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行ってみたいな!あちこちへ
14 復路
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朝、起きると街が騒がしい気がした。
今日も早起きのストゥが嬉しい知らせを運んで来た。ショコラの材料を積んだ船が今朝、港に到着したそうだ。
明日の昼過ぎの見込みだったのでとても嬉しい。でもただ船が着いただけにしては盛り上がってるような……?
朝食を食べに食堂へ行き、宿の人に聞くと何でもその船は美しい光に包まれてあり得ない速度で海上を滑り、羽毛が大地に舞い降りるごとくふわりと接岸した、らしい。
それ、尾ひれ付いてないなら水辺の王の加護って事?玄武が俺がここに来た理由を知っていてサービスしてくれた、ってのは思い上がりだろうか?
原因はどうあれ結果オーライなので食後に船主さんへの手紙を持って港へ行く。
大きな船は確かに水辺の王の気配を纏っていた。
ストゥが船員に声をかけ、船主に言付けを頼む。今は慌ただしいから出直すつもりでいたけど、船主はすぐに降りて来た。
50代に見えるその人は日に焼けて白髪に近いプラチナブロンドの巻き毛に海賊の帽子(?)をかぶっている。深いしわが刻まれた顔は男らしい色気にあふれている。そして白いシャツにサッシュベルト、黒いズボンは膝下までで、白いハイソックスにバックルのような飾りの着いた靴。
カリビアンな海賊の映画の撮影ですか?と聞きたくなった。
身分証を見せ合い、ストゥがシュクルさんの手紙を渡す。その場で読んだ船主さんは頷いて手紙をポケットにしまった。
次はウェルテクスへ行く商人に会って、荷の一部を引き取る。上手くすれば今日中に出発出来るかもしれない。
ここで待っていても良いけど早く荷が到着した事でバタバタしていると思われるので、こちらから商業ギルドに顔を出す事にした。
行ってみると商業ギルドは竜宮城だった。
竜宮城にしか見えない門があり、白い塀に囲まれた庭があってその奥に建物がある。荷によってはこの庭で積み下ろしができそうだ。
そして建物の中は煌びやかな中華風で赤と黄色と金の装飾がふんだんに使われている。わぁ、落ち着かなーい。
そして商業ギルドのマスターは、色白で黒に近い藍色の髪、翡翠色の瞳の美人だった。女の人にしか見えない!!
「ようこそファガン商業ギルドへ。」
その声は高く澄んで、鈴を転がすような声とはこの事か、と納得してしまう美声だった。
「受け付けでじゅうぶんなんだが、わざわざマスターのお出迎えとは仰々しいな。」
「全ての船に聖獣の加護が付加できれば航海の安全と予定通りの運行が期待できます。考えうる限りの調査を行うため、職員が出払ったので私が受け付けを買って出ましたの。」
ティスが言った通り、契約印を隠しておいて良かった。
「早速お土産を買って下さったのかしら?」
指輪を目ざとく見つけられて心臓が跳ねる。バレてないよね?
「とても似合ったので恋人の証として贈りました。」
「追跡魔術付きの指輪なんて、束縛し過ぎではなくて?可愛い坊やは分かっているの?」
「えぇ!?そうだったの?」
びっくりして大きな声になっちゃった。
ティスが少し気まずそうにしてるけど、俺は嬉しいよ?
「ありがとう!大切にするね。」
にっこり笑顔でそう言うとギルドマスターは一瞬驚いた顔をしてすぐに妖艶に微笑んだ。
「可愛いからうちで囲いたかったのに、残念だわ。気が変わったらいつでもお姉さんのところにいらっしゃいね。」
「女の人にしか見えないと思ってたら、やっぱり女の人だったんですね!」
今度は俺が驚く番だった。
「女のギルドマスターなんて珍しいから、最初はみんな驚くのよ。」
そう言ってふふっと笑った。
「それで、ご用件は?」
ようやく本題に入り、シュクルさんの手紙を渡して中華調味料を運んで欲しい事も伝える。個人輸入でも構わないけど、ついでに商売になるならその方が都合が良い。
グラウィスさんの料理店と冒険者ギルドの食堂には確実に売れるはずだけど、どの程度の流通で儲けが出るのか分からない。アラケルも欲しがるだろうなぁ。
商品と依頼人を登録しておいて通信魔術で追加を注文すれば半月以内に運んでくれる事になった。
あれ?
シュクルさんは手紙を書いてたけど通信魔術があるの?
「取り扱う量が多いと間違いがないように紙の注文書が必要になるの。それに通信魔術は魔力を多く消費するから自分の魔力が多い人じゃないと高いのよ。」
なるほど。
今回の船は大きかったから遅れる事が通信で知らされたのか。そうでなければ待ちぼうけだ。俺、通信の仕事も出来るかも。
一部引き取りの手続きをして書類をもらい、宿を引き払って冒険者ギルドで馬を引き取り、港に向かいながら持ち帰り用の調味料を買う。
ここのおじさんも加護付きの船の話で楽しそうだった。
港にはたくさんの馬車が集まっていた。
荷造りしてあるから中身は分からないけど活気があってワクワクする!でもごった返していて迷子になりそうだから、とストゥに手を繋がれた。
身長差がねー、大人と子供だよねー…
俺は恥ずかしさを心から切り離した。
商業ギルドでもらった書類には馬車の番号が書いてあるのでそれを頼りに探す。十八番。おはこ?
今正に荷を積んでいるところだった。
荷を確認している人に声をかけて書類を見せると、船主さんから聞いていたので馬で運ぶ分は取り分けてくれていた。
馬の背にショコラの材料を振り分けにして乗せる。これだと2人乗りができないので頑張って1人で乗って帰る。
テネリの首を抱きしめてよろしくね、と言うと首を縦に振って頷いた。
商人さんがテキパキと支度を終えて、俺はストゥに馬に乗せてもらう。対応してくれた商人さんにお礼を言ったらテネリが良い馬だって褒めてくれた。
「ちっこいのをバカにしないで乗せてくれるんだな!」
あなたが俺をバカにしてるんですね…(怒)
俺の苛立ちが伝わったのか、テネリがその人の頭に何度もしつこく息を吹きかけて地味な嫌がらせをしてくれた。テネリ、大好き!!
渋滞させないためか港の入口と出口は一方通行。出口から出て街道へと向かい、帰路についた。
ワイバーンの群れに会った時以外、こっちの世界に来てからずっと天気が良かったのになんだか空模様が怪しい。前方に黒い雲が垂れ込めている。
「雨期には早いのですが…」
「雨期があるの?」
「だいたい6月は夏至の前までずっと雨です。」
梅雨?梅雨前線とかあるのかな?
「まあ、激しかったらテントでやり過ごすし、このまま行こう。」
進むにつれて気温も下がり、空気に水の匂いが混じる。荷はしっかり防水してあるので例え川に落ちても大丈夫。
1時間ほど進むと霧雨が降りだした。いや、霧雨の中に入り込んだのかも知れない。
服の中に火の魔術で暖かい空気を作ろうと思ったけどイマイチ上手くいかない。それならば、と地面から砂鉄を集めて使い捨てカイロを作った。
ストゥとティスは寒くないらしい。
進むごとに強くなる雨足に、とりあえずテントを張って休むことになった。テントに入って浄化をすればあっという間に全部乾いて快適空間!
濡れシャツ透け乳首イベントの心配はこの世界にはなさそうだ、なんてどうでも良い事を考えてたら、どこからか呼ばれているような気がした。
「誰か呼んでる……?」
「聞こえないが…」
「私も聞こえません。」
また玄武が遊びに来たとかじゃないよね?
「…? 言われてみれば微かに水と風の魔力を感じます。成体ほどの魔力は感じませんが、まさか近くにワイバーンの幼体でもいるのでしょうか?」
「ワイバーンは群れで飛んでたけど、幼体は単独行動とかするの?」
「巣から離れる事はないと思うのですが…」
ここは巣から遠くて幼体が飛んで来られるとは思えないらしい。
「でも呼ばれてる気がして仕方ないんだ。」
意を決して土砂降りの中、気配を頼りに探す事にした。
うーん… 何も見えない。
シャワーより滝行だな。
「うわっ!」
ベシャ!
街道から南へ外れて柔らかな土の上を歩いていたら滑って転けた。
このひどい雨がどのくらい降って居るのか分からないけど、足が重い。
「タケル、水辺の王の加護で雨を弱める事は出来ませんか?」
思いつかなかった!
「水辺の王、我を呼ぶか弱きもののもとへ我を恙無くお導き下さい。」
指輪をずらし、契約印を見つめて願うと、雨は弱まり、陽の光が雲の隙間から差し込んだ。
雲間から降り注ぐ光の指し示す場所にいたのは白くて丸いもふもふ。
両手に収まる大きさで爬虫類のような青緑色のコウモリのような翼に爪が生えていて、翼膜と同じ色の瞳で黄色いくちばし。たどたどしい動きは胸がキュンとする!
でもこれ、ワイバーン?
ワイバーンってドラゴンの下位種族じゃなかった?空飛んでたのもドラゴンに近いシルエットだったよ。
でもめっちゃ可愛い!うちの子にしたい!!
…そうなると雨が降りっぱなしかぁ。あと、何を食べるのか分からないよね。
雨でぬかるんだ地面をなんとか進み、ようやくちっちゃなもふもふの側までたどり着いた。しゃがんで目線を近づけて笑いかけると、もぞもぞとハイハイの要領で近寄って来た。
「きゅぅ!きゅうきゅう!」
何やら話しかけるような声。思わず抱き上げると胸と左手をしきりに気にする。それぞれの契約印が気になるんだろうな。
「雨を降らせるの、やめられる?」
そう言ってみたら顔を上げて
「きゅっ!」
返事をして身体を丸めると小さくプルプルと震え、ぱっと身体を大の字に広げた。
弱まっていた雨が完全に止み、暖かい風が吹く。ティスがすかさず乾かしてくれた。
「本当にワイバーンの幼体とはな。初めて見たぞ。」
「ワイバーンの事はあまり知りませんが、人と関わることが稀なのでここにいる事自体、不思議です。」
やっぱりワイバーンなのか…。翼の爪で俺の服を掴んで放さないこの可愛い生き物をどう扱うべきか、誰も正解を知らない。…どうしよう?
「ワイバーンは海の岩場に巣を作るんだったか?森の奥だったか?とりあえず王都に戻ってギルドで聞いてみるか。」
他に何も思いつかなかったので賛成して、抱っこしたまま街道へ戻る。
やばい!情がうつる…やばい!!
ワイバーン?
今日も早起きのストゥが嬉しい知らせを運んで来た。ショコラの材料を積んだ船が今朝、港に到着したそうだ。
明日の昼過ぎの見込みだったのでとても嬉しい。でもただ船が着いただけにしては盛り上がってるような……?
朝食を食べに食堂へ行き、宿の人に聞くと何でもその船は美しい光に包まれてあり得ない速度で海上を滑り、羽毛が大地に舞い降りるごとくふわりと接岸した、らしい。
それ、尾ひれ付いてないなら水辺の王の加護って事?玄武が俺がここに来た理由を知っていてサービスしてくれた、ってのは思い上がりだろうか?
原因はどうあれ結果オーライなので食後に船主さんへの手紙を持って港へ行く。
大きな船は確かに水辺の王の気配を纏っていた。
ストゥが船員に声をかけ、船主に言付けを頼む。今は慌ただしいから出直すつもりでいたけど、船主はすぐに降りて来た。
50代に見えるその人は日に焼けて白髪に近いプラチナブロンドの巻き毛に海賊の帽子(?)をかぶっている。深いしわが刻まれた顔は男らしい色気にあふれている。そして白いシャツにサッシュベルト、黒いズボンは膝下までで、白いハイソックスにバックルのような飾りの着いた靴。
カリビアンな海賊の映画の撮影ですか?と聞きたくなった。
身分証を見せ合い、ストゥがシュクルさんの手紙を渡す。その場で読んだ船主さんは頷いて手紙をポケットにしまった。
次はウェルテクスへ行く商人に会って、荷の一部を引き取る。上手くすれば今日中に出発出来るかもしれない。
ここで待っていても良いけど早く荷が到着した事でバタバタしていると思われるので、こちらから商業ギルドに顔を出す事にした。
行ってみると商業ギルドは竜宮城だった。
竜宮城にしか見えない門があり、白い塀に囲まれた庭があってその奥に建物がある。荷によってはこの庭で積み下ろしができそうだ。
そして建物の中は煌びやかな中華風で赤と黄色と金の装飾がふんだんに使われている。わぁ、落ち着かなーい。
そして商業ギルドのマスターは、色白で黒に近い藍色の髪、翡翠色の瞳の美人だった。女の人にしか見えない!!
「ようこそファガン商業ギルドへ。」
その声は高く澄んで、鈴を転がすような声とはこの事か、と納得してしまう美声だった。
「受け付けでじゅうぶんなんだが、わざわざマスターのお出迎えとは仰々しいな。」
「全ての船に聖獣の加護が付加できれば航海の安全と予定通りの運行が期待できます。考えうる限りの調査を行うため、職員が出払ったので私が受け付けを買って出ましたの。」
ティスが言った通り、契約印を隠しておいて良かった。
「早速お土産を買って下さったのかしら?」
指輪を目ざとく見つけられて心臓が跳ねる。バレてないよね?
「とても似合ったので恋人の証として贈りました。」
「追跡魔術付きの指輪なんて、束縛し過ぎではなくて?可愛い坊やは分かっているの?」
「えぇ!?そうだったの?」
びっくりして大きな声になっちゃった。
ティスが少し気まずそうにしてるけど、俺は嬉しいよ?
「ありがとう!大切にするね。」
にっこり笑顔でそう言うとギルドマスターは一瞬驚いた顔をしてすぐに妖艶に微笑んだ。
「可愛いからうちで囲いたかったのに、残念だわ。気が変わったらいつでもお姉さんのところにいらっしゃいね。」
「女の人にしか見えないと思ってたら、やっぱり女の人だったんですね!」
今度は俺が驚く番だった。
「女のギルドマスターなんて珍しいから、最初はみんな驚くのよ。」
そう言ってふふっと笑った。
「それで、ご用件は?」
ようやく本題に入り、シュクルさんの手紙を渡して中華調味料を運んで欲しい事も伝える。個人輸入でも構わないけど、ついでに商売になるならその方が都合が良い。
グラウィスさんの料理店と冒険者ギルドの食堂には確実に売れるはずだけど、どの程度の流通で儲けが出るのか分からない。アラケルも欲しがるだろうなぁ。
商品と依頼人を登録しておいて通信魔術で追加を注文すれば半月以内に運んでくれる事になった。
あれ?
シュクルさんは手紙を書いてたけど通信魔術があるの?
「取り扱う量が多いと間違いがないように紙の注文書が必要になるの。それに通信魔術は魔力を多く消費するから自分の魔力が多い人じゃないと高いのよ。」
なるほど。
今回の船は大きかったから遅れる事が通信で知らされたのか。そうでなければ待ちぼうけだ。俺、通信の仕事も出来るかも。
一部引き取りの手続きをして書類をもらい、宿を引き払って冒険者ギルドで馬を引き取り、港に向かいながら持ち帰り用の調味料を買う。
ここのおじさんも加護付きの船の話で楽しそうだった。
港にはたくさんの馬車が集まっていた。
荷造りしてあるから中身は分からないけど活気があってワクワクする!でもごった返していて迷子になりそうだから、とストゥに手を繋がれた。
身長差がねー、大人と子供だよねー…
俺は恥ずかしさを心から切り離した。
商業ギルドでもらった書類には馬車の番号が書いてあるのでそれを頼りに探す。十八番。おはこ?
今正に荷を積んでいるところだった。
荷を確認している人に声をかけて書類を見せると、船主さんから聞いていたので馬で運ぶ分は取り分けてくれていた。
馬の背にショコラの材料を振り分けにして乗せる。これだと2人乗りができないので頑張って1人で乗って帰る。
テネリの首を抱きしめてよろしくね、と言うと首を縦に振って頷いた。
商人さんがテキパキと支度を終えて、俺はストゥに馬に乗せてもらう。対応してくれた商人さんにお礼を言ったらテネリが良い馬だって褒めてくれた。
「ちっこいのをバカにしないで乗せてくれるんだな!」
あなたが俺をバカにしてるんですね…(怒)
俺の苛立ちが伝わったのか、テネリがその人の頭に何度もしつこく息を吹きかけて地味な嫌がらせをしてくれた。テネリ、大好き!!
渋滞させないためか港の入口と出口は一方通行。出口から出て街道へと向かい、帰路についた。
ワイバーンの群れに会った時以外、こっちの世界に来てからずっと天気が良かったのになんだか空模様が怪しい。前方に黒い雲が垂れ込めている。
「雨期には早いのですが…」
「雨期があるの?」
「だいたい6月は夏至の前までずっと雨です。」
梅雨?梅雨前線とかあるのかな?
「まあ、激しかったらテントでやり過ごすし、このまま行こう。」
進むにつれて気温も下がり、空気に水の匂いが混じる。荷はしっかり防水してあるので例え川に落ちても大丈夫。
1時間ほど進むと霧雨が降りだした。いや、霧雨の中に入り込んだのかも知れない。
服の中に火の魔術で暖かい空気を作ろうと思ったけどイマイチ上手くいかない。それならば、と地面から砂鉄を集めて使い捨てカイロを作った。
ストゥとティスは寒くないらしい。
進むごとに強くなる雨足に、とりあえずテントを張って休むことになった。テントに入って浄化をすればあっという間に全部乾いて快適空間!
濡れシャツ透け乳首イベントの心配はこの世界にはなさそうだ、なんてどうでも良い事を考えてたら、どこからか呼ばれているような気がした。
「誰か呼んでる……?」
「聞こえないが…」
「私も聞こえません。」
また玄武が遊びに来たとかじゃないよね?
「…? 言われてみれば微かに水と風の魔力を感じます。成体ほどの魔力は感じませんが、まさか近くにワイバーンの幼体でもいるのでしょうか?」
「ワイバーンは群れで飛んでたけど、幼体は単独行動とかするの?」
「巣から離れる事はないと思うのですが…」
ここは巣から遠くて幼体が飛んで来られるとは思えないらしい。
「でも呼ばれてる気がして仕方ないんだ。」
意を決して土砂降りの中、気配を頼りに探す事にした。
うーん… 何も見えない。
シャワーより滝行だな。
「うわっ!」
ベシャ!
街道から南へ外れて柔らかな土の上を歩いていたら滑って転けた。
このひどい雨がどのくらい降って居るのか分からないけど、足が重い。
「タケル、水辺の王の加護で雨を弱める事は出来ませんか?」
思いつかなかった!
「水辺の王、我を呼ぶか弱きもののもとへ我を恙無くお導き下さい。」
指輪をずらし、契約印を見つめて願うと、雨は弱まり、陽の光が雲の隙間から差し込んだ。
雲間から降り注ぐ光の指し示す場所にいたのは白くて丸いもふもふ。
両手に収まる大きさで爬虫類のような青緑色のコウモリのような翼に爪が生えていて、翼膜と同じ色の瞳で黄色いくちばし。たどたどしい動きは胸がキュンとする!
でもこれ、ワイバーン?
ワイバーンってドラゴンの下位種族じゃなかった?空飛んでたのもドラゴンに近いシルエットだったよ。
でもめっちゃ可愛い!うちの子にしたい!!
…そうなると雨が降りっぱなしかぁ。あと、何を食べるのか分からないよね。
雨でぬかるんだ地面をなんとか進み、ようやくちっちゃなもふもふの側までたどり着いた。しゃがんで目線を近づけて笑いかけると、もぞもぞとハイハイの要領で近寄って来た。
「きゅぅ!きゅうきゅう!」
何やら話しかけるような声。思わず抱き上げると胸と左手をしきりに気にする。それぞれの契約印が気になるんだろうな。
「雨を降らせるの、やめられる?」
そう言ってみたら顔を上げて
「きゅっ!」
返事をして身体を丸めると小さくプルプルと震え、ぱっと身体を大の字に広げた。
弱まっていた雨が完全に止み、暖かい風が吹く。ティスがすかさず乾かしてくれた。
「本当にワイバーンの幼体とはな。初めて見たぞ。」
「ワイバーンの事はあまり知りませんが、人と関わることが稀なのでここにいる事自体、不思議です。」
やっぱりワイバーンなのか…。翼の爪で俺の服を掴んで放さないこの可愛い生き物をどう扱うべきか、誰も正解を知らない。…どうしよう?
「ワイバーンは海の岩場に巣を作るんだったか?森の奥だったか?とりあえず王都に戻ってギルドで聞いてみるか。」
他に何も思いつかなかったので賛成して、抱っこしたまま街道へ戻る。
やばい!情がうつる…やばい!!
ワイバーン?
0
「連れて行きたい日本へ」で
ストゥとタケルがラブホに行った時のいちゃいちゃが読めます。
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