行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

19 研究者

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早朝に隊商と別れを告げてから朝食を作る。

購入した朝食分の魚はイサキらしい。魚の種類はあまり知らないので日本の物とどう違うか判らないけど、70~80cmのこれはきっと大きいと思う。

内臓を取ってぶつ切り?輪切り?にして、照り焼きと塩焼き。

ご飯とワカメの味噌汁と、分けてもらった白瓜の漬物と、肉じゃが。

魔術で短時間で味が染みるけど、新じゃがだからさっぱりめ。あと牛肉じゃなくて鹿肉。白滝がないのって物足りない……

昼過ぎには港街に着くようなのでお昼はそこで食べる予定。漁港だから浜焼き!



チビがティスを起こしてくれる。
寝ぼけるティスの顔に張り付いたり、歩き回って首にもふもふを押し付けたり襟元に潜り込んだり。

良いな、その起こし方。俺もして欲しい。

あ、こら!水を操って鼻に水滴入れるなんて!!

「ぐっっ!!がはっ、げほっ!」

げほげほと咳き込んでティスが起きた。不機嫌オーラにビビったチビが俺の頭にしがみつく。

「…チビ。」

ティスのいつもより低い声に頭の上から後頭部に移動して震えながら隠れているチビを、ストゥが抱っこしてくれた。

「だ、大丈夫!?
チビも悪気はないんだよ!
たぶん、自分にできることを試しただけで!」

フォローするつもりで言ったら

「悪気がなければ何をしても良い訳ではない事を教えてあげないとチビのためになりません。」

正論だ。

呆れ顔のストゥがティスの前にチビを下ろす。

「チビ、人間の鼻に水を入れるのは攻撃になります。軽い気持ちでやってはいけません。」

真剣な顔で諭すティスと、神妙な感じで聞いているチビ。

「分かりましたか?」

三つ指ついたような格好で前後に揺れる。頷いているみたいに見えるけどそうなのかな?

「でも、起こしてくれてありがとう。」

目を細め優しく撫でるとチビも嬉しそうに腕を駆け上がって頬にスリスリ。

仲直り。

「ティス、ありがとう!」

俺も抱きついて反対側に頬ずり。

「モテまくりだな。」

ストゥにからかわれる。
朝の挨拶のキスをして朝食。もちろんストゥとはとっくに挨拶のキスをしてる。




順調に進み、港街に着いたのは昼前だった。

冒険者ギルドに情報をもらいに行く。

…扉は開かない。ここの扉も重い…

ティスがくすくす笑いながら軽々と開けてくれた。王子様みたーい!(棒)

悔しい…




ワイバーンについて研究している人は営巣地の側に研究所を建ててずっと研究してるそうで、そこまでの道を教えてもらった。

途中から道が無いので馬は連れていけないそうだ。帰りまでテネリ達は預かってもらう。

ワイバーンの巣に行きたい理由を説明したら受付の人が見たがったのでチビを抱っこ紐から出すと、この人の事は嫌がらなかった。

「もしかして水か風の属性ですか?」

「水ですよ。何故です?」

やっぱりチビは水と風の属性の人なら人見知りしないようだ。仲間意識か。

その属性以外の人に人見知りする事を伝えるとそっと手をさし出し、チビが近づくと魔力を纏わせる。

「きゅきゅっ!」

いいね!とでも言うようにその手をぽんぽん叩き、少し行ったり来たりして逡巡を見せてから飛び乗る。ぴょこぴょこ跳ねて楽しそう。

でもすぐに満足したようで戻って来て俺の左手にぺったりくっついた。

「ずいぶん懐いてますね。」

「可愛くて仕方ないんですが、親がいるなら返さなければ、と思って…」

笑顔を作るけど言葉にすると胸が苦しくなる。

「そうですか。親が見つかると良いですね。私もこんな小さなワイバーンは初めて見ましたし、触らせてくれたからぜひ幸せになって欲しいです。」

感謝を伝えてこの辺りの詳しい地図を購入して確認する。受付の人が研究所を書き込んでくれた。



街で食堂に入り、浜焼きを注文する。野菜の盛り合わせも頼んでシーフードバーベキュー!

美味しい!
全部大きいけど柔らかくて味がぎゅっと詰まっていて、美味しい!!

こっちの世界には美味しい物しか無いんだろうか?

「不味いものは毒があるからな。」

そうなの!?
驚きながらトゲトゲの巻貝の奥の方、つまりワタ部分を食べると苦い!

「にがぁい…」

美味しくない!毒?毒あるの!?

「タケルにはまだ早かったようですね。これは大人向けなんです。」

やっぱりワタは苦いのか。ぱくっと食べずにちびちび舐める物なんだって。
フルーツジュースを飲んで口の中を洗い流した。涙でちゃった。

研究所は今から行くと夜遅くなってしまうので明日の朝出発する事にした。
ここまでとても順調で7日目。明日で8日目だからすぐに見つかれば予定通り10日以内に帰路につける。

じゅんちょう……うっ…





町を観光したけどお店の半分が漁業関係者向けで夕方には店じまい。その後は観光客用の店しか開いてないから物価が高い。郷に入りては郷に従え。宿で早めに休んで明日に備える。

別れを思って落ち込む俺をティスが優しく撫でてくれて、ストゥがやらしく撫でた。おやじか!!

結局流されたけどね。




宿は漁船に乗る観光客も居るので朝食を早い時間に食べられる。ティスが早起きできたので朝6時に食べて宿を出る!

研究所への道は途中から細い下り道になり、足場も悪いので獲物を狩るには向いていない。だから3日分の食料を買って持って行く。行きと帰りと宿泊する日の分。

宿泊施設ではないので自分の分は持ち込みます。

漁港の市場はすでに大賑わいだった。
見知った物から見た事もないような魚、日本の魚に似てるけど色違いとか。若草色のアンコウの吊るし切りがファンタジー!

…なのか?

生の魚介は心配だから干物や海藻の乾物と野菜とパンを買う。調味料はまだ大丈夫。

街を東から出て15分ほどで南東方向へ伸びる脇道が見つかった。案内板は特にない。

海からの風が運ぶ潮の香りが増した。

海辺で虫は少ないかも知れないけど、小枝で引っ掻き傷ができそうなのでここでも風の結界を張る。

普通の結界は術師を中心に球状、または術師が選んだ範囲を固定で守る。枠があるとイメージしやすい。でも俺のは森の王の加護によるので、俺が守りたいと思うだけで複数の対象に結界を張ることができ、防護服のように動きに合わせてくれる。

森の王のヒゲが手に入れば持つ人を守る護符が作れるんだって。契約印が無くてもこの結界が手に入るなら欲しいよね。

森の王のヒゲを手に入れてプロポーズする人もいるらしい。あなたを守りたい、って何か良いな。

毒のある棘もへっちゃら!
状態異常耐性もあるのって、忘れるね。俺、この世界に甘やかされてる…。




お腹が空いてきたけど、お昼かな?

「ねぇ、お腹減らない?」

「そろそろ昼か。だが料理する場所が無いな。どうする?」

「パンと野菜とベーコンがあるから簡単なサンドイッチならすぐ食べられるよ。あとスープはカップで直接作っちゃえば良いし。」

千切りキャベツとベーコンと薄切りトマトと薄切りタマネギ。味付けは辛子マヨネーズ。スープは鶏ガラでかき卵入り。彩りに乾燥パセリ。

「どうかな?」
「美味しいです!」
「美味いぞ。」

直径30cmのドーム型のパンを2つスライスしてるので、俺は真ん中の1切れ半でお腹ぱんぱん。残りは2人がペロリと食べた。

「同じ味で飽きない?」
「「全然!」」

えへへ… 切ってはさむだけだけど、にやけちゃう……

先へ進むと突然森が開けた。
……違った!断崖絶壁だ!!

なんで道が崖に向かってるの!?

そう思ったけど、道は崖の近くで折り返し、クネクネと崖に近づいては離れ、離れては近づいて続いた。






どんよりとした天気の中を歩いていると、3時を過ぎた頃に崖に向かって道が終わり下に降りる階段が見つかった。手摺もなく、海風が吹き付ける岩を削っただけの階段を恐々降りて、降りて、降りて……

少し出っ張った岩を回り込むと突然ぽっかりと、人が出入りするのに不自由がない程度の穴が空いているのが見えた。

天気も悪く、中はかなり暗い。
少しずつ目が慣れてきて崖から2mほど引っ込んだ所に扉が見えた。研究所…って、ここ?

ストゥがノッカーを叩くと遠くから声が響いた。声は聞こえたのになかなか扉が開かない。さっきから何だか焦らされてるみたいだ。

ようやく開いた扉から見覚えのある顔がのぞいた。深い緑の髪を後ろで束ねた青い瞳のおっさん。

ストゥが丁寧に挨拶してるけど、規約違反してうちに押し掛けて俺にプロポーズしたあの人だ。植物の研究してたんじゃないの?

ティスが前に出て俺を背後に隠す。

「ご無沙汰しています。あれから規約違反はしていませんか?」

ティスの低くなった声にストゥが振り返る。

「ミーティスくんじゃないか!また会えて嬉しいよ。君の恋人の可愛い子は元気かい?またあの料理が食べたいなぁ。」

違反したことなどまるで記憶に無いような調子で喋るけど、俺は憮然としてしまう。

するとまたチビが俺に同調した。
ティスの頭に乗り、ビー玉サイズの水の玉を2つ浮かべ、一声鋭く「きゅぅっ!」と鳴いた。

チビを見て驚いたサクリスの両方の鼻の穴に水玉が。息を吸い込むタイミングですっと鼻の中に入って行った。

「がはっ!ぐっ、げほっ!ぅがっっ!!」

あれは苦しいわー。辛いわー。なんてね。

ふーんっだ!

「ストゥ、この人俺の作ったお弁当食べて美味しいからもっと食べたいってティスを尾行して家に上がり込もうとした上にいきなり俺にプロポーズしたんだよ。」

ズカズカと俺達の家に上がり込もうとしたの!しかもプロポーズとか、割り込ませる気なんか全然ないからね!!

「そうか…よし!チビよくやった。もっとやれ!!」

ストゥからも支持されて更に大きな水玉を作り出す。その大きさなら頭すっぽり入るね!

「わわわ、悪かった!げほっ!わ、私が悪かった!!もう後を付けたり押し入ったりしないから!!」

まだ咽せながらも一応謝ったのでチビを抱っこして感謝を伝える。水玉は文字通り雲散霧消した。

「何を騒いでるの?お客さんは?」

奥からもう1人出て来た。赤い髪に茶色の瞳の優しそうな若い人だ。

「あぁ、紹介するよ。彼はトニトルス、私の伴侶でワイバーンの研究者だ。」
「伴侶!?」

あれからまだ2ヶ月もたってないのに?それとも元々恋人が居たのに質の悪い冗談を言ってたの?
またしても苛ついてしまう俺の手の中からチビが飛び出し、威嚇する。

「わ…ワイバーンの幼体!?なんで?なんで人間と居るの!?」

目を輝かせて飛びかからんばかりのトニトルスさんにチビが怯えて、慌てて抱っこ紐に潜り込んだ。

とにかく互いに話を聞きたいと客間に案内された。
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