行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

16 オオサンショウウオ

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雨上がりの森の朝は霧が立ち込め、とても幻想的だ。チビのおかげ?

朝食はパンを焼いて、レタスサラダと焼きジャガとベーコン。ジャガイモを皮ごと焼くだけ、でも食べられるけど寂しいので食べる直前に割って、炙って溶かしたチーズをのせ、乾燥パセリを散らす。

ストゥがティスを起こしてくれる。すっかりストゥがティスを起こす担当になってしまった。

チビを抱っこして朝食を食べて片付けたら出発。
馬達は森で食べ物を見つけているようで手が掛からない。夜のブラッシングを丁寧にやってあげよう。

ティスが俺を馬に乗せようと近づいて来た時、ティスの背中がファンタジーな事になっていた。

「っいやーーーーーーーーーー!!!」

見た目はファンタジーなんだけど!!

でも虫の嫌いな俺にとっては恐怖の光景。それは蝶の羽を生やしたティス。ブルーメタリックな蝶の羽はアゲハ蝶の形をしていて、ティスの背中と同じくらいの大きさ。それは大きな蝶がティスの背中にくっついていると言う事で、この蝶は人間の背中にとまる事を厭わないと言う事。

つまり俺の背中に蝶がとまる可能性があると言う事だーーーーー!!

戸惑うティスから離れようとストゥの後ろに隠れる。当然ストゥも困惑している。

「どうしたんだ?」
「虫!俺、虫嫌いなの!ティスの背中のあれ、蝶だよね!?」

食い気味に叫ぶ。外骨格とかぶよっとした腹とか変な形の脚とか複眼とか!!
とにかく怖いし気持が悪い。

「この蝶は幸運を呼ぶと言われているんだがなぁ。」

確かに色は綺麗だけど虫だし。ありない大きさだけど虫だし。
ティスがそっと後ろに手をやり、その手を振ると蝶がふわりと飛び立った。

「うぅぅ…ティス、ごめんね。驚いたよね?」

「…突然タケルに嫌われてどうしようかと思いました。」

周りに虫がいない事を確認してティスに近づき、ぎゅっと抱きつく。

「本当にごめんなさい。」

少し震えてたティスとすごく震えてた俺が落ち着くのを待って仲直りのキスして出発。
虫が怖いので自分達の周りに風の結界を張った。

午前中のうちに森を抜け、宿場町に寄る。この先は湿地帯になり、当然ながらそこを抜けるまで町がない。抜けるのに丸3日はかかるらしい。歩いて通り抜ける事のできないそこには馬ごと乗せて運んでくれる舟があると言うのでお願いした。

昼食の後、食材を買い込んで舟に乗る。湿地帯では馬の食べ物がないので飼い葉も積んで。この大きな馬達と大人4人が乗って食料と飼い葉を積んでもゆったりとしている舟は商人の荷も運べるサイズ。でも海の舟とも川の舟とも違い、底が浅くて平たい。そして舟なのに四角いので水の抵抗が大きい気がする。

乗り込んでみると歩く時に多少揺れる意外、静かに滑るように進む。この湿地は水の底に深く泥が溜まっている感じなので舟で渡れるんだって。

あと湿地帯だから蚊やブヨが多いそうで初めから舟に結界が張られている。安心!!

ところどころに白い蓮の花が咲いていて蝶が舞っている。距離があるし結界のせいで近づかれる事もないから怖くない!

と、眺めていたら水面がゆらりと揺れて大きなオオサンショウウオがジャンプしてばくりと蝶を食べた。ばしゃーん!と跳ねた泥水が結界にはじかれる。スペクタクル!

日本のオオサンショウウオは最大で150cmになるって遠足の時に聞いたけど、今のは3mはあった。だから大きなオオサンショウウオ。

あの巨体が跳ねるとか…不思議に感じるけどこっちでは当たり前なのかな?

「あれ、美味いんすよ!」

船頭さんが教えてくれた。うーん…好奇心と恐怖心が心の中で闘っている。ストゥが獲り方を聞いたら体表面のぬめりで物理攻撃が効かないので火の魔術で体表を焼いてからエラの辺りを刺すのだそうだ。挑戦してみよう!

「坊ちゃん火属性ですか!そりゃ嬉しい。次に見つけたら合図をしますんでお願いします!」

さっきのはとっくに離れてしまったので進みながら次を待つようだ。
なかなかいない。あの大きさだから個体数も少ないのかな?

夕方になったので舟の上で食事を作る。七輪を借りてご飯と麻婆ナスと卵スープと蒸し鶏を作った。船頭さんがニッと笑って出して来た物は大きなカエル。すぱすぱっと捌いて肉にしてくれたのでスパイスを揉み込んで焼く。舟に罠が仕掛けてあって、簡単に獲れるのでいつでも食べられるそうだ。

カエルは鶏肉に似ていると聞くけど、確かに鶏肉っぽくて美味しかった。オオサンショウウオも期待できそう!

日本ではカエルやウサギやオオサンショウウオを食べるなんて考えられなかったけど人が当たり前に食べてると気にならないもんだな。ただし、虫以外に限る!!

舟の上なのでテントが張れないけど結界があるから大丈夫だ、とそのままマットを敷いてチビをカゴに寝かせて就寝。

今の今までチビに気付かなかった船頭さんが驚いているけど、こっちこそびっくりだよ?




「きゅいきゅい!きゅぅ!」

朝、珍しくチビが鳴いている。お喋りしている風でもある。
カゴのベッドから出してやるととてとてとハイハイで舟の側面を目指して進む。

「きゅきゅきゅきゅーい!」

ストゥが剣を手に立ち上がり、側に行くとゆらりと水面が盛り上がり黒くて大きな物が舟の角を掠めるように飛んだ。オオサンショウウオだ!!
水中に戻ったそれが狙っていたであろう蓮の葉の上のカエルはまだそこにいる。もう一度来るのはずのチャンスに向けて俺は急いで魔力の糸を紡ぎ、投網をイメージして空中に準備した。

もう一度水面が揺れ、跳ねたオオサンショウウオがカエルめがけて空を滑る。その身体に投網を絡めてすっぽり覆って焼く。

爽やかで少しぴりっとした香りが鼻をくすぐった。

大きな黒いからだがびくんと跳ねて硬直した瞬間、舟のヘリを蹴ったストゥがオオサンショウウオの急所、エラにその剣を突き立てた。

ぐあぁぁともぐおぉぉとも聞こえる断末魔をあげてオオサンショウウオがその場に崩れ落ちた。

そのままでは沈んでしまうので船頭さんがロープを投げてストゥが受け取り、水中でオオサンショウウオの身体に巻き付ける。引き寄せてみると3m以上の大きさで舟に乗せるのは止めて、木製の浮き輪をつないだ物を下に入れて浮力を確保した。そのまま捌く。

美味しい部分だけを集めても50kg以上ある。中でも平たい頭の上部が1番美味しいらしい。

初めて食べるので部位ごとに分けてシンプルに塩焼きにして試食。全体的に川魚の軟らかさで火が通ると口の中でほろりと崩れる。そして山椒魚の名の通り、爽やかでほんのり刺激的な香りは頭の肉が1番はっきり感じられた。

ご飯を炊いて山椒魚を塩焼きと唐揚げにして、乾燥わかめの味噌汁とツルムラサキのおひたし。ツルムラサキはその名の通り蔓部分が紫で固いから葉っぱを外して茹でると教えてもらった。日本のスーパーで売ってたのとちょっと違う。

オオサンショウウオは唐揚げにすると身が締まって歯ごたえが増して更に美味しかった。

「良くオオサンショウウオが出るのが分かりましたねぇ。」

船頭さんに言われてチビを褒められた気分になる。

「チビが教えてくれたんです。」

そう言って抱き上げて見せると、その小さいのにそんな能力が…と感心していた。





舟に乗りながら考えていた事がある。
魔術で舟の両側に反対周りの渦を発生させたら推進力が上がるんじゃないだろうか?引っ張る感じで舟の前よりの両側に渦を起こせばどうだろう?

そんな話をしてみたらどうぞ試して下さい、と言われたのでやって見た。

魔力の糸を伸ばして指をくるくる回してみると小さな渦ができて、徐々に大きくなった。洗面器くらいの大きさの渦になった頃には明らかに舟の速度が上がっていた。何かにぶつかったら困るので勢いがついたら渦を止め、スピードが落ちたらまた渦を作る。

そのくり返しで3日目の今日の昼前には向こう岸が見えて来た。昼過ぎに出発して3日目の昼前に到着。正味2日。

驚きの速さ!!

でも接岸して荷下ろししてたら昼になったし、食材がいっぱいあるので昼食を作る。

メインはもちろんオオサンショウウオ。唐揚げで身が締まったのは水分が抜けたからだろうと予測して魔術で水分を飛ばして焼いたらチキンソテーくらいの固さになった。一夜干しのような物だろうか?

ご飯にオオサンショウウオの照り焼き、船頭さんがいつの間にか採って来てくれたジュンサイの味噌汁、キュウリと茗荷の即席漬け。

ジュンサイって採るの大変じゃなかったっけ?いつの間に採ってきたの???

「オオサンショウウオは火の魔術師がいないと獲れないから、食べられるのは幸運なんですよ。だからご相伴にあずかる礼にちょうど良いかと思って。」

ティスの背中に付いた蝶の運んだ幸運?
確かに美味しかったので感謝しておこう。でも怖い事には変わりないけど。

昼食後、オオサンショウウオの肉は全部、水分を4割くらい飛ばす。嵩も重量も減って美味しくなって運び易くなった。

宿の人にお願いされて半分を100g¥500で売った。¥75,000になった。
美味しかったから帰りにも獲れたら良いな。

まだ昼過ぎだけど、やっぱり舟の上でずっとだったから疲れたのでそのまま部屋をとった。

ベッド気持ち良い。
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