行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな異世界へ

26 治癒!治癒!治癒!

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討伐2日目。

昨日と変わらない朝の風景。
今日も医療班はのんびり出動。
今日のおとりは美味鹿うましかじゃなくて…虫?
冬虫夏草勝とうちゅうかそうまさり、と言う。冬虫夏草って幼虫の時にきのこの胞子が付着して幼虫の養分を吸って成長したキノコだよね。勝り?

きのこが生えても生き長らえた虫、つまり生命力がキノコに勝る、が名前の由来。

これでおびき寄せられる魔獣はイノシシ系。今夜は牡丹鍋?カツにしたかったけどパン粉が無いなぁ。


**********************


怪我人が順次発生。

出動したら膝を押さえて我慢している人。膝のお皿が割れてる。これじゃぁ歩けないよね。
任されて

「治癒!」

…あ、声に出さないようにするんだった…。

今日はほとんどが梳刃猪すきばいのししと言って見た目は普通の大きな猪だけど、体毛のあちこちが刃のように進化しているので避けきれないとすれ違い様に切り裂かれる。傷は深くはないが放っておくと失血死しかねないので血止めが必要になる。もちろん猪だから突進にも注意。意外と直角に曲がってくる事もあるらしい。

「止血してくれ!」

そう言って次に来た人は返り血でどこが傷だか分からない。血をきれいにしてみると腿の後から出血している。今度は声に出さずに治癒できた!

次々と止血をして昼を少し過ぎた頃、ボスが来た。何かゲーム的な法則でもあるんだろうか?

『結界を閉じました。梳刃猪すきばいのししを討ち次第「あかがねの豚」の討伐に向かって下さい。』

今日もボスは象サイズ。大きな牙、普通の色の毛皮にぽつぽつと赤く輝く模様の猪。猪なのに名前が「あかがねの豚」って。赤い模様ちょっとしか無いよ?

あかがねの豚は梳刃猪すきばいのししと同じく体毛が進化して刃になっているんだけど特に魔力が集中してできた赤い毛の刃は鋭利で丈夫な武器になる。あれで作った赤鱗の鎧は国宝に指定され、王宮に飾られていると言う。その鎧を作った人は1人であかがねの豚を倒したとかなんとか…

止血に来る人の傷がさっきより深い。それだけ鋭利なのか。



あかがねの豚が倒され剥ぎ取りが始まる。

支え合いながら近づいて来る見覚えのある2人組。

「ストゥ!」

叫んで駆け寄るフォンス君の後を慌てて追いかける。
ストゥさんが怪我?

近づくとストゥさんは右腕から血を流し、ストゥさんに支えられたティスさんの顔が苦痛に歪んでいる。そっと地面に下ろして確認すると左の腰骨のあたりがざっくりと切れていた。

ストゥさんも気になるけどフォンス君が治療してくれる様なのでティスさんに専念する。

落ち着け!落ち着け!!

自分に言聞かせながら傷口を浄化し、抉られた組織の再生を促し、傷を塞ぐ。少し血が足りないけど輸血はできないし、本人の回復力に任せるしかない。

動揺しながらも何とか治療を終えるとティスさんが起き上がって傷があった所を触っている。

「凄い…タケルは本当にすごいですね。もう完治してますよ。」

怖かった!!
運良く骨盤で止まって内臓が傷ついてなかったから良かったけど、治癒はできても蘇生はできないんだから… 俺は涙をぼろぼろこぼし、人目も憚らず縋り付いて大泣きしてしまった。

…既に戦闘が終わって、治癒に来た人達が待ってるのに…

落ち着きを取り戻した俺は周りの温かい眼差しが居たたまれなかった。
だから並んだ人、全員の治療が終わるまで「治癒!」「治癒!」と声に出している事に思い至らなかった。


**********************


昨日と同じように夕食。トンカツ…猪だからチョカツ?食べたかったな。昨日より戦闘後の怪我人が多くて自分で調理する時間がなかった。後で調理班の人に相談してみよう。

昨日と違うのはストゥさんとアラケルの間に座ってご機嫌なフォンス君がいる事とティスさんが俺にぴったりくっついている事かな?

「ストゥの新しい恋人かと思ったけどティスの恋人だったんだね。良かったー!」

フォンス君の言葉にストゥさんが苦笑いする。

「オレ達2人ともだ。今日は元・怪我人に譲ってるだけ。」

「えっ!?なにそれ!僕に二股止めろって文句言ってたのにどうして?」

お前の二股と一緒にすんな、とか、よりを戻す気は一切ない、とか言われてもフォンス君全然めげない。メンタル強いなー。アラケルは面白そうに眺めてるし。

そう言えばストゥさんの元カレとティスさんに振られたアラケルと俺、って修羅場?

「おれはすっぱり諦めたから。タケルとは友達として料理の話ししてる方が楽しい。」

「アラケル男らしい!」

俺が褒めるとぷっと吹き出して笑う。アラケルもイケメンだなー。

「本当におれだけ呼び捨てなんだ。」

にやにやしながらドヤ顔でティスさんとストゥさんを見る。だってさぁ。

「…すぐに呼び捨てしてもらいますから。」

目尻を赤く染めて拗ねるティスさんが可愛くてドキドキした。


よぅ!と言ってストゥさんの知り合いが来た。見覚えがあるけど、治療した人かな?

「ラティオだ。今日は止血してくれてありがとな!」

あ、今日治療した2人目の人だ。

「でも黒髪の可愛いこがちゅーしてくれるって聞いて期待してたのに、おれだけ普通の治癒でがっかりしたよ。」

なんで俺だけ?って言われてもちゅーなんて誰にもしてない!!

「ちゅーなんて誰にもしてませんよ!?」

ストゥさんとティスさんは置いといて。

「それ、治療する時に治癒!って声に出てるやつじゃない?」

とジト目のフォンス君。

治癒!→ちゆ!→ちゅー

っぇぇぇええええ!?

何それ恥ずかしすぎる!!

「もう絶っ対、声に出しません!!」

おやすみなさい!と言ってテントに駆け込む。いやぁあぁっっ!!



**********************
ストゥside



「私ももう休みます。」

タケルの後を追ってティスがテントに戻るのを見送りラティオが面白そうに言う。

「さっきも抱きついて大泣きしてたし、ティスの恋人なのか?客人まろうどだろ?歳は?」

「タケルは客人まろうどだけどもともと同性愛者だったそうだ。それから18歳でティスの恋人じゃなくてオレとティスの恋人な。」

まだ答えはもらってないけどタケルなら絶対そうなるだろう。

「うらやましいぜ、まったく。」

あのサイズ抱きしめたい、とかほざくな。

「あの肌の手触りは凶器ですよねぇ…」

って、余計な興味持たせる様な事言ってんじゃねぇ。手を見つめるな!思い出すな!!

ぼかっ!
まったく、思わず手が出たぜ。

「アラケルも誘われたの!?」

不快感丸出しで言うフォンスに説明する。タケルが尻軽なんてデマ流されちゃ堪らない。

「あいつは性的に触られる経験が無かったから油断し過ぎてたんだ。今はもうオレ達にしか触らせねぇよ。」

「泣かせちゃったからなぁ。」

アラケルは反省しているようだ。フォンスはあざといとかずるいとか真似するのは癪だし、とかぶつぶつ言ってる。そっと近づいたラティオがフォンスの肩を抱くと驚いたように見上げて見つめあって、フォンスが頬を染める。

…解散!

テントに入るとティスとタケルは2人で身を寄せあって眠っていた。

嫉妬と寂しさがじわっと胸に広がるものの、大けがをしたティスと大人数を治癒したタケルの事を思いやれば邪魔をする訳にはいかない。毛布を直すと薄く目を開けてお帰りなさい、と言う。それだけで心が軽くなり幸福を感じる。我ながらチョロい。

隣に横になってタケルの頭を撫でながら眠った。



**********************



討伐3日目。

血が足りなくて低血圧なのかバカティスがいつも以上に寝ぼけて俺に抱きついて

「タケルがゴツくなった…」

って馬鹿野郎!!脇で着替えているタケルがクスクス笑ってる。
1発叩いて目を覚まさせ、朝食を食べる。
フォンスがラティオにべったりくっついて2人の世界を作っているのを見かけた。幸せになってくれるなら良いのだが。

狼、猪と来たら今日の討伐対象は鹿か。目指すは花散はなちらす王鹿おうがの討伐。

先に来る雷鹿らいがは雷を纏うと言われ、攻撃の度に剣を通して痺れが蓄積する。投げナイフや弓、魔法による遠距離攻撃が有効だ。昨日の梳刃猪すきばいのしし毛刃もうじんも支給されるので投げナイフとして使う。あかがねの豚の物よりは落ちるが充分鋭く、数が手に入るので使い勝手が良い。だから毎年梳刃猪すきばいのししの次に雷鹿らいがを狩るように決まっている。灰牙狼はいがろうは後でも先でも良い。

「よう!昨日はかわいい子に引き合わせてもらってありがとうな」

ラティオが機嫌良くそう言うとティスが胡乱気に俺を見る。タケルの事じゃないぞ?

「フォンスだ。あいつかわいいじゃないか。甘え上手でいやらしくて最高だぜ。」

「あいつは気が多いから気をつけろよ。」

「ほう?なら大人の余裕で他を見る暇が無いくらい振り回してやるさ。」

頑張れ、と少し年上のラティオを応援する。

ティスに今日はタケルを泣かすなよ、と発破をかけて出発だ。
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