行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな!あちこちへ

9 少年の家

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おみやげのお菓子はポテトチップスとカップケーキに決めた。
人数を見てその場で作る。魔術でカップケーキ作れば目の前で膨らんで、きっと喜んでくれると思うんだよね~!くふふ。


**********************


朝になって朝食を作りながら気がついた。

…あぁ!無理だ!!

俺、ケーキ類は「ホットケーキミックスで作る〇〇」しか検索した事ないんだ。材料の配分が分からない…

検索したレシピサイトのスクショは材料部分だけだし、ホットケーキミックスがないとベーキングパウダーの割合なんて分からない…電波届かないから新しく検索する事もできないよ…

うーん、とりあえず試して見ようか。

卵1個、砂糖60g、牛乳80ml、バター40g、ホットケーキミックス150g。

こっちの卵は大きいし、他の材料も少しずつ多めにした方が良いかも。そしてホットケーキミックス…ベーキングパウダーは入れすぎると不味くなるんだっけ?

小さじ1くらいで良いかな?

ホットケーキミックスは甘いから砂糖入ってるよね、きっと。小麦粉150gに30gほど砂糖を足してみる。材料を混ぜてカップ…はアルミのも紙のもないからとりあえずティーカップで代用。

魔力の糸をカップの中に挿し入れて加熱!

…それなりに膨らんだけど電子レンジで作ったみたいに焼き目がつかない。当たり前か。
カップの上に熱い板を被せるイメージを思い描くと焼き目がついた。このやり方でバーナー代わりもできそう…。そんな料理思いつかないけど。

さて、試食だ!

うん、ティーカップからスプーンで食べるのも良いかも。少し膨らみが足りない気がする。ベーキングパウダー小さじ2にして再チャレンジ!

おぉ~!しっかり膨らんだ。味も大丈夫だし、これでOK!

ストゥを呼んでティスを起こしてもらって朝食。カップケーキも出して説明したら、こっちも味は良いぞ、と膨らみがイマイチだった方も綺麗に食べてくれた。

新妻が失敗した料理をフォローしながら食べてくれる旦那さまみたい……なんて考えちゃった。

「タケル、顔が赤くなってますがどうしたんですか?」

…説明しづらいから内緒です…



朝食を食べ終わったら、早速施設に向けて家を出る。途中で食材を買い込むと紙カップも見つけたので大量に買った。



少年の家【ティグリス】。

王都には9つの少年の家と学校がある。隣接していて名前も同じ。ストゥとティスは少年の家【ティグリス】、学校は【シーミア】の出身。昨日乗馬の練習をした子達は確か【レプス】と【オウィス】の学校だって言ってた。

「どの子がどの少年の家に行くかはどうやって決まるの?」

「さあ?」
「職員じゃないと分からないと思います。」

どんな理由があるんだろう?
聞いても大丈夫なのかな?

そんな話をしているうちに【ティグリス】に着いた。

職員に挨拶をすると主任さんを含めた3人ほどが古株で、ストゥ達の世話をしていたそうだ。

「ようこそ【ティグリス】へ。」
「「お久しぶりです。」」
「初めまして。」

主任さんと挨拶をする。にこにこしてとても優しそうな人だ。今回、客人の俺が子供達に会いたがった事とおやつを作らせて欲しい事を告げるととても喜んでくれた。

「今、ここには32人の子供達と職員が8人。たくさん食べますから食べ物のお土産はいくらでも大歓迎です!」

良かった、喜んで貰えそうだ。昼食の準備も手伝います、と言ったら更に喜ばれ1時間後に調理場へ案内してもらう事になった。それまでは子供と遊ぶ。

子供達に紹介されて一緒に遊ぶ。9~10歳のの子が3歳の子のお世話係として生活の補助をするが遊ぶ時は好きな事をする。自分の役割に責任を持ちながら自分自身の成長の妨げにならないための配慮。

手遊びのルールに戸惑っていたら8歳の子が優しく手を取って教えてくれた。イケメンはこんな小さな頃からイケメンなんだ!ときゅんとした。ここのアイドルらしい。

3歳児は3人いたけど、みんなしっかりしていて驚いた。ただ、1人カ行の発音がタ行になってしまって可愛い。自分の名前「パスカリス」も「ぱすたりす」になっちゃう。

「来て」が「ちて」になり、「炊き込みご飯」が「たちとみどはん」になる。「男の子」は「おととのと」だよ?

転んだ時は「てだした」と泣くので「手、出した」と聞こえて誰かと喧嘩したのかと勘違い。なかなか理解出来なかった。「怪我した」だね。

昼食の準備の手伝いに行く。
ストゥとティスはこのまま子供達と遊ぶ。ストゥは体力勝負、ティスは絵を描いたり工作したりしている。

昼食の準備で野菜の皮剥きを魔術でさっさとやってしまったら、職員の人の目が点になっていた。

「どうやったんですか!?」

驚きつつ聞かれ、火属性で皮だけを焼却したと告げる。野菜の表面を撫でて焼くだけです。

職員さんも挑戦したけど皮が焦げただけで上手くいかなかった。皮と身の境い目を意識しながらやるんだけど、魔力不足で無理だって。これもチートだったね。

昼食は温野菜のコロコロサラダ、白身魚のムニエル、青菜のスープ、パン。おやつがあるからデザートはなし。

早々に準備できちゃったので夕飯の下拵えも手伝った。メニューに唐揚げを提案してレシピを教える。醤油はあまり使わないのでストックが少なく、足りなくなりそうだったからお昼寝の時間に買って来てもらう。

「お昼ご飯だよー!」

職員が呼ぶと子供達はきゃっきゃとはしゃぎながら戻って来て手洗いうがい。3~6歳がおとなしく席に着き、職員が盛り付けた料理を7歳以上が配膳する。配膳が終わると職員は床に座って小さい子のテーブルでお世話しながら一緒に食べる。

「たちぇる、とと!とと!」

パスカリスに呼ばれて座る。お誕生日席だ。パスカリスの反対側には4歳の子が座ってるけど、目を合わせてくれない。人見知りされてるのかな?

身長に合わせてストゥは上の年齢の子のテーブルで食べる事になった。背の高い職員が1人、同じようにそちらで食べる。ティスはこっちのテーブル。

「それではみなさん、いただきます。」
「いただきます!」

当番らしき子が立ち上がっていただきますを言うと、みんなで声を揃えていただきます!と言う。日本と同じだ。隣から「いただちます!」が聞こえる。

パスカリスを真似て最初にコロコロサラダを一口食べる。和えたドレッシングが効いてて美味しい。「おいしいねー」と言うと小首を傾げて「ねー!」と返ってくる。あぁ、もう!可愛すぎ!!

食べ進めて3分の2がなくなった頃、パスカリスのスピードが落ちた。向かいの4歳の子に

「ぜんぶ食べないとダメだよ。」

と言われてもう一口食べるも、後が続かない。

「お腹いっぱいになっちゃったの?」

俺の普通の食事と同じ量だから、この小さな子には多いのではないのかな?

「もう、おなたいっぱい。」
「ダメだよ。食べきらないとおやつ減らされるよ。」
「ヤダ!おやついっぱいたべる!」

そしてもう一口を見つめてから、くるりとこちらを向いて

「たちぇる、たべさせてー。」

にっこり。食べさせて良いのかな?先生達はどうしてるんだろう?

「自分でできなきゃダメでしょ!」

4歳の子が厳しく言うと、眉がへにょりと下がり、とても悲しそうだ。

「じゃぁ最後の一口だけ食べさせてあげるのはどうかな?」

最後ぐらいは許されるんじゃないだろうか?他の子ども達も目をキラキラさせている。

「では、最後の一口だけは食べさせてもらって良いです。」

主任さんがOKを出すと、やったー!と大喜びで軽快に食べる子ども達。食べさせてあげるために皆より早く食べ終わらないと!と急いで食べる。大きい子にはストゥが人気でそれ以外の子達は俺とティス、先生達に食べさせてもらう子もいる。良い笑顔でごちそうさまができた。新しい遊びになるかな?

食べ終わったら絵本の読み聞かせをして、5歳以下の子はお昼寝をする。それぞれのベッドにお世話係と一緒に行って寝るそうだ。パスカリスが一緒に寝ようと言ったけど、おやつの準備しておくね、と言ったら良いお返事をしてご機嫌でお昼寝しに行った。

お昼寝の間に他の子供達は職員と一緒に買い物へ行ったり掃除をしたりする。

職員にポテトチップスとカップケーキを作る、と言うと何だか分からないけどお願いします、と言われた。そんなにおおらかで大丈夫なの!?

せっかくだから準備から見せる。食育だね。

みんなが起きて集まったら調理開始。

分量を量った材料を風魔術で空中で混ぜて生地を作る。そこから配膳代に並べられたカップに均等に分けて入れ、目には見えない魔力の糸を仕込んで加熱するとみるみる膨らむ。仕上げに熱い空気の塊をカップの少し上に作って焼き目をつける。

ジャガイモの皮をひとなでで剥き、ボールに山積みにする。1つずつストゥに投げてもらって魔術の糸でスライス。ティスの風魔術で舞い上げて空中に浮かべた水の玉の中に入れて晒したら水の玉を霧にして飛ばし、できた虹をバックに火魔術で加熱。空中で自家製粉末コンソメと絡めて出来上がり!

食育と言うより大道芸かな?

子ども達はもちろん大はしゃぎで大興奮だ。職員もあっけにとられて子ども達を落ち着かせる事も忘れている。俺は得意になってパン!と手を叩いて配膳を促した。

「おやつを配ってくれる人はだれですか?」

年長の子が興奮冷めやらぬ風でおやつを配り、職員がお茶を配る。当番の子が席で立ち上がり「いただきます!」と言うとみんなためらいもなくぱくぱくと食べ始めた。カップケーキは1人3個、ポテトチップスはそれぞれの小皿に盛りつけて出した。

おいしいおいしいと言いながら頬張って食べる様子は微笑ましい。喉に詰まらせないでね。

「あんなに楽しい料理の仕方をよく思いつきましたね。」

ティスに言われて思わずドヤ顔しちゃった。ちょうど昨日夢に見たんだよね~。

「料理の事考えてたら、夢に出て来たんだよ。魔術もあるし、手伝ってもらえれば実現できそうだったからね!」

大喜びの子ども達に引き止められながら、また来る約束をして帰る。
充実した1日だった。

「子供、可愛いですね。」
「欲しくなったか?」
「うん、…産めないのが残念…」

ストゥとティスの子供が産めたら良かったのに…思わず腹部を撫でる俺の手にストゥとティスが手を重ねる。

「男同士でも子供を授かれる加護とかあったら良いな。」
「複数の四聖獣の加護を授かった人間は史上初ですから、タケルなら奇跡を起こせるかも知れませんよ?」

2人がそんな事を言うので奇跡を夢見てしまう。

「じゃぁ、あと青龍と朱雀の加護を得られるように頑張ってみようか。」

具体的に何をしたら良いのかなんて分からないけど、そんな奇跡を夢見るの事はそれだけでも幸せだから。3人の約束。いつか子供を…
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