行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな異世界へ

2 もち肌

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「あー、ところで……、タケル……、様はいくつだ?」

ストゥディウムさんの取って付けたような様付けに苦笑いしてしまう。

「タケルと呼び捨てにして下さい。目上の人から様付けで呼ばれるなんて居心地が良くないですから」

笑顔でそう言ってこちらの成人年齢を聞くと16歳だそうだ。

「今日、18歳になりました!」

そう、俺は3月16日生まれ。14日の卒業式の翌日に鞍馬山へ行ったのだ。
だから今日が誕生日。異世界に生まれ変わったみたいで嬉しい。

チビだし、きっと若く……、と言うか幼く見られるとは思ったが、そこまで驚愕しなくても良いんじゃない? ストゥディウムさん、顎が外れそうだよ。せっかくのイケメンが台無しだよ?
友達から合法ショタ目指せ! とか言われた事もあるけどさ。ミーティスさんも微妙な笑顔で凍りついてる。そんなに? 
他の人は……、と見回すと驚いてたり嬉しそうだつたり興奮気味だったり。興奮気味な人が凄い勢いで近づいて来て

「頭、撫でて良いですか!?」

赤い顔して鼻息荒く詰め寄られ、返事をする前に頭を撫でられた。少し怖い……。

首をすくめてやり過ごそうとしてたら意外にも優しく丁寧に撫でられて、気持ち良くて頬が緩む。
へらっと笑ったらみんなが順を争って撫でてくれた。
撫でられるのなんて小学生以来だけど、嬉しいな。スキンシップに飢えてたのかな?
こっちの人はみんな大きいからか抵抗なく甘えられる気がする。

古めかしい柱時計が8:30を告げる。
就業時間は昼休み1時間を含む9:00~18:00で昼休みは個人の都合で取るらしい。
森の調査とか研究だからそうそう時間通りには行かないって事かな?

名残惜しそうに仕事の準備に向かうみんな。
ミーティスさんとストゥディウムさんは今は俺の世話係兼護衛なので時間は俺に合わせてもらえるんだって。2人に部屋へ案内されて、灯りや水周りの使い方を教わる。動力が魔力だ! トイレは洋式だ!

「落ち着いたら風呂に入るか?」
「源泉掛け流しの温泉ですよ。」
「入るー!!」

食い気味に答える俺に笑顔の2人。
着替えを持って食堂で落ち合う事になった。
日本人の緊張を和らげる物としてわざわざ温泉を探し出してこの施設を作ったとか。

幸せ過ぎて不安になりそうだよ。
後で閉じ込められて人体実験とかされない?
そんな不安も温泉で流れてしまう。

だって、源泉掛け流しの露天風呂だよ!?

しかもシャンプー、リンス、石鹸完備。
リンス入りシャンプーは無いそうだ。

裸の付き合いとなると、ついつい目に入る2人の身体。ストゥディウムさんは剣士らしく筋骨隆々、俺を乗せて片手で腕立て伏せしても余裕だろう。ミーティスさんもきっちり仕上がった細マッチョ。羨ましい。素直に羨ましい!

っと、ダメだ、あまりじろじろ見るのはマナー違反だし、さっさと洗って湯船に行こう。

洗い終わり立ち上がって振り返るとストゥディウムさんにガン見されてる。標準的インドア派でチビで痩せ気味。マナー違反! コンプレックス刺激されるから!! ガン見禁止!

「……何か?」

ガコッ!

不機嫌を隠さず、ジト目で聞くとミーティスさんがストゥディウムさんの後頭部を桶で殴った。
桶だよ? ずっと穏やかに微笑んでくれていた人が笑顔のまま桶で人の頭を殴る。

えーっと……。

「ゆっくり温まりましょうね」

顔が強張る俺をストゥディウムさんから離すように誘導して湯船に浸かるけど、ちょっと怖い。笑顔が怖い。よく分からないけど、怒らせないようにしよう。

「……悪かった。18ってのが信じられなくて……。日本人は華奢なんだよな。そう聞いてはいたけど、まさかここまでとは……」

俺だってストゥディウムさん程とは言わないけど、ミーティスさんくらいになりたかったよ!
運動部に入って多少は頑張ったよ。でも身長も伸びず、筋肉もつかず、諦めるしかなかったのにさぁ。泣いちゃうぞ。

「俺だって男らしい体になりたかった……。日本人の中でも小さかったし、童顔だし、気にしてるのに……」

会ったばかりの人に愚痴ってしまった。こんど時間のある時に鍛えてくれませんかね?

「もったい無い! この奇跡の身体に不満があるなんて!?」

へ?
唐突に声を大きくしてミーティスさんが硬直する俺を撫で回す。顔も近い!

「ぅひゃっ!」

脇腹を撫でられて思わず声が出た。くすぐったいよぅ。

ゴチン!

今度はミーティスさんがストゥディウムさんにゲンコツで殴られる。

「何、勝手に撫で回してんだ!」

今度はストゥディウムさんがミーティスさんを止める。睨み合う2人。仲良いな。

えーっと???

なんか2人が俺を取り合ってる?
いや、守り合ってる感じ?

良くある美形チートじゃない。転生じゃなくて次元移動だから元の姿のままだ。
顔への反応はとりたててなかったし、可愛がられてる気はするけど、愛玩小動物ポジっぽいし。それか弟の取り合い。
うん、弟の取り合いならしっくり来るな。

でも奇跡の身体?
この貧相な身体がこっちでは憧れの身体になるの? チビで体毛は薄いし、インドア派だから日焼けしてない。でも子供の頃からの小さな傷はあちこちに残ってるよ?

目の前のストゥディウムさんの大きな背中をまじまじと見る。鎧のような筋肉に日焼けた肌。たくさんの小さな傷。ギリシャ彫刻のような鍛え上げられた肉体美は美しいと言う形容詞がぴったり。
触れば堅い筋肉の手ごたえ。筋肉、良いなぁ。

「……な、何か……、な……?」

ストゥディウムさんがギギギと音がしそうな動きで首を回して聞いてくる。
うっかり上腕を撫で回していた。

「奇跡の体って……、ストゥディウムさんみたいなのを言うんじゃないんですか?」

「ベクトルが全く違います!!
ストゥディウムの鍛え上げられた体はかなりの割合で憧れの目を向けられるとは思いますが、タケルの体の神々しいまでの清らかさは万人を魅了するのです!」

ミーティスさんのテンションが恐い。

「ミーティスさん……、恐い……」

ストゥディウムさんの背後に隠れながら涙目で訴えると、ミーティスさんは目に見えて落ち込んだ。ギャップが大きすぎてついて行けないから落ち着いて欲しい。

「落ち着いてくれれば恐くないですよ?」

落ち着くように誘導すべく、近づいて手を取り上目遣いに言うと効果はバツグンだ。

後からじろじろ見られそうな不安にかられ、2人に先に上がってもらい後からついて行く。体を拭いているとストゥディウムさんが聞いてきた。

「タケルは俺みたいな体になりたいのか?」
「男性の肉体美としたら理想だと思います。
女性に人気なのはミーティスさんだと思いますけど。こちらでは違うんですか?」
「女なんて物心ついてから、見た事ないから分からんな」

やっぱり女性は少ないの?

「こっちでは男女比8:2だから女と恋愛したり結婚したりできるやつはごく少数で女を妻にできるのは王侯貴族や裕福な商人がほとんどだな。村ではそこまでではないが、貴重な事に変わりはない。
女は生涯に7人から10人の子供を産む。中には20人も産んだ記録もある。それで人口は維持されているが子供をどんどん産む為に4男以下は母親とは3歳で離されるから、女と話をした事がない男なんてザラだ。女の好みなんて知らん」

これはBL展開?

「だから女同士の同性愛は歓迎されないが異性愛も男同士の同性愛も当たり前の事だ。仕方がない事だがな」

BL展開、来たーーー!!!

これこそ俺が異世界に期待した事。
今まで好きになった人が3人とも男で、告白する事もできずに諦めていたからカミングアウトもできずに人と違う自分を押し殺してきた。ここでは告白できるんだ。自由なんだ!!

「ここ100年の間に来た客人は同性愛を極端に毛嫌いして嫌悪を露にしていたので聞かれるまでは隠しておく事になっていたんだ。」

なるほど、江戸時代までは稚児趣味とか陰間とかあったし、地方によっては武士は男の味を知って一人前とか言われてたみたいだけど、明治維新で色々変わったんだっけ?

「……同性愛は現代の日本では少数派で、それを認める事はとても難しい事で……、でも……、俺が好きになったのは男だったんだ。告白する勇気も、人に知られる覚悟もなくて必死に隠していたんだ。もう、誰かを好きになっても隠さなくて良いんだね」

目頭が熱くなるのを感じながら思わず2人の腕にぎゅっとしがみつく。人の肌が胸に密着するのが気持ち良い。異世界、バンザイ!!





「あのー、そろそろ……、離してもらえますか?」
「嬉しいんだけどよ、その……、な?」

数分くらいかな?うっかり抱きしめていた腕を慌てて放して謝る。

「あ! ご、ごめんなさい!!」

嬉しくてしがみつくとか、馴れ馴れしくしすぎたかな?
手を離して照れ笑いをすると

「お前のもち肌は凶器だな。自覚しろよ」

もち肌が凶器???
何それ?と2人を見ると股間が主張し初めている。なるほど……。俺で?
BLを読んで、普通の顔なのに可愛いと言われて自覚を持てない主人公に、世界が変わったんだから価値観も変わるだろ!と思っていたけど、いざ自分がなってみると受け入れ難いもんだなー、これは。しかも俺は顔はそこそこのままで体がすごいとか言われてるんだもんなぁ。贅沢言えないけど微妙だわ。でも。

「……気をつけます……」

と言ってギクシャクしながら服を着る。
着ていた服は魔法式洗濯機で一瞬できれいになった。
空間を限定する事で少量の魔力で効率良く浄化の魔法が使えるらしい。

嬉しいやら気まずいやらで急いで部屋に戻り、ベッドで寝転んで色々考えているうちに寝てしまった。
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