行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな異世界へ

25 討伐初日で護符不要

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討伐初日の朝。

一斉に朝食を食べて出陣式。

医療班は目印に白いハチマキと白いタスキ。
応援団か。

走り回って暑くなるからローブは不要だけど、朝はまだ少し肌寒い。

野太い雄叫びを響かせて討伐班が出発する。医療班は2人1組で3チームと班長。俺はフォンス君と3班。呼ばれた順に治療にあたる。班長は重傷者のみ治療。

外からは入れて中からは出られない結界が張ってある。美味鹿うましかと言うダジャレとしか思えない名前の鹿は狼系の魔獣を大量に呼び寄せるので狩り場の真ん中の檻に入れられている。風魔法で匂いをまき散らすと早速狼型の魔獣が入って来た、らしい。

狩り場の大きさはサッカースタジアムくらいかな?よく分からないけど。
遠くに人が集まって行くので魔獣が来たのかな?って感じ。あ、また来たみたい。

あまり近づくと邪魔になるから怪我人が出るまで離れて待機。歓声が上がって魔獣を仕留めた事が分かる。反対から新しい魔獣が複数入って来たのを皮切りに本格的な戦闘が始まった。

少し先に見えた魔獣は普通のでっかい狼。普通のって言っても立ち上がったらこっちの人と同じくらいあるから2mはあるって事で…でかい。そしてとても攻撃的で怖い。

背後から攻撃をされて倒れた人が立ち上がらない。1班が行く。

乱戦になって来て怪我人がちらほら出始める。かすり傷は治さない、って事はどのくらいの傷を治すのか?最低でも骨折?咬み傷の解毒はどんどんした方が良いよね。

やっと3班が呼ばれた。
行くと1人は足を噛まれ、1人は脇腹を引き裂かれたようだった。
お前はそっち!と言われフォンス君が足の治療を始めたので、脇腹をケガしている人の側に行く。内臓が傷ついているか分からないけど

「解毒!治癒!」

「ぶっ!」

フォンス君に笑われた。まだ声に出さないとこんなひどい怪我は治せないの!しかたないの!!
心の中では痛いの痛いの飛んで行け!と唱えている事は絶対秘密だな。
あれ?ティスさんも魔術使う時声に出してたよね。 …人それぞれなのか。

「もう大丈夫ですか?未熟者なので不具合があったらすぐ言って下さいね。」

そう言って次の人の所へ走る。小指が取れかけてる…
骨と神経と血管と筋肉と皮膚をつなぐイメージで「治癒!」

「お前!護符使ってないのか!?」

そう言えばフォンス君に言われて思い出した。せっかく用意したのに動転しててすっかり忘れてた。
護符を使えば魔力の節約になるって言っただろ、って言われたので次は使ってみよう。

小指はちゃんとくっついたようだ。

ひときわ大きな声が聞こえ、そちらを見ると象ほどもあるサイの様な角を生やした真っ黒い狼。赤い目が禍々しく輝く。

『結界を閉じました。灰牙狼はいがろうを討ち次第フェンリルの討伐に向かって下さい。』

風に乗って聞こえる業務連絡。
巨大なフェンリルに喜々として向かう討伐班。みんな楽しそうだなー。

フェンリルにはじき飛ばされた人の下敷きになった人が立てなくなり、仲間が少し離れた所に引きずって行ったので駆けつける。護符を使うように促され膝の上であらぬ方向へ曲がった足を正しい位置に戻し、護符を置いて使ってみるが効きが悪い。1枚で足りないときは複数枚使用するそうだが面倒になって護符なしで

「治癒!」

うん、この方が楽。フォンス君には呆れられたけど。

治した人がフェンリルに突っ込んで行くのを見送りっていたら治し過ぎだと注意された。魔力を温存するよう言われていたけど減った気がしないから分からないんだよなぁ。とりあえず素直に返事をしておく。

しばらくして漸くフェンリルが倒れ勝ちどきが上がる。

角、牙、爪、毛皮が剥がれ心臓で結晶化した魔石を取り出す。それ以外も使える素材を剥ぎ取って行く。今日は解体作業が終われば終了だ。

怪我をしながら戦っていた人達が続々と治療にやってくる。2人で順次治療しているけどフォンスさんが治療する相手を顔で選んでいる疑惑… 疑わしきは罰せず?

何人治療したんだろう? 結構な重傷者20人はしてるハズだけど走った事の方が疲れてるくらいだ。最後の1人はアラケルさんだった。肩の脱臼で自分ではめたけど腫れて熱を持って来たらしい。骨にひびが入ってるかも知れない。

治療しようとしたらフォンス君が僕がやる!って。やっぱり顔なの?

剥ぎ取りも終わったようでたくさんの素材が積み上げられたリヤカーっぽい物が何台も本部に向かう。フォンス君はアラケルさんを気に入ったようで並んで話しながら歩いている。

本部に戻って報告をする。ギルドにあったのと同じ黒い石に手をかざすと治した延べ人数が出た。
俺は24人を完治させていてほとんど疲れていない。

「ちょっと来い!」

班長に呼ばれ魔力量測定器で魔力残量を確認されたけど今回も振り切ってて測定不可能。
美人の班長が埴輪のようになっている。やっぱり客人まろうどは規格外なんだね。

立ち直った班長から結界の魔力補充を手伝うよう言われた。フル充電してきた!

狼の肉が焼かれ、定番の夕食が豪華になる。狼なんて美味しいのかな?って思ってごめんなさい。美味しいです!!でも野菜が足りなくて今夜こそ大根サラダを作った。

明日もあるのに夕飯はお祭り騒ぎで酒盛りしてる。結界があるから安心して飲めるんだろうなー。

いつも通り3人で食べてたらストゥさん達の知り合いが入れ代り立ち代りやって来る。治癒した人も来て凄く感謝された。普通は完治まではしてくれないから一度ケガしたら後は痛みをこらえて頑張るしかないのに完治してくれてありがとう!って。

えへへ、嬉しい。こんなにダイレクトに人の役に立てる事なんて今まで無かったから凄く嬉しい。

でもこの宴につきあっていたらキリが無いので挨拶をして先にテントへ戻る。
楽な服に着替えている途中でティスさんが帰って来た。テントは結界が張ってあるけど魔力認証で通り抜けられる。それなのに外に出て来て欲しいってどうしたんだろう?

外に出るとアラケルさんが肩を押さえて立っていた。

「まだ痛むんですか?」

頷くアラケルさんの肩を触るとまだ熱を持っている。魔力で内部を調べると外れた時かはめた時か分からないが小さく剥離骨折していて筋肉は炎症を起こしている。

治りかけてはいるが炎症を起こしてるから痛いんだな。剥離した部分を魔力で押してつなげ、代謝の促進で炎症を治す。

「治癒!」

はい、完治!って、何で2人とも笑ってるの!!

「治癒!って言うのが可愛くて…」

ティスさんは口を押さえて赤い顔して肩を振るわせている。ティスさんだって言葉にしてるじゃん!アラケルさんは我慢もせずに笑ってる。治してやったのに!お前なんかもう呼び捨てにしてやる!!

…言わないでも治癒できるようになってやる!

決意を固めた所にストゥさんが帰って来て、アラケルが事細かに説明する。おい!

「じゃぁ、オレの治療もしてくれ。」

えっ?驚く俺の前でシャツを脱いで見せた上半身には左胸から脇腹にかけて大きな痣ができている。確認すると肋骨が2本折れている。それであんなにお酒飲んだらダメーーー!!

大急ぎで骨をつないで代謝促進で内出血と炎症を治す。

「治癒!」

また言っちゃった… 心配させないでよ。

「本当に可愛いな。これを誰彼構わず見せてたのかと思うと…妬ける。」

蕩けた顔で苦笑いしないで! 

「さ、もう寝ますよ。」

胸に手を置いたまま見上げてたらティスさんに引き離された。

「アラケル、おやすみー。」

「!?」

ティスさんの顔が強ばる。なんで?
ストゥさんもテントに入って来て着替えるけどティスさんは固まったまま。

「どうして…アラケルは呼び捨てになったんですか?」

両手で顔を挟まれて切羽詰まった声で聞かれる。だってアイツ俺の事笑うから呼び捨てにしてやろうと思って。

「私だって呼び捨てにして欲しいのに…」

え!? 泣く程?

「えーっと… ティス?」

ぱあぁぁぁぁ!と顔をほころばせたティスさ…ティスにキスされた。

「んむっ…ん、ちゅっ…くちゅ…」

ダメだから!遠征中はディープキス禁止だから!!って言いたいのに力が入らない…ふにゃぁ…

ストゥさんが引き離してくれた。ダメって言ってるのに…。と睨んだのに名残惜しそうな顔しないで。
ストゥさんに凭れて肩で息してたら顎を持って上を向かされてオレも呼び捨てな?って。

「……ストゥ。」

「んちゅ~~~~~~!!」

舌を吸われて甘噛みされて上顎を舐め回されて…
こんどはティスさんが引き離してくれた。

「2人とも呼び捨ては止めます!」

だって勃っちゃったじゃないか!
体を丸めてやり過ごそうとしてたら目配せしあった2人にお世話されてしまった。外に聞こえちゃったらどうするの!?

このテントには防御結界と遮音結界が張られてるから大丈夫なんだって。す…少しは安心…かな?
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