行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな異世界へ

9 歓迎パーティー

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朝食を食べ終わると、すぐに謁見の時間だ。
形式張ったものではないので謁見室に案内されて片膝ついて頭を下げて待つ。
さわさわと人の入って来る気配がする。

そして突然、空気がずしっと重くなるのを感じた。

「面を上げよ。」

威厳に満ちた重低音が耳に届く。

顔を上げると2人掛けかと思っていた立派な玉座にぴったりの山のように盛り上がった筋肉をまとった重々しい衣装の王が座り、斜め後方にキリッとした女の人がすらりと立っている。王妃様だろう。その隣に煌びやかな男の人4人の中にウェーヌ様もいる。女の人が1人。おそらく王太子、第二王子、第三王子、第四王子、第一王女だろう。

反対側にいるのはさっき謁見の説明をしてくれた宰相さんだ。

客人まろうどよ、良く参った。そなたは王であるユーキディウム・ステルラ・ウェルテクスが後見する。叶うならばこの国に留まり知識を提供し、その血筋を残して欲しい。だがそれは義務ではない。帰りたいのであればその協力は惜しまぬ。何なりと希望を申せ。ただし、本日夕刻の歓迎パーティーだけは出席して欲しい。よろしく頼む。」

宰相さんに促されて立ち上がり、口を開いた。

「初めまして、葦原あしはら たけると申します。この度は迷い込んだ私を手厚くもてなし、手を差し伸べて下さった事を心から感謝致します。何も分からぬ若輩者でありますが、しばらくこの世界にお世話になりたいと考えておりますので、よろしくお願い致します。」

「うむ、それは喜ばしい。
長の逗留を期待している。」

続いて王族の方々が自己紹介をしてくれた。

アドラーティ王妃、王太子クルトゥス、第二王子セイリウス、ウェーヌ様が第三王子と名乗ったのに、隣の人も第三王子ウルバーヌと名乗り、お姫様は第二王女ウィオラと名乗った。

「「「え?」」」

思わず声が出てしまったのは俺だけではなかった。

「「「「ぶははははは!」」」」

王族と宰相さんが豪快に笑い出す。

「双子で、私の方が先に生まれたんだから、第三王子は私です!」

ウェーヌ様が言う。

確かに第三王子と名乗った2人は良く似ている。髪の色も瞳の色も背格好も似ている。ウェーヌ様の方が少しだけ華奢に見える。

「確かにお前の方が先に生まれたが、残念ながらお前は第一王女ウェヌスタリアだ。」

爆弾発言!!

えっ!?王女?

どっからどう見ても超イケメンなんですけど!?

ティスさん達も知らなかったようで俺と同じくらい驚いている。

「王子ではないから自由に動けて客人まろうどを迎えに行けたのだろう?」

「女に生まれただけで可愛い女性を愛する事が許されないなんて理不尽だ!この国には可愛い男なんていないし!!」

あー、みんな大きくてゴツいもんね。
細マッチョもいるけど、可愛いかどうかは個人の好みだから何も言えないし。

「だけどタケルなら‥‥」

スタスタ近づいて来て俺の手を取り

「私の恋人になって欲しい。」

えーっと、えぇーっと!

「俺、男しか好きになった事ないから‥‥」

「!?」

王子達と王女が駆け寄って来て

「ならば私と!」
「兄上は王太子なんだから後継ぎを作って下さい!第二王子の私ならいかがです?」
「第二王子だって王弟になるんだから自粛して下さいよ。第三王子の方がお勧めだよ?」
「女性に嫌悪感がなければ試しにお付き合いして見ませんか?」

やいのやいのと賑やかな王子達‥‥俺モテモテ?

「‥‥しばらく考えさせて下さい。」

そう答えるのがやっとだった。
王様も王妃様も宰相さんもお腹抱えて笑ってるし!!



そんなドタバタな謁見が終わり、客間へ戻る。疲れた‥‥。

「驚いたな‥‥。」

ストゥさんの感想に2人で激しく同意しながら侍従さんの淹れてくれたお茶を飲む。

少しホッとしていたところへ、扉がノックされ侍従さんが第二王女の来訪を告げる。門前払いも気がひけるので招き入れると、華やかな笑顔で話し始めた。

「先ほどは驚かせて申し訳ありません。初対面なのにいきなり交際を迫るなんて‥‥
わたくし、反省して良く考えました。
わたくしがタケル様を組み敷くのは犯罪にしか思えません!」

‥‥それは考えたと言うか妄想したのでは?とツッコミたかったが口を挟む間は与えられなかった。

「ですから、どうかわたくしを姉と呼んで下さい!」

「はい?」

「わたくし、末っ子でしょう?
それで妹ならともかく、弟が生まれたら4人目以降として3歳になったら少年の家に行ってしまいます。それでは寂しいのです。わたくしの弟として、仲良くして下さいませんか?」

そう言う事なら恋愛を迫られるより遥かに受け入れやすい。あと、4人目以降の男は少年の家で育てられる、っての王族でもそうなんだ。

「えーっと‥‥ねえさま?‥‥姉上?」

「あぁぁぁっ!可愛い~~~!!
ウィオラねえさまと呼んで!」

ぐえっ!
抱きし‥‥め‥‥苦しい‥‥

「王女殿下、タケルが死んでしまいます!」

ティスさんに注意されて緩めてくれた。女の子でもこんなに強いんだね。
ごっこ遊びに付き合うのは良いけど、なんで膝に乗せられてるんだろう?

またノックの音。
今度は第三王子とウェーヌ様だった。
ほぼ同じ顔の美形が2人も並ぶと破壊力がすごぅい‥‥

「‥‥何故、ウィオラがタケルを膝に乗せているのかな?」

ウェーヌ様、機嫌悪い?

「タケルはわたくしの弟になってもらいましたの。」

「お前は15歳で、タケルは18歳なんだから兄じゃないのか?」

「兄は間に合ってます。それにこんなに小さくて愛らしいのですから弟以外考えられません!」

頭を撫でられる。

「タケルはそれで良いのかい?」

第三王子のウルバーヌ様が言う。心配してくれるなんて良い人だなぁ。

「えっと、日本にいる時も友達みんなから弟扱いされてたから気になりません。」

小動物扱いもされてたけど。

「そうか、嫌でないなら良い。それにウィオラの弟なら私の弟でもあるな!」

「うわっ!」

ウルバーヌ様はウィオラねえさまの膝から俺を取り上げ子供抱きする。美形の煌びやかな笑顔を見下ろす形になる。見とれずにはいられないしドキドキして息が詰まる。

「ウル!独り占めするな!」

今度はウェーヌ様に抱かれる。ちょ!これ姫抱き!!

「タケル、私が女だと嫌?」

言われてみると不自然に硬い胸が当たっている。サラシか何かで押さえているのかも知れない。結構まじめに悩んでいるのかな?

「‥あ、の‥‥今まで好きになった人が男の人だっただけで女の人ってだけで嫌いなわけではないです。」

人格を無視して嫌うほどトラウマがある訳ではないし、やっぱりウェーヌ様はイケメンにしか見えないから、至近距離で見つめられるとうっとりしちゃう。

あ、前は性別がバレないように距離を取ってたのかな?こんなに近づいたの初めてだ。

「ウェーヌ殿下、もうよろしいですか?」

ティスさんが回収してくれた。
‥‥また子供抱き‥‥

パーティーの準備のためにそれぞれが引きあげた後、ストゥさんにも抱っこされた。割り込むのも気が引けて我慢してたんだって。何だか可愛くて首に抱きついちゃったよ。


**********************


パーティーの時間になると、俺をエスコートすると言って王太子のクルトゥス様と第二王子のセイリウス様が迎えに来た。
え?両手を取られて入場って、おかしくない?

ハイキング用の服で煌びやかな正装の美形王子達に両手を取られて入場‥‥居た堪れない‥‥

王様に紹介されて挨拶をし、参加者を見るとドレスを着た美しい令嬢達が大勢いた。王都中の未婚の貴族令嬢が集まったそうだ。お眼鏡に叶う客人まろうどなら婚約破棄も辞さないって‥‥

そう言えば髪色がカラフル!!
ピンク、水色、黄緑と色々な髪色の人が居る。近づかないと瞳の色は分からないけどこれは期待できる。

王子と王女が周りを牽制してくれて揉みくちゃにならずに済んだけどこの国、貴族も王族に対して気安いと言うか物怖じしない。不敬罪が存在しないかららしい。

王族にがっちり囲まれて頭すら見えないと令嬢達から不満が上がると、第一王子のクルトゥス様の肩に乗せられた。高くて怖くて頭にしがみついてしまった。会場から歓声が上がる。

王様と同じくらい大柄な初老のゴリマッチョ紳士のソノールス公爵が進み出て、せめて挨拶と握手をさせて欲しいと言う。何とこの方、前王陛下だそうだ。この国では王位を譲ると引退して公爵となる。公爵になった後で子供が生まれても爵位は継げないから男児は皆、少年の家に行く。家には娘が1人いるそうだ。

歓迎パーティーで挨拶しないと申し訳ないので降ろしてもらい、進み出る。
数えきれない人と挨拶と握手をして行く。だんだん顔が引き攣ってくるし、手が腫れて来た。みんな大きいから1段高いところに立って挨拶してたんだけどそれでも見上げるから肩が凝ってガチガチだ。

頑張って最後まで挨拶したけどもうヘロヘロ‥‥お腹もぺこぺこ。座らせてもらって飲み物もらって一息ついてたら第二王子のセイリウス様が料理を持って来てくれた。それ、王子のする事じゃないよね。

しかも食べさせようとする!!
何なの!?ここの王族!

「自分で食べられます!」

つい大声を出してしまった。

それなのにセイリウス様はこの一口だけで良いから、と譲らない。
俺は諦めて差し出されたカナッペをぱくりと口に入れる。うぅ‥‥指まで舐めちゃった‥
俺が舐めた指をペロッと舐める。
ぎゃーっっっ!!何してんの?こんな公衆の面前で何やってんのー!?
それはそれは嬉しそうに頷いて他の料理やカトラリーを渡してくれた。

恥ずかし過ぎて味が分からないよ!

突然始まった腕相撲大会に盛り上がる会場から、混乱する俺を見かねて王妃様が退席させてくれた。料理も部屋に届けるよう手配してくれた。

ふらつく俺をストゥさんが運んでくれる。王宮って広いんだよ!部屋までが遠い‥‥

体力的にも精神的にも疲労困憊していた俺は料理を食べながら寝てしまった。子供か。
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