召喚農夫の田舎暮らし

香月ミツほ

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仔ケルピー ①

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「うぷっ……」
「休めと言ってるだろう」
「病気じゃないんですから、大丈夫です」
「お腹の子に何かあったらどうするんですか」
「大・丈・夫、です!!」

コナンさんは2度目の妊娠をしている。
つわりもあるのに休もうとしない。それはお腹の子がケルピーの子で、絶対安産だから。

水馬は精霊寄りの魔獣だから夫婦間の魔力が混ざり合い、凝り固まって核ができる。そこにさらに魔力を注ぐと新しい個体が育つ。

胎内で充分に育つと、卵型のぷるんとしたゼリー状で生まれてくる。生まれた瞬間はまるでスライムだ。

生後間も無く馬型になるので出産に立ち会わないとスライム風の仔水馬を見る事は出来ない。ぼくはコナンさんが万が一、魔力不足になった時のために立ち会ったから見る事ができた。充分育つまでは胎内から出ようとしないし、勝手に出て来るので陣痛も軽い。

でもつわりは普通にあるんだから、ちゃんと休みなさい! ぼくだってもう、お手伝い始めて5年目だよ?

「はい……、意地を張っても仕方ありませんね。収穫祭の準備ができたら休みます」
「あぁ、コナンが毎年しっかりとやって来たから皆も手順は分かっている。安心して任せなさい」

収穫祭準備の忙しい時期に妊娠するなんて、とコナンさんがぼやいているけど、授かりものだから仕方ないよ。ブリアンとぼく、2人がかりで宥めて(?)休ませた。

小さな水馬はまるで透明なヌイグルミのような見た目でとても可愛い。育てば行く先々に水を運んでくれるから個体が増えるのは人間にとってとてもありがたい。

何よりうちの子供達と一緒に昼寝する姿がもう、可愛くて可愛くて。不思議な事に属性が違うのに仲良しなんだよねー。

5歳の長女サーシャ(風属性)、4歳の長男グリフィス(土属性)、1歳の次男マクブリアン(無属性)。
気性が荒いはずのケルピーが土属性の長男を乗せてくれるのは、コナンさんの優しさを受け継いだのか。

関係ないけどサーシャは最近、りんちゃんに憧れているようでブリアンがやきもきしてる。4歳まではパパのお嫁さんになる、って言ってたのにね。女の子は成長が早い。




収穫祭から3ヶ月後、スライム、じゃなくて新しい水馬が産まれた。最初の子は6ヶ月かかったのに今回は4ヶ月。コナンさんの魔力が増えているからなんだろうけど、すごい。

次々産まれたらめちゃくちゃかわいくない?

「まず精霊獣を孕む事が稀なのですが……」
「そうなの?」

執事のロルカンによると、ケルピーの子を産んだ伝説はあるにしても、ケルピーは1個体に執着する事が稀なので核ができても育たない事がほとんど。育たなかった核がどうなるのか、判っていない。相手によっては相手の種族が生まれる。

「それだけ?」
「はい」

詳しい事は判らない、と言う事が分かった。

そう言えばケルピー、子供に興味なさそうだよね。


ヌイグルミのようだったケルピーの子供は1年もすると普通の馬の姿になり、グリフィスを乗せたがらなくなった。乗せてくれるのはマクブリアンとぼくとコナンさん。ぼくとマクブリアンは無属性だからかな?

グリフィスが土属性の召喚獣に乗る、と息巻いてるけど普通の馬じゃダメなの?


─────────────────────────────

「どうか我が領地にケルピーを祀らせていただきたい」

そんな願いを携えてやってきたのはうちから見て北東の、山間やまあいの麓の小さな町の領主。
現在、ケルピーの子供は3体。すぐに次の子も産まれる。

話を聞けば水源となる泉が枯れて困窮しているらしい。ブリアンがコナンさんに相談し、コナンさんはケルピーと話し合って、まずは現場を見に行く事にした。ケルピーは好きにしろとしか言わなかったようだ。



4番目が産まれるのを待って、仔水馬達を連れて現地を見に行く。付き添いはケルピーとコナンさんとぼく。まぁ、ケルピーはコナンさんに頼まれたから来ただけで、子供達の行く末は気にしていない。そう言う存在なのだ。

「遠くからのお越し、ありがとうございます」
「領主代理としてお伺いしましたが、決めるのは生みの親のコナンと当の仔水馬です」
「はい! かつては清らかな水が流れ、貴重な薬草の多く採れる山でしたので仔水馬様にもお気に召していただけると考えております」

こんな挨拶を交わして水精霊を祀った水源に案内してもらった。

「確かに水が枯れていますが、水気すいきは残っていますね」
「は、はいっ! 100年以上大切にして参りましたので、ただの水場ではないのです! ですがこの大岩が転がり落ちてからはすっかり水が枯れてしまって……」

上に5人は乗れる大岩は動かす事ができず、岩の隙間から湧き出す水を溜めていた窪みも、ゴツゴツとした岩も、底の丸い石も、今は乾いている。

1番上の仔ケルピーが滝壺風の場所の匂いをふんふん嗅いで、匂いを辿って泉の脇の、転がり落ちたと言う大岩の下に潜り込んだ。

「アスト?」

コナンさんが声をかけるとすぐに戻って来たけど、その透明な身体の真ん中には真珠色の魚が泳いでいた。
まるで生きた水槽!!

じゃ、なくて。

「アスト、その子……」
『ふむ。この泉に住む精霊か。その岩に挟まれて身動きが取れず、休眠していたと?』

仔ケルピー・アストの言葉を翻訳したのか、魚から直接聞いたのか、ケルピーが通訳してくれた。

「領主殿、この精霊は弱っています。このまま息子の体内で養生すれば、再びこの地の護りと成れましょうが、しばし時が必要です。幸い互いに気に入ったようですので、精霊をお預かりして、こちらには魔石をお貸ししますので様子を見ていただけますか?」
「魔石を? はい、それはもちろん!」
「私の手持ちの魔石ではせいぜい2日間。領主殿がお持ちの物があれば魔力を注ぎましょう」
「ありがとうございます! 領内の魔石をかき集めます! どうぞよろしくお願いいたします!」

最初はここに魔石を置いたけど、ロスが出るから町で配給制にしたらしい。でもそれだと山に行き渡らない。

コナンさんの魔石はケルピーが加護を与えているので、2日間なら1つで川を充分に潤す事ができる。町の魔石にも加護を与えてもらって5日に1度、魔力の補充をしに来る事になった。お礼として色々な薬草を分けてもらえるって!! 栽培できるかな?
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