行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな異世界へ

5 最初の村

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テントから出て驚いたが、足の裏の痛みがなくなっていた。しっかりテーピングしているのを剥がすとまたマメができそうなのでそのままにするが、森の王の力らしい。

‥‥深く考えるのは止めよう。

荷物をまとめて出発する。

歩き出してすぐ気づいたが、何だか体が軽い。足裏の痛みがなくなっただけでなく、ただ歩いているだけなのに自然と安定した場所に足が着くのだ。昨日はグラつく石や滑りやすい枯れ葉を踏んで転びそうだったから凄く気を使ったのに‥‥これも森の王の加護なのか?それなら少しは感謝出来るんだけど。

歩くのに余裕が出て周りの風景や植物を見ながら進む。詳しくはないので日本との違いは分からないけど、種を飛ばす植物と聞いてホウセンカを連想したが、のの字型の鞘ごと落ちてねずみ花火のように回転しながら種を飛ばすのは日本にはないと思った。

そして突然、森が終わる。

拓けた土地に出ると遠くに村が見えた。
まだ春先で畑の作物は見当たらないが、広がる大地を覆う柔らかな新緑はこの土地の豊かさを隠してはいない。

「昼は携帯食を軽く食べるだけにして村へ急ぎますか?」

ミーティスさんの言葉に頷き、携帯食と水で空腹を誤魔化し、すぐに村を目指した。

途中、大きな石の向こうに隠れていた大きなウサギをストゥさんが投げナイフで仕留める。血の匂いに惹かれて魔獣が来ないように袋詰めして匂いを隠蔽する術をかける。

村には全体にこの術がかかっているそうだ。だから血抜きは村に着いてから。
良かった、頭で分かっていても血抜きとか見たらしばらく肉、食べられなくなりそうだわ。慣れないとダメだよなぁ。


**********************


最初の村「ヒノ村」に着くと髪と瞳がカラフルな人達が和やかに迎えてくれた。と、言ってもダーク系の色合いだ。客人まろうどの目を慣らすために村ごとに徐々に明るい色になるよう、住人に制限をかけているそうだ。

客人まろうど優遇されてるなぁ。

元は黒髪らしい白髪混じりの村長が代表して挨拶してくれた。ここから王都までの村では宿屋の主人が村長をするらしい。客人まろうどのための宿なので客人まろうどと案内人2人は常に無料!補助金が出てるんだって。

そしてここにも温泉がある!

どんだけ大切なんだよ、客人まろうど

ありがたく入らせていただきます。

部屋はダブルとツインの続き部屋。
ここまで客人まろうどに迎合していても畳の部屋がないのは畳職人が来た事がないから。大工さんはいたけどこっちの建築のが面白い!とこちらに合わせたから日本家屋は根付かなかったってのが、面白い。 

ダブルの部屋が俺。
家族で暮らしていた時のリビングダイニングくらいだから14畳くらいか?1人暮らしになってからは6畳のワンルームだったから広くて少し落ち着かない。

ティスさんとストゥさんをお茶に誘ってソファで備え付けのお茶を淹れる。緑茶だ。

ティスさんが心配してくれていたので、足の裏を確認すると、傷は全くなかった。また少し、恥ずかしさに感謝が上書きされる。

2人はやっぱり俺の足の裏の皮膚の薄さが衝撃だったようで、またしても撫でたり摘んだり押したり擽ったり、散々触られた。疲れた。

夕飯の後で一緒に温泉に行く事にして、ふと不安になった。

「温泉で‥‥森の王の契約の証を見られたら、アレがバレる‥‥?」

そうならこの先、いくら温泉があっても入れない!

泣きそうだ。

「大丈夫です。伝えられている契約方法は祈りによって呼び出し、小さな傷をつけて血を捧げると言うものです。それも契約が成立した者は数えるほどしかいないのでタケルと同じ事をされたのかの確認もできません。」

俺はホッとした。

「もし全員アレをされてたとしても、隠すよなー。」

「・・・そうだな。」
「・・・そうですね。」

あ、微妙な空気になっちゃった。
忘れてくれって言ったの俺なのに・・・

「そ、そろそろ夕飯かなー?」

重くなった空気を振り払うべく、わざとらしく言葉を発する。
本当は少し早いけど。

「あ!さっきのウサギ、とうしたの?」

どっかで血抜きしてんのかな?

「宿の者に渡しました。処理に時間がかかるので加工済みの肉に替えてもらう事になってます。」

なるほどね。
血抜きして皮を剥いで解体して干したり燻したりする暇は無いもんな。肉の半分は手間賃として宿に提供するので、大ウサギ半身分を加工肉で受け取ると。毛皮は春先だから質が悪いんだー。ふむふむ、毛皮が必要なら夏か冬。用途によって違うらしい。

なんて話を聞いてたら夕飯にちょうど良い時間になったので食堂へ行く。
宿の人がせっかくなので、と大ウサギのシチューをメニューに入れてくれた。アルコールに弱い事は先に伝えてあるので安心していただきます!

根菜サラダ、大ウサギのシチュー、ステーキは何の肉か分からないけど柔らかくて美味しかった。あとグラタン。パンもあったけどお腹いっぱいで入りませんでした・・・

少し食休みをしてからティスさん達に声をかけて温泉に向かうと、そこはこの宿とは不釣り合いなほど大きな大浴場。立派な銭湯くらいか。

そしてそこはあり得ないほど混み合っていた。
脱衣籠も棚も埋まり、洗い場も湯船もめちゃくちゃ混んでいる。

「‥‥出直しましょうか?」

そう言って振り返ると村長が追加の脱衣籠を持って立っていた。

「いやいやいや、まぁまぁまぁ!
そう仰らずに入って下さい!ほれ、籠もありますし、皆客人まろうどと一緒に風呂へ入ったと知り合いに自慢したいのですよ!」

揉み手・・・リアルで初めてみたわー。
とか思ってたら

「これでは全く寛げん。
時間を改めて出直すか、次の村まで入るのを止めるべきでは?」

ストゥさんの提案に、まだ早い時間だし出直すのは問題無い。この村で入らずに次の温泉に期待するのでもまあ、仕方ないかな。

「おおおお、待ち下さい!!!
今、中の者は既に客人まろうどがここに来た事に気付いております。それなのに客人まろうどが入って来なければ入ってくるまで居座るでしょう!そうなれば時間を改めても同じ事ですし、年寄りなどは具合を悪くするかも知れませんし、湯あたりしたり風邪を引いたりするかも知れません!」

客人まろうどを見世物にするつもりですか?」

ティスさんの冷ややかな態度にも怯まず食い下がる村長。

「どうか、どうかカラスの行水でも構いませんから風呂へ入って下さりませ!」

カラスの行水て・・・

見世物確定は正直、勘弁して欲しいけどここまで必死になられると無碍にはできない。
我ながら日和見主義だよなー。

「‥‥分かりました。入ります。」

ため息混じりに了承して服を脱ぎ出すと2人も呆れながら付き合ってくれた。

村長、涙目で拝むのやめて。

風呂場に入ると大歓声が上がる。
大人達はさすがに遠巻きにしているが、子供達は早速近づいて来た。

「ここ、あいたよ!」

1人分空いた蛇口とシャワーの前を指差して教えてくれる。

「ありがとう」

と笑顔でお礼を言ってそこに座り、髪と身体を洗う。もの凄く近くに子供達がいるような気がするけど努めて気にしないようにする。

ティスさんとストゥさんも空きを見つけたようだ。

しっかり洗って湯船に向かい、掛け湯をして入る。掛け流しらしく、これだけの人が入ってても湯はきれいだった。

「ね、これなぁに?」

さっきとは違う子が森の王の契約の証を興味津々で見つめている。4歳くらいの女の子だ。こっちでも小さな子は男湯女湯どちらでも入れるようだ。

「森の王の契約の証だよ。」

 どよめきが起こる。言わない方が良かったんだろうか?

「もりのおう!」
「すごい!」
「ぼくもあいたい!」

口々に叫ぶ子ども達。可愛いんだけど勝手に触りに来る。

「っう、ひゃ!ははははっ!」

擽ったいっ!やめて!俺、くすぐったがりから!!

「コラッ!」

ストゥさんが大きな声で注意すると、子供達がビクッとして固まる。‥‥大丈夫かな?泣かないかな?

「うわあぁぁぁん!」
「ごめんなしゃーい!」
「ふぇぇぇぇ」

うーん、泣いた。阿鼻叫喚?
ようやく大人が来て謝ってくれた。

もう見世物タイムは終了で良いよね。
子供のする事だから、と言って上がる。
ストゥさんに感謝だ。
後で聞いたら村人も銭湯として使っていて、俺目当てで一斉に集まったからこんな事になったらしい。30~40人はいた気がする。

この先もこんな感じだったら泣ける。



部屋へ戻ると村長が恐縮しながらジュースとワインとつまみを差し入れに来た。断ったのに無理やり押し付けられたので、3人で飲む事にした。

「それにしても‥‥この先もこんな感じなんでしょうか?」

ため息まじりに俺が言うとティスさんが憤慨してた。

「王へ苦情を入れましょう!客人まろうどは国賓だと言うのにこの扱いは失礼にも程があります!!」

うん‥‥国賓は言い過ぎだけど珍獣扱いは苦情を言いたいよね。

「補助金打ち切りか減額は免れないな。」

ストゥさんも静かに怒っていたようだ。2人とも優しいなぁ。
まぁ若い女性が客人まろうどとして来た場合、これでは安全の確保もできないし対応が厳しくなるのは仕方ないのかな?実際、不愉快だったし。

こんな事を話し合っていたらバルコニーの窓からノックの音が聞こえた。
不機嫌そうにストゥさんがカーテンを開けると12歳くらいの男の子が神妙な顔で立っていた。

ストゥさんの目配せにティスさんと一緒に頷いて近寄ると、窓を開けた。
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