた様子で現れた。

「あ!ファケレさん!父様と母様が部屋に籠っちゃって母様が大声で叫んでるの。父様、どうしちゃったんだろう?」

そう聞いて心配になったが、すぐに出てきた姉たちが仲良くしてるだけだから大丈夫、と末っ子に説明しているのを聞いて合点がいった。

つまりこの騒ぎは何かの媚薬によるものだろう。俺や姉たちと末っ子に影響がないのは何故なのか分からないけど、青龍に守護されるこの町で不幸な縁が結ばれる事はないだろう。

…と、玄関がバーン!と開いた。

「カレン!大丈夫か!?」
「まぁ、ユーグ様!私は何ともありません。」

上の姉が名を呼ばれ、出迎えると末っ子が姉さまの婚約者です、と教えてくれた。できた子だ。

長女と婚約者が手を取り合った途端、婚約者の様子が変わった。

「うぅ…あ…ぐっ…」
「ユーグ様、どうされたのです?」

心配そうに覗き込む長女をがばっと抱きしめ、深い口付けを交わす。媚薬が効果を発揮したようだ。さらに身体に手を這わせ出し…

…って、おい!!

男同士ならともかく、女の子は結婚するまで清い関係である事を求められるものだろう!

可哀想だけど引き離して気絶させる。

ごめん。

「なぜ突然…こんな…」

長女がとろんとしながら疑問を口にする。なんでだろうね?

「今、この町全体が媚薬に侵されているようです。たださっきまではこの人も何ともなかったし俺も何ともないし…効く人を選ぶ媚薬なんて聞いた事もありません。」
「びやくってなに?」

おっと、末っ子にはまだ早い話だった。

「大人のお薬だよ。お姉さん達でもまだ早いお薬。」

仲良くし過ぎちゃうお薬です。
好きな人にだけ効くのだとしたら町中で次々とカップルが出来て行くのは不自然だし…

とにかくこの人を寝かせましょう、と客間に案内された。末っ子は自分の部屋にいるよう言われ、不満そうだけど姉の迫力に負けて言われた通りにする。

気を失いながらもガン勃ちの彼のズボンを寛げ、そっと上掛けを掛けた。

まだ苦しそうだけど仕方がない。

もしかしたら長女が側にいるから治らないのかも知れないと部屋から出てもらうと、目に見えて落ち着いた。

「失礼します。」

せっかく落ち着いたのに今度はイーリスが来た。姉の婚約者は落ち着いたままだけど今度は俺の身体が熱くなる。これは…?

関係者同士に限るのか?

それにしてもこれはきつい。

「ユーグ様は大丈夫ですか?」
「その人は大丈夫だ。…でも、今度は…俺がヤバい。ごめん、イーリスも部屋から出てもらえるかな?」

距離を取る俺の言葉に怪訝な顔をするイーリス。

「その人も俺も媚薬に侵されていて、どう言うきっかけか分からないけど突然媚薬の効果が出てくるんだ。今はその人が大丈夫で俺がヤバい。だから…」

「ヤバいと言うのは…?」

ずいっと近づくイーリス。無垢ゆえの無神経。ダメだから!本当にヤバいから!!

ぐいぐい近寄るイーリスを遠ざけようと押しのけた手に細い肩が触れる。少しは痛い目に会わないと判ってくれないのかも知れない、と考え始めたのはすでに薬の影響か。

押していた手で逆に引き寄せ、頬に手を当てて上を向かせて唇を奪う。驚いて目を見開くイーリスに心の中で謝りながらイーリスも悪いんだと考える。優しくする余裕なんかないので無理矢理舌をねじ込むと噛み付かれた。

痛みで我に帰り、かろうじて押しのける。

「ごっ、ごめんなさ…口…中…舐める…?え?」

「だからヤバいって…近寄ると…それ以上の事、するから。嫁に行けなくなるよ?」

「え?」
「早く出て行って!!」

大きな声を出してしまった。あの小さい口でしゃぶって欲しいとか一瞬でも考えてしまう自分に腹が立つ。イーリスは俺の大声に駆けつけて来た使用人に連れ出され、俺達はここにいる方が危険だからとユーグさんを起こして屋敷を出た。

ユーグさんも自分が手を出しそうになった事に落ち込んでいるけど、とにかくそれぞれ家に帰った。



翌日、ギルドの人達が調査として聞き込みに来た。恥ずかしいので部分的に濁したけど、真実を語った。結果は後で公表されると言う。現在判っている事は巨大ツタの実に媚薬効果があり、それが弾けたせいで町中に広がった事、無理矢理の事案は発生していない事、互いに好ましいと感じた時しか発情しない事。

確かにイーリスは好ましいけど恋愛感情なんてないと思うんだけど…?

媚薬の効果か家に帰ってからもイーリスの顔やうなじや手や脚がちらついて身体が熱くなってしまっていた。罪悪感でいっぱいだ。もう、顔を合わせられない。

親父さんに祭りは終わったから依頼終了だな、と念を押し、次の依頼をギルドで探すと帰りの護衛の補充の募集があった。行き先は南の港町。

やましさから逃れようとその依頼に飛びついた。




途中、狭い崖の道を通るはずがいつの間にか広い道に変わっていて驚いた。

最後の方だけ狭いままだったのでおそらくタケルがそこまで進んでから道を広げたんだな。どうやったのかは判らないけど、こんな大規模な土木工事が誰にも知られる事なく行えるのはきっと客人まろうどだけだろう。今度聞いてみよう。

俺自身がずっとイーリスに脳内を支配されていた以外、問題なく目的地に着いて依頼達成。臨時だったからか安い。それでも西の町からはなれられてホッとしていたのにギルドに伝言が届いていた。

『イーリスが泣き続けている。至急会って話がしたい。』

マジかー…。
無理矢理キスされたから恨んでんのかな?でもあの時は…

思い出すとヤバいから!!
とにかくちゃんと謝ろう。

都合のいい依頼がなかったので普通に西の町へ戻る。難所が楽になったから時間短縮できるのはありがたい。あー、でも行きたくない…逃げ出したい…でも申し訳ないから行かなきゃ…

重い足取りでイーリスの家に着くと、応接室に案内された。



「ご足労いただきまして申し訳ありません。あの騒ぎの日から泣き続けるイーリスにほとほと困っております。」
「イーリスさんはなんと?」
「何も言わないのです。ですが使用人からユーグ殿とあなたがいらした事と、あなたが大声を出した事だけは知り得たので説明していただきたくお呼び致しました。」
「そうですか…」

そんなに嫌だったのか。媚薬のせいとは言え、そこまで考えずにキスしちゃったのは申し訳ない。俺は正直に話した。
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