行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

20 別れと旅立ち 前編

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応接間に移動して改めて自己紹介をする。

「オレはストゥディウム、上級冒険者だ。こっちはミーティス、同じく上級冒険者。そしてタケルは中級冒険者で、俺達の伴侶だ。」

恋人飛び越えたーーーー!
え?伴侶なんて紹介して良いの?いろいろすっ飛ばしてるけど…嬉しい……

「あれ?前はミーティスくんの恋人って聞いたけど。結婚したんだ!良かったね。」

サクリス…軽い。

「じゃぁ私の紹介だね。私はサクリス、人に有益な植物の研究をしている。タケル君にプロポーズして断られて飛ばされた所にトニトルスがいてね、柄の悪いのにナンパされてたから助けようと追いかけたらね。この優しい顔が鬼の形相になってナンパ男達を薙ぎ払うんだよ!もうかっこいいやら美しいやら、惚れるなって方が無理だよ!それでその場でプロポーズした。」

「軽ぅ。」

「惚れっぽい自覚はあるよ!でも想いを返してもらえたら決して裏切らないのが私だ。」

ナンパ男を撃退した途端に新たなナンパ男にプロポーズされてトルトニスさんは嫌じゃなかったんだろうか?

「もちろん僕も初めは殴り飛ばしましたよ。でもめげないし豹変した僕を美しいなんて言う人、初めてだったから可笑しくて興味を持ってしまったんです。」

豹変した所、見たいような見たくないような…

「それで、そのワイバーンの幼体はどうしたのですか?」

そうだった!
今回の目的のチビの両親探しを出会いから説明した。

「確かにその時、ワイバーン同士のケンカで竜巻が発生して卵がいくつか巣から放り出されました。その子の親も探していましたがそんなに遠くにまでは気配が辿れなかったのでしょう。今はその子の兄弟の卵を世話しているはずです。」

「良かった!じゃあチビは両親に会えるんですね。」

良かったな、と抱っこ紐の中のチビを撫でる。

「できるなら僕にも触らせて貰えませんか?」

トルトニスさんがそう言うのでチビを取り出したけど、尻込みしている。もしかして…

「あの、トルトニスさんの魔力属性は火か土ですか?」

「そう!火属性だよ。髪にぴったりだろう?」

サクリスが自慢げに言った。

「チビは風か水の属性じゃないとすぐには近づかないんです。」

「そんな!!」

あ、orzになってる。そうだよな、好きで研究してる対象が自分を避けるなんてがっかりだよね。

加護かけられるかな?

『森の王、水辺の王、トルトニスに加護を。』

手を組んで小さく呟いて祈ると、キラキラした水の粒が螺旋を描いてトルトニスさんの身体を包み込んだ。

「きゅい?」

加護の気配にさっそく反応したチビ。興味を示したチビにトルトニスさんが恐る恐る手を差し出すと、チビが飛び乗った。

「~~~~~!!
感動です!ワイバーンの、それもこんな小さな幼体に触れるなんて…」

気持ちが伝わったのかチビがドヤっている。

「今、何をして下さったのですか?」

森の王と水辺の王に加護を祈った事を伝える。間接的な加護だから永続性は無いような気がする。護符を手に入れるのが良いんじゃないかな?

「森の王の護符に必要なのはヒゲだよね。じゃあ水辺の王は?」

甲羅は取れそうもない。

「甲羅にしっぽみたいなのが生えてただろ。あれだ。」

あったっけ?覚えてないけど亀だし、おめでたい絵の亀みたいにふさふさだったのかな?今度、水辺の王に会ったら見てみる!しっぽも貰えるか聞いてみよう。

「それで、チビの両親にはすぐ会えますか?」

「雨期に入ってしまったら3日は土砂降りになり危険です。その前に会いましょう!」

卵が孵るのと雨期に入るのは通常、同期しているそうだ。だから他の卵はまだ孵っていないらしい。チビは飛ばされて落ちた衝撃で孵ったのかな?それなら無事に生まれてよかった!!

入って来たのとは別の扉を出ると岩棚になっていて、入り江をまたいだ向こう側の崖にはいくつもの孔があいている。そしてたくさんのワイバーンの成体が飛び回っていた。

「タケルさん、チビを連れてこちらへ。」

示された場所はそれほど際どい場所ではないのに、ごつごつした岩に砕ける波しぶきが見え、飛び交うワイバーンの迫力で脚が竦んだ。

ストゥとティスが支えてくれる。

チビを両手に乗せて両親に見つけてもらい易いように持ち上げる。

「きゅいーーー!!」

チビが大きく鳴くと、1体のワイバーンがくるりと弧を描いて近づいて来た。目の前に降り立ち、顔を寄せてチビの顔を確認するように覗き込む。

「きゅいっ!きゅきゅ…」
「くー…くるるる!」

何事か会話をして成体のワイバーンが巣穴の方へ向かって声を発した。
真ん中あたりの巣穴から出て来たワイバーンがこちらへ飛んで来た。

「るるるる?るーるー、くるー!!」

チビの顔を覗き込んで我が子だ!と確信したように頷き、頬ずりをする。
大きな成体に頬ずりされて俺の手から転がり落ちそうになって飛び立った。

両親であろうワイバーンの周りを嬉しそうに飛び回る。

チビ良かったね。そう思ったら涙が溢れた。
死んだ俺の両親を思ってしまって余計に涙が止まらない。

チビは両親に促され、連れ立って巣穴へ行ってしまった。

俺はもう我慢できなくてストゥとティスにしがみ付いて泣いた。
雨が降り出し、研究所に戻っても泣き続ける俺を2人はずっと優しく撫でてくれた。

チビの両親は生きている。だからチビは両親と暮らすべきだ。
そう思うのに寂しくて悲しくて堪らない。

俺は結局、そのまま泣き疲れて寝てしまった。
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