行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

文字の大きさ
上 下
55 / 203
行ってみたいな!あちこちへ

15 南へ

しおりを挟む
ワイバーンを保護して分かった事は、雨を降らせないでいる事は我慢をさせていると言う事。だから寝ると雨が降り出す。

ただ、寝ていても雨は弱いままなので助かる。頑張り続けているのか残留思念なのか…

胸元に来るよう工夫して抱っこひもを作ったら、時々、頭をぐりぐりと押し付けて来て萌える。サイズも小さいから宿でも気づかれなかった。バレたらそれなりに騒ぎになるだろう。

食べ物は生肉も果物も野菜も食べないけど赤ちゃんだし、ミルクかな?

牛乳をあげてみたけどそれも飲まなかった。ただ、起きている間は抱っこされたがり、契約印のあたりにくっついていると落ち着いている。

加護の影響があるのかな?
具合も悪くなさそうなのでこのまま様子を見る事にした。



ふと気になっていた事を聞く。

「ねぇ、前の事を蒸し返すようだけど、この前お風呂で恥ずかしい格好させられたのは、何がしたかったの?」

「あれか。あれはな…
イタズラを思いつかなかったんだ。それであの状態で悩んでた。」

「酷い!なにそれ!?
あんなに恥ずかしい格好させられて意味無いとか!」

ストゥのバカ!!
ポカポカ叩いてみても当たり前だけどストゥにダメージは無い。涙目で顔を真っ赤にした俺をティスが抱きしめてよしよしと頭を撫でる。

「ティスは?ティスは何がしたかったの?」

「私はストゥが何をするのか見ていたのですが、何も考えてなさそうだったのでタケルを愛でていました。」
「股間を愛でないで。」

「タケルは全てが可愛いんですから仕方ないでしょう。」

股間が可愛いは褒め言葉じゃない。

そう思ってイラっとして腕を突っ張って身体を離した瞬間、ワイバーンが俺の前に飛び出して空中に踏ん張るようなポーズでストゥとティスを睨みつけた。

「キュイッ!!」

ひと声鳴くとチビの周りに空気が渦巻き、室内に旋風つむじかぜが起きる。そして尻尾をビュンと振ると、旋風つむじかぜが2人に襲いかかり、皮膚を切り裂いた。

「うわっ!」
「つっ!」

俺の感情に呼応して攻撃してくれたらしい。再びチビの周りに風が集まるのに気づき、そっと抱きしめる。

「いじめっ子をやっつけてくれたの?ありがとう。でも人を傷つける事はして欲しくないんだ。」

そう言ったらしょんぼりとしてしまった。言葉は通じているらしい。

「いい子だね。」

俯いた頭を撫でると不安げに見上げてくるので笑顔で頷くと安心したようにすり寄って来た。

「2人とも治癒するね。」
「頼む。さすが風の眷属だな。」
「タケルの守護獣と言ったところでしょうか?」

出血はしたものの少量なのですぐに落ち着きを取り戻したけど、やっぱり驚いた。結構出血してる。

「懐かれたな。」

嬉しそうに抱かれているワイバーンに和む。

「情が移ったら手放せなくなっちゃう…」
「まあ、言葉は理解しているようですから風雨も感情も制御できるようにしつけをしましょう。」

先の事は親を見つけてから考えよう。

チビを怒らせないように、夜はみんなで仲良く眠った。





それからは順調に進み、往路より速い。チビを探した時に数時間余分にかかったにも関わらず、王都にはファガンを出てから6日目の夜に到着した。

速すぎない!?

走らせた訳でもないのにとても速く進んだのはずっと追い風だったから。これってもしかして森の王のの加護?それともワイバーンの能力……?

ギルドは依頼達成の手続きは24時間、いつでもできるが、シュクルさんに荷を届けるまでが今回の依頼なので、明日お店に届けて依頼完了だ。

今日は久々の我が家。
チビは気に入るかな?

家で荷物を馬から降ろし、馬だけギルドに返しに行き、帰りに荷車を借りてくる。一緒に行って別れ際に感謝の治癒。また馬に乗る依頼があったらこの子を借りたいな。

小型の荷車を借りて戻る。ギルドには大中小の荷車があった。幌は全て着脱可能。

貴族の馬車にはキャンピングカーみたいなのもあるらしい。ちょっと見てみたい。

空の荷車を引いて帰り、途中で買った屋台メシで夕食の後。久々のお風呂に入ると、チビには熱過ぎたのかピャーピャー言ってたから、桶でぬるめのベビーバス。

今日もみんなで寝た。





そして朝!久しぶりのマイキッチン!

でも食材がない……

起きないティスを置いてストゥとチビと市場に行く。6月に入り、野菜の品揃えが夏に近づいたような気がする。セロリ、インゲン、おかひじき、パプリカ、ニンジン、そら豆。やっぱり基本的に日本と同じ。ニンジンは人の形が多い…
見た事もない13cmくらいの細長い物もあるので聞いてみたら皮をむいて見せてくれた。
ヤングコーンだ!!

生のヤングコーンなんて初めて見た。皮ごと七輪で焼いて皮を剥いて食べるのがおススメだって。

朝食はセロリと豚肉の中華炒め、オカヒジキのおひたし、ニンジンのマリネ、アジの塩焼き、絹さやの味噌汁。あれぇ?和洋中ごちゃ混ぜ…

夕飯用にヤングコーンも購入。アスパラ、キャベツ、ミョウガ、チンゲンサイ、大葉。フェンネルって種しか知らなかったけど、全部食べられるんだ。鱗茎って初めて聞いた。チャレンジしてみようかな?

帰ってもティスはまだ寝てた。

朝食を作ってから起こす。
もともと朝が弱いとは言え、それにしてもずいぶん遅い。疲れてたのかな?

チビは抱っこで寝たので、洗濯カゴに布を入れて作ったベビーベッド(?)に寝かせてソファの上。

食べ終わったら荷物を届けて、荷車をギルドに返しつつ依頼達成報告。

予定より早く戻った俺たちにシュクルさんが驚きながらも喜んでくれて製菓用チョコレートを分けてもらう約束ができた。

依頼達成報告のついでにギルドでワイバーンについて聞いてみた。資料によるとこのチビは模様がないから南の海沿いに巣を作る種類だと思われる。このもふもふは成長すると抜けてしまうらしい。ゴマちゃんと同じかぁ。

食べ物は幼体のうちは親の魔力で、成長するに連れて虫や魚を食べるようになるらしい。

幼体なんて初めて見た、と職員が興味津々だったけど、不機嫌になったチビが威嚇したので早々に引き上げた。



食事が魔力で風と水の眷属だから俺の契約印に擦りよるのか。だとするとティスとも仲良くできるのかな?

ティスがチビに手を伸ばすとクンクンと匂いを嗅いだけどあまり興味がないようでぷいっとそっぽを向いてしまった。ストゥには見向きもしない。

「じゃ、次は南だな。」

このまま飼う訳にもいかないし、親を探しに行く事になった。

あちこち行くのは楽しいけど、ちょっと落ち着かないなぁ。夏至の祭りの後は少しゆっくりしよう。





雨期が来てしまうので1日だけ休んですぐに出発する。まぁワイバーンには雨はむしろ良い天気なんだろうけどね。

テネリを指名して借りて、南へ!

夏至に西の町に行くとなると、1週間前には家に1度戻らないとならないから10日弱でチビの親を見つけないといけない。頑張ろう!

以前、爪ウサギを捌いた林を抜けて、畑の中の街道を颯爽と進む。チビは好奇心も露わにキョロキョロしている。眠ってしまうと雨が降るので起きていてくれた方がありがたい。

小川に架かった石橋をいくつか渡り、最初の宿場町を過ぎると豊かな森だった。

「ユニコーンがいそう…」

石畳の街道は森の中を通り抜けている。初夏の日差しが木の葉の合間から降り注ぎ、姿は見えないけれど生き物の気配に満ちている。そこかしこに花が咲いているので秋には森の恵みが受け取れるはずだ。野いちごはすでに実を付けているが、まだ小さく固く食べごろではない。

持って来た食材で昼食を作り、昼休憩を取る。森の中にレンガ造りの釜とかめっちゃメルヘン!誰が作ったのかは分からないけど、魔道具になっているので魔力を込めればすぐに使える。フレッシュトマトとバジルとチーズでピザを作った。ピザソースが欲しかったけどないのでトマトの水分を飛ばして代用。ちょっと物足りないけどコンソメの粉をトッピングしてウインナー入りのも作った。スープは乾燥コンソメをお湯に溶いた自家製インスタントスープ。

森の植物は食べられそうなのもあるけど、分かる人がいないので諦める。「食べられる山野草図鑑」があったらすぐにでも買うのに!!

休憩を終えて出発すると、小雨が降り出した。疲れたチビが寝たようだ。ケープのフードをかぶって進む。

チビが起きて雨がやんでも夜になってもこの大きな森を抜ける事はできなかった。野営地に辿り着き、夕食を作る。ここには釜はなくてキャンプ場のようなかまど。数種類の肉とタマネギとピーマンとナスを塩こしょうで味付けして焼く。バーベキュー風で主食はおにぎり!

ヤングコーンも持ってくれば良かった…。

探さなかったけどサイファに中華麺あったのかな?中華風の国だし、きっと探せばあるよね。ラーメンとか焼きそばとか固焼きそばの中華あんかけとか!!

足下でチビがハイハイを始めた。動きも見た目もコウモリの赤ちゃんそっくり。この前浮かんでいたけど羽ばたいてなかったから属性で浮くんだろうか。えっちらおっちら、にごにご動いている…ぅはぁ…和む~…

「そう言えばこの子を連れて帰ると決めた時、2人とも反対しなかったけどどうして?」

可愛くて連れて帰っちゃったけど、止められもしなかったよね?

「ワイバーンは聖獣に近いから討伐はしないし、敬えと教えられているからな。」

「それに怒らせると居座って雨を降らせ続ける個体がいたと言われています。」

地味な嫌がらせ…
そっかぁ。じゃぁ可愛がって良いんだね。早く親が見つかると良いね。
拾い上げて膝に乗せると。まだ遊び足りないのか飛び降りてしまった。側を離れはしないけど自由に動きたいらしい。

「仲良くなった物語とかもないの?」

聞いた事がないと言う。地域によっては雨を運ぶ聖獣の伝説や民話があるかもしれないけど王都には伝わっていないようだ。逆に不思議。

馬達を治癒して、自分達を浄化して、テントで休む。全然見かけないけど森には魔獣はいないのかな?
しおりを挟む
こちらの拍手ボタンをクリックすると
「連れて行きたい日本へ」で
ストゥとタケルがラブホに行った時のいちゃいちゃが読めます。
拍手する

感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...