召喚農夫の田舎暮らし

仔ケルピー ②

泉の精霊はアストの中ですくすく成長……、じゃなくて、順調に力を取り戻した。

「ブリアン様、泉の精霊をお返しに行ってまいります」
「そうか。アストのあの愉快な姿が見られなくなるのは少し寂しいな」

真珠色の魚は半年で尻尾がはみ出すくらい大きくなり、小型のケルピーのお尻に馬の尻尾と魚の尻尾が生えてる不思議。兄弟たちがじゃれるじゃれる。

お礼の薬草をもらいについて行くぼく。

ケルピーが改めて泉を満たし、精霊を入れたままのアストが泉に飛び込む。すると真珠色の魚がぱしゃりと跳ねた。半年間、ずっと一緒だったのに急に体を離れた精霊。アストは水中を泳ぎ回って追いかける。ひらひらと泳ぎ回る魚は数度、アストを通り抜けた。

「真珠色の光？」
「泉が……　光っている……？」

優しい光だから眩しくはない。
けれど水底から溢れる光はとても幻想的で、目を離す事ができない。

長かったのか短かったのか、思考が追いつかなかったが、光が収まったそこに佇むのは２頭の中型のケルピー。片方は真珠色をしている。

「……えぇっ！？　伴侶なんてまだ早過ぎます！！」
『そうか』

人間の感覚ではアストはまだまだ子供だけど、ケルピーは体型が大人と同じ形になったら成体だ。当然、ケルピーは止めない。コナンさんがお願いしてもアストの決意は変わらないようだった。

色違いの水馬が戯れる泉。

「アスト、時々顔を見せに来てね？　みんなで遊びに来てもいい？」

ぼくの問いに泉の精霊が首を縦に振って答えた。
領主に事の次第を伝え、しばらく様子を見に通うと告げるととても喜ばれた。



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２ヶ月後、またしてもケルピーに訪問して欲しいとの依頼が来た。
今度はなんと砂漠の国。隣国だ。

王様が懇意にしているから紹介されたらしいけど、砂漠の花が見たくて遊びに行こうとブリアンを誘った。

……家族旅行になった。

砂漠の町は地下に作られていて、そこの神殿に泉がある。そこからあちこちの町に地下水路を通って水が運ばれる。ここには泉の精霊はいなかった。

疲れて何処かへ行ってしまったと言う。
困る！　でも精霊は人間のために存在する訳ではないからどこにいようと自由だ。だから少しでも長く留まって欲しくて祈りを捧げたり居心地を良くしたりする。それでも数十年に一度、砂漠の火の力が強くなると水の精霊は何処かに行ってしまうのだ。

２番目のケルピー・ヴァイテが水の精霊に捧げられたスライムベッドをいたく気に入り、すんなりと代替わりが決まった。コナンさんがショックを受けているけど、今もお腹に新しい仔がいて、今回はつわりもなかった。２ヶ月で産まれる見込みだ。

……あと半月。

名残を惜しんで寄って集って魔力を注いだらヴァイテが大人サイズになった。
水属性の神官からの祈りを受けて、とても快適そう。

両親の影響で神官さんの中からお嫁さんを選ぶかもしれない。

縁が繋がったのでケルピーはこの水場へ移動できるようになったからちょくちょく遊びに来られる。砂漠には水晶みたいな植物やヴュステ・ワームと言う大ちゃんみたいなワームが見られた。砂ネズミも可愛かった！！

グリフィスがスナネズミをポケットに入れて持ち帰ろうとしたのは止めさせた……。

コナンさんは１年に３体の水馬を産み、合計17体の子持ちになった。
そこからはぱたりと産まなくなった。世界から必要とされる水馬が足りたのかも知れない。

３番目のドリーは家に残って気ままに暮らしている。
４番目のフィアはマクブリアンの召喚獣となり、学校への送り迎えをしてくれている。

仔水馬達がそれぞれの地で祀られたおかげで、毎年各地の特産品がお礼として届き、消費が追いつかない物品を販売してコナンさんの個人資産が増える一方。実家の子爵家まで潤っている。

ぼくは最初にもらった薬草の栽培に失敗。なぜか花や葉っぱに不気味な顔の模様が浮かび、枯れてしまったのだ。残念だけど収穫された薬草は問題ないので、育毛剤と除毛剤を研究中。

冒険者の義兄・ニールが円形脱毛症になり、片手だけフサフサになっているのだ。なぜ？？？

「スイ、ニールの事など放っておいて良いんですよ？」
「でも薬の研究、楽しいよ？」
「それなら良いのですが、あまり夢中になられると妬いてしまいます」
「あぅぅ……、ごめんなさい……」

ちゃんと夜のいちゃいちゃは守ってるよ！
なのにブリアンは足りないって。
もう結婚して10年以上経ってるのに、まだまだだって。

このままずっと仲良しでいようね？
いろんな事があるだろうけど、家族といれば、きっとなんでも幸せな出来事。