行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな異世界へ

16 採集指導

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指導用採集依頼は王都に一番近い森へ行く。

と言っても王都に隣接した北の森は「入らずの森」つまり禁足地なのでその少し東の森へ行く。ここは結界が張られているので強い魔獣は出ない。少し攻撃的な小鳥型魔獣に突かれるくらいだが季節によっては髪の毛を毟り取られて巣材にされるのでそれなりに注意が必要だ。特に一部の人に。

レフェクはまっすぐに伸びる茎にまん丸な葉をつける。1番上が1枚、2番目が2枚、5段目になる1番下に5枚の葉をつける草で5段目があるのが成熟した状態で採集可能。上から2番目の2枚の葉だけに効能があるから2段目と3段目の真ん中辺りで切る。花が咲いたものは次世代のために採らない。

アケビアはそのまんまアケビだ。蔓は処理のし方で武器にも薬にも衣服にもなる。こちらは生育がめちゃくちゃ良いので根こそぎ採っても問題ない。

エピメディウムは50cmほどになる草で薬の材料になる。12~13株の小さな群生地を作るから地面から3cmほど茎を残して3分の2だけ採る。茎を残すと後から来た人に採集済みの群生地だと分かるから。

ケラススの樹皮は薬や道具になる。山桜にしか見えないけど大丈夫なのかな?前にテレビで「桜切るバカ 梅切らぬバカ」って、桜は弱いからむやみに切っちゃダメって言ってたのに。

「この樹は通りかかった生き物の魔力を吸って立ち直るので大丈夫です。」

え、これ魔獣なの?

「精霊樹です。花が咲いたら酒や食べ物を持ち寄って飲み比べをして酔い潰れた者を生け贄に置いて帰ります。7割程度の魔力を吸われるだけなので命を取られる事はなく全く問題ありません。」

花見客は生け贄だったのか。

早春の森は山菜がたくさん見つかり、今夜は天ぷらにしようと決めた。

コゴミは胡桃和え!




必要素材と一緒に山盛りの山菜を採集カゴに入れ、帰路につく。
そう言えばこちらの市場では豆腐を見かけない。作れる人が居ないのだろうか?
ティスさんは聞いた事もないそうだ。

残念だ。作り方はグルメ漫画で読んだだけだし、再現する自信はない。

ダリュマさんなら知ってるかも知れないけど、連絡手段とかあるかなぁ?グラウィスさんももしかして知ってるかも。聞いてみよう。




ギルドに戻って依頼終了。
達成料は500円。(笑)

山菜の買い取りも出来ると言われたけど、これは夕ご飯だからダメ。

あ‥‥ここのミニキッチンでこの量の揚げ物は辛い。どうしよう?
ティスさんに相談したらグラウィスさんの家のキッチンを借りられると思う、と言う事だった。

ギルド受け付けにストゥさんへの伝言を頼んでグラウィスさんの勤めるお店に行く。グラウィスさんは好きに使ってくれと快く鍵を貸してくれた。

豆腐を作っている店も聞いたら一軒だけだと言う。味が薄くて歯ごたえも無いから人気がく、和食屋さんに卸すだけらしい。

グラウィスさんのお店の少し先にある豆腐屋さんに行く。こんな時間に飛び込みで行って残っているだろうか?

「ごめんください!お豆腐を一丁売って頂きたいのですが、まだ残ってますか?」

灯りはついているが、がらんとした店には誰も居ない。木製の店はショーウィンドウなどなく、販売用の窓があるだけ。中を覗くと豆腐を浸けておく大きな据え置きの水槽みたいなやつと、大きな鍋、よく分からない大きな機械。鍋の反対側には棚がある。

「厚揚げ!がんもどき!油揚げ!」

棚の上の物を見て思わず声を上げるとちょうど奥から出て来た店主が驚いた顔をした。

「坊主、客人まろうどか?」

「はい。芦原あしはら たけるです。こちらで豆腐を販売しているとお聞きしました。」

「確かに作っちゃいるが、料理屋からの注文分だけだ。」

「1丁だけでは注文できませんか?」

業務用専門店だと無理かなぁ?

「1丁だけか?1回こっきりか毎日かも聞かねぇと返事のしようがねぇ。」

「えっと、2~3日に1回は食べたいです。あと肉豆腐とかすき焼きなら3丁は欲しいし湯豆腐の日は‥‥」

「面倒くせぇ!料理屋に多めに卸すようにしとくからそっちから買え!紹介状書いてやる!」

「あ、ありがとうございます!!」

確かにその方がありがたい。壁の所にある厚揚げは売ってくれるかな?

「あの、そこにある厚揚げとがんもどきは売ってもらえますか?」

「どうやって食う?」

「えーっと、あの、がんもどきは大根と、厚揚げはひき肉を詰めて煮ます。野菜と炒めても良いしチーズを乗せても美味しいですよね。もちろん、そのまま炙ってショウガ醤油でも良いな。」

あれ?ぐぬぬって顔してる。厚揚げにチーズは邪道だったか?

「味の想像がつかん!!今日はタダで良いから、今度作りにこい!」

「はい!ありがとうございます!」

和食屋さんの場所を教えてもらい紹介状を書いてもらって豆腐を買いに行く。怒ってるみたいな話し方だけど面白いおじさんだった。いつ作りに行こうかな?引っ越した後なら食べに来てもらっても良いかも。

和食屋さんはにはだるまさんがいた。ダリュマさんのお父さんだった。そりゃあもう、ソックリだった。



グラウィスさんの家に行くと、ストゥさんが玄関の前で待っていた。

「ごめんなさい!だいぶ待ちました?」

「いや、ついさっき来た所だ。」

豆腐屋さんと和食屋さんを回った事で思ったより遅くなってしまった。

「急いで作りますね。」

家の鍵を開け、3人で中に入る。
灯りをつけてキッチンへ。
白飯、山菜の天ぷら、コゴミの胡桃和え、ネギと豆腐の味噌汁、がんもどきの煮物。

グラウィスさんの分を取り分けておいて食べる。2人のスピードに焦ってしまうので自分の分も取り分けた。

ストゥさんが持って来たお酒も飲みながらなのに早送りのように料理が無くなって行く。食べっぷりに喜びを感じるも、もっとゆっくり味わって欲しいとも思う。あと、せめてご飯は炊けるように2人を仕込もう。

料理が残り1割になった頃、グラウィスさんが帰って来た。

「おい!俺の分はないのか!?
客人まろうどの料理を食べるチャンスはいくらでも欲しいのに!!」

急いで帰って来たのか、少し息が上がっている。俺は笑って取り分けておいた分を見せる。天ぷらは今から揚げますよ~、揚げたてアツアツですよ~、と言ったら悲壮な顔が満面の笑みに変わった。

グラウィスさんの分まで狙うストゥさんに厚揚げのチーズ焼きを作って出すと、食べ終わっていたティスさんもグラウィスさんも味見をしようと手を伸ばす。抱え込んで取られまいとするストゥさん。子供か。

楽しくて暖かいほのぼの空間につい長居してしまった。

「そうだ、良かったらお風呂も入っていけば?」

お言葉に甘える事にする。
着替えがなくても浄化魔法で一瞬で綺麗になるからとても便利だ。

「お前も入るのか?」
「うちの風呂だぞ。」

脱衣所で睨み合うストゥさんとグラウィスさんを横目に、ティスさんと一緒に先に入る。
毎日入るお風呂がこのサイズなんて、日本だと水道料金が心配だけど浄化魔法でお湯はずっと綺麗なままなんだって。

なんて素晴らしい世界なんだ!!

俺達が湯舟に入ってすぐ、ストゥさんが入って来た。それを追いかけるように入って来るグラウィスさん。あ、お湯かけ合いだした。

「下心が見えてんぞ!」
「疚しい気持ちじゃない!これからも料理の話がしたいだけだ!」
「料理の話をするのに風呂に入る必要はないだろうが。」
「明日もまだ仕事なんだから時間を無駄にしたくないんだ!」

「あ‥‥あの、ごめんなさい‥‥」

俺のせいで遅くなっちゃったのかな?

「あぁ、大丈夫だよ!みんなが帰るのを待ってから入るのだと遅くなるけど、今入るなら予定通りだ。食事まで作ってもらえたしね。」

迷惑じゃなかったみたいでホッとしてたら、ずっと黙っていたティスさんが口を開いた。

「グラウィス‥‥試食のし過ぎじゃないですか?」

確かにグラウィスさんのお腹はかなり出ている。おまけに毛深い‥‥そう言えばティスさんは胸毛が嫌いなんだっけ?

「これは職業病だから仕方ないんだよ‥。」

そう言いながら少し悲しそうな顔をする。

「気にし過ぎるのも良くないと思いますが、病気に気をつけて下さいね。」

「ありがとう、彼がタケルくんみたいに優しかったら良かったのになぁ。」

ん?彼?

「体型に文句をつけられて振られたなら鍛えて見返してやれば良いでしょう。」

「そうは言ってもねぇ‥‥」

つまり、前は太ってなくて、太ったから振られたの?ひどい!

「太ってても締まっててもグラウィスさんはグラウィスさんなのに!それに‥‥俺はこのお腹、嫌いじゃないですよ?今のグラウィスさんを好きになる人は絶対います!」

まあ俺に好かれても嬉しくないかな?
近づいてお腹を触るとなんだか和むし、頼り甲斐がある。

笑顔を向けるとグラウィスさんは優しく微笑んだ。

「タケルの優しさが伝わったなら、新天地で仕事も恋も健康も頑張って下さいね。」

頑張るよ。と言ってガッツポーズをするグラウィスさんを見て俺も頑張ります!って返す。

その後みんなで泊めてもらった。

この家は1階はLDKとお風呂とトイレ。
2階に大きな1部屋と小さな3部屋とトイレが2つになっている。小さな部屋が個室で大きな部屋は2段ベッドが2つ置かれた4人部屋だったけど人が減ったので2段ベッドを処分して大きなベッドを入れ、自分の部屋にしたそうだ。

元々はこの街で独立するつもりだったので修行時代からコツコツ貯めたお金で買い取ったのに、故郷で開業する事になり手放す事になったからこの家をよろしく、って。

‥‥別れた恋人との思い出もたくさん詰まっていて辛いから。

それを聞いてうるっとしてたのに、ストゥさんが恋人と別れる不吉な物件かよ、なんて言い出した。ひどい!
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