行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな異世界へ

4 契約成立

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「タケルさん、料理長って誰かに似てるー?」

満足そうに頷く料理長さんを見ながらカルブンさんが聞いてきた。

誰かと言うか何かと言うか。

「えーっと‥‥正直に言って良いんですか?あの‥‥だるまさん。」

「本当に!?料理長の自慢は本当だったんだー!」

「自慢してねぇぞ。」

俺が答えるとカルブンさんが面白そうに言う。そして反論する料理長の名前は「ダリュマ」さんだった。

本当にだるまさんだった!
親子3代で料理人しててダリュマさんのお父さんが和食を習っていた日本人に名前を付けて貰ったんだって。お祖父さんもお父さんもだるまさんそっくりだから、息子に「ダリュマ」って。
だるまさんは何度失敗しても成功するまで頑張る偉い人なんですよ、ってみんなに説明した。

みんなで温泉は楽しいけど熱い‥‥のぼせそう‥‥

「そろそろ上がります。」

そう言って立ち上がると軽く目眩がした。
岩に手をついて目眩をやり過ごそうとしたけどそのまま動けなくなる。みんなが心配して騒いでるのが分かるけど声が遠のいて行く。

俺はそのまま気を失った。





目を覚ますと部屋で、ウェントゥスさんが運んでくれてた。
ティスさんも来ていて濡れた布で冷やしてくれている。

「お疲れでしたか?」

心配そうに聞くティスさんに申し訳なく思うがこれはきっと奈良漬けのせいだろう。

「元々体が小さいから温まり易いんですが、アルコールに弱くて夕飯の奈良漬けで酔っていた見たいです‥‥」

恥ずかしい。
アルコール分解酵素が少ないのは父譲りなので仕方がないが、奈良漬けで酔うとか‥‥酒豪の母の体質が遺伝すれば良かったのに。

「明日王都へ予定でしたが、延期しましょうか?」

そんな迷惑はかけられない!

「一晩休めば大丈夫です。ここの食事と温泉は長居したくなりますが王都が見たいし、この国を見たい。」

俺はふと大事な事を聞いていない事を思い出した。

「そう言えば‥‥この国の名前を教えて下さい。」

「‥‥ウェルテクス王国と言いますが、言ってませんでしたか?」

「聞いてません。」

偉そうな事言えないけどかなり重要度高いよね。ティスさんの意外な一面がまた1つ増えた。

のぼせただけなので冷却魔法で体の熱を取ってもらって一晩ぐっすり寝たらすっかり元気になり、朝食の後、予定通り王都へ出発した。ダリュマさんがお弁当を作ってくれた。別れの挨拶に代わる代わる頬ずりされたけど、この国の挨拶なの?‥‥後で聞いてみよう。

この森自体はほぼ平だけど少し高い所にあって、近くの村へはそこそこ険しい山道を下って行く。俺はおっかなびっくりなのでなかなか進まない。明るいうちに村に辿り着けるだろうか?
俺の体力にあわせて2時間置きに休憩を取ってくれる。2度目の休憩はお昼ご飯だ。
竹を編んだ弁当箱に卵焼きと鳥の照り焼き、ニンジンやごぼうの肉巻き、ポテトサラダ。それとシャケと梅干しのおにぎり。梅干しとかニンジンとか素材が日本と同じかどうかは分からないけど味はだいたい同じだ。梅干しは紫なので茄子の漬け物かと思ったけど味も食感も梅干しだった。先達の研究成果かな?タンパク質多めなのは男世界だからかも知れない。

また歩き出して次の休憩をしているとストゥさん達が相談し始めた。

「早めに野宿する事になるか?」
「そうなるかも知れませんね。」

申し訳なくて謝ると気にする程ではないと言われた。むしろ今のペースだと野宿するのに良い平らな場所に着くのが早くて逆に中途半端になるらしい。客人まろうどは老若男女を問わないので今回は速い方だが、そこを過ぎると寝る程の場所がないので麓まで一気に行く事になる。
とにかく急ぎ目で進んでみる事にしたが、歩き慣れていない俺の薄い足の裏は野宿できる場所へたどり着く前にマメが潰れた・・・マメをかばって変な歩き方になっていたせいか、ほんの短い急斜面に足を掛けたら滑って踏ん張った所、マメが潰れたと言う‥‥ナサケナイ‥‥

何とか自力で歩こうとしたものの、無理すると更に迷惑を掛ける事になりそうなのでありがたくおぶってもらった。幸い、目的地はそう遠くはなかった。

靴を脱いで見ると思いのほか出血していてビビる。靴下を脱いで傷口を見ると親指大のマメが潰れて大きな傷になっていた。ミーティスさんが治癒術が使えない事を謝るが、魔術自体存在しない世界から来た俺としては困惑するばかりだ。ミネラルウォーターで傷口を洗ってキズにパワーを与えるパッドを貼ってテーピングで固定して新しい靴下を2枚重ねで履く。応急処置なんて知らないからこんなもんで良いだろう。

で、野宿は良いとして明日の移動‥‥歩けるかな?
 そんな事を心配し始めた所で、一陣の風が吹いた。
思わず目をつぶってやり過ごし、目を開けると目の前に巨大な虎、森の王が俺の顔を覗き込んでいた。

「っ!?」

声も出せずに驚いている俺を穏やかな目で見つめる森の王。初めて会った時の怒りはなく、「慈愛」の言葉がしっくり来る。
爽やかな森の香りと優しげな瞳が俺の緊張をほぐす。
大きなモフモフ。巨大なもふもふ。
おずおずと手を伸ばすと自ら顔を近づけて触らせてくれた。

生きた虎、触ってる!
たぶん生身じゃないけど、触り心地はすべすべのもふもふ!!
両手で頬毛から耳の下、首周りをワシワシ掻き回す。森の王は気持ち良さそうに目を閉じる。猫!巨大な猫ーーー!!!

これだけでもこの世界に来た甲斐があると思う。至福‥‥これが至福‥‥

思う存分モフらせてもらい、もたれ掛かってうっとりしていたら先日の事を思い出した。

謝らなければ!!

「あの!
先日は勝手に呼ぶ子を吹いたりして申し訳ありませんでした!」

正座をして頭を下げる。

知らぬ事とは言え、高位の存在を呼びつけるなんて失礼にも程がある。

それに・・・この素晴らしいモフモフに嫌われたくない。

そう考えていると大きな舌でベロンと顔を舐められた。これは許されたと思って良いのですか?

そのまま熱烈に舐められる。さすがは高位の精霊だけあって獣臭さは全く無い。でもその舌の勢いは止まる気配を見せず、拒否もできずに身体中を舐め回されていると、どう言う事か服が剥ぎ取られていく。

「えっ?っちょっ、まっ・・・!」

翻弄される俺をどうする事もできない2人はただ呆然と立ち尽くしている。
お願い‥‥助けて‥‥‥

舐め回しているだけで何をどうしたらそうなるのか、俺はシャツをはだけ、下半身は丸出しだ。カーゴパンツも下着も靴も靴下も剥ぎ取られて素っ裸だ。

そして!

頭のてっぺんから足の先まで満遍なく舐められた後、なぜか集中的に股間をベロンベロンと舐められている。

恥ずかし過ぎるぅぅぅ!!

手足を突っ張り必死で抵抗するも、何にもならない。

少しして顔を離してくれたので終わりかと思ったのも束の間、再び舐め出した。

「っふぁっっっ!!!」

さっきとは全く違う快楽の波が森の王の舌から全身に広がり、身体の隅々まで満たしてから身体の中心に集まってくる。

「ひぁっ・・ふっ・・・んあぁ・・んぅ!」

嬌声を抑える事もできずに翻弄され、あっと言う間に果てる。出した精を舐め取られ、ぐったりと崩折れると左胸に牙の先を置かれる。
牙の触れた所にちりっと小さな快感を感じてすぐ温かな何かが全身を満たす。

森の王は脱がした衣服をパサリと俺の上に乗せて満足げにゆっくりと立ち去った。


**********************


少し気を失っていたらしい。
気づくと元通り服を着せられマットに寝かされ、小さな焚き火を囲むように2人が座って俺の様子を見守っていた。

気まずい。

人前で裸に剥かれて舐め回されてイかされるとか何の嫌がらせなのか。精霊に人の羞恥心なんて理解できないのかも知れないが。

泣いて良いかな。

「‥‥‥良かったですね。」
「何が!?」

ずっとそばに居た2人は間違いなく俺の痴態を見て居たわけで、いや、気遣って目を逸らしてくれてたかも知れないが確実に聞いてはいるはずで、恥ずかしさの極致だと言うのに何が良かったと言うのか!!

「タケルと森の王との契約が結ばれました。必要な時には呼ぶ子で森の王を呼んで守ってもらえますよ。」

「・・・え?」

「森の王と心を通わせ、捧げ物をして認められると身体のどこかに牙によって契約の証を与えられます。」

捧げ物・・・って精液、とか?
牙? 左胸に牙があたってちりっとしたのを思い出し、服をめくって確認する。

左胸には淡い若草色の3本の曲線がぼんやりと浮かんでいた。
葉のような風のような文様。

「森の王はこの国を守護する四大精霊だから、最強の盾を手に入れた事になるな。」

モフモフは嬉しいけど!
話がでっかくなり過ぎだよ!

「‥‥明日も時間がかかりそうなので寝ます‥‥」

俺は考えるのをやめた。

リュックからテントと寝袋を出して引き籠ろうとするとせめて夕飯を、と言われて温めるだけになっているスープとパンを食べた。恥ずかしさで頭の中がぐるぐるして、正直、味が分からなかった。





早く寝たせいで翌朝も日の出前に目が覚めた。一晩眠って少し気分が落ち着いたので、おずおずとテントから顔を出す。
ティスさんはマントに包まって蹲り、ストゥさんはマントに包まって座って火の番をしている。

「あの!寝てないんですか!?」

「交代で寝たぞ。ここでは危険な魔獣はでないが動物が荷物を荒らしたりするからな。」

「俺、何もしなくて・・すみません・・・」

「俺達は客人まろうどの世話係なのに世話を焼かないでどうする?タケルが謝る事なんて何もない。・・・それに・・・」

「?」

「森の王のする事に異を唱える事は出来ないから、見てるしか出来なくて‥‥すまん!」

見てたのかよ‥‥そこは見ないふりじゃないのかよ!?耳まで赤くなってるのが自分でも分かる。

ボコッ!

鈍い音に顔を上げると、バットくらいの太さの棒を手にしたティスさんと、それで額を殴られて仰け反るストゥさんが見えた。

優しげな見た目に反して結構手の早いティスさんが朝日を後光のように纏って笑顔で振り向いた。

「おはようございます。
タケルが受け入れるまで昨日の事は口にしないよう言っておいたのに、このバカが‥‥せめて見なかったフリくらい出来ないんでしょうかね?」

「‥‥うぅ、すまん‥‥」

見なかったフリ‥‥うん、ティスさんもしっかり見てたって事だよね。‥‥俺は大きなため息をついて、頑張って気持ちを切り替える。

「頑張って忘れますので、2人も忘れて下さい‥‥‥」

赤い顔と涙目で訴える俺に2人は力強く頷いてくれた。

火を大きくして湯を沸かし、味噌玉で味噌汁を作り、お茶を淹れてパンを食べる。木の実と干し葡萄がたっぷり入ったパンは携帯食料として一般的らしい。インスタントスープを出そうとしたが日本の製品はなるべく王都の研究施設に渡して欲しい、と断られた。もちろん、俺が手放して良い物だけだそうだ。

こんな物でも土産になるなら喜んで提供しますよー。
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