行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

閑話 ファケレ①

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リクエストがあったファケレの恋話です。キス止まりですが男女の恋愛ですのでご注意下さい。

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俺は山菜採りに来ていた。

世話になった人が腰を痛めて、店を休めば良いのに夏至祭を前に休む訳には行かねぇ、とゴネるので格安の依頼として手伝いに来た。

鮮度が大切だと毎朝山菜摘みに行かされ、戻って露店で販売。1日の売り上げを落とすと日当も下がる。恩が無ければ引き受けたりしないのに!

愚痴はともかく、1日の必要量までの9割を採ったところでありえないものを見つけてしまった。

華やかな桜色のドレスを着た長い黒髪の少女。

山の中にそぐわない姿の少女は斜面を転がり落ちて来たようであちこち泥や植物の汁で汚れ、スカートも破れてしまってすらりとした片脚が膝上辺りまで露わになっている。

…目の毒。

放置もできないけど、無闇に触れることも憚らられる。困った。

とりあえず声をかけてみる。

「あー、えーっと…大丈夫ですか?」

返事はない。少し近づいてスカートを引っ張り、脚を隠す。そして顔に数滴の水をかけた。

「ん…」

小さく声を出し、震える瞼を持ち上げた少女の鮮やかな緑の瞳は長く濃いまつげに縁取られ、見る者を魅了する。

「ここは…?」

「っあ!あぁ、ここは西の町の北の山の中だ。俺は山菜採りに来てるんだけど、君は?山に来る服装とは思えないんだけど…」

「…わ、わたしは…その、探し物です。自分で見つけなければいけない物があって…」
「従者とか護衛とかは?」
「商人の娘ですから従者は居りませんが、護衛を兼ねた案内人と一緒でした。でも魔獣に襲われて…」
「えっ!?怪我は?」

斜面を転げ落ちて来たくらいだし、どこかしら怪我はしているだろう。

「案内人が魔獣を引きつけている間に逃げたので怪我はありませんが、彼が心配です。」
「そうだね。探して合流しよう。」

そう言って立ち上がるのを待つも、少女は身を起こそうとして顔をしかめた。

「やっぱり怪我してるんじゃない?」
「…そのようです。」

軽い怪我ならポーションで直せるけど…

少女は足首を挫いたのと擦り傷があちこちにあるようだと言った。

「浄化できる?傷を浄化してからポーションを塗って、それからポーションを飲むと傷が綺麗に消えるんだよ。」

女の子だから傷が残ったら困るかも知れないのでそう教えると、目をまん丸にして驚いている。

「ポーションは飲む物ではないのですか?」
「もちろん飲むけど、擦り傷切り傷には直接塗った方が効き目が強いんだ。捻挫や打ち身には飲むしか無いけどね。」

冒険者は傷なんて気にしないし、一般の人はポーションを塗るなんて思いつきもしないのだろう。俺も転んだひょうしに溢れたポーションが傷を治すのを見て知っただけだ。ポーションを渡して念のため背を向ける。

「終わったら教えてね。」

「…どこに傷があるかご存知なのですか?」
「えっ!?知らないよ!でもドレスだから脚に傷があるかも知れないだろ?」

あからさまにホッとしているのが判る。疑われるのは仕方ないかな。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

突然の悲鳴に驚いて振り向くとドレスのスカートを押さえて顔を真っ赤にしている。

「そんなに深い傷が!?」

そう聞いたら大きな目に涙を溜めて首を横に振る。夏至祭り用の新品のドレスなのに本番を前に破いてしまった事にショックを受けたようだ。

「それは…まぁ、ショックだろうけど…魔獣も出るこんな山の中になんで新品のドレスなんて着て来たの?」

そう言ったら泣き出してしまった。
あぁぁぁぁ…もう、どうしたら良いんだよ…

「まぁ、とにかく町へ戻ろう。ドレスを直すのもそれからだろう。」

傷を治すよう言ったら後ろを向くように言われたので、やっぱりスカートの中かな?と考えてしまったのは不可抗力だ。

案内人は程なく見つかり、魔獣も凶爪ウサギ3匹だけだったのでさくっと倒して肉として持ち帰る。案内人兼護衛なのに弱すぎないか?と思ったらまだ初級だった。中級だと言うから雇ったのに!とお嬢ちゃんが怒ってるけど、その辺の確認もせずに雇うなんて商人としてどうよ?

ギルド通せばそんな失敗ないからね。

…で、良くここまでハイヒールで歩いたよなぁ。努力は素晴らしい。でも遅々として進まない現状は…

俺は山菜と兎を案内人に持たせ、お嬢さんをおぶった。
脚が見えてハシタナイから姫抱きしろと言われてもここでは無理だよ。町が近づいたら姫抱きしてあげるから我慢して下さい。

しかし女の子って軽いなー。

歩きやすい道に出た所で少し休憩して、姫抱きをしてから気がついた。

「怪我はもう治ってるし、ここからは歩けるよな。」
「…歩けます。」

抱っこしてから気づいたせいかジト目で見られた。下心で抱っこした訳じゃないぃ!!

破れたドレスで町を歩かせる訳には行かないので馬車を呼ぶ。案内人の前金を聞いたら中級の相場だったので初級の相場を差し引いて返金させてその場で別れた。

ギルドには黙っていてやるけど、次は無いからな。

馬車の代金は戻って来た分で支払うと言うので任せた。

で、行くとかなり大きな店で商売も多岐に渡るらしいが、聞いたら煌びやかな印象が残ったので宝飾品とか服飾品とかかな?

礼をしたいと引き止められたけど山菜が萎びるから断って市場に行く。山菜を種類ごとにまとめて並べ、ウサギを捌いてそれも並べる。

1匹は自分用に取っておいた。

山菜は割と早く売り切れるので昼過ぎには暇になる。片付けをして遅めの昼食を露店で食べるのがいつもの流れだけど、今日は凶爪ウサギがあるからタケルに教わった唐揚げを作ろう。

顔馴染みの屋台で小麦粉や調味料をもらって鍋と油も借りて作った。礼をよこせと言われて唐揚げを3分の1取られた。

軽く飲みながら唐揚げを摘んでいると、さっきの嬢ちゃんがやって来た。

「やっと見つけた!お父様、この方です。」

え?父親も?
まあ娘を助けてもらったら礼を言いたくなるだろうが、口止めかも知れない。通りすがりにおんぶされて山を降りて来たのは不可抗力だけど、なにかまずかったかな…

「娘を助けてくれたそうで感謝いたします。ところで娘はあなた様のお名前も聞かずお礼もせずに帰してしまったようで大変申し訳なく…」
「いえ、こちらこそ名乗りもせずにお暇して申し訳ない。商品の鮮度が落ちるかと慌ててしまいまして。」

山菜売りだから、と言うと父親は納得してくれた。

「申し遅れましたが私ケリルと申します。よろしければ今夜、夕食にお招きしたいのですがいかがでしょうか?」

確かに暇だけど、わざわざ招待されるのは面倒臭い。堅苦しいのはイヤだな…

「ご丁寧にありがとうございます。ファケレと申します。ありがたいお申し出ですが、大した事もしておりませんのでここまで出向いて直々にご挨拶いただいただけでじゅうぶんです。」

「あの!私はイーリスと申します。どうかお礼をさせて下さい。」

「お礼かぁ…手料理なら食べたいけど。」

美少女の手料理なら食べたいから素直にそう言った。お嬢様には無理かな?父親がオロオロしてるし…

「これ、俺が作ったさっきのウサギの唐揚げだけど、どう?客人直伝だよ?」

客人直伝の言葉に父親が食いついた。

「あなた様は客人と面識がおありで?」

「一緒に合同討伐に行った程度だけど、いくつか料理を教えてもらったんだ。」

客人の噂は上流階級には知れ渡っているそうだ。お披露目があったとか何とか。

「確か18歳だって言ってたけど、イーリス様と同じくらいの身長だったっけ。酒に弱くて可愛かったなぁ。」

「ファケレ様はその…客人の方を…?」
「え?いや、もう上級2人が伴侶同然で、入り込む隙なんてないよ。いい友達って感じ。」
「ご友人ですか!もしお会いできるならいつか紹介して頂けますかな?」

「ええ、機会があれば紹介しますよ。」

そして唐揚げを味見した2人は同じ顔でうっとりとしていた。仲良し親子。(笑)

夕食を作るから絶対に来て欲しいと気合いを入れるイーリスに押され、夕食に行く約束をしてしまった。

さぁて、どんな料理が出て来るか。



世話になっている親父の家は大通りから外れた路地にあるので迎えの馬車は入って来られない。身なりの良い使用人が歩いていると目立って仕方ない。

まぁ、俺んちじゃないから良いか。

服なんて普段着か旅装束しかないので普段着だ。なるべく清潔なシャツとズボン。初夏だからこれで良い。

案内されて行くと、家族総出で出迎えられた。え?何?何かおおごとになってない?

両親と兄、姉、姉、弟だそうだ。5人兄弟で3人が女の子なんて珍しい。そして1番上も24歳で俺より年下だった。

丁寧な挨拶に面食らいながら食堂に案内されて席に着く。間も無くイーリスがエプロン姿で出て来て頭を下げた。

家族はなぜか固唾を飲んでいる。

そして出て来た料理は野菜スープ、ゆで卵を添えたサラダ、味の違うチキンソテー2種、パン、デザートのフルーツゼリー。

どれも美味しくて肩透かしを食らった気分だ。

「とても美味しかったよ。ごちそうさま。」
「あぁ、本当によく出来ていた。これならいつでも嫁に出せるな。」

こんな美少女をホイホイ嫁に出せるなんて、この親父、すげぇ。俺だったら誰にもやりたくないぞ。

でも兄弟みんな美形だし、商人なら有力な貴族や金持ちと繋がりができる方が良いのかな。

「本音はどうですか?」

上の姉に真っ直ぐに見つめられてたじろぐ。いや、本当に美味しかったってば。

「嘘やお世辞は言ってませんよ。でもお金持ちのお嬢様だから料理なんてしないと思ってたんで正直、失敗料理を期待してました。侮っていて申し訳ない。」

笑顔で謝罪したらイーリスの顔が引きつった。だから、ごめんて。

「失敗料理を期待?不味いお料理を食べたかったの?」

10歳だと言う末っ子が不思議そうに聞く。

「そう言う訳じゃないけど、美少女がおろおろしながら頑張って作った料理だったら嬉しいからさ。あ、もちろん美味しいのも嬉しいよ?」

「胃袋を掴むなら料理上手でないとダメでしょう?」

とは下の姉。

「他は知らないけど俺は多少、自分で料理するから一緒に失敗しながら我が家の味を作っていけたら良いな、って…」

恋人もいなのに何語ってんだ、俺。

「まぁ、恋人もいない寂しい独り者の夢だから、あんまり真面目に受け取らないでね。」

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