行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

文字の大きさ
上 下
8 / 203
行ってみたいな異世界へ

7 第三王子

しおりを挟む
馬なら1日で次の村に着くけど途中から歩きな上、体中が怠くて思うように足が進まない。
またしても途中で野宿する事になった。

申し訳ない‥‥

落ち込んでいたら、馬車を手配したのに今回は何故か馬しか届いていなかったからむしろ申し訳ない、と謝られた。

少し気が楽になった。

夕飯の用意はしてなかったので手持ちの大兎の肉の炙り焼き、ナッツとドライフルーツ入りのショートブレッド、インスタントスープで済ませた。2人はこれじゃ足りないだろうに、冒険者なんだから数日食べなくたって大丈夫だと言って笑う。

まだ早春で獲物もあまり姿を見せないからなんとか明日中には次の村に着きたいって。

おまけにテントもなくて、マントに包まって座って寝るそうだ。森では場所がなくてテントが出せないのかと思っていたが、もう春だからマントと焚き火があれば寒くないらしい。
鍛え方が違う。

心苦しいけど、今は甘えるしかない俺は疲労回復の煎じ薬を飲んで寝る。

乗馬もできるようになろうと心に決めた。


**********************


「おはようございます!」

疲労回復の薬が効いたのか筋肉痛はあるものの、元気になった。

「おう。」

「おはようございます。」

2人と挨拶を交わしていると、行き先の方から慌ただしい音が聞こえてくる。馬の蹄と馬車の車輪の音だ。

道の脇で休んでいた俺たちを見つけてスピードを落とし、2頭立ての豪華な馬車は俺たちを少し通り過ぎて停まった。

馭者が開けた扉から飛び出して来たのは、胸の辺りまである緩いウェーブの金髪をうなじでまとめた翡翠の瞳の王子様。
落ち着いた深い緑色の長い上衣は膝下まで届き、V字に襟が開いていて白いスタンドカラーのシャツが爽やかさを見せつける。袖は手の甲を覆い、上腕部はふんわりと膨らんでいる。あちこちを金糸で縁取り、豪華で品がある。

王子様なのかお貴族様なのか分からないが、とにかく眩しい。煌めくエフェクトは朝日を浴びて輝く金髪のせいだけではないと思う。内側から光が溢れるかのようだ。

輝く美貌に瞬きも忘れて見惚れていると、まっすぐ俺に駆け寄って来た。

「ご無事でしたか。」

俺の手を取り、心配そうに眉を寄せたその人はとても心配してくれたらしい。

「私はこの国の第三王子、ウェヌスタ・ステルラ・ウェルテクスと申します。どうか私に馬車で王都までお送りする栄誉をお許し下さい。」

見たまんま王子だった。栄誉て。

大仰なセリフに驚いて固まってしまう。

「ウェヌスタ殿下、何故ここへ?王族は王都で待っていらっしゃるものでは?」

すっと俺の後ろに立って質問しているティスさんの声が何となく冷たい。

「とても可愛らしい客人まろうどが現れたと聞いて居ても立っても居られず、昨日ニノ村まで迎えに来たんだ。だが夜になっても現れず、心配でここまで来てしまった。」

「仕事を放棄して客人まろうどを迎えにくるなど、税金泥棒の誹りを受けたいんですか?」

「仕事はきちんと済ませて来たし、第三王子なんて元々重要な存在ではないんだ。それに私は慎ましやかな暮らしをしている方だと思うが?」

俺の前と後で、俺の頭の上でされる会話。王子は俺の手をずっと握ったままだ。
よく解らないけど挨拶した方が良いよな。

「あの、初めまして!芦原あしはら たけるです。乗馬をした事が無くて具合が悪くなってしまった俺‥‥私のせいでご心配をおかけしました。迎えに来て下さってありがとうございます。」

注意を引き戻された王子が安心したように蕩ける笑顔で俺を見る。

「体調はもう大丈夫なのかな?第三王子なんて兄達の予備だよ。畏まった言葉遣いは不要だ。食事も持って来たから一緒にどう?」

すごい!きれいでかっこ良くて気が利く王子様なんて‥‥

「喜んでいただきます!」

すでに携帯食料しか持っていないティスさんはしぶしぶお礼を言う。ストゥさんも不満げながらお礼を言っている。馭者の人がてきぱきと食事の支度をしてくれた。
折り畳みのテーブルに並べられる料理。椅子の上にはクッションが置かれて快適だ。冷めても美味しいピクニックメニューだけどシチューは焚き火を大きくして温める。
サンドウィッチはボリュームがあって2つで足りそうだったけど美味しくて3つ食べた。お腹いっぱい。

食後のお茶を飲み、片付けをして火の始末をして馬車に乗せてもらう。
6人乗りの馬車だけどティスさんとストゥさんは馬で護衛をしてくれるから馬車には俺と王子だけ。
ちょっとだけ緊張する。

「そうだ、これを噛んでおくと良いよ。」

王子は酔い止めのハーブをくれた。やっぱり気が利く。


**********************


話し上手な王子のおかげで緊張はすぐに解れ、昼過ぎにニノ村に着く頃にはウェーヌ様と呼ばせてもらう事に違和感が無くなっていた。様付けも要らないって言われたけど、それはおいおいと言う事で了承してもらった。

温泉で前の村みたいにならないよう、貸し切りをお願いしたらもちろんそのつもりです、って。ここの村長さんはまともで良かった。

昼食後、ティスさんとストゥさんを誘って温泉に向かう途中、ウェーヌ様が2人を睨んでいる様に見えたけど気のせいだよね。一緒に行きたかったのかも知れないけど、さすがに王子様をお風呂に誘うのは気が引けるよ。

そう言えば、この国の王族は気さくなんだっけ。王様主催の腕相撲大会は王様自ら参加するし、近衛騎士団長と常に優勝争いをしているとか。そんな話を聞いて、ウェーヌ様と話をして、かなり気が楽になった。

でもストゥさんとティスさんがなんだか不機嫌なのは何故だろう?

「あれは誓約違反にならないのか?」

ティスさんがボソッと呟く。

「仕事をちゃんとやってるのなら、一応は違反にならないんじゃないか?」

ストゥさんが返す。

「何の話ですか?」

誓約内容に守秘義務はないから、と言いながらも言いづらそうに教えてくれた。
いつ、どんな客人まろうどが来るか分からないのに可愛い客人まろうどを王族が取り込みたがって直接迎えに行きたがる事。しかも王子達全員が行きたがる。だが政務が滞るのは困るので案内人を派遣して王都で待つ事になっている。
そして王都でおとなしく待つ代わりに、案内人は謁見が終わるまで客人に性的な接触をしてはならない、だそうだ。
確かに見知らぬ場所に来て不安になっていたら始めに優しくしてくれた人に懐くよね。
俺もティスさんとストゥさんの事、恋愛感情じゃないけどかなり好ましく思っているし。

温泉から上がって部屋でくつろいでいるとノックをしてウェーヌ様が馭者を連れて入って来た。馭者さんはウェーヌ様の専属侍従のペルと名乗った。
筋肉痛の俺のマッサージをしてくれると言う。少し迷ったけど、甘える事にした。

ペルさんの指示でシャツを脱いでノースリーブの肌着になって下はショートパンツに着替えてベッドにうつ伏せになる。マッサージオイルを使ってゆっくりと末端から解されてメチャクチャ気持ち良い。またしても足の裏を擽ったがって珍しがられた。

退屈したのかウェーヌ様までマッサージしたがるので恐縮してしまったが、将来、愛する人ができた時にマッサージしてあげたいから、と言われれば練習台になるのは吝かではない。ついでに足の裏を擽られたり、腕の内側や腿の内側を撫でられたりと悪戯されて感じちゃったりして恥ずかしかった。声は出さなかったからバレてない!‥‥と思いたい。

じっくりマッサージしてもらって、終わるともう夕食の時間だった。すごく体が軽い。
食堂でみんなが近くに座るとイケメン揃いで舞台の一場面みたいだ。
しかもみんな食べる量が多くて、なおさら現実味が薄い。

「食が細すぎるんじゃないか?」

そう言ってデザートに手が出ない俺に食べさせようとピンク色のブラマンジェをスプーンにのせて口元に差し出す。流れ的に口を開けるべき?と戸惑いながらもパクリと口に入れる。恥ずかしくて頬が熱い。

「美味しい?」

と言って笑顔でさらに食べさせようとするけど、本当にもう限界。

「美味しいけど本当にもう無理です!」

お腹苦しい。

「嫌な事ははっきり断れよ。」

「ひとくちくらいなら、と思ったんですけど‥‥」

「食べさせられるのは嫌じゃないのか?」

「?  友達と良くやってたし、普通ですよね?おかしいですか?」

キラキラ王子様のアップで照れちゃったけど。あれ?こっちではやったらダメなのかな?

「相手を選ばないと、いやらしい薬盛られるかも知れないよ?」

ウェーヌ様が面白そうに言う。

「!?  そんな薬、簡単に手に入っちゃうものなんですか?」

「冒険者なら素材が手に入るし、平民には少し高いけどそう言う店に行けば買えるよ。」

ウェーヌ様の言葉にティスさんもストゥさんも真面目な顔で頷く。この世界が少し怖くなった。‥‥気をつけなくちゃ。

「ごちそうさまでした。」

食事を終えて部屋に戻る。ウェーヌ様に部屋で一緒に飲まないかと誘われたけど丁重にお断りした。ペルさんが胃薬をくれた。

さすがに警戒心が足りないと言われてすぐにホイホイ部屋に行く訳にはいかない。でも馬車の中ではウェーヌ様と2人きり‥‥。
ちょっと嫌だなー‥‥2人に相談してみよう。

人を疑うのって嫌だけど必要な事なのか。
平和ボケサイコー!だったのになぁ‥‥
しおりを挟む
こちらの拍手ボタンをクリックすると
「連れて行きたい日本へ」で
ストゥとタケルがラブホに行った時のいちゃいちゃが読めます。
拍手する

感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...